逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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書き直しました。途中まで同じ流れの部分があります。
後半は違う内容になっています。
(※同じ内容だけを投稿してもどうかと思ったので、今回は二話分くっつけてます)

活動報告にコメントや、その他に感想やご意見など、ありがとうございます。グダグダ悩みましたが、書きたい様にしか書けないと思い、自分なりに続けて行こうと思います。

不定期更新ですが、エタらない様には注意しつつ書いていけたらと思っております。


第二十五話

『全日本アマチュア本因坊決定戦全国大会』は無駄に人が多かった。

 

人が随分と集まっていたので、ヒカルは予定よりは早いがここぞとばかりにイラッとくる煽る言葉の燃料を投下しておいた。

 

逆行前、佐為がいた頃、塔矢アキラにぶつけて碁打ちを馬鹿にしているとマジギレさせたセリフだったので、非常に有効的だと思っている。

 

ちなみに、ヒカルとしては『全日本アマチュア本因坊決定戦全国大会』で優勝したことは何とも思っていなかった。目標は何といっても棋聖戦。取り合えず、参加資格を得た。位の認識だ。

 

しかし、どうやら周囲は全然そうではないらしい。それに気づいたのはまず爺ちゃんの喜びようだ。

 

何度も何度もヒカルに抱きついては感涙して「よくやった! でかした! 自慢の孫だ。何か褒美に欲しいものはないか? 何でも買ってやるから言ってみろ。く~生きてて良かった。こんな日が来るだなんて」と大喜びしたのだ。

 

その後もヒカルの家に寄るや否や、母親にいかに凄い大会で大人をなぎ倒し優勝を手にしたかを力説して困惑させていた。

 

説明する手間が省けて助かったものの、少し大袈裟すぎると思う。ただ、素直に爺ちゃんが浮かれているのをみるのは好きなので、そのままにしておいた。

 

そして、夜のニュースでも大会のことが放送され、少しだけなもののヒカルの顔が放送されたのだ。それを見た父親はビールを吹き出し、母親は味噌汁を飲み損ねて服にこぼしていた。

 

その時になって漸く、ヒカルがとても凄いことを成し遂げたのだとちゃんと理解したらしい。翌日の朝刊を目にして父親が「やっぱり夢じゃなかった」と思わずぼやいたのは現実逃避かもしれない。

 

大会が土日だったため、次の日は月曜日だ。その日、ヒカルは葉瀬中学校に登校した。朝、自分のクラスに行くと、途端に拍手と大歓声で迎えられてしまい、キョトンとする。

 

「すげーよ進藤。昨日、お前テレビに出てたぜ」

「何だっけ? 碁? 随分爺くさい趣味持ってんだな」

「新聞にも出てたわよ!」

「碁って面白いの?」

「全国大会優勝おめでとう!」

 

ぼけっとしている間に周囲をクラスメイトに囲まれて口々に話しかけられて目を白黒としてしまう。ヒカルがまだ何も言わないでいるにも関わらず、周囲がヒートアップしている。若干慌ててしまい、咄嗟に口を開く。

 

「ちょ、みんな。大袈裟すぎ。だってまだ、全国大会だろ。それにテレビに出たくらいで何だってんだよ」

 

途端、場が沈黙に支配された。逆にヒカルは何か不味いことを言ったかと心配そうな顔になる。ところがそんなヒカルを助けるかの様に校内放送が流れて、ヒカルは校長室に呼ばれた。

 

「えっと。俺、何か呼ばれてるみたいだから、行くわ」

 

それだけ口から搾り出すとダッシュで教室から出て行く。場に取り残されたクラスメイトと言えば、未だ呆気に取られていた。

 

「進藤ってクールなの?」

「大袈裟? 大袈裟じゃないよな」

「大人に混じって全国大会優勝って、自慢出来るだろ?」

「テレビのニュースに出るって普通じゃないと思うのに……」

「まだ? まだって?」

「なんだよ。嫌なやつ……」

 

口々に感想を述べながら、ヒカルが出ていった方向を見ていたのだった。

 

その一方で、ヒカルが校長室に呼ばれると校長がニュースで葉瀬中の進藤ヒカルと報道されたことに大層喜んでいた。

 

「どうして早く言ってくれなかったんだ」「凄い」「キミは素晴らしい」とここでも褒められまくっていた。校舎から垂れ幕も至急手配していると言われ、慌ててやめるように訴えたが、ハイテンションな校長は微塵も聞いていなかった。

 

仕方がないので、ハイハイと聞き流して校長室から出てきたところだ。ちなみに、「何か希望はないのか?我が校で力になれることがあったら言って欲しい」と言われて、自分は参加できないけどと前置きした上で、『囲碁部』の創立を訴えておいた。

 

ついでに、筒井さんの名前も出しておいたので、バッチリだと思う。前みたく打倒海王を一緒に目指せないのは心苦しいけれど、少しでも出来ることはしたかったというのもある。

 

ちなみに、どうせ話題がないから一時的なものだと判断したヒカルは、わざわざ隣のクラスや学年とかからもヒカルの顔を見に来たりする人をスルーしながら過ごした。

 

 

◇◆◆◇

 

 

週刊碁の記者である天野はこの日、進藤ヒカル君という子供の家に取材に来ていた。大会に出場していた時に、後日取材をしたいからとお願いをして住所を教えて貰っていたのだ。

 

「どうも、週刊碁の天野です。こっちがカメラマンです。ご連絡してあったとはいえ、お邪魔してしまってすみません」

「はぁ……」

 

出てきた進藤ヒカルのお母さんが戸惑いがちに玄関口で対応している。事前にアポは取っていたが、インターホンが鳴ったかと思えば、やってきたのが記者だったのだから無理はない。

 

一般的なご家庭は記者がやってくるなんて経験は少なくともしないだろう。戸惑いもする。

 

「この間、全日本アマチュア本因坊決定戦全国大会で進藤ヒカル君が優勝されましたよね。史上最年少でした。棋譜を見ても実に見事としか言い様がない」

「そ、そうなんですか……?」

「そうなんですか?」

 

思わずオウム返しをしてしまった。普通ここは息子を自慢に思ってたとしても、例え謙遜したとしても「ありがとうございます」というのが無難な返事だ。

 

それがまさかの「そうなんですか?」という返しに、目を瞬かせた。その天野達のリアクションが引き金になったらしい。

 

突然、お母さんが(せき)を切ったように語りだした。

 

「ウチのお爺ちゃんもしきりに凄い大会って言ってたんですが、そんなに凄いんですか?いえ、全国大会っていう位ですから、それは凄いのかもしれないんですけど。ニュースで報道されたかと思えば、本当に記者の方まで来るなんて思ってもみなくて。囲碁の大会は大人と子供が戦うんですか?碁の大会って言われても碁のことなんて全く知らないもので…─」

「し、知らない?!」

 

思わず天野は言葉を遮って、口を挟んでいた。

 

「し、知りません」

「全く?」

「全くです」

「そんな馬鹿な」

 

あれだけ会場中を魅了する様な対局をしておいて、閉会式で破天荒なとんでもないぶっ飛び発言をした真意を確かめる目的もあって来た天野は、あまりの事態に天を仰いだ。

 

発言については置いておくとして、あの強さの源の一つとして、家族のバックアップは最低限あると思い込んでいたのだ。

 

例えば、ご両親が子供の碁の才能を伸ばそうと囲碁教室に通わせたり、お金をかければプロを自宅に呼んで指導碁をして貰うことだって出来るのだ。そこまで行かなくても、少なくとも理解はあると思っていたのに。

 

なのに、まさかの『囲碁のことは何も知らない』という事実。天野はちょっと待てよと切実に思った。

 

頭を抱えたくなる気持ちを何とか抑える。これは、進藤君が捻くれるのは無理ないのかもしれないと思ってしまった。

 

あんな碁が打てるのだから、強くなるまでに相当な努力をしているはずだ。

 

なのに強すぎて同年代はおろか、大人でも下手な相手は軒並み蹴散らしてしまう程の実力を持っていて、ライバルと呼べる相手がいない。──それはつまらなさを感じている筈だ。

 

かつ、身近な家族は碁について幾ら話しても理解して貰えない環境。──どれだけ強くなっても認められない無意味さを思い知るに違いない。

 

天野は思う。だからこそあんな発言をしたのではないか、と。彼──進藤ヒカル君は本気で自分を倒してくれる相手を探している。だから、あんなことを言って挑発してみせたのだ。本気にさせるために。

 

そして大会に出たのも、優勝すれば家族に碁のことを少しでも理解して貰える。もしくは、少なくとも理解しようとする気持ちが芽生えるのではないか? 碁のことを認めて褒めてくれるのでは? という気持ちがあったに違いない。

 

初っ端から、予想外の形で進藤ヒカル君が問題発言をした理由を悟ってしまった天野は、ここで対応を誤る訳にはいかないとばかりにぐっと息を吸って、言葉を発した。

 

「いいですか? 奥さん、そもそもですね……─」

 

天野は、記者という仕事を一旦置いておき、お母さん相手にざっとではあるが『全日本アマチュア本因坊決定戦全国大会』はどういうもので、進藤君が優勝したことはどれだけ凄い快挙だったのかを説明することとなる。

 

途中でインターホンを聞きつけた進藤君がやってきてくれたものの、お母さんが天野を必死で引き止めたため、一旦互いに事情を話し、インタビューの時間はずらしてもらうことにした。

 

ついでに、他にも聞きたいとばかりにお母さんが物凄く初歩的な質問を挟んでくるため、場所を変更。リビングでお茶を頂きつつ、碁について力説する羽目となったのだった。

 

天野は、そのままひとしきり進藤ヒカル君のお母さんと話をした。

 

どうやら、お爺さんは碁をやるらしく色々と話していたみたいなのだが、孫可愛さに大げさに言っているだけだと思っていたらしい。かわいそうな話である。

 

そこで、リビングの時計をみると予想外に針が進んでいることに驚く。進藤君に時間変更をお願いしたものの、そんなに待たせる訳にはいかない。のんびりもしていられないのだ。

 

お母さんにそろそろ、進藤君の取材をしたい旨を伝えて、2階へと案内して貰った。

 

「ヒカルー! 今、記者の方がそっちに行くそうよ」

「ん。今行くー」

 

そう言いながら部屋から出てきた姿を改めてみると本当に中学一年生の子供だった。前髪が金髪というのも特徴といえばそうなのかもしれないが。

 

そのまま部屋の中へと招いてもらい、座って互いに自己紹介をする。進藤君から説明をしてくれたお礼を言われるが、逆に待って貰ったのはこちらの方だ。こちらこそ、お礼を言うべきだろう。

 

そんなやり取りをしながら進藤君が名刺を受け取ってくれたのを見て、ゆっくりと口を開く。

 

「それでね、大会の時にも説明させてもらったけれど、色々聞かせて貰ってもいいかい?」

「うん、いいよ」

「じゃあ、まずは優勝おめでとうございます。自分では優勝出来ると思っていたのかな?」

「当然、絶対に優勝するつもりだったさ」

 

普通はこの言葉に驚いてしまうところだったが、事前に天野はとある話を入手していたため、動じなかった。すかさず切り込む。

 

「地区大会や都大会で『俺は絶対に勝つ。負けるつもりなんてねーよ。勝ち進んでいくって決めてるから』って言っていたのもそのため?」

「まァね」

「なるほど、有言実行だった訳だ」

 

天野は──ボイスレコーダーに許可を得て録音はしているものの──メモ帳にも書き込みをしつつ、次の問を繰り出した。

 

「じゃあ、尋ねるけど閉会式で何であんなことを言ったんだい?」

「あーアレね」

「そう、アレ。そこは是非とも聞きたいな」

 

先ほど、どうしてそんな発言をしたかを察した天野だったが、一応本人からも話を聞いてみようと思った。勿論、素直に言ってくれるとは思えないが、判断材料にはなる。

 

「本当のことだったから」

「本気で言っているのかい?」

「勿論そうさ。だって、皆弱いんだぜ。嫌になっちゃうよ、全く。ちっとも骨のあるやつとか居なかったし」

「ううむ。進藤君は強いからね。けど、プロの世界はそんなに甘くない」

「そーかな? 案外、俺強いし。プロにだって勝てちゃうんじゃない? ってか、勝つ気でいるけど?」

「ん?」

「プロの世界って言うけどさ。皆、甘すぎなんだよ。プロってことに胡座をかきすぎじゃん。プロ試験通ったからって気を緩めすぎ。勉強不足のやつなんてどれだけいるんだよって感じ。だから俺の方が強いって」

「そんなことは決してないと……」

「ないって言い切れるの? 本当に?」

「そ、それは……」

「確かにそこそこやっているプロと違ってトッププロと呼ばれる人達だったらしっかり勉強だってしているかもしれない。だけど、必死でしてるって断言出来る? つーか、無駄な勉強とか時間の無駄だし、第一努力ですらないだろ」

「…………」

 

天野には目の前の子供が子供に見えなくなっていた。もちろん、見た目は子供なのだが、何か得体のしれないモノのような気がしてならない。

 

もちろん、プロの世界を実際に見てないのをいいことに、何を勝手なことを想像で言っているんだと言うことも出来たかもしれない。しかし、口調には確信じみたものを感じる。

 

まるで経験して、実際に見たからこその発言に思えてしまい、咄嗟に左右に首を振った。

 

(いやいやいや、相手は中学生。何を考えているんだか……)

 

「つまり、何を言いたいんだい?」

 

極めて冷静になってした質問だった。しかし、まさかこの言葉に爆弾発言が返ってくるとは思わなかったのだ。

 

「うん、だから俺が如何に努力してないかを思い知らせてやろうかなーと思って。俺の実力の前じゃ、全くの無意味だって教えてやろうかなって」

「え?」

「俺、出られるでしょ。棋聖のタイトル戦に」

「え! あ! いや、でもそれは……」

 

確かにアマチュア本因坊戦全国ベスト8に入った場合──『棋聖戦のトーナメントに出場が出来る』のだ。

 

盲点だった。もしかして、それが彼の狙いだとでもいうのだろうか? 気づけばペンを握り締める手の力が強くなっており、背筋を冷や汗が伝うのが分かった。

 

ファーストトーナメント──予選でプロ相手に5連勝すれば枠抜けすることができる。後はCリーグでどれだけ勝ち進めるかによるが、道のりは険しい。余りにも無謀すぎる発言だ。思い上がっているとすら感じる。

 

否、あの棋譜を見ていなかったら……あの会場の熱気を見ていなかったら……天野はそう思っていた。決して真に受けたりはしなかっただろう。

 

ゴクリと唾を飲んで、口を開く。さっきお茶を頂いたから水分補給はなされている筈なのに、急に口の中が乾いている気がした。

 

「それは……本当に本気で言っているのかな?」

「は? 何言ってんだよ。当たり前に決まってるだろ」

 

目の前の進藤君は堂々とした姿でにっこりと笑ってこう言った。

 

「俺はアマチュアだけど、棋聖のタイトルを奪うよ。ぬるま湯に浸かりきったプロの連中なんて敵じゃねーもん」

「……それが、本当なら凄い。そう……とても凄いことだよ。これはスクープになるかもしれないね」

 

笑えない。天野にはその言葉に笑えなかった。到底、冗談だとは思えない。目の前の子供は本気でタイトルを狙うつもりだというのがよくわかる。

 

この感じるプレッシャーは今まで囲碁界の取材をしてきた天野には馴染みがあるものだった。──トッププロやタイトルホルダー達と同じ気迫を確かに感じたのだ。

 

「はははっ。そっかー。子供の戯言扱いしないなんて天野さんっていい人だよな。是非スクープ扱いになった時は週刊碁に掲載してよ。俺、天野さんの記事結構読むんだ」

「買ってくれているのかい? ご愛読ありがとうございます」

「わりぃ、買ってない。俺、小遣い少なくて買えないんだ。碁会所に置いてあるやつ、読んでるの」

「…………」

 

今更ながら、先ほどのご家族を思い出して、しょっぱい気持ちになる。外野がとやかく言えるものではないが、色々と説明をした身としては、毎週分とは言わないが、せめて週刊碁を買える金額くらいは小遣いを上げて欲しい。

 

無言で何とも言えない表情をしていると、今度は進藤君の方から話を切り出してきた。

 

「ねぇ。わざわざ、俺の家まで来たのは何か理由があるんでしょ? じゃなきゃ、あのまま会場で取材済ませればいい話だし」

「あ、あぁ。実はそうなんだ。といっても、既に進藤君は心当たりがあるみたいだね」

「なんとなくだけど、見当はつくよ」

「うーむ。では、改めて……─進藤君。君は『five』なのかい?」

 

あの会場で取材が出来なかった理由はこれだ。fiveかどうかを尋ねるのにまさか大勢のファンの前で聞く訳にはいかなかったのだ。場合によっては大混乱が起きる。

 

無論、別室でも構わなかったかもしれないが、話がどこから漏れるかわからない。進藤君が記者に連れて行かれたなんて話になれば、同様に騒ぎになる可能性があった。

 

進藤君から返ってくる答えによっては、本当にさっきの話と合わせて大スクープになる。特に棋聖のタイトルだって夢物語ではないかもしれない。

 

部屋に入ってから気づいたパソコンの存在。あの実力と自信。彼が『five』である可能性は非常に高いと言えるだろう。

 

進藤君が口を動かすのがやけにスローモーションの様に感じた。

 

「それを答えてあげてもいいんだけど、二つ条件があるんだ」

「条件?」

「そ、俺としてはここで答えたくないって言ったって許される」

「そりゃあ、まあ。こちらとしては聞きたいところではあるから、困るけど……そうだね」

「そ。だから、条件。こっちも色々話す代わりってやつ」

「内容にもよるが……」

「うん。けど、悪い話じゃないよ。だって、これから棋聖戦にチャレンジしながら勝ち進めば、いやでも取材が殺到するんだから。そんな中で独占インタビューは美味しいんじゃない?」

「うーんちゃっかりしてるなァ」

 

そうして、目で条件を尋ねると進藤君はきっぱりとした口調で告げた。

 

「条件は記事を出すタイミング。記事を出すのを俺がファーストトーナメントを通過してからにして欲しい」

「それまたどうして?」

 

もう進藤君がプロに勝つのが前提の話になってしまっている。しかし、不思議と彼ならやってくれるんじゃないか?という気持ちになっていた。前のめりになって食い気味に話を聞く。

 

「絶好のタイミングだと思うから。たぶん、世間だとそれくらいにマスコミが騒いでくれると思うんだ。話題になると思って。それに合わせて『five』のことを掲載出来れば相乗効果で注目度が段違いだと思うんだよね」

「な、なるほど……」

「今、掲載してくれても別に俺は困らないし、棋聖戦も挑戦していくつもりだけど、やっぱり狙うなら大きな効果がある方に期待したい訳」

「……本当に中学1年生?」

「あははははは。天野さん、面白いことを言うね」

 

軽快に笑っている進藤君に、天野は問いかける。

 

「もう一つの条件っていうのは?」

「んー。記事にするのはいいけど、俺の言葉をストレートに載せることだよ」

「そ、それは……」

「何か問題ある? 別に俺は間違ったことなんて一つも言ってないし」

「ま、まァ。進藤君が気にしないというのなら、そうしよう」

 

これは記事としては異色となるなと感じながらも、天野は覚悟を決めて口を開く。

 

「……進藤君。君は『five』なのかい?」

「うん、そうだよ。パソコンあるけど証拠みる?」

 

あっけらかんと進藤君は笑ってそう告げたのだった。


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