第二次スーパーロボッコ大戦 ガールズ&パンツァー編(仮) 作:ダークボーイ
「え~と………」
Ⅳ号戦車の車内で車長の西住 みほは考えていた。
「どうしてこうなったんだっけ?」
首を傾げるみほの耳には、エンジン音を上回るほどの歓声が響いてきた。
『さあ今回の交流試合、初参戦の大洗学園あんこうチーム! 戦車を武道とする戦車道の使い手、寄せ集めチームを率いて見事優勝まで導いたその手腕がここで活かせるかどうか、観物です! 実況は恒例の銀野 つばさ、解説はあんこうチームリーダー、西住 みほさんの姉で西住流戦車道宗家の長女、西住 まほさんでお送りします!』
『よろしく』
「お姉さん、ちゃっかり解説席に座ってるよ?」
「まあ妥当でありますな」
通信手の武部 沙織が試合用に臨時追加された小型通信ディスプレイを見ながら呟き、装填手の秋山 優花里も頷く。
「いいんじゃないんですか? 前回色々お世話になりましたし」
「やる事はあまり変わらない」
砲手の五十鈴 華がのんきに賛同するが、操縦手の冷泉 麻子は平然としている。
「確か、最初はお姉ちゃんに誘われて、NORNの人達の戦術協議に参加してほしいって言われたはずだよね?」
「それで、参考のためにⅣ号戦車持ってきてほしいって言われて…」
「ついでに実働を確かめたいと搭乗員全員来てほしいと言われたであります」
「でもってお姉さんにこちらに来るように言われて」
「もう少しで試合開始」
「………つまり、お姉ちゃんにはめられた?」
導き出された最終結論を裏付けるように、通信ディスプレイにまほからの通信が入る。
『準備はいいかみほ』
「お姉ちゃん! なんでいきなり試合する事になってるの!?」
『NORNの指揮官クラスから実際の戦車道を見てみたいと言われてな』
「でもなんで私達に? お姉ちゃんが出た方が…」
『ここの者達相手なら、自由度の高いお前の方が向いていると思ったからだ。それに黒森峰の戦車を勝手に持ち出すと、お母様に直通でバレるしな』
「後者の方が本音ではないでしょうか?」
「さあ………」
『それでは本日第1試合! 大洗学園戦車道チーム あんこうチーム! 使用車種はⅣ号戦車大洗カスタム! 対するはカールランド陸軍アフリカ方面隊所属ウィッチ シャーロット・リューダー軍曹! 使用機体は試作重戦車ユニット6号「ティーガー」!』
「あ、この間見かけたあっちの世界のティーガーでありますな」
「お姉ちゃんがあれに無理やり乗ってたらしいけど………」
「今回は乗ってるのは一人だけみたい」
『試合内容は時間制限ポイントヒット制! 果たしてウィッチのシールドを通してポイントが与えられるかどうか、戦車道の真価が問われます!』
「つまり当てて撃破判定出せばいいって事?」
「じゃあいつも通りにすればいいんですね」
「そうなの、かな?」
沙織と華が頷き、みほは思わず首をかしげるが無情に試合開始のカウントが始まる。
『3、2、1、スタート!』
ベースゲートが開くと同時に、双方が履帯駆動音を響かせて控室から飛び出す。
相手の姿を確認すると同時に、Ⅳ号戦車の7・92mm機銃が掃射される。
『あんこうチーム先制攻撃! しかしリューダー選手、シールドで即座にこれを防いでダメージ0です』
『いや狙いは…』
つばさの実況が響く中、まほの冷静な解説を証明するようにⅣ号戦車は闘技場に設置された建物を模した遮蔽物へと即座に隠れる。
『おっと機銃掃射は囮! あんこうチーム、正面からの撃ち合いは避ける作戦のようです!』
『ウィッチのシールドは強固だ、正面からそうそう抜けない事は私も身を持って体験している』
『リューダー選手も物陰に身を潜めました! 双方同じ作戦の模様!』
『さて、ここからどうする?』
「それで西住殿、作戦は?」
「形は大分違いますが、向こうも基本動きはこちらと同じです。だったら戦車道の戦い方が通じるはず。名付けてひょいひょい作戦です!」
「さて、どうしよう………乗ってるのがあのまほさんの妹だと言うなら、たとえ普通の戦車でも微塵も油断出来ない………」
物陰に身を潜めながら、シャーロットは陸戦ウィッチの自分から見ても秀でた陸戦能力を持っていたまほの事を思い出していた。
『聞こえてるシャーロット? 私達の知っている戦車と同じとは思わないで』
「シールドは絶対緩めたらダメ、後は…」
人数差のハンデから、特例で通信サポートを認められたフレデリカからの通信を聞きながら、考えをまとめる暇も無く履帯の音が響く。
「火力で押し切る!」
シャーロットも物陰から飛び出し、88mm砲を照準する。
対してⅣ号戦車は砲塔を真横に向け、断続的に砲撃しながらまた別の物陰へと向かっていく。
「当たれ!」
シャーロットも応じるように88mm砲を発射するが、相手はまるでピンポイントでかわすように避けていく。
「逃さない!」
シャーロットはその後を追おうとティーガー型ストライカーユニットを疾走させるが、Ⅳ号戦車の後を追って角を曲がった瞬間、真後ろを向いていた砲塔から砲弾が発射される。
「!?」
シャーロットはとっさにシールドに魔法力を込め、試合用模擬弾とはいえ戦車砲の直撃をかろうじて食い止める。
『おおっとこれはあんこうチーム、ヒット&アウェイと見せかけて誘っていた模様!』
『あちらのティーガーの最大の難点は回転砲塔が無い事だ。攻撃するには追うしかない』
「あ、危なかった………」
普段のネウロイとの戦闘とは異なる戦いに、シャーロットの頬をぬるい汗が滴る。
『用心して! 姉同様、妹の方もこちらの特性を掴んできている! 市街戦は避けなさい!』
「了解! 距離を取らないと!」
フレデリカの指摘に追撃はむしろ不利と悟ったシャーロットが後退するが、即座にⅣ号戦車が物陰から飛び出し、砲撃してくる。
「そう何度も!」
再びシャーロットはシールドで砲撃を防ぎ、次弾を装填する。
だがすぐにⅣ号戦車は再度別の物陰に入ってしまった。
「なんとか戦えておりますな」
「こっちは五人、向こうは通信サポート含めても二人、ちょっと卑怯かもしれませんけど」
「戦車の砲撃正面で防げる相手に何言ってるの………」
手早く装填をする優花里にみほは少し言葉を濁すが、沙織はむしろ苦い顔をしていた。
「じゃあ麻子さん」
「分かった」
作戦通り、麻子はシフトレバーを操作した。
『確実に当たれば勝てるわ、焦りは禁物よ』
「落ち着いて、冷静に狙えば………」
フレデリカからの通信を聞きながらシャーロットは大きく息を吐くと、Ⅳ号戦車が隠れている物陰の先を狙い、耳を澄ます。
(相手は戦車、注意してれば動きは分かるはず!)
耳に響く履帯の音とエンジン音から相手の位置を推測し、飛び出した瞬間を狙う。
「来る、今!」
狙いすました砲撃が、今しも飛び出そうとしたⅣ号戦車を狙うが、僅かに鼻先をかすめる。
「早かった!?」
外した事にシャーロットは読みが甘かったのかと思い、相手の反撃をかわしながら次の物陰へと移る。
(読まれてた? けど確かに音は…)
何を読み間違えたのかシャーロットは自問しながら次弾を装填させ、再度狙いをつける。
(半テンポ置いて…)
今度は少し発射タイミングをずらそうとした時、今度は先程よりも早くⅣ号戦車が飛び出し、車体の尻をかすめた。
「また!?」
明らかにおかしい事にシャーロットは気づき、一度完全に物陰に隠れる。
『これはどういう事でしょう!? リューダー選手狙いすました攻撃を二度も外した!』
『違うな、みほ達が外させた。ギアチェンジとシフトワークで音源を左程変えずに速度を変えている。下手に戦車に似た物に慣れていればひっかかる手だな』
「そんな手が!?」
『やはり、向こうは戦車という物を知り尽くしてる………扱う側も、戦う側も』
まほの解説に自分が完全に相手の作戦に乗せられていた事にシャーロットはようやく気付き、フレデリカも相手の練度を再考する。
「あ、お姉ちゃんバラしちゃった」
「まあ二度もすれば向こうも気付くであるでしょうし」
「相手はこちら相手に全然油断してない。同じ手は使えない」
「見た目は戦車みたいですけど、結構機敏に動きますね」
「で、次はどうするの?」
「やっぱりあの火力は驚異です。正面からの撃ち合いになったら勝ち目は有りません。だったら…」
「落ち着いて………相手に誘われたらダメ。なんとかこっちのペースに…」
明らかに押されている状況にシャーロットはまず冷静さを取り戻そうとするが、そこで響いてきた砲撃音に思わずシールドに魔法力を込めるが、放たれた砲弾は明後日の方向の障害物に命中する。
「何を?」
見当違いの砲撃にシャーロットは困惑するが、そこでⅣ号戦車が動き回りながら次々と砲撃、その砲弾どれもが自分ではなく建築物を模した障害物に命中、破壊していく。
『ああっとこれはどういう作戦でしょうか!? あんこうチーム、見当違いの方向ばかりに砲撃しています』
『さて、それはどうかな?』
「次は三時方向、中央部を狙ってください!」
「分かりました」
「炸裂弾、まだ在庫十分であります!」
「後は向こうに気付かれないといいんだけど…」
「そのために走り回ってる」
試合場内部を走り回りながら、脳内でマッピングした障害物の配置を元に、みほが指定した箇所が次々と砲撃されていく。
「お姉さんは気付いたっぽいね」
「まあお姉ちゃんなら…」
小型ディスプレイから響いてくる実況と解説を聞いていた沙織に、みほは他にも気付いている人間はそろそろ出てくると感じ始めていた。
「いけない! このままだとこちらの身を隠し場所が!」
明後日に見えて、自分の周囲の障害物が次々破壊されていく状況を遮蔽物の撤去だと判断したシャーロットは、こちらも撃つべく砲撃準備に入る。
(向こうは的確にこちらの狙いを外してくる。だとしたら…)
考えたシャーロットはある事を決意すると、なんと突然魔導エンジンを停止させてしまう。
(その裏をかく!)
『おっとどういう事だ!? デューダー選手、突然機体を停止! このままだと試合放棄と判断されかねません!』
『いや、むしろ逆だな』
「! 向こう、エンジン止めたって!」
「どういう事でありますか!?」
「何か狙ってる! でも何を…」
相手のいきなりの判断にあんこうチームも驚愕し、みほも判断しかねる。
次の瞬間、向こうが88mm砲を発砲、放たれた弾丸は段違いの破壊力で、障害物を数個貫通、Ⅳ号戦車の鼻先に着弾する。
「何今の!?」
「いきなり、向こうの火力が上がったでありますよ!?」
「砲弾を変えた? それとも特殊兵器?」
「多分違う。向こうは戦車じゃない」
「だったら…」
「次!」
次弾を装弾したシャーロットはエンジンを再起動、その場から少しだけ動いて狙いを定め、再度エンジンを停止。
さらには本来エンジンやシールドに分けるはずの魔法力をすべて砲弾に込め、発砲。
大量の魔法力を込められた砲弾はその貫通力、破壊力を倍増させて障害物を貫通し、Ⅳ号戦車を狙っていく。
『なんとデューダー選手、機動力を捨てて全て火力に魔法力を集中させている模様!』
『なるほどな。ストライカーユニットは燃料以外に魔法力という物を使うらしいが、それを逆手に取ったか』
「ありそんなの!?」
「渡されたルールブックだと有りであります」
「このままだと、こちらも身を隠す所が無くなりそうですね」
「それ以前に、あれ特殊カーボン持つ?」
「確か、あまりに破壊力の高い危険な攻撃は禁止されてるはず…」
響いてきた実況に沙織が思わず文句を言うが、ほかのメンバーはなんとか納得しつつも打開策を練る。
「隠れていたらいずれ当たります! それに準備も整いました! ガチャガチャ作戦、開始です!」
みほの号令と同時に、Ⅳ号戦車は物陰から飛び出した。
「来た!」
相手が飛び出してきたのを見たシャーロットは砲撃を停止、魔導エンジンを再始動させながら、シールドを張って砲撃に備える。
Ⅳ号戦車は通じないと分かっていても砲撃を繰り出し、砲弾がシールドに阻まれながらも突撃、再度の砲撃を再びシールドに阻まれながら、そのまま脇を通り過ぎていく。
「同じ手を何度も!」
下手に追撃すれば狙い撃ちされかねないと判断したシャーロットはⅣ号戦車とは逆方向にティーガー型ストライカーユニットを発進、砲撃で破壊された障害物を迂回して回り込もうとする。
だが砲撃で無数の瓦礫がばら撒かれ、更にその隙間を縫うように走らせている間にⅣ号戦車に離されていく。
「今度こそ…」
更に迂回しようとしたシャーロットだったが、そこで再び瓦礫が散らばっている事に気付く。
『これは、嵌められた!?』
「まさか、さっきの砲撃は…!」
『これはリューダー選手、迂回する先々で瓦礫に阻まれています! あんこうチームの先程の連続砲撃はこれが目的だったようです!』
『戦車とストライカーユニット、専門的な差異は置いといて、最大の違いは履帯の長さだ。あの短い履帯では、大きな瓦礫の踏破は難しいだろうな』
「そこまで読んで………下手な職業軍人よりも戦い慣れてる………!」
通常の陸戦型ストライカーユニットよりも巨大なため、小回りも効かないテイーガー型ストライカーユニットの弱点を完全に読まれた相手の戦法に、シャーロットは改めて戦車道の恐ろしさを実感していた。
(完全に向こうのペース、なんとか流れをこちらに…)
なるべく速度を落とさないよう、瓦礫を避けて進むシャーロットだったが、すでにⅣ号戦車は迂回して横手から砲撃してくる。
「そう何度も!」
シールドで砲弾を防いだシャーロットが旋回して反撃しようとした時には、すでに相手はその場から走り去っていた。
「早くここから脱出しないと…」
焦るシャーロットに、今度は背後からの砲撃が発射される。
「きゃあっ!」
シールドで防ぎつつも、シャーロットの口から悲鳴が飛び出す。
『デューダー選手、防戦一方です! このまま決まってしまうのでしょうか!?』
『あのシールドというのは便利だが、使ってる間にそちらに意識が向いてしまう。よほどの熟練者でなければ、他の行動と併用出来ないのではないのか?』
「やっぱり、そうなのかな」
「気付いていたのでありますか?」
「えと、普通戦車って数人で操作するのを、一人で操作してたら色々大変だろうなとは思ったけど」
まほの解説に、なんとなくだがその事に気付いていたみほはその隙は逃そうとしない。
「このまま直進されたら、瓦礫地帯を突破されます。次の交差は狙われている可能性も有るので全速前進、その次の交差で砲撃してください」
「了解」
「徹甲弾次弾装填完了で有ります!」
「当たってはいるんですけど、あのシールドというのが邪魔で防がれるのが………」
「何か手はあるの?」
「はい、次の砲撃の後、向こうの一番破損の大きい建物の影に」
何か秘策が有るらしいみほに、あんこうチームのメンバー達は完全に信頼して指示に従う事にした。
「そう何度も!」
再度砲撃が来ると思って先に砲撃したシャーロットだが、相手は砲撃せずに目の前を全速力で突っ切っていく。
(読まれた! ダメ、読み合いじゃ全然敵わない………)
『落ち着きなさい!』
こちらの手の内も完全に読まれている事を悟ったシャーロットは、弾薬層の奥からある砲弾を取り出す。
「少佐、アレ使います」
『この状況を打破するにはそれしかないわね。許可します』
試作品のラベルが付いた、試合直前に完成したらしい自分も初めて使う砲弾を、シャーロットはその試作砲弾(※試合用)を装弾する。
「狙いは次の交差………今!」
起死回生を狙って、魔法力が注がれた試作砲弾が発射された。
「今です!」
「はい!」
交差から飛び出しながら、一瞬早くⅣ号戦車が砲撃し、そのままその場を通り過ぎようとする。
向こうも発砲したのが見えたが、それよりも物陰に飛び込むのが早かった、はずだった。
突如としてⅣ号戦車を衝撃が襲う。
「当たった!?」
「向こうもかなりの砲撃手でありますか!?」
「違う、何かおかしい…」
通り過ぎ際だったが、相手の砲撃が当たるはずのないタイミングだったはずなのに当たった事に、みほは首を傾げる。
「後部装甲に当たったみたいです! 損害は!」
「足回り異常無し」
「砲も無事で有ります!」
「照準問題有りません」
「じゃあ再度…」
みほの指示より早く、今度は障害物の向こうから砲弾が前をかすめる。
「反撃してきたよ!」
「待って、今の…」
みほが思わずハッチから飛び出し、前をかすめた砲弾の着弾場所と、脳内の試合場の配置を照らし合わせ、ある事に気付く。
「そんな、まさか………」
「何! どうかした!?」
「全速後退! 信じられないけど、ひょっとしたら…」
みほが車内に飛び込みながら出した指示に、あんこうチームは少し驚きながらも指示に従う。
だが後退で障害物の影から飛び出そうとした時、再度砲弾がかすめてくる。
みほの目は、その砲弾の軌道を見据え、着弾箇所を確認していた。
「弾道が、曲がってる!」
『は!?』
『これはどういう事でしょうか!? デューダー選手の砲撃、明らかにカーブを描いてあんこうチームを追い詰めています!』
『誘導砲弾か。あのサイズの物をそちらでは実用化していたとは』
『おっと、今データが届きました! 使用しているのは技術班が開発したばかりのウィッチ用魔導誘導砲弾との事です! デューダー選手、ここで切り札を出してきました!』
『この要レポート提出の記述は………』
「聞いた? 向こうの新兵器だって」
「よもや戦車砲サイズで実用化しているとは………」
「でも、見た限り自由自在という訳ではなさそうですけれど」
「さすがに運動エネルギーまで完全に無視出来るわけじゃないみたい。弾道に対して15から20%位の弾道変更かな? それくらいならなんとか読めそう」
「さすが西住殿! それで対策は?」
「う~ん、あのストライカーユニットって基本戦車道規定と同年代の装備なんですよね?」
「まあ色々違う所は有るでありますが………」
「違いすぎでしょ! 見たでしょ足にプロペラつけて飛んでた子達!」
「だったら、誘導の方法は…」
「まさか、機械による自動誘導でなく人力操作による誘導でありますか?」
「有線誘導には見えませんでしたよ」
「それこそなんか謎技術なんじゃないの」
「やる事多いな。あのティーガー」
「そうだとしたら………」
「警戒されてる………でも、次出てきた時に!」
たった数発で大きく息を乱しながら、シャーロットは誘導魔導砲弾の次弾をセットする。
(魔法力も精神力も消費が激しすぎる………そう言えば連発は難しいとも言われてた)
技術班からの注意事項の意味を実感しつつ、シャーロットは息を整える。
『それ以上の連射は危険ね。次で決めなさい』
「はい!」
フレデリカもシャーロットの疲弊を確認し、勝負を賭けさせる。
(狙いは次に出てきた瞬間、加速か減速、どちらでも命中させる!)
残った魔法力を砲弾に注ぎ込みながら、シャーロットはその瞬間を待った。
僅かな時を持って、Ⅳ号戦車が正面に飛び出してくる。
「今!」
必中の意を込め、誘導魔導砲弾が発射される。
射手の魔法力に呼応し、発射後にある程度の弾道を変えられる特性を持つ特殊砲弾は、相手の未来位置を狙い、なおかつその後の挙動で弾道を変えて確実に命中する、はずだった。
次の瞬間のⅣ号線車の挙動に、その場で驚かなかったのは解説席のまほただ一人だけだった。
相手の真正面だというのに、Ⅳ号戦車は突如として急ブレーキをかける。
「え…」
さすがに急ブレーキは予想していなかったシャーロットが砲弾をなんとか操作して当てようとするが、そこでⅣ号戦車は発砲、発砲の反動も利用して更に急制動をかける。
急激すぎる減速にシャーロットは対応しきれず、必中を込めたはずの砲弾はⅣ号戦車の前部をかすめるだけに終わる。
「外れた、でもこれなら!」
相手が目の前で側面を見せて急停止、という狙ってくれといわんばかりの状態にシャーロットは通常砲弾を慌てて装弾させる。
「左信地旋回、同じく砲塔左旋回!」
Ⅳ号戦車の中ではみほの指示が飛び交い、車体と砲塔を同時に旋回させて砲をティーガー型ストライカーユニットに向けようとする。
「させない!」
相手の砲がこちらを向く前にと、シャーロットが次弾を発砲。
それとほぼ同時にⅣ号戦車も発砲、まだ旋回しきってない砲塔での砲撃は、一見明後日の方向を撃ったように見えたが、それは反動で信地旋回を僅かに早め、砲弾をかわさせる。
「また!?」
『離れなさいシャーロット!』
戦車の機動を見慣れているはずのウィッチですら見た事の無い動きに、フレデリカは慌てて退避を促す。
(砲撃の反動を姿勢制御に使うなんて………姉も怪物だったけど、妹も同類ね)
控室で相手の非常識な機動を見ていたフレデリカがどうアドバイスするべきか迷う。
(陸戦ウィッチ、しかもティーガー型と張り合えるレベルの戦車乗りがいるなんて。スペックはこちらが上のはずなのに、戦術レベルが違いすぎる!)
下手な実戦経験よりも洗練されている西住流戦車道に、フレデリカは恐怖すら覚える。
それは実際に戦っているシャーロットにとってはなおさらだった。
「見せすぎたかな。距離を取られちゃった」
「いや、さすがに反動を利用しての回避は凄まじすぎであります………」
「でもポイント制だとしたら、かすってる分こちら不利だよ?」
「こちらも足元にでもかすめられたらいいのですけれど」
「シールドってのが邪魔」
「どうする? もう時間ないよ?」
小型ディスプレイに表示される試合時間の残りを見ながら、沙織が促すのをみほは小さく頷く。
「決めにいきます! まずは直進、そこのガレキに乗り上げてください!」
『え?』
『市街地から離れなさい! 試合場の端ギリギリまで退避、そこなら相手も正面から撃ち合わざるをえなくなるはず!』
「はい!」
相手の土俵から引きずり出す事を優先させたフレデリカの指示に、シャーロットも同意して全速力で試合場の端へと向かう。
「ここなら!」
壁際ギリギリでティーガー型ストライカーユニットを反転させたシャーロットは、準備万端で相手を迎え撃つ。
「ここなら、どこから来ても見えるし、角度の調整もたやすい。でも………」
一抹の不安を隠せないシャーロットだったが、そこで聞こえてきた砲声に我に帰る。
「来た!」
障害物の影から飛び出したⅣ号戦車が、砲撃を繰り返しながらまっすぐこちらへと突撃してくる。
「吶喊!? でも!」
シールドを全開にしながら、シャーロットも砲撃、Ⅳ号戦車は微妙なステア操作で砲弾を避ける。
「やっぱりシールドで阻まれてます!」
「構いません! 麻子さん、全速で! 優花里さん、華さん、砲撃を続行してください!」
ハッチから僅かに顔を出し、相手の砲撃のタイミングで回避機動をさせつつも、みほは時間を図っていた。
「砲塔右旋回二度! 砲撃!」
「了解!」
「あともう1m、時間は…」
「きゃあ!」
シールドから僅かにずらし、真横の壁に直撃した砲弾の爆風と飛散したガレキにシャーロットは思わず悲鳴を上げつつ、お返しとばかりに砲撃する。
『シールドの無い横手を狙ってきた! 完全に手は読まれてるわ!』
「でも、当たりさえしなければ!」
狭い試合場という条件を巧みに利用してくるあんこうチームに、フレデリカもシャーロットも負けじと応戦するが、そこでふとフレデリカはある事に気付く。
(突撃前の砲撃、アレは一体?)
Ⅳ号戦車がガレキを使って何故か上空に砲撃していた事を見ていたフレデリカだったが、ふとそれが前の戦いでJAMが似たような事をしていた事を思い出し、ゲートから視線を上に向けて気付く。
『シャーロット、上!』
「え?」
全く予想していなかったフレデリカの指摘に上を向いたシャーロットは、そこに小さな点がこちらに向かってくるのを見た。
それが上空に放たれ、山なりの機動を描いてきた砲弾だという事も。
「まさか!?」
シャーロットは慌ててティーガー型ストライカーユニットを回避させようとするが、Ⅳ号戦車の砲撃に機銃まで混ぜた猛攻撃にその場を動けない。
「そんな…」
正面と上方の双方向同時攻撃にシャーロットは耐えきれず、上方から落下してきた砲弾が直撃、中身のペイントが派手にその体を染め上げる。
「ぺ、ペイント弾?」
『………完全にやられたわね』
『おおっと、あんこうチームまさかの二面同時攻撃! デューダー選手に直撃判定! あんこうチームの勝利です!』
『ペイント弾とは念のいった事だ。まあみほらしいが』
完全な決着に会場にまた大きな歓声が上がる。
がっくりと肩を落とすシャーロットだったが、そこで減速しながら近付いてきたⅣ号戦車からみほが姿を見せる。
「大丈夫ですか? 模擬弾でも危ないと思ってペイント弾にしたんですが………」
「つまり、当てる自信が有ったの………」
「じゃあ試合はここまで! ほら拭いて拭いて」
そこで搭乗ハッチから顔をだした沙織が搭載していたウェットティッシュとタオルを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
「なんか色すごいけど、これすぐ落ちるのよね?」
「え~と、ルールブックには人体には無害と書いてあるであります」
「まあそれなら大丈夫かしら」
「眠い………」
ほかのあんこうチームも車外に顔を出す中、シャーロットは思わず微笑む。
「あなた達なら、JAM相手でも通じると思います」
「いや、さすがに前みたいなのはちょっと………」
会場は、奮戦を称える声援と拍手が鳴り響く。
みほは少し照れながら、手を降って歓声にこたえ、あんこうチームも同じように手を振りながら控室へと戻っていく。
『第1試合から白熱した内容でした! ゲスト参加とは思えない実力を示した大洗あんこうチーム!』
『みほの作戦勝ちだな』
『NORNに参加しても遜色ないと思いますね~。西住リーダーはスカウトを蹴ったそうですが』
『私も断ったな』
『なんとも惜しい事です。それでは続けて第二試合…』
その後、学園艦に戻ったあんこうチームは何故か各校の戦車道女子の間に試合の映像が流通しており、問い合わせと参加希望が殺到する事となった………