逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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IF奈瀬ルート 第十二話から分岐⑫

「あーあ。この間のこども囲碁大会は失敗だったな。まさか、俺があんなに有名とか誰もおもわねぇじゃんよー!」

 

「ひゃっひゃっひゃ。知らぬは本人ばかりというやつじゃな」

 

『囲碁さろん』で対局をしている。進藤ヒカルと桑原本因坊。あのテレビでの対局から割と直ぐにこのじーさんはひょっこりと顔を出すようになったのだ。

 

最初は常連のおっさん共が動揺して騒ぎまくっていたものの、ちょこちょこやってくるが故に今ではすっかり馴染んでしまっていた。

 

そして、ヒカルは高段者との対局が出来るとばかりに対局に乗り気であり、ほぼほぼ桑原との対局の誘いを受けていた。

 

ちなみに、桑原が「息抜きも必要じゃろ」などと発言しながら、おっさん達に打たないかと誘いをふっかけている光景なども見られている。後に、おっさん達は喜べばいいのか、びっくりすればいいのか非常に感情のメーターが忙しかったと述べていた。

 

ヒカルと桑原の二人の対局は最初は朗らかに日常会話を挟んでいる筈が、段々と言葉少なになり気づけばガチの勝負に発展していくというのがお約束の流れとなっている。ただし、それを二人にぶつけたところで、負けず嫌いなため普通に対局していただけだけどというに違いないのだ。

 

しかし今は対局が終わり、検討中であった。ほのぼのと雑談をする余裕がある。

 

「しかしな、小僧。己が影響力を持つ存在だという自覚を持たないとならない場面がこれから増えてくるでの。言葉や行動に気をつけ過ぎるということはないぞ?」

 

途中、真面目な顔をして忠告してくれている桑原に対し、ヒカルは鬱陶しそうに手をヒラヒラと振って適当に返答をしていた。

 

「あーはいはい。けどさァ、だからって普通に対局の観戦すら出来ねぇなんて、ホント最悪じゃん。今度から変装でもすればイイ訳? 俺は悪いことしてるんじゃねーんだし、堂々としてたっていいじゃんか」

「気持ちはわからんでもないがの。しかし、それで大会を妨害しては本末転倒。それは小僧も本意では無いじゃろう?」

「う……。そりゃあ、まァ。ただ、こう伸び伸びとだなァ~……」

「ふーむ。伸び伸びと……のう?」

 

ヒカルの適当な意見にも関わらず、桑原は間に受けたのか顎に手を当てて考え始めた。その様子にヒカルは訝しげだ。

 

「なんとなくの話だよ。なんとなく! あんまり真剣に考えなくてもいいって」

「そうは言うがな。不自由さを感じる様では、ストレスが溜まるじゃろうて、ふぇっふぇっふぇ」

「う……っ」

 

正直な所、図星であった。あの一件以来、少し人目を気にする様になったのだ。人が多い場所に長時間向かう際には、ヘアカラースプレーで目立つ金髪を黒髪一色にして帽子を被る程度の変装はするようになっていた。

 

それがヒカルにとっては一々面倒であり、ストレスになっていたのも事実。小さいイライラが積み重なって大きくなっていたのもあり、中々心に刺さる言葉だったのだ。

 

そんなヒカルの内心を見透かしたかの様に本因坊はとある提案をしてきた。

 

「そんな小僧に朗報じゃ」

「?」

「人目を気にせず、伸び伸びと囲碁の対局が出来れば、小僧も少しはスカッと気が晴れるんじゃないかの?」

「?」

 

話が見えずにキョトンとしているヒカルを他所に、桑原はニヤリと笑った。

 

「どうじゃ? 許可の類はなんとかしよう。ワシが今度出ることになっている交流会イベントに一緒に参加せんか?」

「え?」

「堂々としていたいなら、最初から姿を明かしても平気な場所に行けばいいだけの話じゃて」

 

 

 

◇◆◆◇

 

 

 

「今日、お越し頂いた皆様はラッキーかもしれません。特別ゲストがお見えです! テレビ『ヒカルの碁』でお馴染みの進藤ヒカル君です!」

「どーも。桑原のじーさんに頼まれてやってきましたー」

 

やる気の無い挨拶だったものの、会場の中にはヒカルのことを知っているものも少なく無いようで、拍手が飛び交った。

 

主役の桑原は多忙だ。あちこちに挨拶に行かなければならないし、大盤解説が待っている。その他に指導碁の予約もギチギチに入っている。

 

そんな様子を尻目に、ヒカルは一角のスペースを借りての多面打ちだ。こちらは気楽なものである。

 

尤も、『囲碁さろん』でおっさん相手に幾度となく繰り広げられている光景なだけに慣れた様子でやってきているお客さんを捌いていた。

 

テレビで囲碁番組をやっていただけに、ヒカルには注目度がある。そのため、多面打ちをしている周囲には人だかりが出来ていたが、多面打ちの指導碁に集中していたので、ヒカルは全く気にならなかった。

 

寧ろ、少し対応に慣れたといっても良いだろう。周囲からの声掛けに、お気楽かつ適当に応える様は、完全にストレスMAXの状態から抜け出してリラックス出来ている様だ。

 

そんな光景を遠目から桑原が密かに見守っており、満足そうに笑って主催者と会話の続きをするのであった。

 

「だからァ、ここは打ったらダメなんだってー!」

「そう言われても、ここに打った方が次に繋げ易いんじゃないか?」

「そう思うかもしれないけど、そんな事しちゃったらこっちの石が死んじゃうって」

「ああっ。そうかァ……」

 

ヒカルは多面打ちを終わらせると、今度は検討に入る。『ヒカルの碁』の番組を見ている人はヒカルの丁寧な解説に今更驚くこともないのだが、知らない人はクソガキ的な態度と全く違う──言葉は悪いものの──きめ細やかな対応にしきりに感心をみせていた。

 

「うーん。まさか、ボウズからこんな一手が飛び出てくるとはな……」

「何言ってんですか、なにせ進藤君はアマチュアながらにして桑原本因坊に勝ったんですよ!」

「ハハハ、そんな訳はないだろう」

 

そんな会話も幾度となく会場内で見られていた。それを聞くたびに、ヒカルは幾ら有名になったって言ったとしても、全然まだまだじゃんと思い直すのである。

 

こうして、ありのままの自分で色々な人と交流すると見えてくるものが多い。

 

(うーん……悔しいけど今回は桑原のじーさんに感謝だな。つーか、奈瀬や磯部も連れてくりゃよかったかも)

 

ヒカルはそんなことを考えながら、ふと思う。──思ってしまった。

 

(こーゆーイベントとか囲碁教室って、個人じゃ開催出来ねぇのかな……)

 

考え出すとヒカルの思考は止まらなかった。とめどなく色々な考えが駆け巡る。

 

確かに囲碁の普及を考えて『ヒカルの碁』の番組は上手くいっているだろう。視聴率も良いし、色々な層の人たちに見て楽しんで貰っている。ヒカルが伝えたい囲碁の手筋や打ち方を一気に沢山の人に伝えることが出来るのだ。

 

しかし、それでも個人の及ぶ範囲には限度がある。対象の範囲が広すぎるが故に細かい個人個人まで行き届かない部分が多いのだ。勿論、全ての人にというのは無理がある。ただし、もっと上手くなりたいだとか向上心が強い人も大勢いるのは事実。

 

そういう人達により深く囲碁の魅力を知って欲しいと思うのだ。

 

その一方で、自らの当然の欲求としてもっと強い人と対局したいというものがある。桑原本因坊だけではなく、もっと他のプロ達とも対局をして勝負勘を取り戻したいし、何より純粋に碁打ちとしての技量を高めたいと思う。

 

慢心することなく、もっともっとと囲碁を知れば知るほど、打つほどに貪欲になっていく。

 

そこまで思考を巡らせてヒカルはため息をついた。

 

(あ~ダメじゃん、俺。やりたいことは多いけど、時間が全く足りなさすぎる。あれもこれも手を出せばいいもんでもねーしな)

 

焦らずとも将来プロになってからでも出来ることも多い。アマチュアなのだから今出来ることを存分にしていけばいいのだ。

 

今は目の前のお客達だと気を取り直した時だった。思わぬ人物が目に入り、ヒカルの動きがピタリと一瞬止まった。

 

そのまま目を見開きながら思わず名前を叫んだ。

 

「伊角さんと和谷じゃん! なんでこんなところにいるんだよ?」

「え」

「な」

 

呼ばれたことで二人が驚きから目を見開くのを見て、ヒカルはしまったと焦る。

 

(やっべ。つい、前のノリで呼んじまったけど、こっちじゃ初対面なんだっけ……)

 

内心で焦るヒカルを他所に、二人は不思議そうな顔をして近づいてくる。

 

「えっと、俺らのこと知ってるのかよ?」

「(知ってるー! 和谷のこととか、めっちゃ知ってるよ俺)えっと……それはさ……」

「進藤君みたいな有名人に俺のこととか和谷のことが知られているのって変な感じだな」

 

ちょうど、多面打ちも検討も終わって雑談タイムだったこともあり、人々は散っていってくれた。そのため、和谷と伊角さんと話せることが出来るのだが、ヒカルは内心で理由を必死で考えている状態だ。

 

「ハハハ……な、奈瀬。そう! 奈瀬が良く院生の皆のことを話すから覚えちまってさァ。特に携帯に写真とかもあって見せてもらうこととかあって……」

「全く奈瀬のやつ。さては、勝手に俺らのこと撮りやがったな!」

「まァまァ、和谷。お前が覚えてないだけで、もしかしたら許可を出したの忘れてるんじゃないのか?」

「う……もしかしたらそうかも……」

「だろ?」

 

ヒカルは奈瀬に詫びつつも、この二人に会えて再び会話が出来るのが本当に嬉しかった。ただ、初対面なのに顔に出すと不審がられるため必死に堪えている。

 

──そんな時だった。

 

「おい! 和谷ァ、そんな所で何やってるんだ。直ぐ来る様に言っただろうが」

 

和谷の師匠である──森下九段がやってきたのである。

 

 

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