逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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第二十四話

●門脇side

 

 

決勝戦の大盤解説が始まる。解説は岩崎七段。聞き手は西川恵美さんだ。盤面を見つめながら、周囲を見渡せば外国人の比率に再度驚く。

 

何でこんなに外国人が居るのかは不明なものの、皆が進藤君に興味深々なのは間違いないようだ。

 

なぜなら進藤君が一手一手を打つたびに目を輝かせまくっている。中には椅子から身を乗り出してみている者まで居る始末なのだ。

 

こんなに真剣に聞かれるとは思っていなかったのか、岩崎七段は緊張気味だ。

 

ただ、こんなに注意を傾けて自分の大盤解説を聞いて貰えるというのは中々ないチャンスでもあるため大いに張り切っている様子だった。西川さんが苦笑いをしている。

 

しかし、盤面が少し進むと解説に支障が出始めた。岩崎七段が言葉を口ごもるようになったのだ。

 

しどろもどろ。これで合っているのか不安な口調。とてもプロとして長年やってきている人とは思えない。

 

会場がざわめきだしている。しかし、門脇にはこれがどういうことか分かっていた。戦況は明らかだ。進藤君が圧倒的に良い。

 

しかし、手の意義・意図・予想される展開が全く分からないのである。どういう意図を以ってここに石を置いたのかが分からない。そこからどう盤面に影響していくかわからない。この先の展開が読めない。

 

ないないだらけの解説泣かせ。──それが進藤ヒカル君の碁。

 

退屈させる気はないといっていたセリフが思い出される。なるほど、大いに退屈はしない。というか、ハラハラしっぱなしなんだが、それは。

 

圧倒的な棋力、そして未知の手を当たり前の様に繰り広げる光景。これは、対局を見に来たものを惹きつける魅力を大いに持っている。

 

また、子供なのにも関わらず、どこか大人びている顔を時々するのも気にかかるところだ。

 

そんなことを考えながら門脇は大盤解説を眺めていた。ちなみに、対局は中継されているため、この場では多少話しても大丈夫だと思われたのか、再び進藤君の手に観客が一喜一憂していた。

 

そして、そのまま決勝戦まで進藤君が中押しで勝利を収めたのだ。その瞬間、周囲から自然と拍手が起こり、門脇も自然と拍手していた。

 

なんとも素敵な光景だった。この先の囲碁界の未来を見ているかの様にどこまでも明るいものだったからだ。

 

しかし、それをひっくり返したのはまたしても張本人たる進藤君だった。

 

それは16:30から行われる表彰式でのことだ。順々に表彰されていき最後には優勝者たる進藤君に『アマチュア本因坊』の称号と『トロフィー』が渡される。

 

それを受け取りながら、記者達に写真を撮られていた。そして、主催者や偉い人の挨拶などが入り、最後に優勝者から一言挨拶がある。

 

どんな挨拶をするのだろうと思いながら、そういえば、会場で進藤君に声をかけたときを思い出していた。

 

「あ、ありがとう……あれじゃないか? キミくらいになると大会くらいヨユーだろ?」

という自分の問いに

「さァね。けど、見てれば分かるよ。あと、返事は最後にするよ。大会の最後、挨拶の時にでも」と答えていなかっただろうか?

 

いや、まさかな。ふと、心の中で疑惑が浮かんだ門脇の予感は的中することとなる。

 

「えーっと。言いたいことは色々あるけどさ、まず皆弱すぎ。大人も混じってたからちったー期待したけど、正直こんなに弱いとは思わなかった。こんなんだったらなれちゃうんじゃない? 俺。ちょっとプロになって、ちょこちょこっとタイトルの一つや二つ取ってみようかなーって思っちゃうね。あ。そーいや、アマのままでも別にタイトル戦って出れるんだったな。丁度良いかも」

 

途端、会場にざわめきと困惑。一部の怒声が響き渡った。

 

「あーあー聞こえねぇし。何言ったって負け犬の遠吠えにしか聞こえないね。もし、本当に悔しいんなら俺に勝ってみろよ」

 

そんな中、ニヤニヤしながら進藤君は立っていた。門脇は耳を疑う。多少口が悪いからといって碁のことを真剣に考えていた彼がそんなことを言うとは思えなかったのだ。

 

しかし、これは現実。大慌てで、司会の人が進藤君の話を切り上げ、閉会を告げた。しかし。場は一向に収まらなかった。

 

さっき、あれほどまでに進藤君の碁に魅せられた人達は困惑している人と、憤っている人に分かれている。外国人は何を言っているのか全く理解していないらしく、場の雰囲気に混乱してるみたいだ。

 

こうして大混乱のまま『全日本アマチュア本因坊決定戦全国大会』が幕を閉じたのだった。

 

 

◇◆◆◇

 

 

●囲碁さろんside

 

 

「どうだった?」

「結果は?」

「坊主の奴どうだったんだ?」

「勝ったのか?」

 

一人のおっさんを複数人が取り囲む。どうやら『囲碁さろん』では皆が行くとクソガキ──進藤ヒカルにモロバレになってしまうため、じゃんけんで代表一人をアマチュア本因坊の全国大会へ送り込む作戦をしたらしい。

 

その一人は落ち着けと言う様に手で軽くジェスチャーをした。そしてもったいぶるかの様に、一度大きく息を吸い込むと語り始めた。

 

「いいか? 俺が言えるのは一つだけだ。クソガキはどこまで行ってもクソガキということだけだ……」

 

途端に周囲からブーイングが飛ぶ。つまり、格好つけてんじゃねぇよということがいいたいらしい。流石にまずいと思ったのか男も頭をポリポリと指で掻きながら謝罪をした。

 

「悪かった。悪かったって。結果から言うとクソガキは見事優勝しやがった」

 

途端に歓声と拍手が響き渡る。わいわいと皆、嬉しそうな顔をしてクソガキの勝利を褒め称えた。

 

「やるなァ」

「本当にアマチュアとはいえ、本因坊とは大したものだ」

「クソガキの癖にな」

「今度、センセイとでも呼んでみるか? 絶対に嫌そうな顔するぜ。賭けたっていい」

「優勝なんて滅多に出来るもんじゃないさ」

「ホント憎たらしいくらいに強いもんなー」

 

しかし、そんな中。ニヤニヤとしている男に周囲の人間が訝しげな目を向ける。

 

「気色悪いぞ」

「何ニヤニヤしてんだ」

「いや……だって……なぁ?」

 

顔を見合わせて首を捻る皆に、男は再び語りかける。

 

「なァ。考えてもみてくれよ。クソガキが、大人しく良い子ちゃんで『ハイ、優勝ありがとうございました』で終わると思うか?」

「んんん? 何かあったのか?」

 

即座に皆は悟り顔になると、聞く姿勢に入る。そして、会場で打つ碁が素晴らしいと人気者だったこと。煩かったのはキッチリと注意していたこと。しかし、最後の最後でやらかしたことを告げる。

 

すると、途端に皆は爆笑した。

 

「あのクソガキ、やりやがった」

「んなこと微塵も思ってねーだろーに。何考えてんだ」

「やるなァ」

「宣戦布告もいいところだな」

 

皆口々にそんなことを笑いながら言い合うと、またニヤニヤとクソガキの健闘っぷりを称えあうのだった。

 

「ホントは盛大に祝いたいんだがなァ」

「前ん時は楽しかったよ」

「またやりたいね」

「けど、やるなって本人から言われりゃな」

「タイトル取った時に頼むってどれだけ先なんだか」

 

都大会の優勝で、お祝いをしようと準備しようとしたのを察知してかクソガキの方から禁止令を出されていたのだ。あと、絶対に見に来るなというのも含め。

 

が、このおっさん共が素直にうんという訳がないのだ。普段、散々クソガキにしてやられているので破る気満々だったりする。

 

という訳で、修さんがこっそり取り出した『クソガキがタイトルを取ったら盛大にお祝いする募金』という紙が雑に貼り付けられた貯金箱に各自が千円や五百円を突っ込んでいく。

 

将来、この貯金箱を開けることを夢見て、誰しもが目を輝かせて中にお金を入れた。

 

しかし、次の日。クソガキが来ても下手なすまし顔をして遮二無二無反応を頑張って貫くひねくれっぷりに修さんだけが苦笑いをするのだった。

 

「まったく、目が進藤クンを追いまくっているし、頬がお祝いを言いたくて引きつっているヨ」

 

 

◇◆◆◇

 

オマケ

●塔矢アキラside

 

 

新聞を見ていた塔矢アキラがとある記事に気づいた。そこにはトロフィーを持った前髪が金髪の子供の姿が掲載されている。大きく目を見開くと、呟く。

 

「進藤……ヒカル。そうか、彼の名前は進藤ヒカル君というのか……」

 

そして、そのまま新聞を持ち、父親の塔矢行洋の下へと向かった。

 

「お父さん、失礼します」

「どうした、アキラ?」

 

塔矢は行洋に持っていた新聞を見せた。見出しには史上最年少優勝の文字が躍っている。

 

「これを読んでください」

「これは……?」

 

目を通しつつも、少し不思議そうな顔をする行洋。しかし、少ししてとあることに気づいたのか大きく目を見開いた。

 

「もしかして、彼が?」

「そう!そうなんです。僕の実力不足で落胆させてしまった彼です。やっと彼の名前が分かりました」

 

嬉しそうな顔をすると、行洋は目をつぶり、何かを少し考えた後に目をゆっくりと開けた。

 

「彼は──やってくるだろうな。こちら側へ」

「はい」

「我々は準備をして待ちうけよう」

「はい」

 

塔矢アキラは重々しく頷いたのだった。

 

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