それで160を超えるストレートを投げるんですから本当凄いです。
八幡のバッティングフォームはヤクルトスワローズの山田哲人選手です。
知ってる方はそれで想像していただけると助かります。
ーー9回裏 総武高校の攻撃
「比企谷君」
「ヒッキー」
八幡が端で素振りをしてたところ雪乃と結衣が話しかけてくる。
「ヒッキー、野球やってたんだね。あんな凄い球投げてたからビックリしちゃった」
「そうね。私も驚いたわ。でも…なんでそのことを話してくれなかったのかしら。私達があなたの信頼を得てなかったのかとちょっと不安になるわ…」
「…そういうやけじゃない。お前達のことはちゃんと信頼してるさ。でも…いろいろあって野球のことは思い出さないようにしてたんだ。俺も思い出したくなかったからわざわざお前達に話そうとは思わなかったんだ。それだけはわかってくれ」
「…そういうことだったんだ…。じゃあ私達がこの依頼を受けた時嫌がってたのはそういう理由だったんだね。ごめんねヒッキー」
「私も謝るわ。強引にあなたにやらせてしまったわ。本当にごめんなさい」
(確かに最初は嫌だった。でも今回この依頼のおかげ再び野球に向き合うことができた…)
「謝らないでくれ。今はこの依頼を受けてよかったと俺は思ってる。だって俺は野球の楽しさを思い出すことができたんだ。もしこの依頼を受けなかったら俺は未だに野球から逃げてたと思う。だから…本当にありがとう。お前らのおかげで野球に向き合うことができたよ」
「比企谷君…」
「ヒッキー…」
この時八幡の心は晴れやかだった。今までの遺恨が一気に消え去り、精神的にはまさに最高の状態だった。
八幡がベンチに戻ってくると瀬谷がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「比企谷先輩、野球から離れてる間に女性の扱い方がお上手になりましたね。中学の頃のうぶだった比企谷先輩は一体どこに行ってしまわれたのか…」
「うるせぇ。イケメン野郎は黙ってろ。そんな口叩く暇あったら出塁の方法でも考えてろ」
「はいはい。安心してください。絶対出塁して比企谷先輩まで回しますよ」
「…まぁお前のことだ何も心配してねぇよ。ほら先頭バッターだろ。早く行ってこい」
「…はい。大きいのかっ飛ばしてきますよ!」
そう言って瀬谷はバッターボックスに向かって行った。
(チームが負けてる時のあいつは大体打つからな…。あながち心配してないってのも嘘じゃない)
3番キャッチャー瀬谷。
(さてと…先輩にあんだけ大口叩いたんだ)
今日ここまで好投してきた榎田も肩で息をしながら投球モーションに入る。
(ここで打たなきゃ男じゃない!!)
投げられた内角の厳しいスライダーを肘を畳んでライトへ引っ張る。
打った打球はライナーでライトへ飛んでいき、ヒットになる。
「おーし!瀬谷ナイバッチ!」
「いいぞ瀬谷!」
声援に瀬谷は腕を上げて答える。
ここで4番友永。
友永もここで集中力を高める。
チーム一背丈がある友永は力があり長打力がある。しかしその背の高さゆえの弱点で、高めは得意だが低めを打つことがとても苦手である。
初球の外角のボールを見逃し2球目の低めのストレートを空振りして迎える3球目。ここで友永は立つ位置をバッターボックスの一番前にする。投げられた球は低めの縦のスライダー。本来の友永なら低めに鋭く落ちる縦のスライダーを打つことはできなかっただろう。しかし一番前に立つことによりまだ落ち目が少ないとこでインパクトすることができるのだ。友永はスライダーを見事に捉え、ライトオーバーの2ベースヒットを打った。
その間に瀬谷は快足を飛ばしホームまで帰ってくる。
総武 2ー3 山武
山武高校はここでここまで好投してきた榎田を下ろし、ピッチャーを変える。
ピッチャー榎田に変わって亀井。
変わった亀井は右のサイドスロー。手足が長くその長い腕から投げられる球は右バッターの外角、左バッターの内角には相当な有利になる。逆に右バッターの内角、左バッターの外角は長い腕のデメリットでかなり投げにくくなってしまう。
そしてピッチャーが変わったところでバッター鬼頭。
ここで鬼頭は手が長いサイドスローのピッチャーの特徴を把握しており外角の球を狙い打つ。しかしその外角からスライダーで更に外へと曲がっていき片手だけでちょこんと当てた弱い打球になってしまう。
弱い打球がセカンドの正面に行く。しかしここでセカンドがまさかのファンブル。慌ててボールを掴み一塁へ送球するがセーフとなる。
「ラッキー!ラッキー!」
「ここからいけるぞ!」
そして6番の衛藤。
(今日取られた3点は全て俺の責任だ。ならバッティングで挽回するしかない!)
衛藤はここで粘り強くボールを見極めていく。
外角へボールとストライクの出し入れをしてくる亀井に対しくさいところにいったボールをカットし、大きくそれたボールをしっかりと見逃す。衛藤はなんと10球もピッチャーに投げさせフォアボールを勝ち取った。
ノーアウトランナー満塁。
一打サヨナラの場面。
ここでバッター諏訪。
しかしここで追い込まれた亀井が本領を発揮する。
ストレートとシンカーで簡単にストライクを取り、3球目。左バッターの泣き所と言われるインコース低めにスライダーを投げ込み三振に取る。
続いて8番の尾崎。
ここで自分が終わらせてやると気合が入った打席を見せる。衛藤と同じく外角の球をうまくカットしていき外角の球が甘くなるのを待つ。
しかし相手のキャッチャー有藤はその作戦を逆手にとり亀井が苦手とするインコースへの投球を指示する。亀井もここは腹をくくりインコースへとボールを投げる。インコースより少し甘くなった球を投げてしまった亀井だが外角に絞りきっていた尾崎は手がだせず見逃し三振。
最終局面。
2アウトランナー満塁。
総武高校の一点ビハインド。
ここでバッター比企谷。
「比企谷先輩」
「なんだ」
「…こういう場面で打ってきた先輩を俺は何回も見てきました。正直、あの準決勝の時もどうせ比企谷先輩なら簡単に打っちまうんだろうなと思ってました。でも先輩は打てなかった。少し驚きましたけど人間だったらそういうこともあると思ってました。思うようにしてました」
「………」
「俺はずっと強い比企谷先輩を見てきました。見てきたからこそうずくまって泣いてる比企谷先輩を見て俺は悔しくてたまりませんでした。俺の中で先輩はヒーローなんです。どんな時も負けないで絶対に勝つヒーロー。…だから俺はあえてこの残酷な言葉を送ります。先輩。もう負けないでください。もう一度強い比企谷先輩に戻ってください」
「……瀬谷」
「…はい」
「…………重い」
「え?」
「え?じゃねぇよ⁉︎お前そんなやつだったっけ⁉︎めちゃくちゃ重いよ!」
「……いや…」
「お前、男のヤンデレとか需要ねぇからな⁉︎あーなんか鳥肌たったわ…」
「………なるほど。そーゆうこと言うんすね。ならこっちにも考えがあります」
「ん?」
「さっき比企谷先輩が涙目になりながら奉仕部のみなさんと喋ってたところを写真撮ったんすよ。もし先輩が凡退したらシニアのみんなに〈ハーレム形成中なう〉って一斉送信しますね」
「えっ」
「はい。じゃあさっさとバッターボックスに行ってきてください」
(しまった。からかい過ぎたか………)
八幡はここで自分の頬を叩き気合を入れバッターボックスに立つ。
今日の暑さは八幡のトラウマとなった準決勝の暑さととても同じように感じる。
(ああ。今日何度も打席に入ったはずなのにまるで今、この瞬間が3年ぶりに打席に入ったかのように心臓が暴れやがる)
(…ここまで3年もかかっちまったな…。長かった。本当に長かった。俺の体が嬉しくてたまらないって叫んでるかのようだ)
2アウト満塁。
あの夏と同じくピッチャーが絶対に打たれまいと俺に対して眼光を飛ばしている。
俺もあの時と同じようにバットの先でホームベースの角をトントンと叩く。
だが今回はあの時と状況が違う。これは公式戦じゃない。チームメイトも違う。ランナーも満塁じゃなかった。でも負けるという状況だけは同じだ。きっと神様は俺にあの夏の打ち直しのチャンスをくれたのだろう。だったら俺は……
ピッチャーが投球モーションに入る。
俺はバットの先を頭の上でピタっと止める。
そして足を大きく上げタイミングを取る。
これらの動作はもう何千何万回もやってきたことだ。たった3年間で体が忘れるわけない。
そして投げられた球を
俺の今までの遺恨を消し去る、魂を込めたフルスイングで捉える。
ああ。もう何度体験したかわからない。
でも、やっぱりホームランを打った瞬間てのは
最高だ!
ボールはレフトの頭のはるか先を越えていき比企谷八幡の逆転サヨナラ満塁ホームランとなった。
「うおぉぉぉぉ!!!!比企谷ナイバッチ!!」
「ゆきのん!!ヒッキー打ったよ!!やった!やった!」
「ええ。何かしら、とても嬉しいのに涙が………」
「ゆきのん。それはたぶん嬉しい涙だよ!」
「嬉し涙……。そうね。きっとそうだわ。今の笑顔の比企谷君を見ると涙が止まらないの」
「ゆきのん………」
「あーあ。本当に打っちゃいましたよこの人」
「うるせぇ。どーだ。これで満足か?」
「ええ。あの写真をみんなに送れなかったのは残念ですけど……久々にいいものが見れました!」
「あっそ。ならよかったな。俺も写真流失ができて万々歳だわ」
「ははは。………比企谷先輩」
「なんだ?」
「……おかえりなさい」
「…おう。ただいま」
そう言って八幡はホームに整列しに走っていく。
「あーあ。俺もここまで努力してきたつもりだったけど、まだまだあの人の背中は遠いなぁ。でも……だからこそ抜きがいがある」
「ゲーム!」
『ありがとうございました!』
総武高校対山武高校
6対3で総武高校の勝利。