……なんか説明回っぽくなってしまった。いちゃつかせる予定だったのに。
取り敢えず今回で大体の世界観が明らかに。
世界が滅びる前、日本の首都である東京と呼ばれた場所は多少規模が変動したが、依然として首都として機能している。司法と立法、行政は変わらず東京の東に位置し、代わりに幾つかの公的機関や役所を郊外に配置した。いや、しなければならなかった。
理由は単純だ、魔法や超能力等の超常の影響だ。
魔法を利用したシステムやサービスは日進月歩で、超能力も少しずつ研究が進められている。転生という事象はわりと珍しいものではなくなったし、オーパーツの解析は各国の第一目標と言ってもいい。
何より驚くことは『何時からこんな世界になったか定かではない』ということだ。正確には西暦2020年頃から西暦2120年頃にかけてあらゆる記録が不鮮明な物に変わったという。
当時とある研究家はこう語ったらしい。『もしかしたら世界は一度終わってしまったのかもしれない』と。その言葉に誰もが口を開いて反論したが、結局それを否定する根拠すら彼らにはなかったのか、現在でもその俗説は人類の表層意識に広く浸透している。それ以来、2020年より前は『旧世界歴』『旧時代』、2120年から先は『新世界歴』『新時代』と呼ばれている。
現在は新世界歴元年から80年後である2200年になるが、未だに記録が不鮮明になった理由や経緯は分からず、しかも当時からそういった超常は普通になりかけていたようで、法整備も政策もその他の対策も不気味なほど緩やかに形作られた。それらを東京に詰め込めば、さすがに都市としてまともに機能しなくなってしまうようで、現在では中央集権が少しずつ改善されているらしい。
専門家は揃って首を傾げては『なにがあったんだよ人類』と苦言を溢したらしいな、というのは現代社会の教師である田中の言葉だ。自称一流教師を名乗る田中氏だが、どうにもトラブルに愛される性質らしく、一週間前に彼がポツリと溢した『新時代より新世界の方が響きがカッコいいよな』という発言を発端に、クラスでは『新時代派』と『新世界派』と『どうでもいい派』に別れ、主に前者二つの派閥によって議論が交わされ、そのうち対話(物理)が始まってしまった。
あまりにも不幸な事故だった。というか理不尽だった。
教室はあまりの衝撃に廃墟と化し、廊下には量産型四足歩行抗戦兵器が
最終的に校庭で二陣営が集結し、すわ戦争かとなりかけた所で生徒会長である梓が仲裁し、戦争は回避された。その後生徒会は参加した生徒へ後始末の命令をしたり、さらっと混じってた教師を注意したり、ついでに一年生のなかにしれっと神が在籍していることに気が付き、ついでに田中氏は事件の責任を問われて謹慎処分にされ、その他諸々の事情で休日を返上して仕事をすることになった。
結局、その事件のせいで梓との買い物の約束はお流れとなったため、彼女の機嫌は操縦不能になった旅客機の如く急降下。只でさえ死にかけの目が更に死んでいき、そのくせ仕事をする手が止まることは無かったので、俺は他の生徒会役員からのなんとかしろオーラを一心に受けるはめになってしまった。
いつもは
そして今日、ゴールデンウィークの半ば。俺は梓とデートをするために、午前八時に新宿に来ていた。
二人での対話の結果、ゴールデンウィーク中の二日間を彼女と過ごすことで話は丸く収まった。梓は初日はデートをして過ごし、夜は俺の家に泊まり、次の日は家デートを所望。彼女のご機嫌な様子に俺はため息を吐きつつ、しかし悪くは思ってはいなかった。彼氏だしな、一応。
休日の新宿は旧時代と変わらず無数の若者でごった返し状態だった。昔と違う点と言えば街の様子だろう、魔法を用いた交通システムや空間に投影された広告は現代じゃ珍しい物ではなくなったし、たまに道路を猫耳生えた女子高生や妙にメカメカしい大学生が歩いているのも都会ではよくあることだ。
(百年か二百年前は普通の人間しかいなかったって話だが……今じゃ考えらんねぇよな)
この世に生を得て未だ十八年、それでも俺らにとってはこれが当たり前だ。
まあ、それでも旧時代での街の様子が分からないのかと問われるとそうでもない。そんなものはネットを探せばいくらでも出てくるし、特に旧時代のサブカルチャーは根強い人気がある。そういったオタクがクラスに数人はいるくらいだ。
彼ら曰く、今のアニメや漫画にないロマンがあるらしい。
分からねぇ、とつい小さく呟きながらベンチの
集合は新宿駅の目の前にある広場。やたらと精巧なロボットの銅像を乗せた噴水を眺めながら、俺は梓を待っていた。迎えに行っても良かったのだが、梓は現地集合を強く主張した。理由はきっとお約束をやりたいだけだろう。
「──おまたせ、待たせちゃったかな」
例えばこんな風に、なんて思いながら俺は声の方を向けば、案の定そこには梓がいた。
白と黄色を基調とした明るい服装に、白と青のストライプハットを着けた梓は笑みを浮かべて此方へと歩いてきた。とても春らしさが感じられる服装だったが、彼女の病的なまでに白い肌と白髪混じりの黒髪はその中でも浮いて見え、少しチグハグな印象がないこともない。それでも似合って見えるのは彼女の生来の美貌のおかげだろう。
「……いや、俺も今来たところだ」
期待するようにこちらを見つめる梓に、俺はお決まりの定型文を返す。どうやらお気に召したようで、嬉しそうに、
「そう、良かった」
と言って俺の手を握ってきた。朝早くで体温がまだ低いのか、少しひんやりとした彼女の右手を左手で繋ぐ。
俺はそのままお互いの指の間に、お互いの指を絡ませた。世間で言うところの、恋人繋ぎというやつだ。
梓は何度か繋いだ手を確かめるように力を込め、俺の顔を見た。
「シロからしてくれるなんて、珍しいね。何か良いことあった?」
「……別に、嫌なら止めるぞ」
「ううん、もう離さない。……キュンとした?」
「トイレ行くときは離してくれ」
「じゃあ次はシロから握ってほしいな。ちなみに私はしてくれた時キュンとしました」
「……さっさと行くぞ、買い物すんだろ」
照れてる? と聞いてくる梓の手を引っ張るように、俺は最寄りのデパートに足を進めた。
照れてねぇよ。
と言ってはみたものの、梓はこれといって何か欲しいものがあるわけではないらしい。下着を選んでもらう約束は、デートをする方便のようなものだったようで、俺達は
家から一歩も外へ出ずに生活できる時代だが、デパート内の店なんて物は今も昔も大して変わらない。場所によっては完全ネット注文制で、試着だけなら好きなだけ出来るように展開する服屋も少なくないが、生憎このデパートにそんなものはないらしい。
「……で、まずどこ行くんだ? 俺としてはさっさとお前の用事を終わらせておきたいんだが」
「いや、それはお昼の後にしよう。先にメインイベントを消化したら味気ないじゃないか」
「つってもお前、別に買いたいものがあるわけじゃないんだろ?」
「ウィンドウショッピングだよ。別に買わなくたって良さそうな服を探したり、アクセサリーとか見てるだけで楽しそうだと思うよ、それにすっごくデートらしい」
「……まあ、お前が言うならそれで良い。今日はお前の用事に付き合ってるからな」
「私達の、だよ。ついでに言えばデートだ。ひねてないで、素直に言えばいいのに」
俺はその言葉に返さず、繋いだ手を引くように歩く。梓はそれを楽しそうに笑って付いてきた。
デパート内を適当に散策する。婦人服店、映画館、本屋、フードコートに駄菓子屋なんてものもある。
「まずは……服かな。私のだけじゃなくてシロのも探そう」
「俺のもか……別に服には困ってないんだが」
「だって、シロは黒っぽいのしか着ないじゃないか。名前の通り白いのとは言わないけど、もっと明るい服を着ればいいのに。折角のイケメンが勿体無いよ」
「俺の母親かお前は。無難なヤツ選んでたらこうなっただけだ」
そう言って軽く手を広げて体を見せるように動く。
黒いポロシャツと灰色の長ズボン。別にお洒落を意識した覚えはない。去年の服を出しただけだからな。
「むう……身長高いから何でも似合っちゃうのかな……。だったらアクセサリーとかの方が良いかもね。腕時計とかネックレスはどうだろう? 色は勿論シルバー」
「アクセサリーねぇ……まあ、まずは服で良いだろ。一日あるなら後でもいい」
じゃあここかな、と言って梓が止まったのは品揃えとお手頃価格が売りな服飾店だ。子どもから大人まで幅広く提供、がキャッチコピーの大手で、テレビのCMでも見た覚えがある。
梓は手を軽く引っ張るように入っていく。心なしか楽しげだ。こういうところは、やっぱり普通の女子なんだなと感心しながら俺も付いていく。
軽快なJ-popがどこからか聞こえる店内を、時折服を手に取ったりしながら歩き回る。朝早いからか店内に他の客も少なく、軽い貸し切り状態だ。
「見てよシロ、『I♡LOVE NEW WORLD!!』Tシャツだって。これCMで見たことあるよ」
「こういう白地に文字書いてあるだけの服とか着る奴いるのか? 買うやつのセンスを疑うぞ」
「部屋着とかにするんじゃない? 私はシロが意外とそういうのに敏感なのに驚いたけど……本当に元不良?」
「好きでやってたわけじゃねぇって言ったろ。絡んできた奴殴ってただけだ。それでも二年になるまでは成績も悪くなかったが……まさか
「二年のこの時期だっけアレ。私もあの時は不良の相手をするなんて思いもしなかったよ。やんきー、って言うのかな? てっきり現代じゃ絶滅したのかと」
「旧時代のマンガに影響されただけだろ。鞄に鉄板とかリーゼントとか、馬鹿だろ」
「現代の不良が言うと説得力が違うね」
「もう止めたわ……ん? っ!?」
話してる途中に、それが視界に入って軽く動揺する。すぐに取り繕って顔を背けたがが既に遅く、
「どうしたの──へぇ」
そう言って梓が手に取ったのはセーターだった。灰色っぽい、一見普通のセーターだ。
ただし──全面だけ。
肩が出るノースリーブに加え、背中のほぼ全面が切り取られたように空けられ、体格によっては──いやおそらく誰でもだろうが──尻の上側が見えてしまう、そんな常軌を逸してるとしか思えない、そんな服。
「『童貞を殺すセーター』……まさかこんなところにまであるなんて……」
ポツリと、つい溢れたかのように梓が呟く。
──現代、新時代にはいくつか思わず顔を伏せたくなるような、直視していられないというか、とにかく触れてはいけない事項が幾つか存在する。
これこそはそのうちの一つ。五年前に世界を
旧時代では海外でユニークグッズ扱いで販売されたそれを、新時代においては日本が大本の服飾会社を買収し、さらに素材の見直しやデザインの改変、科学技術のみならず魔法工学の粋を集めて再製造されたこれは、ほか二種の神器の力も相まってか、かの選手権において神々からも爆発的な支持を得ることになった。
『Yeah! なんて最高なデザインなんだ! こんなものを日本は作っているのかい? 変態だな!!』
『科学と魔法が手を取りあえば、傑作を産み出すという最も顕著な例と言えるだろう。肌触り、着心地、洗濯のしやすさから値段にまで拘ったなんて……まったく、日本は昔と変わらず変態の道を歩んでいるね』
『フハハハハハハハ!! 流石私の
そんな神々の絶賛の声は国際放送され、優勝杯の授賞式では当時の総理大臣が泣いて喜ぶ姿が映された。あれが歓喜の涙だったのか、それとも
梓は手に持ったそのセーターをしげしげと見つめ、裏表をひっくり返してはおー、とよく分からない歓声を上げ、一言。
「買おうか」
「待て、なんでそうなる」
「いや、まさかここで見るなんて思ってなかったし、シロも気になってたみたいだから」
「気になってねぇ引いてただけだ」
「それにしては目が泳いで……こ、こんどはそんなに見つめて……だ、ダメだからね? ここはお店の中なんだからそういうことは二人きりになれるところで……」
どうやら俺の真剣な眼差しが功を制したようで、梓は赤くなりながら体をクネクネしだした。気付かれないように梓の手からセーターを取り上げ、元の場所に戻して、さっさと店さら退散する。気が付いた梓があぁん♡ とだらしのない声をあげる。
……残念がってはいない。ただこれ以上梓が暴走するのを防いだだけだ。
どうにも付き合ってから梓のテンションが段々と上がっていっているせいか、最近はかなり言動が可笑しい、というよりか躊躇わなくなってきた。付き合う前から
具体的に言えばちょっと……いやかなり変態の気がある。
長年のストレスを発散しているのか、はたまた生来の性癖なのか判別はつかないが、とにかくこのままだと店内で色々口走りそうだったので、止めたのだ。
「もー、照れちゃってー。シロが着て欲しいって言うなら喜んで着るのに」
「お前が着たいだけだろ変態が。……最近本格的に自重しなくなってきただろ」
「そりゃあ全部シロのせいだよ。あんなに乱暴にしてきたら、そりゃあちょっとは可笑しくなっちゃうさ。こんな体にした責任は生涯かけて払って貰うからね」
恋人繋ぎをしたまま、俺の左手に梓が抱きついてくる。彼女の冷たい体がくっつき、いつの間にか彼女の手が温かくなっているのに気が付いた。
こちらを上目遣いで見てくる彼女の顔が妙に
大して強く抱いているわけじゃないのに、妙に左手が熱い。
顔も赤くなっている気がする。春なのに暑いせいだろう。
「……知るか」
「……あざといなー」
訳の分からない事を言いながら、それでも梓は楽しげに笑って抱き締める腕に力を入れた。俺はそのまま前を向いて、次に寄る場所を探す。今は本でも読んで頭を冷やしたい気分だ。
──デートはまだ始まったばかり。
世界観
コンセプトは「概ねなんでもあり」
笑いあり、涙あり、ラブコメもギャグもあり。シリアスは少なめくらいかな、みたいな世界。わりと都合よく回りますが仕様です。
新時代vs新世界
キノコとタケノコ的な関係。実は国会でもどちらか決めているわけではない。日本を『にほん』と読むか『にっぽん』と読むかくらいの違い。
童貞を殺すセーター
言わずと知れたアレ。作中でのセーターは現実のあれとはデザインが違います。具体的に言えばお腹の辺りにスリットが入ってたりします。
イチャラブ成分が足りない……また勝手に筆が動いてしまった。筆じゃないけど。
ちなみに不定期更新ですが、エタッたりはしないように頑張ります。
ヒロインがちょっと変態チックなのは仕様。
それもこれも全部PRD2ってやつの趣味なんだ!!