瀬谷のバッティングフォームは西武ライオンズの秋山翔吾選手です。
これらの選手を知ってる方はそれで想像していただくとより楽しめるかもです。
ーー2回裏 総武高校の攻撃
6、7番は立ち直った榎田に翻弄されサードゴロ、センターフライに倒れた。
続いて8番の尾崎が外角に逃げるスライダーをうまく流し打ちしてライト前ヒットを打つ。そして比企谷八幡に打席が回る。
(…久しぶりに打席に入るな…。打席に入る時は何かしら思うことが出てくるかと思ったがなんてことないな)
瀬谷がじっとこちらを見つめてくる。
(そんな目をしたって俺は振らんぞ)
「なぁ瀬谷。比企谷のやつ初めて試合の打席立つのにいやに雰囲気がないか?」
「……そうっすね。もしかしたら野球やったことあるのかもしれませんね…」
「まっさかぁ。体育でソフトボールの授業あったけど比企谷が活躍してた記憶なんてないぞ?」
「じゃあそうゆうことなんじゃないですかね」
「まぁなんにしても比企谷には怪我なくやってもらおう。せっかく出てくれたのに怪我でもしちゃったら野球に嫌な感情を持っちゃうかもしれないからな」
「………」
「ストライク!バッターアウト!」
「あら。三振しちゃったか。突っ立ってていいっていたのはこっちだけどスイングとかして少しでも楽しんでもらいたいんだけどなぁ」
「まぁそこは本人次第ですからね」
「そうだな。よし。衛藤。瀬谷。この後もしっかり頼むぞ!」
「おう」
「はい」
この後お互いのピッチャーが好投を続ける。
両校ランナーを出すものの要所で抑え続け点を与えない。
しかし状況に変化が生じたのは6回。
ーー6回表 山武高校の攻撃
「ボール!フォアボール!」
「はぁ、はぁ、くそ!」
ここに来て衛藤のコントロールが乱れ始める。先頭バッターは打ち取ったものの次のバッターに甘く入ったカーブを運ばれる。その後のバッターをファーストフライにするが次のバッターに見きわめられフォアボールを出してしまう。
(6回はピッチャーにとっては鬼門だな。ずっと精神をすり減らして投げ続けてるから疲れがたまりやすい。そしてそれが色濃くでるのが6回だ。ここで抑えれば峠を越えてまたリズムを作れるはずだ…)
「衛藤先輩!ここが踏ん張りどころですよ!丁寧にいきましょう!」
「はぁ、はぁ、ああ!まかせろ!」
(しかしこの状況でよりによってこの人か…)
2アウト ランナー1、3塁
バッター 東阪
(でも最悪フォアボールで満塁にして守りやすくしてもいい。まともに勝負する必要はない)
(くさいとこに投げられるなら勝負していこう。ダメそうなら敬遠だ)
そうして投げた東阪への1球目。
インコースギリギリのストレートを見逃し、ストライクをとる。
(よしよし。いい球だ。ここにきて衛藤先輩のエンジンが入ったか)
続いて投げられた2球目。
ボールからストライクへ行くカーブでストライクをとる。
(ここまできたら勝負しよう。低めを引っ掛けさせてゴロで仕留める!)
3球目。
ストライクから低めのボールに落ちる縦のスライダーを投げるも見逃されボールになる。
(やはりよく見るな。でもここまで緩急で揺さぶれたのは大きい。次の外角低めの球で振り遅れるはずだ…)
外角低めに構えられたミットに向かって4球目が投げられる。
しかし、ここで衛藤がわずかにミットより内側に投げてしまう。それを見逃さなかった東阪は少し振り遅れながらもその球を捉え右中間への弾き返す。
(くそ!よりによって一番深いところに行くとは!!)
「センター!急いでバックホームだ!1塁ランナーが返ってくるぞ!」
「くそっ!」
センターの大岡がやっとボールに追いつき内野の中継までボールを放る。その時には1塁ランナーが3塁ベースを蹴った時だった。
「バックホーム!!」
ランナーとボールがほぼ同時にホームに返ってくる。
ランナーのスライディングと瀬谷のタッチとの競争の結果…
「セーフ!!」
わずかにランナーの足の方が先にベースに触れておりセーフと判定される。
総武高校 1ー2 山武高校
先程の東阪は3塁まで進んでおり、いまだ2アウトランナー3塁のピンチ。
(……勝負すべきじゃなかったな…。3番の東阪より4番の遠藤の方が打ち取れるチャンスがあったはずだ。キャッチャーだったらもっと冷静に判断すべきだった)
ここで瀬谷が自分を責め始めるが…
「瀬谷!すまん!」
(衛藤先輩…)
衛藤が笑顔で瀬谷に謝る。瀬谷にはその笑顔がお前は悪くない。投げきれなかった俺が悪かった。次を抑えよう、と言ってるように感じた。
(ふぅー。…反省なんて後でもできる。まだ負けたわけじゃない。次のバッターを抑えて最少失点で止める!)
この後立ち直った衛藤、瀬谷バッテリーは5番バッターへ強気なピッチングで攻め、最後を気合いの入ったインコースのストレートで空振り三振にする。
そしてこの後もお互いのバッターが相手ピッチャーに要所で締められ中盤以降点が入らなくなる。そして迎えた最終回。
試合の行方はどうなるか……
ーー9回表 山武高校の攻撃
(この回を3人で抑えて攻撃へのリズムを作る。あと少し踏ん張ってください。衛藤先輩)
しかし完全に肩で息をしてる衛藤。ストライクは取れるがもう細かいコントロールをする力がない。
1番バッターの有藤に甘いストレートを投げてしまい、センター前ヒットを打たれてしまう。
(まずい。球速も球威も完全に落ちてる…。うちに控えピッチャーがいない以上衛藤先輩に頑張ってもらうほかない)
「内野ゲッツー体制!サードとファーストはバントに備えて!」
そして2番河田はバントの構えをする。
(素直にバントしてくるか?裏をかいてバスターの可能性もある…)
瀬谷はバスターの可能性も考え相手チームにわからないようこっそりとサードの尾崎を少しだけ後ろに下がらせる。
(よし。さてセオリー通りバントでくるか、それともバスターでくるか…)
そして投げられ河田への1球目。
「走ったぁ!!」
1塁ランナーの有藤が衛藤が投球モーションに入った瞬間走る。
そしてバッターの河田はバントの構えをやめ打つ体制に入る。
(バスターエンドラン⁉︎2塁ベースへカバーに入ったショートに打つつもりか!)
河田は衛藤の球を捉えきれずサードへ大きく跳ねる球を打った。
ここでサードの頭を抜けるかと思われたが尾崎がジャンプ一番。
グラブの先でボールを取り。2塁到達した有藤を目で牽制してから1塁へ送球しアウトにする。
(ふぅ。結果的にバントと同じになったか。尾崎先輩に助けられたな)
「サードナイスプレー!」
サードの尾崎は親指を立てて答える。
しかしここで先程逆転タイムリーを打ってる東阪。
(敬遠だな。もうこれ以上点をやるわけにはいかない。安全策でいこう)
瀬谷が立ち完全ボールのところにミットを構える。
「ボール!フォアボール!」
(これでいい。ランナーが詰まったから守りやすくなった)
1アウトランナー1、2塁
「内野フォースプレー!サードは3塁の近くで取ったら3塁ベースを踏んで1塁送球!ここしっかり抑えるぞ!」
『おお!!』
4番遠藤。
(衛藤先輩。頼む。踏ん張ってくれ)
衛藤が投げた1球目は甘く入ってしまう。しかし遠藤はその球を捉えることができずボールの上っ面を打ってしまい球が大きくバウンドする。
しかしそれは進塁打になり、アウトになるもランナーを進ませることができた。
2アウトランナー2、3塁
バッターはピッチャーの榎田。
(ここで終わらせる!)
比企谷side
(ランナー2、3塁か…。ここで打たれたら負けはより濃厚になるな。ピッチャーも完全にコントロールができてないし、こりゃ打たれるかもな。……負けか。瀬谷、やっぱりどんなに頑張っても勝てないものは勝てないんだよ。こんな人数も足りないボロボロなチームで何ができるんだ)
カキン!
榎田が打った打球が八幡の前に来る。
(ほら打たれた。3塁ランナーが返ったぞ。もう負けが濃厚なんだからこの打球も取らなくていいよな…………)
そう。八幡は取らないつもりだった。
しかし……
(はっ?)
気づいていたらグラブの中にボールが入っていた。
(いや…なんで俺はボールを取ってるんだよ。俺はもう野球を辞めたのに…)
(なんで、なんでだよ。なんで体はこんなに喜んでるんだ⁉︎)
(俺は野球なんて……あれ?俺ってなんで野球で勝とうとしてたんだっけ?)
ーー
八幡
何父ちゃん?
野球は楽しいか?
うん!めっちゃ好きだし楽しい!俺ずっと野球する!
そうか…。八幡。きっと野球を続けていけば辛くて辞めたくなる時がくる。でもなその時ほど今の野球を愛する心を思い出してくれ。そうしたらきっと野球もお前に答えてくれるさ。
ーー
(そうだ。俺は野球が好きで楽しいから野球だけは負けたくなかったんだ。はは。馬鹿だな俺。こんな当たり前のこと忘れるなんて。例え負けても、俺は野球が好きだ。野球をやりたい。だから…)
「バックホーム!!!」
瀬谷が嬉しそうにこちらに声をかける。ちょうど2塁ランナーが3塁を回ったところだった。
(瀬谷…。ああ。やっとわかった。お前が交通事故に遭って推薦を消されても決して腐らず野球を続けたのは……好きだからだよな。楽しいからだよな。だから俺も今は楽しむよ。野球を)
八幡は取ったボールを右手に移し替える。しっかりと縫い目にかかるようにボールを握る。そして、渾身の力を込めて瀬谷のミットに今自分が投げれる最高のボールを放る。
八幡が投げたレーザービームは瀬谷のミットに真っ直ぐ届き瀬谷はタッチの体制に入る。相手のランナーもスライディングをし、先程と同じようなクロスプレーとなった。八幡の投げたレーザービームの結果は……
「アウトォ!!」
「よぉし!!」
八幡が吠える。それは八幡が3年ぶりに出した心の雄叫びだった。
ーー9回裏 総武高校の攻撃
総武 1ー3 山武
「比企谷!!ナイス送球!てか経験者だったのかよ!言ってくれればよかったのに!」
そう言って大岡は八幡の背中をバシバシ叩く。
「いた、痛いって…」
「ははは!悪い悪い!」
「たく…」
そして大岡が去った後…
「比企谷先輩」
「瀬谷」
お互い目線を交わす。
そして瀬谷が唐突に頬を緩ませ手を上に上げる。
「ナイスボール」
それに最初きょとんとした八幡も頬をを緩ませ手を上に上げる。
「ナイスキャッチ」
バシ!
ハイタッチを交わす八幡と瀬谷。
もうお互いにわだかまりなどない。ただこの試合に勝つだけ。
「比企谷先輩。悔しいですけど今の俺…いや、俺達では強豪高を倒すことなんてできないでしょう。…だから…比企谷先輩。俺達に力を貸してください。俺達のチームにはあなたが必要なんだ!」
「………瀬谷」
「はい」
「もう3年もバッティングなんてしてないからな。あんまり期待すんなよ」
「っ……はい!よろしくお願いします!」
「おう」
こうして野球をやる楽しさを思い出し野球に復帰した八幡。
最後の攻撃ではたしてサヨナラを決めることができるか。