雪の皇女と、彼の物語 作:氷桜
【Episode11:なんでもない日だからこそ】
テレビが日常を知らせるニュースを流す。
鳥の声と、ストーブの上のやかんが沸騰する音。
ぺらり、と紙を捲る音と。
かちりかちり、とマウスを押す音。
休みの日、でかけていないなら僕等はこんな感じで過ごすことが多かった。
別室に置いてある、大量にある漫画や小説を読むナーシャ。
時折はそれを読み返すけれど、基本的にはパソコンを弄るかゲームをしている僕。
一度友人にこの事を告げたら、馬鹿か、という目で見られたのはいまだに忘れない。
今日はどうする?
パソコンを打ちながら、彼女に問う。
冷蔵庫の中身何が入っていたかしら。
ナーシャが問うてくる。
確か豚肉と野菜くらいかな。
なら、それで終わらせて明日私の家に戻りましょう?
そうだね、そうしようか。
そんな、いつもの会話。
炬燵の対角に座る、僕と彼女の日常。
顔をチラリ、と見れば視線が合う。
どうしたの? とばかりに首を傾げられて。
なんでもないよ、と小さく首を振る。
なんでもない、日常。
【Episode:12 象徴と、伝統と】
今、僕達は互いに互いを見て首をひねっていた。
僕は、手に炒った豆を入れた入れ物を持ち。
ナーシャは、何枚にも重ねた平たい物体を持って。
なにそれ、と僕は聞く。
ブリヌイ――――日本で言うところのクレープみたいなものかしら、と。
貴方のそれは、とナーシャは聞く。
炒り豆――――節分、という文化で使うものかな、と。
日本とロシア、やはり幾つもある文化は別のもの。
彼女が言うには、それは上に色々なものを載せて頂く食べ物で。
私の家にも独自のレシピは有るのよ。
家を出ていく時には、貴女も引き継ぐのよ。
そう、母親に習った文化の象徴なのだと呟いた。
互いの文化を阻害するつもりもなく。
寧ろ、互いのことを更に知っていく機会に過ぎない。
だからこそ、互いに互いの説明を聴きあって。
互いに、互いの文化への知識を深め。
互いに、それぞれを食べさせ合った。
――――もう少しで。
僕が、夢見た日がやってくる。
その、前準備のような時間だった。
【Episode13:二人は、そして。】
バレンタインデー。
聖バレンタインとかいう人がなにかしたらしい日。
日本では女性が男性にチョコを渡す日、とされており。
諸外国では男女問わず贈り物をする日、とされているらしい。
だから、僕達は互いに互いへの贈り物を持って彼女の部屋にいた。
僕は、彼女に似合うだろう白い花のアクセサリー。
ナーシャは、恐らく手作りだろうチョコとネクタイピン。
互いに、互いへの贈り物を渡し合う。
見ても良い?
僕も見せてもらうよ?
互いに開き、互いに見惚れ、互いに感謝の言葉を返し合う。
なんでもない、そんな日。
けれど、僕からすれば少しだけ変わる日。
ぽすん、と。
彼女が定位置に腰掛ける。
ぽすん、と。
僕は定位置に腰掛けず。
首を傾げる彼女。
そんな彼女を、そっと。
包み込むように抱きしめて。
耳元で、たった一言を囁いた。
顔が、耳が。
少しずつ紅く染まるのをじっ、と。
ただ、待った。
小さく、首を縦に振るのが見えた。
彼女を抱え、寝床へと。
そっと寝かせ、僕も、倒れ。
二人で、倒れたまま。
真赤な顔と。
真っ青な目を見て。
だいすき、と囁いた。
だいすき、と声がした。
――――三度目は、微かに甘く。
紅い血と。
蒼い目と。
白い月だけが、その日の終わりを見つめていた。
【Episode14に続く……?】