逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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第二十三話

●優勝候補だった人こと門脇side

 

門脇は自分は碁の才能があると思っていた。なぜなら、学生タイトルをすべて取った実績を持っていたからだ。

 

自分はアマチュアでも知る人ぞ知る実力者、そういう自負があった。

 

(社会人も少しばかり経験したことだし、会社勤めは飽きた。また大会にでもちょろっと出場して、優勝しちゃったりなんかしたりして。そんで、弾みをつけてプロになりますかね、と)

 

そんな妄想に鼻の穴を膨らませて、意気揚々と全日本アマチュア本因坊戦の都大会へと向かったのだ。

 

しかし、そこであっさりと負けたのだ。否、負けたというのも適した表現といえない。つまりは、相手にすらされなかったのだ。

 

これは門脇だからこそ気づけたと言っても過言ではない。──指導碁を打たれていた。それも子供にだ。

 

その時の驚きようと言ったら半端なかった。体に戦慄が走ったといっても過言ではないのだから。思わず、絶叫をするためだけにネットにスレ立てをしてしまった位である。

 

しかし、その後も色々と彼──進藤ヒカルに注目していると気づいたことがあり、門脇は追っかけることにしたのだ。

 

何かやってくれるに違いないという期待を抱いて。そして、棋院に来たは良いものの、大会を行う大ホールには沢山の人が詰め掛けていた。

 

その余りの人数の多さに門脇はぽかーんとする。

 

(は?なんでこんなに人が居るんだ?別に普通のアマチュアの大会だろ。いやいやいや。仮にプロの大会でもここまでの賑わいなんて中々あるもんじゃねーよ)

 

沢山の人が人員整理されていくのを見ながら、門脇は現実を取り戻す。

 

大会まで時間があるのだし、適当な人間に話を聞くことくらいは出来ると思ったからだ。そうすれば、この現象の事情くらいは分かる筈だ。ちなみに、なぜか居る外国人はパスとする。

 

門脇としても流石に自分のスレッドからそこまでの人数が来ているとは考えられなかったからだ。

 

こういうときに門脇は人に尋ねることを躊躇わない男なのだった。コミュニケーションはどんどん取って行く方針である。

 

適当な大学生っぽい男性を捕まえて声をかける。

 

「キミ? すまないね。少し聞きたいことがあるんだけど……」

「何ですか?」

「今日はどうしてこの大会に来たの? 出場かい? それとも友達でも出るとか?」

「あー面白い噂を聞いたから」

「噂?」

「友達の友達から。前の地区大会とかで面白い碁打ちの子供が居るって聞いて。俺も碁は打つし、何となく面白そうかなって」

「そうだったのか。キミ、ありがとうな!」

「はぁ、どうも」

 

他にも何人かに声をかけてみたものの、似たりよったりの回答だった。どうやら地区大会と都大会で周囲に進藤君の噂が広がりまくったらしい。

 

調子に乗っている子供が居る。面白い奴がいる。碁の大会で負けないって断言しやがった自信家などなど。あとは、実際に対局してみて、一部何か感じたことがある人が他の人に話すことで噂の連鎖が生じている様だった。

 

だが、時々混じる「fiveに似ている」というのが良く分からない。自分もネットはやっているが、どうやら使っているのとは違うサイトのネット碁関係らしいので、後で詳しい友人に聞こうと思う。

 

あとは、恐らくそれに大会関係者。参加者。その同行者などが加わり、門脇のスレで本当に行こうと考えた連中が悪ノリして、このレベルに膨れ上がったらしい。

 

なるほどなーと納得しつつも、門脇は目的の人物を探す。前髪が金髪だから目立つ筈なのだ。そして、丁度だ。門脇は受付を済ませた、進藤ヒカル君を発見することが出来た。

 

「なァ。すまない、進藤君」

「ん? か……じゃない、何。おじさん」

「おっ、おじ。あっ、いや。なんでもない。実は俺、キミを応援しに来たんだ」

「俺の?」

「あぁ、俺は進藤君にとても期待をしているんだぜ。変な話だけど、一回りほども年の離れたキミに尊敬と憧れを抱いた。叶うのなら、本気のキミと対局したかったよ」

「……へー気づいたんだ」

「あぁ、もちろんだ」

 

そこまで会話を進めたところで、別な方向から進藤君を呼ぶ声が二つ響いた。

 

「ヒカルー! どこー?」「居たら返事位しなさいよー」

「おー。こっちだこっち!」

 

それに進藤君が答える。そして、現れた女の子二人を見て、門脇は目を剥いた。

 

(ちょ。あり得るのか。いいのか、これは。あり得ていいのか?なんて羨ましい。こんな可愛い子二人を侍らせるとかありなのか……)

 

どちらも魅力的な女の子が進藤君へと駆け寄ったのだ。一人は活発系。明るくて美人。一人は可愛い系。少し大人しい感じの印象がする。そんな二人の女子が進藤君を挟んで両脇に立つ。そしてそのまま朗らかに会話し始めたのだった。

 

「ヒカル。今日の大会頑張ってね!応援してるからさ」

「あーはいはい」

「ヒカル。今日のお昼のお弁当。みんなで食べれる様にお重で作ったから、待ってるね」

「いーけど。お前、碁なんてわかんねぇだろ。暇なんだから、帰った方がいいんじゃねーの?」

「大丈夫。私が解説してあげる約束になってるから」

「ふーん」

 

心が急速に荒んでいくのを感じた。というか心が血涙を流している。なんて羨ましいんだと心から思う。彼女らと同年代だったら門脇は鼻の下を盛大に伸ばしていたことだろう。

 

しかし、進藤君の対応は塩だ。完璧にそっけない。それにも関わらず、彼女達は一向に気にしない様子だった。女神かな?

 

そんなことを考えていると進藤君がこちらを向いた。

 

「ま、あれだよ。門脇さん、俺。退屈させる様な碁は打たないつもりだから」

「あ、ありがとう……あれじゃないか? キミくらいになると大会くらいヨユーだろ?」

 

アレ、名前を教えただろうか?とふと思ったものの、以前に対局したのだから名前くらいは知っているよなと思い直した。覚えてくれているというのは意外だったが。

 

そして、思っていたことを聞いてみる。すると、進藤君はニヤッと笑った。それは子供が悪戯を楽しむ時にする顔だ。

 

「さァね。けど、見てれば分かるよ。あと、返事は最後にするよ。大会の最後、挨拶の時にでも」

 

そう言って、女の子達を引き連れて去っていったのだった。ちなみに、そこから少し離れた場所ではじいさんが「ヒカル……こんなに大きな大会に出場する様になるなんて……」とまだ何も始まっていないのに半泣きで感動している謎の姿が見られた。

 

「返事は最後にするって……思いっきり自分が優勝するって言っている様なものじゃないか……」

 

まさか自分の発言の返事が大会の最後の挨拶で返されるとは予想外もいいところだ。門脇はしばし呆気に取られるのであった。

 

そして──対局が始まる。

 

しかし、それは一種異様な光景だった。進藤君が大勢のギャラリーを背後に引き連れているのだ。なにせ、大多数の目的の人だからそれは人が集まるし、その光景に興味を持った人が芋づる式に増えるという現象がおこった。

 

会場で人の偏りが出るなんてレベルの話ではない。大会出場者やその家族などはポカーンとした見事なアホ面を晒していた。

 

進藤君に全く気にした様子はみられなかったものの、可哀相なのはその対局相手だ。まず、そんなに有名で強い人なのかと萎縮し、人に注目されていることに緊張しまくっている。手なんてブルブルと震えている状態だった。

 

そんな状態だけでも大変な展開だといえるのに、これに外国人が加わったため場が更にカオスと化した。なぜなら、注目を集めるだけあって進藤君の対局はそれはそれは見事だったのだ。

 

華麗なうちまわしに周囲からは時にはため息が漏れ、時には歓声が上がるほどだった。

 

そして、そんな光景を外国人達が見て更に騒ぎ出したのだ。その声は大きく。なにやら興奮して会話をしているものの、とにかく煩い。すると、それを聞いた進藤君がいきなり叫びだしたのだ。

 

『うるせーよ。ちったー黙れ。今は対局中なんだよ。何なら、邪魔だから出てけ!』

 

英語だった。詳しくはないが多分発音も完璧。その声に外国人達はピタリと静まり返った。

 

「うるせーのはお前達も。ちったー黙れ。今は対局中。それくらいも理解する脳みそがない訳?」

 

今度は日本語で叫び、周囲の喧騒は納まった。そうして進藤君はその調子のままトントン拍子にリーグ戦を勝ち抜き、昼休憩となったのだ。

 

昼休憩では女の子達がいるのも構わず、あれほどキツク言われたにも関わらず、進藤君に人が殺到した。口々に対局を褒め称え、賞賛している。しかし、それを進藤君は不機嫌そうに返すばかりだ。

 

「うっせーんだよ。応援とかいらねーし。大体、煩くて気が散るから余計だし。てか、俺これから飯なんだけど。邪魔すんな!」

 

大声で言い返し、怒鳴り返し人を散らせている。そして、次の日。準々決勝からなのだが。なのだが……更に人が増えていた。

 

恐らく黙ってさえいれば、あの素晴らしい打ち手による碁を見れると解釈したのだろう。人は学習する生き物だ。今日は恐ろしいまでの沈黙が会場に広がっていた。

 

沢山の人が観戦に来ているにも関わらず、静寂が満ちているのだ。他の無関係な人も、場の空気になんとなく言葉を出すのが躊躇われるのか非常に小声なのである。

 

そして、準々決勝。準決勝が終わり──進藤君はどれも中押し勝ちだった──決勝戦と三位決定戦の大盤解説会は14:00開場とのことだが、時間前に並ぶ人間が続出し、棋院が慌てて対応に追われる姿が見られていた。

 

というかいつからこんなに棋院は国際色豊かになったんだろうというほどに、今日は外国人が多い。そんな最中。──ついに進藤君の決勝戦が始まろうとしていた。

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