逆行した進藤ヒカルが今度は悪役(仮)を目指すようです。【完結】   作:A。

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不定期更新だったのですが、いつもの癖で更新出来ちゃったので一話オマケします。


IF奈瀬ルート 第十二話から分岐⑳

中国棋院にいる楊 海(ヤン ハイ)はこの日、浮かれきっていた。ついに念願だった例のブツが届く日だったからだ。

 

その日は朝早くからソワソワしており、周囲から不審がられているのを気にもとめずに過ごした。何度も入口付近を気にする素振りをしては、注目されていることに気づいて、何事もなかった振りを取り繕うという姿をみせていたのだ。

 

という訳で、周囲からは物凄く不審そうに見えていた。同時に、好奇心を刺激されていたらしい。

 

楊海が漸く待ち望んでいた荷物を受け取り、自分の部屋へとコソコソ戻っていく姿を何人も目撃していた。

 

そして、手にしていた包装をビリビリに破き、ビデオテープを取り出した時だ。部屋のドアが勢いよく開き、楽 平(レェピン)がやってきたのだった。

 

「あ───っ。やっぱり一人でエッチなビデオ見ようとしてる! 昼間っからヤラしいったらないや」

「はぁ?! そんな訳ないだろ? というか何で勝手に入って来てるんだ」

 

思わぬ乱入者に呆れ顔の楊海。そんな様子に構わずに楽平は手に持っていたビデオテープを奪い取ると、ダッシュで部屋の外へと飛び出した。

 

「楊海さんが、一人でエッチなビデオ見ようとしてたぜ──!」

「おいっ、馬鹿。よせって!」

 

叫びながら楽平が走れば、元々動向を気にしていた面々が興味深そうに顔を出す。面白がって後に続く者もいたくらいだ。

 

楊海が何とか奪い返そうとするも、チョロチョロとすばしっこい動作で躱していく。そして、普段の対局する大部屋まで到達してしまった。

 

そこには、対局しながら勉強するためにテレビとビデオデッキが隅に置かれている。それを楽平はちゃっかり頭に入れていたのだ。

 

そしてイタズラ小僧は躊躇いもなく、ビデオテープを突っ込んでリモコンの音量を大きく操作した。周囲には元々居残って対局をしていた者や勉強をしていた者も多い。

 

それらの者は一体何事かという顔をしていたものの、主犯格が楽平だと知るとまたかという表情をしていた。

 

「全く。おい、いいから返せ。それは大事なものなんだ。俺が頼み込んでやっとのことで取り寄せたんだぞ」

「へへん。そんなに大事なら皆に自慢でもすればいいじゃんか」

「あのなァ……」

 

いつもの癖で、楊海が説教をしようとした時だった。ビデオテープが再生され大きめの音量でイントロが流れ始めたのだ。しかし、その音声に皆が首をかしげる。

 

「これ、中国語じゃない」

「そーだよ。日本語の番組なんだぞ」

「なーんだ。エロいビデオじゃないのかーつまらないの」

 

楽平は途端に興味が失せた様子だった。しかし、その番組が囲碁番組だということが分かり周りは少し注目をした様子だ。

 

「へー日本の囲碁番組?」

「ハハハ。アマチュアの番組見たって参考にはならないよ」

「日本はどんな風な内容のを放送してるのかな?」

 

そして映ったのは前髪が金髪の子供と老人の姿だった。その子供の姿は見覚えがないものの、老人の方に関しては中国棋院では見覚えがあるという者も存在している。

 

「あれって、日本の本因坊なんじゃないか?」

「本因坊? タイトルの一つだったっけ?」

「確か名前はクワバラだった様な気がするな」

 

そう言いながら、ドヤドヤとテレビの前に集まってくる幾人に楊海は自室で密かに見ようと思っていた目論見を諦めることを決めた。大きなため息を一つつくと、腰に手を当てて発言する。

 

「いいか? これは日本のとあるアマチュアの子供と本因坊のタイトルホルダーの対局だ」

「へー」

「アマチュアと本因坊なのに置き石無し? どうして?」

「これって何の企画?」

 

各々がリアクションを返す中、一番前に椅子を片手に割り込んだ楊海はベストポジションを陣取り座った。

 

「いいか? お前らが勝手に見る分は仕方がないから広い心で許してやる。だが、この一番良い場所は譲らないからな! 絶対に!」

「「?」」

 

意気込む楊海に訝しむ周囲だった。しかし、それは開始五分にて場の空気は一変していたのだ。

 

「どういうことだ? 子供の方が押してないか?」

「いや、だけど甘い手だってみられるだろ」

「このテレビ局は馬鹿なのか? 今いい場面だったのに?!」

「打った! 切り込みに行った! 黒が素早い連携を見せてる」

 

あっという間に大騒ぎである。近くの碁盤を引っ張り寄せ対局を再現してみせる者もいるくらいだ。しかし、一番多いのがテレビ番組に対する不服の声だ。中には罵倒すら混じっている。

 

なにせ、一番みたいと思っている碁盤が中々映らないという事態が発生しているからだ。また、テレビを見ていた面々が口々に感想を叫んでいたため、気になって余計に人が集まってくるということになり、密度が大変なことになっていた。テレビ前は押し合いへし合いだ。

 

「あの手は何?」

「見たことない手だわ」

「どうして、今の所。本因坊は打たなかった?」

「それを言うなら、今のは逃げるべきなのに逃げなかった所も気になる」

 

口々に気になる点を上げながら検討するも、しかしそれは上手くいかなかった。特別企画の十五分はあっという間であり、肝心の部分が映っていないこともみられたからだ。

 

そして───……

 

「すげぇ、コイツは本物だ……」

 

素直に感嘆する楊海と絶句する周囲。それは事前に情報を入手しているかどうかの差であった。もしも、初見であるのなら楊海も同様のリアクションを取ったであろう。

 

「嘘、だろ……?」

「今、子供が勝たなかったか?」

「プロが……本因坊が負けた」

「アマチュアの子供が勝った」

「え? は?」

 

ゆっくりと現状を理解するに、桑原本因坊に対してアマチュアの子供がまさかの勝利を収めたことは分かった。分かったものの、到底理解までは及ばない。とても信じられないからだ。

 

しかし、対局していた映像がある。ならば、間違いないのだろう。盤面が映っていない不親切さに不平不満が吹き出しながらも、場は今の対局を検討しようという流れになる。しかし、楊海だけはその場を微動だにしなかった。その様子に皆が首をかしげた時だ。

 

また新たな番組が始まった──『ヒカルの碁』である。

 

そして、それが先ほどの対局の解説だと気づく。誰しもが素早く理解した。瞬時にテレビ前が再び大賑わいになる。

 

しかし、せっかく前髪が金髪のアマチュアの子供が出てきて大盤で解説してくれているのに言葉が理解できないのだ。

 

夢中になって聞けているのはただ一人のみ。

 

 

((コイツだけ日本語が分かってズルい。楊海の奴に通訳をさせよう))

 

 

……皆の心が一つになった瞬間だった。

 

そうして、なぜか楊海がテレビの横でマイクを片手に解説をするハメに陥っている。本人は集中してビデオを見られないことが大層不服そうな顔をしているものの、他の皆はなんのそのだ。

 

次々に明かされる打った手の真意。新しい定石に新手の数々。

 

映像は宝の山だった。今では皆が食い入る様に釘付けになっている。人が鈴なりになりながらも、必死で新しい情報を少しでも得ようとギラギラとした眼差しを画面に向けているのだ。

 

「こ、これが日本の囲碁番組……? 予想外にレベルが高いぞ」

「この番組が見られるなんて羨ましい……」

「こんなの毎日でもみたいよ。睡眠不足になったって構わない」

「すっげ───!」

 

──番組の内容に驚いている者。

 

 

「こんな一手があったなんて……」

「この新手は大発見だ。早速、対局で俺も使ってみたいよ」

「新しい定石を生み出すなんてあり得るのか……?」

「こんなのありかよ」

 

──新手や新しい定石に食いつく者。

 

 

「子供? 子供???」

「タイトルホルダーを倒すアマチュアとかマジ?」

「この子供の名前は? 有名人なんだろう?」

「もっとこの子の対局が見たい!!」

 

──進藤ヒカルという存在に興味を持つ者。

 

 

それぞれが、ぞれぞれのリアクションを取っている中、趙石(チャオシィ)は深く何かを考え込んでいる様子だった。そして、考えが纏まったらしく、顔を上げて声を張り上げた。

 

不思議とタイミングが良いと言うべきか、騒がしい周囲にもある程度聞こえている様だ。

 

「ねぇ。そんなに強い打ち手でテレビ番組をやっているなら、中国棋院に取材に来てもらえばいいんじゃない?」

 

「「それだッッ!!」」

 

異口同音に言葉がハモる。

 

「本物の進藤ヒカルに会える」「一局打って貰おう」「新手の解説がもっと欲しい」「分からない部分があるんだ」「本物の実力かどうか試してやる」

 

それぞれが思惑をもって動く。楊海はどうせ翻訳で巻き込まれることが予想出来てしまっているのか頭を抱えている。しかし、どこか口角が釣り上がっており、嬉しさを隠しきれていない。

 

「趙! すげーいい考えだぜ」

 

楽平が駆け寄って来つつ、褒められることに照れている趙石だったが、その目の奥は真剣そのものだ。

 

 

 

 

ちなみに、そんな賑やかな大部屋の様子に気づいた李老師だったが、そのあまりの楽しさとはしゃぎっぷりに少しだけ見ない振りをしようと優しさを見せるのであった。

 

しかし、暫くしても一向に収まらないどころかエスカレートしているその様子に、怒鳴り込むことになるまで後10分。

 

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