雪の皇女と、彼の物語 作:氷桜
【Episode0:出会い】
――――腕を組んだ中、昔を思い出す。
今通う大学……一応国立では有るが、其処まで有名でもないような何処にでもある地方の大学。
親元を離れ、一人暮らしを始め。
初めての入学式に向かう途中。
少なくとも日本では殆ど見かけないような、銀髪の髪を棚引かせた少女が困っている様子を見かけた。
その時は、時間も合って。 且つ、気紛れで声を掛けたのだ。
なんでも、道に迷ってしまったのだとか。
行先を聞いてみれば、同じ学校だったというのも合って。
同行しませんか、と。 誘ったのが始まり。
目を髪で覆い、何処か引っ込み思案のような姿では合ったけれど。
いや、だからこそ僕も緊張せずに話せたのだと思う。
何しろ、年齢=彼女いない歴。 それも中高と男子校だ。
女性に対する免疫など家族と店の店員くらいのもの。
その時の距離は、凡そ人間二人分だった。
大学で別れ、各々の学部へと向かい。
彼女と再会したのは、昼食を取ろうと放浪していた裏庭の大きな木の下。
都市部というわけでもない学部であったことも在り、周囲は自然に囲まれた場所で。
だからこそ、偶然出会ったのはそれこそ低確率のこと。
朝のことについて礼を言われ。
大したことはしていない、と謙遜で返し。
その時、初めて彼女と自己紹介をしたのだ。
彼女はアナスタシア・ロマノヴァ。
僕は▲▲ ■■。
改めて、宜しくと。 差し出された手を、そっと取った。
氷のような。
まるで消えてしまいそうな――――白い、雪のような、感触を得た。
【Episode0/出会い:中編】
其処からは極めて時間の流れが早かったように思う。
住んでいるアパートまでは徒歩で5分と離れていない学生街の一画であったことから、毎朝一緒に登校するようになったこと。
同じ学部のやつ、同じ学校出身のやつからは最初から誂われた。
女連れで来やがって、羨ましい。
あんな女の子何処で引っ掛けたんだ、と。
確かに。
ナーシャ――アナスタシアの愛称だそうで、そう呼ぶように言われた――は最初こそ引っ込み思案ではあったけれど。
親しく付き合ううちに、それは彼女の一面に過ぎないということが段々と分かってきた。
どちらかと言えば、やや強気で。
引っ張っていくような、それでいて自分の場所に留めようとするような。
良く言えば、強気で。
悪く言えば、独占欲が強くて。
けれど、いい面も悪い面も合わせて彼女だと。
直ぐに気付いてからは、心に秘めた感情が合ったのも事実だ。
普段は髪で隠れた、蒼いその瞳。
吸い込まれていきそうなそれがちらりと見え、髪を手で抑えて恥ずかしそうにする表情。
一人で携帯を弄りながら待ち合わせる姿。
声を掛ければ、少しだけ口元を歪めて嬉しそうにする姿。
手を繋ごうとして、それでも引っ込めてしまう怯えたような姿。
――――それら全てを、愛おしいと思ったのはそう遅くはなかった。
【Episode0/出会い:後編】
好きです、と。
好きだ、と。
そう言ったのは、一年目の冬のこと。
本当なら、もっとロマンチックな場所で言いたかったけれど。
僕等がそう言い合ったのは、寒くなり始めた裏庭の樹の下だった。
どちらともなく、というよりは。
普段どおりに話をしていて。
互いに微笑みあった後。
口から、漏れたような告白。
口を閉じる、ということもなかった。
笑みを消す、ということもなかった。
恐らくは、互いが互いにそう思ってはいたけれど。
口に出さずに――――もし違ったら、と。
そういう恐れを抱いていたからだったのだと、思う。
けれど、それらは所詮杞憂に過ぎず。
そっか、と。
そうですか、と。
互いに呟いて。
――――初めて、唇に残った味は。
少しばかり渋みの残る、ロシアンティーの味だった。