Apocrypha転生もの   作:火影みみみ

2 / 4
とある東方少女の場合

 それは、たった一つの異分子が原因だった。

 

 例外に例外を重ね、東欧・ルーマニアにて執り行われた聖杯大戦。

 

 そう七騎と七騎、そして二人のルーラーを加えた十六ものサーヴァントたちによる血で血を洗う激しい死闘の末、本来ならば大聖杯はとあるホムンクルスの手によって世界の裏側へ持ち去られ、終結するはずであった。

 

 

 

 これは人が願いをかなえる物語であるが、何かがズレた物語。

 

 

 たった一人のマスターと七騎のサーヴァントが加わった、七騎と七騎と七騎の大戦争。

 

 人並はずれた才能と異界の魂をその身に宿したがために、その渦中放り込まれた一人の少女の物語。

 

 

 

 新たに加わる一陣、その勢力の名は『桜』。

 

 ルーマニアより遥か東方に存在する島国を表す、儚くも美しい花の色である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったのだろう。

 私は再び問いかける。

 

 そもそもの始まりは、私が私として目覚めたことだった。

 私は元々はこの世界の人間ではなく、いわゆる”転生”というものをしてしまった一般人、らしい。

 前世の私は高校に入学するくらいで死んで、この世界に生れ落ちた。

 そうして小学校に上がるまで悠々と新しい人生を楽しんでいた私だったけど、ある日、ふと立ち寄った路地裏で、私は、それを、見てしまった。

 それは夥しいほどの紅い液体を頭から浴び、一心不乱に目の前の肉塊に喰らいつく怪物がそこにいた。

 目の前で行われているその光景に動けずにいると、奥から一人の男がやってきたのが見えた。

 その男は何か怪物に話しかけると、その怪物が、こちらを向いた。

 その恐ろしい視線に貫かれた瞬間、私はすぐそこまで迫っている自身の未来を幻視した。

 

 死ぬ、単純明快なその事実が私の体を動かした。

 

 転生し、合計年齢はとうに大人になっていたはずの私だったけど、情けなく悲鳴をあげ、まるでそこいらにいる小学生同じように、逃げ出した。

 

 逃げて、逃げて、逃げて、追いつかれた。

 

 そうして、あわやその牙が私の頭蓋を食い破ろうとした時。

 

 

 

 私は、”目覚めた”。

 

 

 

 

 今までアヤフヤだった意識が覚醒する。

 不鮮明だった記憶が蘇る。

 まるで長い夢からさめたかのように意識が鮮明になる。

 そして、今私がすべきこと、できることを理解した。

 

 そうなれば後はもう簡単だった。

 初めて魔術回路を開けて、全身に強化を施して、そいつをボコった。

 ついでにやって来た男を魔力で編んだ糸で締め上げて、ゆっくりと尋問開始。

 

 そんで聞きたいこと聞いたら丸裸にして目立つところに放置して帰った。

 これが人生初の修羅場。

 

 

 

 そして家に帰ってみれば我が家が丸ごと嫌な結界に取り込まれているという修羅場その2。

 慌てて調べてみればそれは昨日今日張られたものじゃなく、少なくとも私が生まれる前からここにあったのがわかった。

 それを理解すると共に、今まで自分がどんな世界で生きてきたのかを思い知らされた。

 私が住んでいる世界は、平和なんて程遠い世界だということに。

 

 まあ一端それは横に置いといて、逆に言えば今まで害がなかったのだから普通に暮らす分には何も問題ないということ。

 なので今日も何時もどおりに帰宅&自室へGO。私はこれからも悠々自適に暮らすのだー。

 

 ……。

 …………。

 ………………といけたら最高だったのですけどね!

 よくよく調べてみれば家の中のあちこちに変な術が仕掛けてあって、中でも入っちゃいけないと言い付けられてる地下への扉は特に頑丈にできていて、流石に無視するにも限界があったので夕食の頃に両親と姉上に聞いたのですよ。

 そうしたら皆血相を変えて、解るのかだの、見えるのかだの聞いてくるので正直にゲロりましたとも。

 思えばこれがいけなかったのでしょうね。その日を境に両親の、そして姉上との関係が変わっていったのは。

 元々あまり教えるつもりはなかった魔術についての講義を受け、スポンジが水を吸収するかのように知識を身に付けていく様に両親はとても喜んでました。

 ……黙ってこちらを見つめる姉上をよそに。

 試しに魔術を使ってみれば小さな宝石が人形サイズの白鳥になり、両親はとても喜んだよ。

 ……未だに成功したことがない姉上を忘れて。

 そしたら次の日以降に両親の間で私を後継者にしようかという議案が持ち上がりました。

 ……恨めしげにこちらを睨みつける姉上をいないものとして。

 

 なんということでしょう。このような生活が一年続いたせいでそこそこ仲のよかった姉上が、今ではすっかり怨敵扱いしてくるではありませんか。

 食事に毒を盛られるのはしょっちゅうですし、この前なんて魔術で殺しにかかってきましたよ。これが修羅場その3ですね。

 いや、姉上の気持ちもわかりますよ。

 姉上だって水と風の二重属性で、200年続いたこの家系で歴代随一の天才と言われていたのにそこにぽっとでの私がその地位を掻っ攫っていったのだから面白いはずがありませんね。

 けどさすがに寝ている間とか友達と遊んでいる時まで暗殺して来るのはどうかと思います。

 両親に相談もしてみましたがどうやらこう言うことはよくあるらしく、『より優秀な方に家を継がせる』、という方針だそうです。ダメだこの両親何とかしないと。

 そんな生活に嫌気がさし、ある日私は『そうだ、旅に出よう』と思いつき。その日の内に用意を済ませ、『探さないで下さい』という手紙をのこして10年間住んだ我が家を離脱。かくしてわずか10歳児による世界一周の旅が始まったのです。

 

 それからはもう聞くも涙語るも涙の道のりで、私のアベレージ・ワンという資質に惹かれた魔術師どもが襲ってくるわ、吸血鬼的な化け物に襲われるわ、亜種聖杯戦争に巻き込まれて死にかけるわと、行く先々で死にかけるという5年間を過ごして参りました。

 

 そんな生活を避けるため、私はユグドミレニアという魔術師の一族が治めるルーマニアのトゥリファスまで逃げのびました。

 ここなら姉の魔の手も亜種聖杯戦争も起こらず一息つけると思ったからね。

 ……まあ、彼方さまには黙って侵入したので長居は出来ないでしょうけど。

 と考えつつ工房の準備をしていた矢先、急に右腕全体がひどく痛みだしたではありませんか。

 驚いて腕を捲ってみれば、そこには通常では考えられないほどの令呪、サーヴァントを使役する絶対命令権、が刻まれていました。その数合計21画、サーヴァント7騎分に相当します。

 過去に聖杯戦争に参加した経験からこれがどれ程異常なのかはすぐに理解しました。かつて存在した日本の聖杯戦争は7騎による殺しあい、バトルロイヤル。これじゃあ一人による一人のためのぼっち戦争開幕です。第一聖杯もないし。

 なにこれと、急ぎ情報を集めてみればどうやらよりにもよってユグドミレニアが魔術協会に喧嘩を売ったようで、ここトゥリファスで聖杯戦争が始まるようです。ハハ……Jes○s。

 なのでさっさとここをおさらばしよう思ったらなんか空気がおかしい。

 こうドッカンドッカンと危ない音が外から……ね。

 いやーな予感に苛まれつつ、そろっと様子を伺ってみれば、そこには何度かお世話になったネクロマンサーと甲冑を着たサーヴァントのコンビがゴーレム&ホムンクルスの集団と殺しをなさっているではありませんか。

 誰よトゥリファスは安全って言ったの、超危険地帯じゃん。……あ、私か。

 そんな風に思っている内に戦闘終了。量産品ではサーヴントに叶うはずもなく、ネクロマンサーもとい獅子劫界離さんの勝利。そして空気を読まずに突撃する私。

 驚く獅子劫、何故かめっちゃ敵意を向けるサーヴァントさん。

 内心、『やっべ、ミスったかなぁ』と思いつつもコミュニケーションを続ける私。

 そうして獅子劫さんが赤側のマスターとして聖杯戦争に参加することがわかったのでそれなら丁度良いと右腕を捲ってこの3画7セットの令呪を見せつけて問いかけたわけですよ。

 そしたら獅子劫さんも驚かれて、赤も黒も普通は3画しか令呪を与えられないと教えてくれました。うそぉ……。

 けど今日発現したてのこれがトゥリファスの聖杯戦争と無関係とはとても思えないのでもう少し話を聞きたかったのですが、サーヴァントさんに睨まれたので即退散! さっさと尻尾を巻いて撤収しました。

 

 丸1日かけて準備していた工房を泣く泣く放棄。来て早々に家無き子になってしまい途方にくれる私でしたが、何とそこに声をかけてくれる方々が!? ……まぁさっきのホムンクルスだったんですけどね!

 やはりというか当然というか、さっきのアレを見られていたらしく、そして運の悪いことに右腕の令呪のことも知られてしまい全力で私を捕らえようとするホムンクルスとゴーレムども。

 こちらもスパイダーマンよろしく糸を駆使したワイヤーアクションで逃げ回りましたが、流石は敵地というかあっさりユグドミレニアのサーヴァントの前に誘い込まれてしまいまして……。

 

 

 

 

 ほんとうに、どうしてこうなったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、……大人しくついてきてくれると助かるのだが」

 

 仮面の男が私に告げる。

 

「ゥゥ……」

 

 花嫁姿の女がこちらを睨みつける。

 

「はは、いやぁ~それはご遠慮したいなぁって、ほら私ってまだ未成年だし、知らない人について行っちゃいけないってよく言うでしょ?」

 

 ふざけ半分に軽い口調で返すも、心の中ではすごい動揺してる。

 キャスターとバーサーカーって何!? バカなの!? 死ぬの!? か弱い乙女に何てものを差し向けるのかここの一族はあああああああああああ!?

 正真正銘の大ピンチ、亜種聖杯戦争に参加してまで私を殺しにかかってきた例の姉以来の大ピンチである。

 手持ちの礼装でこの二人を撃退できるか? 無理無理、1騎だけならまだしも2騎は無理。私も鍛えてる自覚はあるけどサーヴァント相手に打ち合えるほど強くはない。

 

「では、強制的に連衡させてもらおう」

 

 キャスターが指を鳴らせば周囲に岩でできたゴーレムが生み出される。

 

「……ゥゥゥ」

 

 バーサーカーも戦闘態勢に入り、いよいよもって詰みが見えてきたかも。

 私は帽子を深く被り、視線を隠す。

 

 撤退……無理、逃げ切れない。

 

 迎撃……無理、実力が足りない。

 

 ……うん、なら仕方ないか(・・・・・)

 

「日本にはね、”転ばぬ先の杖”って諺があるの知ってる? まあ別に”石橋をたたいて渡る”ってのでもいいけど」

 

「……それがどうしたというのかね?」

 

 キャスターが訝しげに問い返す。言葉の意味を理解していても、私が何を思っているのかはわからないらしい。

 この状況で逆転できる力は私にはない。それはれっきとした事実。

 

 けれど、何も出来ないわけではない。

 

「伊達に私も! 何度も修羅場を潜ってきてないってことよ、この顔なし仮面野朗!」

 

 帽子を高く上に投げる。

 

「!?」

 

 一瞬の閃光の後、それに仕込んであった宝石が外装であった帽子を消し飛ばして露出する。

 キャスターなら理解できるだろう、それがなんであるのかが。

 

「恋符『ノンディレクショナルレーザー』」

 

 宝石に秘めた膨大な魔術が、光線となって周囲の敵に襲い掛かる。

 並みの魔術師ならこれで十分だけど、英霊相手だとこれでも心許無い。せいぜいが時間稼ぎ程度。

 

「――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。手向ける色は……”桜”」

 

「まさか、この状況で召喚だと!?」

 

 知識はすでにある。召喚に必要な呪文なら唱えたことがある。今更間違えたりはしない、ただ少しアレンジを加えるだけ。

 

「――降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 時間はあった。一瞬あれば地面に召喚陣を描くことくらいできる。

 

「ゥ――ゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 バーサーカーが無理に前進しようと試みるが、激しく煌く光線に弾かれて進むことができない。

 

「――閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 手段はあった。例えそれは英霊を打倒できるものではなくても、少しの間相手の動きを止めることが出来る。

 

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

「ゥゥゥッ!! ァァァァァアアアアアア!!」

 

 バーサーカーがレーザーの雨を掻い潜り、こちらに迫る。

 

「――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 ――けれど、少し遅い。

 

「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 もう、こちらの詠唱は、終わってんのよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 キィンと、金属が金属を弾く音がする。

 

「ちょっと!? 召喚早々ミンチになるところだったんですけど!? 今回のマスターは何考えてこんな状況で呼んじゃってくれたんですかね!?」

 

 桜色の髪を靡かせ、着物を纏った少女が私を怒鳴りつける。

 

「まあまあたまにはこういうこともあるじゃろ、それよりもな、眼前の奴らがわしらの敵ということでいいのかのぉ?」

 

 軍服を纏った黒髪長髪の少女が問いかける。

 

「おそらくはそうでしょう、こちらの陣営は既に揃っているようですし……私個人的には二匹ほど斬って捨て……いえ! その前になんですかその格好は!? 禁制禁制、存在がご禁制ですよ!」

 

 学生服を纏った女性が赤面しながら声を上げる。

 

「いややわぁ、せっかく茨木と一緒に呼ばれたかと思えばこんな牛乳女も一緒やなんて」

 

 学生服の女を蛇蝎のごとく嫌う鬼がいた。

 

「フハハハ! そうだ! なんなら吾と酒呑で貴様を八つ裂きにしてくれようか!」

 

 炎を纏った鬼が叫ぶ。

 

「お三方、ここはそれよりも主殿の身の安全を確保するのが大事かと」

 

 黒髪に露出度の高い鎧兜と白装束を纏った少女が三人を止める。

 

「まあ、おれとトト様は好きに絵が描ければそれでいいさ」

 

 黒い蛸のような生物を連れた着物の少女がそう言う。

 

 合計7騎。多種多様な彼女たちに共通しているのは彼女らが人間ではないということ。

 英霊、聖杯戦争に呼び出される人理に刻まれた英雄たちの影法師。

 

 これでこちらの敗北の可能性は消え去った。

 あとはこの場をさっさとやり過ごして別拠点に急がないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………流石に7騎って多すぎない? 私、てっきり1体くらいしか呼び出せないものって思ってたけど。

 ほんとうに、どうしてこうなるのかな?




人物紹介
・東方 幻 (ひがしかた まほろ)
 旧姓 霧雨 幻
 魔術回路 
 質:EX 量:A 編成:異常(過去に該当なし)    
 属性:アベレージ・ワン
 魔術系統:錬金術、宝石魔術、強化、呪術など様々
 起源:■
 得意技:一度見たものは忘れない、宝探し、魔術全般(生け贄がいらないもの)
 好きなもの:和食、本、錬金術、姉、平穏
 嫌いなもの:生け贄、弱いものいじめ、修羅場、襲ってくる魔術師
 原作知識:なし

 家庭内のイザコザで僅か10歳で出奔。
 各地を転々とするごとに修羅場に巻き込まれる体質。たまに自分から飛び込むことも。
 姉には一方的に恨まれているが、嫌いではない。
 今回で四度目の聖杯戦争。
 とある事情により彼女が召喚するとほぼ日本系に固定される。たまに中国系、吸血鬼系などが交じることも。



書いた理由、
日本鯖オンリーの陣営を作ってみたかったから。
色については日本を表したかったので桜、たぶん他陣営でもそこだけ日本語という珍事態がおこってそう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。