ーーその女の子を見つけたのは偶然だった
両親に連れられニューヨークに来たが旅行などではない
いつも通りの"授業"だ
与えられた課題をこなし望まれた成果を叩き出す
ただそれだけのことだ
やるべき事を終え帰国するまえに
両親はショッピングモールに寄った
付き合いのある人たちに送るものを買いに来たのだろう
こう聞くとプレゼントに聞こえなくもないが
実際は違う関係の構築や好意を抱かせるなどを目的とした
れっきとした"戦略"だ
人との関係などそんなものだ
表面上信頼関係を構築するが実際に一枚皮を捲ればそこには利用する、しないの関係になる
まぁ、そんなことは今の俺には関係もなく
両親の"プレゼント"選びの間、俺はやる事なく
手持ち無沙汰のまま無表情に人間観察をしたり、テキトーにぶらぶらしていた
ー因みに無表情なのは
『感情を見せるのは弱点を晒すのと同義だ』
と言われ感情を隠す訓練をしているからだー
誰に説明しているんだろうな俺は、と自問自答をしていると
髪の長い小さな(といっても同じくらいの歳の)女の子が
走ってきてキョロキョロと辺りを見回しては
いきなり蹲って啜り泣きはじめた
いきなり泣きはじめたのを見て少し疑問に思った
怪我でもしたのだろうか?
蹲ったとこを見ると腹痛だろうか?
ーーしかし、小さな女の子が蹲り泣いていると言うのに
周りの大人はだれ一人気にかけない
それどころかあからさまに面倒くさいという表情をする奴もいた
だが、それらを薄情とは俺は思わない
誰しも面倒ごとは嫌いだろうし子供は論理的ではないのが普通だ会話にならず更に手間がかかる
そんなものに時間をかけるのは
その名の通り"時間の無駄"だ
そう、無駄なのだーー
だが、無関心な大人たちに囲まれて蹲り泣く姿にーー
何故か、そう何故かーー自分と重ねてしまった
望まれた成果を出せなかった頃、泣くしかなかったあの時を
鮮明に思い出させる
それがーーとても嫌だった。
「どうして泣いてるんだ?」
だから、無意識にその女の子に声をかけてしまっていた
俺はこの子に泣いて欲しくなかったーー
泣くしかできなかったあの頃の自分を見るのが嫌だったからーー
******
ーー変わった男の子だなぁ
何でかこの男の子と居ると少し安心する自分がいた
その妙な雰囲気も含めていろいろ変わっていると思う。
両親を見つけるといって突如歩きはじめた男の子の後ろをついていきながら
そんなことをボンヤリ考えていた
よく見たことなんてなかったけど
同級生の男の子もみんなこんな感じなのだろうか?
でも、いつも教室の男の子は騒いだり、
悪戯したりしていたから違うと思う
物静かで、頼りになりそうなまるで年上みたい
・・・年上なのだろうか?
ひょっとして同級生の子も高学年になったらこうなるのだろうかーーううん、ならない
私は確信を持って否定した
この男の子がきっと"特別"なんだと思う。
そんな結論を出していたら目の前を歩いていた男の子が突然止まりだした
危なかったあと少し考えていたら気づくのが遅れて
ぶつかっていたかもしれない
何で止まったのかが気になって男の子の前を覗き混んだら
"恐怖の動く階段"エスカレーターがあった
「・・・ひっ!?」
小さく悲鳴が漏れてしまった
耳聡くその悲鳴を聞いた男の子が不思議そうにしていた
「どうした?」
こんな事を人に言うのは恥ずかしい
ーーけど、既に泣き顔を見られていたのもあって
私は正直に(といっても顔を背けながら)エスカレーターが苦手なのだと伝えた
「怖いのか?コレが?」
またしても解らないという顔だ
無表情に見えていたけど微妙な違いがあるみたい
「・・・だって、いきなり動くんだもん・・・」
私は涙目になりながら答えた
前に一度エスカレーターに一人で乗って盛大にこけたことがあった
それから怖くて仕方なかったのだ
いつもエスカレーターに乗るときは両親の手を握り目をつむっていた
「なら、俺が手を引いてやる・・・だから行くぞ」
私は首を横に振った
親と繋いでいるときでさえ完全に恐怖は消えなかったのだ
少し大人びているとしてもーー
「!?」
いきなり腕を掴まれた
「両親に会いたいんだろ」
その一言に私を大きく頷いた
「なら行くぞ・・・大丈夫だ、怖くない」
その言葉で私は本当に怖くない気がしてきた
でもーー
「・・・て・・・」
消えいるような小声での呟きに男の子は聞き返してきた
「なんだ?」
「・・・手、繋いで・・・」
恥ずかしいーー見知らぬ男の子に手を繋いで欲しいと伝えるのが凄く恥ずかしかった
それでも、手を繋がずエスカレーターに乗れる自信はなかった、だから・・・
「わかった」
男の子は手を繋いでくれた
私より少し大きな手だった
両親の手とは比べようもないくらいに、小さな手だーー
なのに、なのに
両親の手よりも安心している自分に驚いた
それにーー何故かドキドキする
そんな妙な安堵を感じると
いつの間に気づかないうちにエスカレーターに乗っていた
ーいや、乗り終わっていた
「な、怖くなかっただろ?」
少しこちらを向いた横顔をみて、私は何故かまたドキドキとしていた
いったいどうしたんだろう私
「手、離すぞ」
そういい手を解こうとしたのを感じて私は慌て気味に
首を振った
「・・・その、ま、まだ怖いから繋いでて・・・」
嘘だったーー
怖いどころか乗っていたのも気づかないくらいだった
この男の子の手は凄く安心する凄くーードキドキする。
離したくなかった、離れたくなかった
もう少しこの安堵感を、味わっていたかった
だから私はーー嘘をついた