雪の皇女と、彼の物語 作:氷桜
【Episode5:水の結晶】
外が白くちらついている。
例年の例に漏れず(とは言っても僕は話でしか聞いたことがないのだが)この街にも雪が降り始めた。
彼女――――ナーシャにも、その事を告げれば。
炬燵から出てきて、窓越しに外界の様子を見た。
元々そうではあった。
けれど、明確に「変わった」のは恐らく互いに告白してからだったと思うのだ。
ナーシャは、或いは僕は。
互いの家に、互いの荷物を置き。
その時々で互いの家に出向き、そこで長くを過ごすようになっていた。
孤独に耐えられない子供のように。
或いは、二人で共にいるのが当たり前のような比翼の鳥のように。
僕の家は、やや広め――――いや、少なくとも一人で暮らすには大きすぎるような和風作りの部屋。
けれど以前同一マンションで殺人事件が起きたとかで賃料がかなり下がった事故物件。
ナーシャは、留学生という身分に漏れず小さな一人暮らし用のアパート。
けれどあちこちに人形や写真が飾られた、女の子らしいといえばらしい部屋。
互いが互いの家に出向くのは、非効率ではあったけど。
そこから更に一歩進むのは、幾ら何でも――――そういう意識があったのだ。
この国でも雪は変わらないのね。
彼女はそう呟いた。
そういうもんなんだろうね。
僕はそれに、そう答えた。
白く輝く雪が、家の明かりに反射しながら積もっていく。
――――二人での生活は、もう少し続きそうだ。
【Episode6:共に、歩く。】
からん、からんと鐘が鳴る。
ちりん、ちりんと鈴が鳴る。
周囲の木々は色とりどりの明かりに包まれて。
普段はそうでもない町並みが一層明るく、騒がしくなる。
何なのかしら、と呟けば。
携帯の日時を見えるように示して。
クリスマス・イヴだからね、と告げる。
もう少し厳かなものだと思ってた。
ナーシャは、そう口の中で濁らせた。
日本のもの、諸外国のもの。
その場所場所で違う文化はあるけれど。
日本ほど、吸収し魔改造する文化はそうはない。
クリスマスを祝い、神社に参り、バレンタインを祝う人種。
だからといって、神を信じないわけではない――――そんな、不可思議な文化を形成する人種。
やっぱり厳かな方が好きかな、と問い掛ければ。
そういう習慣になっていただけ、と声が響いてくる。
一歩、二歩。
先を先導し、くるりと身体を反転させ。
こうして皆で祝うのも悪くはないわ、と小さく微笑んで。
なら、良かった。
そう口から漏らしながら。
手放したことで少しだけ冷えた手を、また。
互いに握り合って、空を見上げた。
【Episode7に続く】