逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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第五話

●三谷side

 

 

 

三谷は街のショーウィンドーを眺めながらため息をついた。中には欲しかったMDプレーヤーが飾られているが、財布の中身を考えれば到底手が届かない。

 

色々な物が欲しいと思っても今の小遣いではとてもではないが不足している。どうすれば良いのだろうか?と考えたとき、三谷は『賭け碁』の存在を知ったのだった。

 

『番碁』は勝ったら幾ら支払う。『目碁』は地目数の差で幾ら支払うというものである。

 

碁の腕にはそこそこ自信があった三谷は、これで小遣い稼ぎが出来ないかと考えたのだ。

 

周囲を見渡してみる。何が面倒かといえば、口煩いババァ(姉)に知られるのが一番厄介だと言えるだろう。だからこそ、碁会所選びは慎重になるべきだ。

 

一口にビルのテナントと言っても目立つ場所だと困るのである。人通りがある程度ある場所で、かつ人目につかない所を探したい所だ。

 

つまり意識をしないと碁会所があると分からない場所という訳である。インターネットカフェで調べた碁会所の中で、目星を付けていたからここへ来てみたのだが……いきなり当たりかもしれない。

 

色んな店が並ぶ通りの中にありながら、雑居ビルの地下。仮に見かけられたとしても言い訳には困らなさそうだ。思い通りに運ぶ展開に少し機嫌が良くなりつつも、怪しげな碁会所の扉を一気に開いた。

 

 

──途端。

 

 

中に居た沢山の客が一斉にこちらを振り向いたのだ。本気でホラーだった。流石に怖さというか、ぶっちゃけ凄く不気味さを感じる。急に沢山の目に見つめられて、思わず一歩後ずさった。

 

「……な、何だよ。何なんだよ」

 

しかし、三谷の言葉に返答はなかった。顔や姿を一瞥(いちべつ)するや否や、また元通り──何事もなかったかの様に戻ったのだから。目をパチクリさせてみるも、理解が追いつかない。

 

そして、次第にこの場が異様な熱気に包まれていることに気づいた。客が中央のテーブル付近に思い思いに集まっており、何やら熱心に会話をしているのだ。

 

誰の目も顔も真剣そのもの。一体何があるというのだろうか?碁会所なのに、囲碁を打っている客なんて一人も居やしない。

 

来る場所を間違えたとすら思ってしまった時。横から声がかけられた。見ると色々物が雑多に置いてあるカウンターの中に居る人物だったことから、ここの席亭なのかもしれない。

 

「すまないネ。せっかくの若いお客さんだというのに、今日はちょっと色々あってネ」

「色々?」

「そうだヨ。全くどうしようもない大人共だネ、全く」

「一体何があるって言うんだよ?」

 

よくよく観察してみれば、熱気の中に浮ついた雰囲気も伺える。もっと簡単に表現すれば『ワクワクドキドキ』いい年こいたおっさんや中にはジジイまでもが、目を輝かせながら何かを待っているのだ。

 

賭け碁が出来なきゃ用はないってのに、三谷は何をそんなに楽しみに待ち焦がれているのかが気になった。だから、つい。隅の方の椅子を勧められ、お茶も出されて素直に従ってしまった。

 

三谷の質問に、小さく笑いながら目の前の人物は返答する。

 

「ここは碁会所だヨ。勿論、対局に決まっているじゃないか。ねェ?」

「?」

「キミも碁会所に来たんだ。碁は打てるノ?時間があるなら見ていくといい。きっと面白いモノが見れるかもしれないヨ」

 

見学は無料だからネ。と言葉を付け加えながら──予想通り席亭だった様だ──去っていく人物を見送って暫く。再び碁会所の扉が開かれた。

 

現れたのはくたびれたおっさんだった。眉毛が太く無精ひげがある。ガタイはそこそこいいかもしれないが、腹が出ている。それもどこかで酒を引っ掛けてきたのか変な歌をダミ声で歌いながらやって来るし、若干ふらつきがみられ、足元が怪しかった。

 

店の連中は再び現れた人物に一斉に視線を向け──途端に盛大な歓声をあげた。中には指笛やら拍手すらしている奴まで居る。

 

勿論、三谷は呆気に取られた。しかし、それ以上に驚きを見せたのが大歓迎をされたおっさんの方だった。酔いすらどこかに吹き飛んだ様子で、目をキョロキョロさせながら、オーバーに数歩後退りまでして、困惑しまくっている。笑える位に意味不明な様子だ。

 

「は?なんだってんだ?」

「良く来てくれた!」

「アンタを待ってたんだ」

「ようこそ!!」

 

焦りと緊張からか汗が滲んでいるらしい。新しく登場したおっさんは、ポケットから皺だらけのティッシュを取り出してどこか必死に平然を装いながら顔を拭っている。

 

「あァ?俺じゃなくて誰かと間違ってんじゃねェか?なァ」

「いやいや、アンタはダケさんと言うんだろう?間違っちゃいないさ」

「あぁ」

「そうだそうだ」

「俺たちはダケさんを待ってたんだ」

「俺は、アンタに賭けたぞ!」

「頼んだ!」

「任せた!」

「引き受けてくれてありがとな!」

 

どうやら、おっさんはダケさんというらしい。碁会所連中の目的の人物で間違いないようだ。一言話すだけで嬉しそうに周囲から口々に言われて、そんな馬鹿なと言わんばかりの大口を開けた間抜け面を晒している。更に眉間に皺を寄せるだけでなく、居心地が悪そうに何度も身動ぎをしている始末だ。

 

そんな様子をさっきの席亭がカウンターに突っ伏して密かに爆笑していた。笑いを堪えているが一向に堪えられていない。何度も吹き出しているのが見て取れた。

 

そこまで様子を観察して、三谷は頭をかく。全く話が読めない。とてもカオスな空間の中、色々考えてみてもこれから一応対局があるということくらいしかハッキリしていないのだ。

 

どうにも場違いな様な気もするし、帰ろうかと迷い始めた時だった。

 

「みんな!奴が来る!!」

 

この店へ急に駆け込んできた男からの報告により、ピタリ……と。急に場が静まり返ったのだ。全員が一種異様な雰囲気を醸し出し──今度は緊張感が場に漂っている。

 

ダケさんと呼ばれている男は、三谷同様状況が読めないながらも、空気を読んで黙り込んでいた。

 

そんな中、外から階段を降りてくる足音が微かに聞こえる。そのままこちらに向かって来ているようで、扉がゆっくりと開いた。

 

そこに佇んで居たのは──何と三谷と同い年位の子供だったのだ。その子供が口を開く。

 

「こんちはー。来いって言うし、仕方ねぇから来たけど……今日はちったァ、楽しめる対局にしてくれないと俺困るんだけど」

 

物凄く口が悪い。つか、偉そうだった。しかし、その効果?は抜群の様で周囲の連中がいきり立つ。

 

「なーにが楽しめる対局にしてくれないと…だか。許して下さいって、今更泣きべそかいたって遅せェぞ」

「へん、とうとうお前も年貢の納め時よ!」

「ふーん。今回はみんな揃ってるし、随分と気合が入ってるじゃん。今度は誰を引っ張ってきた訳?」

 

周囲を見渡していた子供が三谷と目が合い、大きく見開かれる。何かこちらに言いたそうに口を開いたのだが、それより早く。他の大人が声を掛けていた。

 

「坊主、ダケさんは相当な腕だそうだ。簡単に勝てると思うなよ?」

「……!」

「ダケさんはなー。俺たち、皆で頼んで来て貰ったんだ。調子に乗るのも今日限りだ」

「ダケさん、最初っから本気で頼むぜ!」

 

子供が今度は相当な腕だという言葉に反応して少し驚きの表情を見せていた。そして驚きが広がった後は、とても嬉しそうな様子だ。

 

言葉が悪いだけではなく、どうやら強い相手と対局出来ることが心底嬉しいらしい。好戦的な性格の様だ。

 

しかし、当のダケさんと言えば口をへの字にして、未だにどこか複雑そうな表情をしていた。

 

「俺だよ。お前の相手はな」

「へーおじさんが対局相手?俺に勝てるの?」

「任された以上はやるさ。相手が熊退治というよりか、カワイイ子猫とは思わなかったがな」

 

ダケさんとやらが、そう言うと周囲から再び様々な声援が飛ぶ。引きつった顔をしている様子からして非常にやりにくそうな感じだが、大丈夫なのだろうか?

 

その反対に、子供はその様子を見ながらニヤニヤとしている。余程、自分に自信があるらしかった。場の空気には馴染めそうもないし、馴染む気も皆無だが、面白い対局というのには少し興味があることは確かだった。

 

子供は相当に生意気で、挑発する言葉ばかり相手にぶつけているが、ダケさんも負けていなかった。あれやこれやと言い返している。そんな中、ギャラリーも盛り上がりながらも碁盤までの道を開けた。

 

「これ以上の問答は盤上でやり合おうぜ、ガキ」

「上等だよ、おっさん。ニギれよ!」

 

ついに対局が始まろうとしていた。

 

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