逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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とても色々悩みました。エタらせようかと思ったのですが、スローペースでも、もう一回だけ挑戦することにしようと思います。もし、次に二ヶ月以上間が空いた場合完全にエタったと思ってください。
また、今度は何を言われても自分のやりたい展開と内容で書いていくので、ご了承の上、読んで頂けると幸いです。下手くそなりに頑張って書いていきたいと思います。


第三十四話

「まずはこれを見て下さい」

 

そして、老婆は一つの便箋を取り出した。そして、勢いよくテレビカメラにつきつける。そこにはとある文章が達筆な文字で書かれていた。

 

『何かの足しにして下さい。けど、その中から子供達に少しの遊び道具と9路盤とかマグネット碁盤でも良いから安い碁盤を買ってあげて下さい。寄付したってことは絶対に内密にお願いします』

 

という内容のものだ。それを見て全く意味がわからないという表情をするレポーター。しかし、老婆は一向にリアクションを気にすることなく、きっぱりとした表情で口を開く。

 

ちなみに、そこには先ほどまでの悲壮感に満ちた表情は欠片もなかった。

 

「申し遅れました。私は都内にあります某児童養護施設の施設長を務めさせていただいておりますの」

 

「はぁ。そうですか……それで、何がどうなって……その進藤ヒカルさんの騒動とご関係があるんですか?」

 

「まぁ! まぁまぁまぁ! あなた、これを見てもお分かりになりませんの?」

 

レポーターの言葉に大袈裟なまでのリアクションをする老婆。連れの男は呆れ顔である。

 

「いいですか? この便箋は東京都内のいくつかの児童養護施設に匿名で届けられた寄付金の中に入っていたのです」

 

「ま、まさか……それが進藤ヒカルさんだとでも言うつもりなのですか?」

 

「えぇ、その通りですわ。ですから、口々に心無いことを言っている人々が信じられないのです。こんなにも、進藤ヒカルさんは心優しいというのに!!」

 

「け、けどですよ。しかし……匿名じゃないですか。どこに進藤ヒカルさんが出したという証拠があると?」

 

「それは……」

 

「そ、それは?」

 

その言葉に、老婆は勿体ぶってみせた。レポーターや撮影スタッフ。そして、騒動の野次馬としてチラホラと集まってきた人々も身を乗り出す程に興味津々である。なにせ、この老婆の言っていることが真実であるならば、今までの前提が全てひっくり返ってしまうのだから。

 

そうして、言葉を溜めたことで注目を更に集めた老婆は、頃合を見計らって告げたのだった。

 

「進藤ヒカルさんのグッズ。揮毫(きごう)入りの扇子です」

 

「は?」

 

「ですから、今回のこの騒動。発端となった進藤ヒカルさんのグッズが、証拠なのですわ」

 

キョトンとしているのは何もレポーターだけではない。他の人間も呆気に取られているだけである。

 

しかし、そんなことはお構いなしという風に老婆は手に持っていたカバンの中から、件の扇子を取り出して見せた。

 

「これは借り物なのですけど……ご覧になって?」

 

そして、徐にそれを開く。

 

『あ!!』

 

集まっていた何人かが察したらしく声を上げた。それに対して老婆は殊更優しく微笑むとテレビカメラの方へつきつける。

 

そこには『碁』と、ドストレートに揮毫(きごう)されていたのだ。

 

その達筆な『碁』という文字は少し癖みたいな部分があり、特徴的でもある。また、一番最初に老婆が突きつけた便箋。そこにも『碁』という文字があった。

 

ハッと気づいたレポーターが老婆から便箋を借りて比べてみると明らかに文字が同じであることは明白であった。

 

目を見開き、口をパクパクとさせているレポーターに、老婆はダメ押しとばかりにトドメを刺す。

 

「全く。一方的に好き勝手言っていた様ですけど、進藤ヒカルさんに言うべき言葉があるのではなくて?」

 

「……す、すみませんでした」

 

「それは私に言うべき言葉ではありません」

 

そう言って老婆はくるりと踵を返し、連れの男と共に去っていったのだった。足早にその場を立ち去った二人は暫くしてビルの影で足を止める。今までずっとなりゆきを見守っていた男が話しかけた。

 

「一体何なんだあの三文芝居は……笑いを堪えるのに苦労したんだが」

 

「フン、知りませんね。しかし、あれくらいオーバーな方が伝わりやすいのも確かです」

 

そう言った老婆のポケットには実は目薬が入っている。ポケットの膨らみを軽く叩いた老婆はニッコリと微笑んだ。

 

「あぁ、漸くスッキリしましたね。約束を破ってしまったのは本当に心苦しいですが、世間の手のひら返しが楽しみでなりません」

 

「まァ。わざわざ、生放送しているであろうテレビクルーを人海戦術で探しまくった甲斐があるんじゃないか?」

 

「えぇ。無駄足にならずに済んで良かったですね」

 

 

 

◇◆◆◇

 

 

この日、進藤ヒカルはあかりと一緒に街中に出ていた。親に頼まれごとをした帰り道だったのだ。ついでとばかりに適当に街を散策していた二人だったが、歩き疲れて喉が渇く。そこで適当なコンビニに入ることにした。

 

「ジュース買って、ベンチで飲もうぜ。あかりは何にする?」

「んー、どれにしようかな? あ。酸っぱいのがいいかも」

「女子って酸っぱいの好きだよな、全く」

「全くってヒカル。普通に酸っぱいのは美味しいよ」

 

くだらない話をしながら、笑っていたヒカルだったが、ふと目の前の人物が棚に微かにぶつかりお菓子を落としたのが目にはいった。

 

「あ! おい、お前。ぶつかったから落としたみたいだぞ」

 

咄嗟に言葉に出たヒカルが呼びかけたのだが、そのまま無視をして行ってしまう。今度は追いかけてその肩を掴んだ。

 

「聞こえてんのに無視するなよな。商品落としたんだから拾えよ!」

「…………」

 

くるりと振り向いた人物を見て、ヒカルは目を大きく見開いた。洪秀英(ホンスヨン)だったのだ。驚いているヒカルをよそに秀英は険しい不機嫌そうな顔をしてヒカルの手を振り払った。

 

咄嗟に、カタコトではあるものの韓国語で話しかける。

 

『お前 商品落とす 拾う』

『!』

 

途端、驚いた顔をして足を止めて振り返った秀英に、ヒカルは落とされたお菓子を渡す。すると、少しバツが悪そうな顔をしてそのまま受け取り、素直に棚に戻した。

 

『韓国語わかるのか?』

『少し』

 

そんなやり取りをすると漸く秀英がしっかりとこちらを見た気がした。そしてそれは気のせいではなかったらしい。見る見る秀英の目が大きく見開かれる。

 

「ヒカル、何話してるの?」

「あぁ、あかり。ちょっとな。商品落としたぞって言ってただけ」

「けど、日本語じゃなかったよね?」

「まーな。だから日本語じゃ反応してなかったんだよ。コイツは韓国人」

「じゃあ、ヒカルは韓国語が話せるってこと?」

「全然。単語くらいしか無理」

「ヒカル、それって充分凄いと思うけど」

 

そんな会話をしていると漸く秀英が驚きから回復したらしい。ヒカルに向かって話しかけてくる。

 

『もしかして……あの進藤ヒカル?』

『うん』

『本物?』

『偽物 ある?』

 

その言葉を聞くと秀英が急にヒカルの肩を強く掴んだ。

 

「うわっ」

「ヒカル?!」

『本当に本物の進藤ヒカルなら僕と打て!』

 

そのまま強く揺さぶられてヒカルは答えに詰まった。咄嗟に揺れを収めようと言葉が出る。

 

『ま、待つ。落ち着く』

『僕は……僕は……』

 

しかし、必死さから余計に強まった力にヒカルは一旦力ずくで手を振り払った。

 

『落ち着く!!』

『!』

 

今度はピタッと静止した秀英だったが、表情は暗かった。ヒカルが考えるに時期から言って、秀英は研究生としてスランプに陥っているのだと思う。

 

クラスが下がったことをきっかけに成績がドンドンと下がっていって負けてばかりになった頃。息抜きをさせた方が良いということで、秀英の父親が日本の知り合いへと寄越したという経緯がある筈だ。

 

他人事ばかり考えている暇はヒカルにはない。碁が第一優先なのには変わりない。しかし、秀英との出会いはヒカルにとって大きかったものだ。

 

ここのコンビニで図らずも会えたというのは、やっぱり縁があるのではないだろうか? ヒカルは暫し考えたものの、一つ頷いて結論を出した。そうと決まれば早速とばかりに秀英に話しかける。

 

『ここ コンビニ 話す 向かない』

『…………』

『移動する』

 

すると、秀英はコクリと頷いたのだった。そうして、三人で外国人ばかり居る碁会所の『柳』へと向かうのだった。


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