逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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第三十一話

ヒカルはそのまま快進撃を続けた。Cリーグで芦原を破った後、立て続けに二人プロを倒したのだ。

 

すると、その快挙に世間は大きく反応を示したのだった。『もしかすると、このままCリーグを突破するのではないのか?』という大きな期待だ。

 

まず、学校や棋院に電話がかかってくる様になった。一番多いのが問い合わせや応援の電話である。そして中には取材関係のものも含まれている。

 

「グッズはもうないのか?」「販売再開はまだか?」「fiveは本当に進藤ヒカルなんですか?」「fiveの対局はいつ行われるの?」「棋聖戦の具体的な日程を教えてください。入り待ちしたいんです!」「進藤君頑張ってて凄いですね」「本当に棋聖を狙っているんですか?」「凄い! 応援しているよ」

 

などという電話がどっと押し寄せてきたのだ。無論、今までもそんな電話はあったものの、その頻度が違う。

 

特に棋院ではfiveの正体が謎だったときや、fiveが進藤ヒカルだと発覚したときも電話が殺到したものだ。が、やっと落ち着いたと思ったにも関わらず、同様に多くのコール音が響き渡る様になってしまったのだ。

 

学校は鼻高々。全面的に進藤ヒカルを応援すると方針を打ち出した。対局で学校を休むときは公欠扱いとし、休んだときのノートもクラスメイトが順番に担当してコピーを渡す様にしている。

 

ヒカルには良かったら使うようにと、見栄えが少しでもするように新品の制服も渡されていた。

 

また、学校への取材もオーケーしていて、あの進藤ヒカルの母校として大々的に取り上げて貰う気満々だった。

 

囲碁部も正式な部として認められ、部員募集をしつつ活動をしている。ちなみに、筒井さんはヒカルが部室覗きに行った時に、感謝の気持ちと感激のあまり握手したときに涙してしまったこともある。

 

そしてクラスメイトとしても、ノートのコピーは先生に頼まれたから行うのではなく、自主的な行動だ。新聞や、テレビなどで日に日にどんどん注目を集めていく、ヒカルが凄い奴だという認識が広まってのことだった。

 

最初は謎な発言もみられていたものの、今となっては納得がいくというものだ。全国大会というよりも、もっと大きなことに挑戦しているのだということが知れ渡ったのだ。

 

ビッグマウスというのも、天才だからだろうという考えに至り、なるほどなーという空気がそこにはあった。妬みや僻みもみられたが、口に出すと袋叩きに合いそうな空気があったので、口を噤んでいる。

 

囲碁に対する注目度もあがりつつ、ヒカルを応援するという空気が出来上がっていたのだった。

 

棋院としては囲碁界が盛り上がるのは歓迎するべきとして、精一杯やっている。しかし、連日のこの騒動で少し疲弊気味だった。ヤケになっている職員もいるくらいだ。

 

なので、人員不足を解消するために臨時の職員を募集する必要にかられていた。そして、何よりも頭を悩ませていたのがグッズの件だ。

 

もっと売れるのにどうして出さないのかという上からの要請とどうして販売してくれないのかという一般での問い合わせで板ばさみになってしまったのである。

 

本人にあまりグッズを出す意欲が出ていないのに、子供に無理に大人の都合を押し付けているようで気がすすまない。しかし、そんなことも言っていられない。

 

こうしてヒカルに再度、グッズの販売の打診が来たのだった。ヒカルは当初渋っていたものの、また何かを閃いたらしい。

 

棋院側に再びある条件を提示してきた。

 

「売店で見つからないから、ないのかなーと思ってたんだけどさ。こんな感じの扇子ってある?」

 

と、やけに具体的なイメージを伝えてきたのだ。慌てて人をやり探させると、倉庫の奥に埃をかぶったダンボールの中に眠っていた様だった。

 

「それ、俺に頂戴。これから使おうと思うんだ。で、そんなにグッズグッズ言うなら、この扇子と同じの売ったらいいじゃん。けど、一個二万円ね」

 

こうして、再び高級路線でグッズの発売が決定したのだった。棋院側としてはまたボッタクリだと責められるので頭が痛くはあるのだが、板ばさみが解消されることにもなるので、一先ずは胸をなでおろしたのだった。

 

そして取材関係といえば、それもまた凄かった。Cリーグを一勝するごとに特集が組まれていくのだ。取り扱うテレビ局も多くなり、メディア露出が増えた。

 

また、大口を平気で叩くというのも、天才だからだろうという見解。見ているほうがスカッとするという理由や、面白いという理由で意外と好評だ。無論、逆に不愉快だという意見も多かったのだが、テレビ番組的に賛否両論でも意見が多数寄せられるという反響の良さにプロデューサーは益々、特集に熱心になるのだった。

 

そして憎まれ口に関しても、勝ち続けている効果なのか、もしくは報道の仕方なのか、今まで家族の理解を得られず、自分の相手になる対局相手がいないから歪んでしまってるんじゃないかという説が有力になってしまっていた。

 

もっとも、否定的な意見も多数あるのは事実だ。生意気すぎだとか礼儀がなっていないという意見も多い。

 

しかし、それを含めたところで、どちらにせよ総合すると『孤高の天才』というレッテルが貼り付けられてしまったという。ヒカル本人はどうでもいいとばかりに気にしていないのが唯一の救いなのかもしれない。

 

また世間に囲碁ブームの兆しが見え始めた。連日の報道から関心や興味を集めたらしいのだ。

 

囲碁教室や碁会所に人が集まりはじめ、囲碁に取り組む初心者が急増した。

 

囲碁に関するグッズや碁盤の売れ行きも好評らしい。

 

こうして世間に嵐を巻き起こしながら、Cリーグ第四戦目の都築七段を破った。

 

この対局時、ヒカルは森下門下の都築さんだということに気づいていたのだ。しかし、何事もないようにシレっとした顔を作って対局をする。

 

今までの相手とは違い、果敢に挑んでくる姿勢に頬が緩みそうになるのを抑えるのを苦労したのだった。結果として勝利した対局後、都築に話しかけられる。

 

「進藤君だったかな?」

「うん」

「森下師範に言われていたんだ」

「?」

「進藤ヒカルを何とかせい! って」

「ぶふっ」

 

脳内で森下師範がドアップで怒鳴る姿が明確に再生されてしまい、ヒカルは思わず噴出した。そんな姿を微笑ましげに、また自分の力が及ばないことに落胆しつつも都築が見守る。

 

そして最後には握手をして、スッキリとした気持ちで対局を終えることが出来たのだ。

 

しかし、Cリーグ第四戦目の都築七段を破った。この事実は大きかった。プロの現役七段ですら、アマチュアのヒカルを止められないという現実。

 

各方面に衝撃を齎しながら受け止められることとなる。もうここまでくると進藤ヒカルの勢いは止まらないし、止まれなかった。

 

本格的にCリーグ突破の見込みがあると、世間の熱がヒートアップしたのだ。二万円のヒカルの愛用している扇子が飛ぶように毎日売れていく。

 

今では街中ですら、ヒカルが歩くとまるで芸能人かの様に口々に声をかけられるようになっていた。しかし、そこでもヒカルは断固としてサインはしない。

 

そこがお高くとまっているという意見と、クールという意見で更に割れた。

 

そんな中、ついにCリーグ最後の第5戦が始まろうとしていた。その日の朝もあかりの豪華なご飯を食べて棋院に向かったヒカル。

 

だが、その棋院前が凄かった。各種報道陣。そして、入り待ちの──気のせいではなく前より人数が大幅に増えている──応援団がそろい踏みで待ち受けていたのだ。これには流石のヒカルもドン引きである。

 

しかし、ポーカーフェイスを気取って歩き出せば、口々に歓声がヒカルを包んだ。

 

「キャー進藤君頑張ってー」「five!!」『five!!』「坊主ーがんばれよー」「生意気なことを言うんだから勝てよー」「進藤ヒカルー!」「こっちむいてくれよ」「サインちょうだーい」『five!!』

 

男性に女性。国籍が違う外国人。そして、中には若い人だけではなく老人やおっさんの姿も見られていた。多種多様な人物の集団が熱狂して、口々に叫んでは道を作っているのだ。

 

その道をゆっくりとヒカルは歩きながら、期待を裏切る様な碁は打たないようにしようと心に決めた。

 

そんな姿を報道陣がカメラのフラッシュで迎えていく。テレビカメラのクルーといえば、レポーターが今の状況を懸命に報道しているようだ。

 

そんな騒動を乗り越えながらも、無事に棋院に辿り着いたヒカルだったが、対局室で待ち構えていたのは緊張を孕んだ視線の数々だった。

 

そこに居たすべての人の視線がヒカルに集中している。それを気にしないで、自分の対局する場へと向かう。纏わりつく空気や人の目など全くどうでもいいと言わんばかりだった。

 

「フン、随分とあくどく稼いでるじゃねぇか」

「そーかな? 大した事じゃないし、アンタには負けると思うよ、俺。ね、御器曽七段」

 


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