雪の皇女と、彼の物語 作:氷桜
【Episode9:太陽と月】
ナーシャを形容するなら、恐らくは月だろう。
ただ一人輝く。
誰かの影響を受け、それでも尚存在感を示す孤高の存在。
そして、その月と共にあることを許された影が、僕。
で、あるならば。
僕達共通の友人の隣りにいる少女は何と形容すべきなのだろう。
太陽、とでも呼ぶのが相応しいのかもしれない。
名前をアイズ。
なんでも友人の叔母が再婚し、その相手の連れ子で。
日本文化に興味があり、来年から編入してくるのだという。
その上で知り合いを作っておきたいから、と紹介されて今に至る。
宜しくおねがいします、と若干拙いながらも流暢な日本語を話し。
お願いします、と返事を返した。
問題はその邂逅の後。
ナーシャがずっと不機嫌であったことだ。
どうしたの、と聞けば。
なんでもないです、とそっぽを向く。
不機嫌だね、と聞けば。
当然です、と答えが帰ってきた。
――――けれど、そんなツンとした所も可愛らしく見えてしまうのだから多分末期なのだろう。
頭を下げ、宥め、暫くして。
少しだけ涙目になりながら、彼女は呟いた。
貴方が夢中になっているように見えた、と。
馬鹿らしい、と笑うのは簡単だが――――彼女は、本気だ。
というより、本気でなければこんな事は言わない。
だからこそ。
僕も。
君以外見てる余裕なんて無いよ、ナーシャ。
そう呟いて。
路地の片隅で。
二度目の――――。
【Episode10:七種、七草】
芹薺、ゴギョウ繁縷ホトケノザ。
菘にスズシロ。
春の七草と言われる七種を使ったお粥。
それが二人の前に並んでいる。
これは? 彼女のいつもどおりの疑問。
七草粥。 おせちとかで疲れた胃を癒やすって感じらしいよ。
そう。
うん、そう。
手を合わせ、口に運ぶ。
幼い頃から親は仕事で忙しかったのも在り、自分のことは自分で出来る様になっていた僕。
その中でも、手を掛ければ掛けるほどに上達するのが分かって面白くなったのが料理だった。
趣味でも在り、普通に家庭で行うことでも有る。
それが今こうして活かせているのだから、悪いことではなかったのだと思う。
ああ、そういえば。
別の意味もあったっけ。
そんな風に呟けば。
どんな意味?
当然のように聞き返されて。
今年一年、家族が健康にありますように。 そんな意味だよ。
なんでもないように、そう告げて。
――――家族?
彼女の手が、少しだけ止まった。
そう、家族。
…………そう。
再び、動き出す。
けれど。
その白いはずの顔の、耳だけは。
確かに、微かに。
紅く染まっていた。
【Episode11に続く】