「過去の出会い」   作:黒華 蘭

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第4話

 

一階に着き両親のいた場所に向かう途中に

彼が突然、立ち止まった

 

「・・・」

無言でどこかをみていた

その視線を追う前に彼がこちらを向いた

ふたりの目が合った

彼の目は透き通り綺麗だけど

どこか寂しそうな瞳だった

 

「どうやら時間切れだーー」

彼は私の手を離す

ただそれだけなのに

「あっ・・・」

私はいいようのない心細さを感じた

 

「このまま真っ直ぐに歩け、そうすれば両親のもとにたどり着く」

その言葉で私は泣きそうになった

また一人になる

また迷子になるのではないかと不安になった

彼が手を繋いでくれていたときは

そんなことは思わなかったのに

私は俯きそうになったーーけど

 

「俺を信じろ」

そう言って私の頭を撫でてくれた

それだけで私は顔をあげた

彼はぎこちなくけど確かに微笑んでいた

私を安心させるかのように

 

「大丈夫だ」

私はその顔に胸がキュッと締めつけられるような

感覚をおぼえた

少し苦しくなるけどでもどこか

嫌じゃなかったーー

 

「さぁ、いけー」

彼は私の背中を優しく押した

 

 

 

ーー私は走りだした。走って少しして振り返ると

彼のもとに何人かの大人が集まっていた

彼はまたあの寂しそうな目をしていた

私はその顔を見るのがつらかった

 

いつかーーいつかまた、どこかで会えたら

 

ーーまた笑ってくれるだろうか

 

そんなことを考えながら人混みを走り抜け

私は両親の元へと戻ったーー

 

 

 

******

 

 

 

女の子を送り出した俺の元に"両親"がやってきた

 

「清隆、何をしていた」

おそらく一部始終を見ていたのだろう

 

「別に、ただの暇つぶしだ」

俺の返答に僅かに眉を吊り上げる"父親"

 

「清たー、」「能力を持っていながらそれを使わないのは愚か者のすることだーーアンタが俺に教えたことだ」

"父親"の言葉を遮る

そのことに何の反応も示さない

当然だ、いつものことだ

 

「・・・まぁ、いい 帰国するぞ」

それだけをいい前を歩きはじめる"父親"

迷子になるなど考えてもいないし

なったところで気にもしないだろう

 

ふと視線を向けると先程の女の子が両親に抱き抱えられていた

「・・・」

俺は"両親"に抱きしめられたことはない

俺は"両親"と手を繋いだことない

俺は"両親"に息子だと思われたことはない

俺は"両親"を親だと思ったことはない

 

「清隆、早くしろ」

その言葉に従い俺は歩きだす

 

俺はまたあの"白い部屋"にもどる

 

いやーーこの表現は正しくないな

俺は外に出ていても"白い部屋"にいるのだから

 

いつかーーいつか、あの部屋を出て

自由というものを手に入れてみたい

いや、手に入れてみせる

 

ーー俺は静かにそう決意した。

 

 

 

 

 

 





【エピローグ】

ーー目の前の少年の寝顔を見ながら
私はそんな「過去の出会い」を思い返していた

今思い出したら、色々と恥ずかしい

でも、あの少年ーー"清隆"との出会いはやっぱり運命だったんじゃないかと思う

こうして今も側にいるのだから
普段の行動、態度、性格からは想像もできないほどに穏やかでちょっと子供っぽい寝顔だ。可愛い。

「・・・ていうか、私あの時 お礼言えてなかったのよねー」

清隆には何度も助けてもらった
なのに、
素直に"ありがとう"と言えたのは何回くらいだろう
そう思うくらいだった

「昔に会ったことも、覚えてなさそうだしねーー」
まぁ、かくゆう私もつい最近引越しのために
実家で片付けをしていたときに思い出したのだけど

虐められていた中学時代のせいで
そんな思い出も薄れていっていた
私の大切な思い出をーー

「あんたには、これからも助けてもらうことばかりだと思うーー」
でも、いつか
私があんたにとってかけがえの無い存在になってやる
そして今度は・・・ーー

「私が、あんたを助けてやるんだから」

「でもまぁ、とりあえずはーー」
これからしようとしていることに頬を赤らめる
寝ている相手とはいえ流石に恥ずかしいー

「私を助けてくれてーー"ありがとう" 清隆」
彼の寝顔にそっとーー

「……大好きだよ、ずっと・・・」

ーー唇を重ねた


-end-















ーTo Be Continued…?ー

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