魔法少年リリカルたける   作:ボブ鈴木

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01.藤堂尊

藤堂尊(とうどうたける)は私立聖祥大附属小学校に通う小学生三年生である。

そんな彼の一日は朝食の準備の手伝いから始まる。

 

「焼き加減、こんなもんで大丈夫です?」

「ええ、上手上手」

 

一家の母親である高町桃子がサラダを作る横で、グリルの上で焼きあがる魚の具合を見る尊。ダイニングテーブルには既にスクランブルエッグやフライドポテトが用意され、朝食に在るまじき豪勢な食卓が出来つつあった。

駅前の人気店として名前を知られる喫茶店『翠屋』のパティシエである桃子は時間の無い朝の食事にも手を抜かない人物だが、手伝いを買って出た尊の貢献度も年齢からすれば中々凄まじい物があった。

 

「おはよう。すまないね、朝から手伝ってくれて。まだ眠いんじゃないのかい?」

「いえ、やらせて欲しくて早起きしたんで平気です。二人ともまだ道場ですか?」

 

ダイニングで新聞を広げるのは一家の大黒柱である高町士郎。

翠屋のマスターであり、見る人に穏やかな印象を与える男性だがサッカーチームのコーチを務め、実は古武術の師範でもあると見掛けに依らないスポーツマンだと尊は思っていた。

 

「ああ、そうだな。もう出来上がるだろうし呼んでくるか」

「俺が行きますよ。ついでになのはも起こして来ますから」

 

返事を聞くより先に道場へ向かう尊。後ろでは士郎がクスクスと笑う声が聞こえるが、努めて気がつかないフリをした。

この高町家では、尊が何もしなくても士郎や桃子が全て完璧にやってくれてしまうので、何か手伝いたければ遠慮せず自発的に動かなければならないのだ。これが小学生にはハードルが高い事ではあるのだが、同時に尊が小学生離れした自活能力を得るに至る要因にもなっていた。

 

 

 

 

高町家には敷地内に道場がある。尊がやってくれば、そこでは毎朝の日課通りに木刀を振るう二人の姿があった。

 

「おはようございます、朝ご飯できましたよ」

「おはよう、尊」

「尊くん、おはよー」

 

真剣な眼差しで稽古をする二人は、尊を見るなり表情を綻ばせた。

長男の高町恭也は大学生で士郎が教える流派の師範代であり、長女の美由希は恭也の直弟子で高校生。どちらも両親と同じく美男美少女である。高町家の顔面偏差値はエラいことになっている。

 

「冷めない内に来て下さいね? 俺はなのはを起こして来ますから」

「なのははまだ寝てるのか? まったく……尊、余り甘やかさないでくれよ」

「あはは……早く起こすのも可哀想で、つい」

「そうか。まあ、二人が遅刻しない内に行ってやってくれ」

 

朗らかに話しながら尊の肩を叩き、末っ子の所へ行こうとする尊の背中を押す恭也。それを見る美由希が「まーた恭ちゃんが尊くんにベタベタしてる」と言いたげな微妙な笑みを浮かべる。

毎度の事であるが、尊にとって恭也からの異様な好感度の高さは未だに高町家に置ける最大の謎であった。

 

 

 

 

 

 

尊がなのはの部屋へと入ってみれば、そこには出た時と同じ光景が。ベッドの上で丸まった布団の中から規則的な寝息が一つ。

起こさぬ様にと足音を消して出た時とは逆に、気配を殺さず近づいてみても気付く様子はまるでない。爆睡中であった。

 

「起きろよ、なのは朝だぞ。なーのーはー」

 

ゆさゆさと揺すって、声をかけた所でようやく布団の中身は身じろぎをした。

「うー…」と呻き声が聞こえたのを確認して、部屋のタンスから祥大附属小の制服を引っ張り出す。

出てきたのは女子用の制服は当然、尊の物ではない。それと学校鞄を纏めてようやくノソリと部屋の主が起き上がった。

 

「……あれ、なんでタケちゃん隣に居ないの」

「朝ご飯の支度を手伝ってたからな。ほら、遅刻するぞ。寝ぼけて転ぶなよ」

「タケちゃん、起こしてぇー……」

 

はいはい、と眠たい目を擦るなのはを引っ張り起こす。

そのまま腰にしがみ付いて纏わりつくなのはをズルズルと引っ張りながら靴下やらリボンやらと用意してやる尊。

この二人の関係を端的に言うならば、幼馴染という物になるのだろう。しかしただそう言うには余りに距離感が近い。要は尊がオカンというかオトン臭かった。

高町なのはに対して凄まじく甘やかしてしまう、それが藤堂尊という少年であった。

 

「いい加減、寝るのは別々にしないか? 狭いし、蹴飛ばされて落ちると痛いんだけど俺」

「下に布団敷いて寝れば落ちないよ……」

「いやだから一人で……というか結局それ俺が蹴られるだろ……まあいいや。準備しといたから早く着替えて降りてこいよ」

「やだ、タケちゃんが着替えさせてくれたら行く……」

 

ペシリと尊がなのはの頭をはたく。

藤堂尊は高町なのはに対してどうしようもなく甘いが、それでも駄目な物は駄目なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町なのはは私立聖祥大附属小学校に通う小学三年生である。

高町家においては三人兄妹の末っ子で、大らかな父と、綺麗で優しい母、仲良しの兄と姉が家族に居る、普通の女の子。

そして、余り普通とは言わない同居人が一人居た。

 

「なのは寝るな、寝たまま食べると溢すから。おい、なの――――こぼっ、こぼれる! 制服に溢れるぅっ!」

 

尊となのは、二人は何時からか、何時も一緒だった。

一緒に朝ご飯を食べて、学校に行って、家に帰って宿題をして、お風呂に入って、一緒に寝た。

二人は兄弟ではないし、親戚でもない。お互いの両親が友人だったという訳でもなければ、本当に縁も所縁も無い者同士だった。

それでも尊は高町家で一緒に暮らし、皆に愛される家族の一員となっていた。それはきっと普通ではないのだろうけど、なのはにとっては当たり前の事だった。

尊は時々自分の家に戻る事が在るが、それでも尊が帰る家は自分が居る此処なのだと、なのはは思っていた。

 

「なのは、お行儀が悪いぞ?」

「まあまあ父さん。なのはの事は尊に任せておけば良いさ」

 

ハラハラと心配気な士郎を他所に、恭也は微笑ましく二人を見ていた。

この家族の中にあって、尊に対して全幅の信頼を寄せているのが恭也であった。

なのはから見た恭也ときたら、実の妹以上に尊を溺愛しているのではないのか、と思わせる態度である。

……因みになのは以外の家族からは『もしや尊を本当の自分の弟にしたいが為に、今からなのはとくっつけようとしているのでは』と思われていたりする程である。真実は神と本人が知るのみだ。

 

「着替えも髪も尊くんにやってもらって、ウチの子ったら将来自分で暮らせる様になるのかしら……」

「あはは、大丈夫だって母さん。でもなのはばっかりズルいなぁ。私のもやってよ尊くん」

 

娘の将来を案じて頭を抱える桃子に、ぐいぐいと尊へ近づく美由希。

何かと尊を構いたがるのが美由希であった。しかしその横から伸びて来た腕に、美由希の額へとスパァンッと子気味良い音のするデコピンを見舞われた。

「あいたぁっ!?」と美由希が涙目で痛む額を押さえれば、腕が来た方向には「お前などに尊はやらん」と目で語る高町家長男が居た。

いや本当に何なの、この男。美由希は思わずにいられなかった。

 

「タケちゃん、あーん」

「食べさせてくれなくていいから、っていうか桃子さん布巾ください布巾! 制服白いから落ちな――――熱っづぁっっっ!!?? 熱っつい! ちょ、なのは肘! コーヒー倒してるから!!」

 

いつも通り賑やかな高町家六人家族の食事風景。

眠気にまどろむなのはの周りで幾つもの悲鳴が飛び交うが、それはきっと幸せな光景なのだろう、多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖祥大附属小は通学バスで通うのが基本である。

なのはと二人でバスに乗り込むと、前の席の辺りで同じクラスの男子が既に固まって談笑していた。

 

「おっ、タケちゃん。おっすおっす」

「タケちゃん昨日のガンダム見たかよ、新しい敵すげぇカッケーの。オトンがシャアのパクりだってキレてたけど」

「んな事よりポケモンの話しようぜ。俺の第一世代パーティが誰にも理解されないんだ、タケちゃんなら分かってくれるよな!?」

 

挨拶するまでもなくワイワイと話しかけてくる同級生の輪に入ろう、としたところでクイと袖を引かれる。

見ればなのはが上目遣いで尊を見ていた、「私を置いてそっちに行かないよね?」と。尊は思わず口元を引き攣らせた。

なのはにダダ甘な尊とて男の子である。アニメとゲームの話題で盛り上がるとか大好物なのだ。同性の友人を乗せて傾いていた天秤が、反対側になのはという大岩が乗ってスポーンと飛んでいく姿を幻視していると、何やら奥からバシンバシンと椅子を叩く音が。

音の方向には尊含む男子組を威嚇する金髪の少女と、それに苦笑する黒髪の少女が。それを見た男子組は揃って「ヒェッ」と悲鳴を漏らした。

 

「やべぇぞタケちゃん、はよ行け!」

「お嬢にガンダムの話聞かれたか? オトンといい宇宙世紀信者は最新作を目の敵にするから困るわ」

「おい高町、タケちゃん取らないから。俺ら悪くないってバニングスに言っといて頼むから」

「いいよー」

 

ここに見られる、クラス内に置ける男女間の力関係の図であった。

結局一言も喋れずなのはに腕を引かれていけば、バスの運転手のおっちゃんがクックッと忍び笑いしているのが見えた。

前に尊は、このおっちゃんに「女難の相がでてるぞ、苦労しそうだ」と言われた事があった。小学生の尊に意味など分かる筈はないが、分からない方が幸せな物だというのは何となく理解出来た。酸いも甘いも噛み分けた成人男性に同情されるのは中々クる……と知らないで良い事を知った藤堂尊小学三年生。

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、おはよー」

「おはよ、なのは」

「おはよう、なのはちゃん。尊くん」

 

アリサ・バニングスと月村すずか、なのはの親友の二人である。

二人の間の席になのはが座るのを見て、尊はアリサを見た。なのはがそこなら俺はあっちで良いんじゃないか。返事はバスンと叩かれる座席で返された、ひでぇ話である。

 

「俺もガンダムとかポケモンの話したい……」

「あたしがしてあげるわよ。一番はやっぱTV版Z、好きな機体はアッシマーね。対戦は何時でも受けて立つわよ」

「それ絶対小学生の趣味じゃないから。あとお前の厨パとは二度とやらない、二度とだ」

「私はお髭のガンダムが好きかなあ」

 

可愛らしく言うが、すずかのも小学生女子から出てくる単語としては戦慄ものであった。余談だがターンタイプのMGは以前すずかの部屋で見せて貰った事がある。が、それ以上のインパクトを放っていたのが髭の隣に飾られていたデスザウラーだ。マジかよとなのはと二人で二度見した。

尊となのはもそれなり以上にゲームはやるが、この二人のガチさには正直ついていけない部分もあった。集まってゲームしようと言ってアケコン持参する小学生とか衝撃である、しかも女子だ。対戦ゲームの類が封印されたのは実に当然の流れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、下校時刻となる。今日も今日とて何が有る訳でもない一日であった。

教室から去っていくクラスメイトを何となく眺めていると、なのはが親友二人を連れてやって来る。

 

「じゃあタケちゃん、私たち塾に行くから」

「ん、分かった。寄り道しないで真っすぐ行けよ?」

「タケちゃんも一緒に来れば良いのに……」

 

基本何をするにも一緒の尊となのはが、珍しく別々に行動するのがこの時間であった。

アリサとすずかが通う事から、どうせなら一緒にと始まったなのはの習い事。尊も一緒に行けば良いと士郎と桃子にも何度か言われたが、尊は何となくそれを断っていた。

 

「その内な。今は翠屋の手伝いとかの方がやりたいし」

「アンタ、それで成績良いんだから納得行かないのよね……」

「ふふ、真面目だもんね尊くん」

「ふつーにやってるだけだよ。流石に塾行ってる奴には勝てないし」

 

そうやって相槌を打っていると。ふと、なのはがジッとこちらを見ているのに気付いた。

この家族同然の幼馴染は、ほんの僅かでも尊が普段と違っていれば、こうやって直ぐに気付いてしまう。

何時もと少し違う事をしていこうと考えていた尊は、困った様に頭を掻くのであった。

 

「今日はお店に行くの?」

「いや。一回、家に帰っておこうと思って」

「そうなんだ」

 

普通の、しかし何処かズレた会話にアリサとすずかが首を傾げれば、なのはは「何でもない」と二人に笑った。

 

「ちゃんと夜までに帰ってきてね。お母さん、心配しちゃうから」

「分かってるよ。士郎さんと一緒に迎えに行くから、終わった後に喋ってて遅くなるなよ」

「分かってますよーだ!」

 

両手で尊の手をギュっと握ってから、なのはは二人と塾へと向かった。

それを見送った尊は、自分の手をぼんやりと眺めた。何となく後ろめたくなって、つい独り言ちる。

 

「……別に心配なんかしなくたって、何処にも行きやしないよ」

 

零れた独り言を振り払うように、尊は鞄を背負って教室を後にする。

今綺麗さっぱりと忘れてしまった言葉が幼馴染に向けた物でなく、本当は自分が言って欲しかった物だと気づかない様にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

「将来の夢、かあ」

 

夕暮れの下校路で、今日の授業で言われた事を思い出す。

社会科見学の反省で、自分が将来何になりたいか考えましょう、という前にもやった様な覚えのある内容だ。

アリサは勉強して親の会社を継ぐ、すずかは工学系の専門職、だとか何とか。小学三年生でこの答えが出てくるのは相当なので、この二人と比べて自分は、とは思わない。

なのはなんて「タケちゃんと一緒でいーよー」と能天気な物で……いや、これは結構ヤバい部類だ。ウチのは本当に大丈夫なのかと尊は寒くもないのに背筋が震える。

 

尊自身はそういう考えが全く無い、とういう事はない。

ただ、分からないだけだ。漠然とした夢、漠然とした未来。学校で勉強して、進学して、大人に近づいて。

そうしている内に何時か、分からなかった何かが分かる物に変わって、漠然とした何かが目に見える何かに変わるのだろう。

 

ただそうやって時間が経つにつれて色々な物が変わっていった後……今、自分が立っているここが、失くなったりしていないか。そんな事を考えて、訳もなく不安になる。

 

「ただいまーっと」

 

ただいま、と形だけの言葉を何の意味もなく言うだけ言っておく。

何時の間にか着いていた本来の自分の家は、相も変わらずそこに突っ立っていた。

物干し一つだけの庭、玄関を開ければ靴の一つもなく、奥の廊下は薄闇が除くばかりだ。

学校から高町家とは反対側にあるこの家も、一応は海鳴市の住宅街ど真ん中の場所ではある。だというのに、周囲でこの家だけが人の暮らしを感じさせず、それでいて時が止まっているかの様にそのままだった。

まるで墓石だ。自分の家だった物に、尊はそんな感想を抱いていた。

 

 

尊が高町家で寝起きしている現在、この家に住む者は誰もいない。

両親は尊が物心ついた時には既に居なかった。何故いないのか、というか幼い自分がどうやって一人で生活していたのか、というのを尊はどうも思い出せないでいた。

おかしな話だが、気づけば高町家で暮らすようになっていたのだ。士郎や桃子はきっと理由を知っているのだろうが、それは尊に言うのは憚られる類の物なのだろうと、勝手に考えて聞かないままにしている。

 

尊がこの家の事で憶えている事は、実は三つしかない。

この家で、幼い自分がテレビを見ながら一人で食事をしていた事。ある日やってきた桃子に連れられて高町家に行った事、そして時折自分以外の人間が一人出入りしていた事、である。

 

「ま、帰って来てる訳ないよな。あの頃から物一つ触った跡も無いし」

 

まだ此処に住んでいた頃、居たり居なかったりした一人の男。

何をしていたのか、何を話したのかをまるで思い出せないが、不思議とその人物の姿だけは鮮明に思い出せる。

胡散臭い笑みを浮かべ、何かフードの様な物を被っていた。隙間から覗いていた髪は癖毛の様に跳ね、何か杖の様な長い棒を持っていた気がする……どう考えても不審者だった。

 

とはいえ、何か面倒を見られていた筈なのだ。でなければ流石に未就学児一人で暮らしていたなど有り得ない訳で。

尊はその人物が何時かひょっこり戻って来た時に、この陰鬱な家に一人は哀れだろうと、時々掃除だけはしに来ているのだ。この家は何故か埃が全然溜まらないので、窓を開けて換気するくらいしかやる事もないのだが。

まあダイニングの窓でも開けとくか、と薄暗い廊下を進んでいくと――――

 

 

 

「や、おひさ」

 

 

「…………親父?」

 

 

 

――――何時か見た、何時からか見なくなった男が、ダイニングテーブルの椅子でくつろいでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男は、尊の記憶にあるそっくりそのままの姿だった。

親父と呼んだが、尊の父親でないのは間違いなかった。確か、あだ名の様な物でそう呼ばされただけ……だった筈だ。或いは養父のような物だったのかもしれない。

 

「タイミングを見て会いに行く予定だったんだけどね。高町さんちに住んでるんだろう? なんでこんな所に来てるのさ」

「それはこっちの台詞だよ。何しに、というか何年ぶりだよ、親父」

「さあ……時間の感覚は随分前から曖昧でね、分からないよ。それにしても親父って、そんな風に呼ばせてたっけ、そういえば」

 

自嘲する様に男は苦笑すると、「まあ、そんな事より」とどうでもよさ気に話を切り替えた。

 

「君にプレゼントを渡しに来たんだよ。もう三年生だろう? そろそろだと思ってね」

「何がそろそろなんだか……誕生日だって全然先だぞ」

「いいからいいから、見ればわかるよ。さあて、御開帳っと」

 

男が持っていた杖を軽く振るうと、何もない空中から丸い宝石の様な物が現れ、落ちてきた。

尊はそれを手品か……と冷めた目で見ていた。ぼんやり思い出してきた記憶の中で、この男はこんな事ばかりやっていた様な気がする。

そのリアクションに男はどこか嬉しそうにすると、出てきた宝石を尊にずいと差し出してきた。

 

「どうだい? 君が喜ぶと思ってね」

「……いや確かに綺麗だけど。何か高い宝石なの? 小学生に渡されても困る」

「うん? いやそうじゃなくて――――あ、まさか」

 

話が噛み合わず怪訝な顔をする尊を余所に、男は何かに気付いた様子で宝石を見る。

 

「まだ目覚めてない? リンカーコアの共振現象は……個人差あり? いやいや先天的高魔力資質保有者同士でとか逆にどんな確率だと思って……海鳴市内の魔力素濃度オールフラット? ああなるほど、そっちか……」

 

ブツブツと宝石に向かって一人で喋る怪しい男に尊が若干引いている、と男はハッと気付いて杖を振った。

すると男の手にあった宝石が煙の様に消えていた。

 

「いや失礼、ちょっとばかり手違いがあってね。一応聞くけど、ちゃんと高町さんちで生活してるんだよね? なのはさ……ちゃんと喧嘩してたりだとかも無い?」

「……ないけど」

「じゃあ、最近何かペットを飼ったりは? 例えばフェレット。イタチみたいな奴とか」

「飲食店やってるんだから無いに決まってるだろ。というか親父、本当に何しに来たんだ? 何年も帰ってこないで、どうして急に……」

 

要領を得ない会話に尊は問い詰めた。何の血縁とも関係を持たない尊にとって、男は間違いなく自分の幼少期を知る大人なのだ。

会話に慣れてくれば聞きたい事は幾らでもあった。何故自分には両親が居ないのか、何故男は自分の前から姿を消したのか、他にも沢山。

しかし男はそんな尊を見て、困った様な表情を受かべるだけであった。

 

「ごめん、また来る。ちょっと僕が早すぎたみたいだ……話は次に、ね」

「――――親父っ!!」

 

男が杖を振れば、宝石がそうなった様に今度は男自身が消えていく。

勝手に帰ってきて、勝手に浮かれてて、勝手に意気消沈して消えていく。

どこまでも勝手な男が居なくなったダイニングは、嘗てそのままの時間の止まった部屋のまま。尊はただそれを呆然と見るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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