雪の皇女と、彼の物語 作:氷桜
【Episode3:ただの、同じ部屋のはずなのに】
がさり。
手に持ったビニール袋をフローリングに置いた。
後から続いて、お邪魔します、と。
ナーシャが入ってくるのに対して。
いらっしゃい、と小さく微笑んだ。
寒さは結局、朝から変わらなかった。
やってられねえ、とは友人談。
運が悪いのか、或いはそういう星の下に生まれたからなのか。
彼が付き合う女性は必ずと言っていいほど何かしらトラブルを起こして別れていく。
ナーシャから見ても「いいひと」なのだから、そのうちいい出会いが有ることを信じておきたい。
結局、寒さに耐えきれなくて鍋。
それも二人だから、ある程度小さい鍋に具材を放り込んでこたつの上で突付き合うだけの簡単なもの。
白魚、半額だった帆立に肉、つみれ、きのこ類。
締めは二人とも饂飩。
料理と言っても簡素な――――それこそ、誰だって出来るようなもの。
なのに、僕たちは二人でその作業を行った。
魚の骨を抜き、キノコに包丁を入れ。
或いは洗い物をし、或いは出汁の調子を見て。
簡単な作業の筈なのに。
二人で行うと、楽しく感じるのは何故なんだろう。
やっていることは、変わらないのに。
そう、鍋を突きながら聞いてみれば。
それはきっと。 二人だからよ、と彼女は呟いた。
――――ああ。
それは、確かに。
汁を口へと運び。
そうだね、と彼女へ返した。
なんでもない、大学生活。
けれど――――それは、至福の一時でもあった。
【Episode4:冬期休暇、故の】
ごろり、とベッドで転がった。
今の時間は……朝の五時。
もう少し寝たいところでは有るけど、喉がどうしても乾いている。
起き上がろうとして…横になった、眠り姫に気がついた。
――――そうだった。
鍋の後、二人で過ごしていれば大分遅い時間になって。
もう何度目になるかわからないので彼女用に購入した毛布に包まれて、寝たんだった。
しかし、眠っているだけのはずなのに。
彼女は、まるで凍っているような――――そんな不可思議な美しさがある。
一秒、五秒、十秒。
そのまま、寝顔を見続けた後。
キッチンへと水を飲みに動き出した。
――――後ろの方で。
ばか、と聞こえた気がしたが。
多分、気の所為なのだろう。
そういうことに、した。
これでも僕は、ロマンチストなのだから。
少し位、夢を見たって良いじゃないか。
彼女が未だ入ったことのない、趣味の部屋の扉を見ながら。
誰に言うわけでもないが、そう言い訳したのだ。
互いに、聞こえないフリをして。
――――春は、まだ来ない。
【Episode5に続く】