現代神話──ただのラブコメ──   作:PRD2

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出来上がったのでそのまま投稿。
少しはイチャイチャした雰囲気が書けてれば行幸です。


文才を……くだしい……。


ショッピングの表側 02

「──ふう、結構楽しかったね。堪能したよ」

 梓はそう言って満足げに息を吐く。

 服屋を回ったあとも、デパート内を適当に歩いては気になった店に入って物色するのを繰り返し、気付けば既に正午になっていた。

 大したことはしていない。駄菓子屋で俺がガキの頃に夢中になった菓子を梓が興味津々に見ていたり、店頭に並ぶアクセサリーを眺めては、梓が危ない顔でチョーカーを見つめるのを止めていた位だ。

「意外と退屈しないもんだな。朝から回ってれば飽きると思ってたが」

「ここも結構広いし、面白そうな物が多いからね。まだ地下にあるゲームセンターだって遊んでないよ?」

 そう言いながら彼女は自分の首に付けられたチョーカーを嬉しそうになぞる。

 梓がどうしても欲しいと頑なに主張したため、やむ無く買うことになった一品だ。といっても大した物ではなく、安っぽい黒いサテンに白猫のシルエットのついた大量生産品だ。なのに彼女は、それをいっそ(いと)おしいとでも言うかのように何度もその存在を確かめていた。

 ……何となく理由は分かる。梓が珍しく「買って欲しい」と我が儘を言うのも、「シロに付けてほしい」とやり易いように顎を上げたのも、……まあ結局はアイツの趣味なのだろうが、それにしたって露骨すぎる。

 それでも心底楽しそうにチョーカーに触れられると、どうにも自己嫌悪が進みそうになる。これが俺のせいだとしたら、何だってあんなこと(・・・・・)をしたのか過去の自分を殴りたくなる。

「……また難しい顔してる」

 下から梓が不満そうに覗きこんでくる。

 その顔が説教するときの空須みたいで、どうにも右手が疼きそうになる。

「……理由はお前が一番わかってんだろ、張本人」

「まあ、ね。だからこそ、そんなに悩まなくたって良いって言ってるんだよ」

 不満そうな顔が、嬉しそうな顔に変わった。

「私が、してほしかったんだよ?」

 そう言って笑う梓の顔が少し蠱惑(こわく)的で。

 上目遣いで顔を赤くする姿が、確信犯だと物語る。

「シロだって知ってるでしょ? 魔法科の授業は私と一緒だから、契約の魔法とかは知ってるよね?」

「知らねぇよ」

 知らない筈がなかった。魔法科は俺の大学での受験科目の予定だし、そもそも魔法科は梓に教わった教科だ。そうそう忘れたりしないくらい記憶に残っている。

 ──首への制約は『所有』の意味を持つ記号だ。

 気道であり、頸動脈が通り、生物の急所への制約。それを約するということは、命を約することに等しいからだ。

「……うそつき」

 耳元で囁かれた。

 確信しているように、少し笑っていた。

 否定できない自分が嫌になる。

「うるせぇ」

 俺は握った恋人繋ぎの左手を改めて強く握る。梓が少し、少しだけ痛みを訴えるくらいに、握る。

 そんな反応を返してしまう自分が堪らなく嫌いだったが、それでも彼女が次に言う言葉は既に予想がついていた。

「『もっと強く握っていいよ? シロの手形ができるくらいに、ギュッとね』」

 予想通りの言葉に言葉が詰まり、色々考えて、止めた。考えても無駄だって気付いたからだ。そんなことは付き合う前から気付いていたが、どうにも上手く出来ないらしく、結局その場で適当に判断するしかないのだが。

 呆れたようにため息を吐いた俺に、梓は嬉しそうに笑った。

 

 

 

 時刻は正午過ぎ、昼食には丁度良い時間だ。

 ゲームセンターではしゃぎ回る学生や、子供を連れて疲れた顔した父親たちも、この時間には皆一様にフードコートにやって来る時刻。その例に漏れずやって来た俺たちは、世界規模で展開中のハンバーガーショップの列に並んでいた。この時間なら熾烈な席取り合戦が行われ、もう空席なんて残っていないと思っていたが、意外なことに幾つかの空席が目立っていた。周りの話を聞いていれば、どうやら近くの公園でB級グルメの祭典がやっているらしいので、大部分がそっちに行ったのだろう。

 折角だから梓に行ってみるかと提案したが、午前中歩き回ったせいで少し辛いから止めておくとのことだ。

 考えてみれば梓の体力じゃ長い時間外にいるのは難しいだろう。最近になって漸く長時間立っているのに慣れてきた程、梓の体は(もろ)い。

「……悪い、歩いてて辛かったか」

「いや、気にしないでよ。最近は体の調子が良いし、歩けるときに歩いて体力つけたいから」

「そうか……お前が良いなら、それで良い。でも無理はするな、なんなら適当な席で座っててもいいぞ」

「ううん、一緒に並ぶ。あんまり離れていたくないから」

 そう言いながら梓は繋いだ手の感触を確かめるように、力をこめる。

 柔らかな手が、とても強く感じられた。

「…………」

 まあ、梓が言うなら別に構わない。俺としてもこの感触を離したいとは思えないからだ。

 が、

(──周りの視線が、刺さる)

 見なくても分かる。

 並んだ列の後ろから射抜くような、羨ましくも恨みがましいと言うような視線がこちらを見ている。

 俺は少し後ろを向くと、視線を向けてきた男にガンを飛ばす。それだけでソイツは顔を青くさせて顔を背けた。

「? 誰か知り合いでもいた?」

「いや、気のせいだ」

 どうやら梓は視線に気付かなかったようで俺はそれに安堵しつつも、さっきの自分の行いに後悔した。

 軽率だった。今のは相手が引いたから良かったが、引かなければ最悪喧嘩になったかもしれない。生徒会長の梓が騒ぎの近くにいるのは良くない。彼女は気にしないと言うかもしれないが、恐らくどこかで負担と迷惑をかけるだろう。

 足を引っ張るのは御免被る。

 もう俺は、一人で生きてるわけじゃないからな。

 反省しつつも、顔には出さずに梓と待っている間適当に話をする。午前中も会話は多かったが、殆どは梓が話を振ってきて、俺が返す、その繰り返し。話の種は大体が生徒会の話や最近の出来事のような、大したことのない雑談だったが不思議と話が止まることはなかった。

 数分で注文の番が回ってくる。いかにも新人そうな大学生くらいの女子の定型文のように挨拶を受け取りつつ注文をしていく。

 プレートを受け取り、足を運んだのは窓側のカウンター席だ。窓の外に付けられた赤い(ひさし)で出来た丁度よい影に入るように並んで座る。

 窓の外を見れば広い公園が広がっていた。公園と言っても遊具があるわけではない。人工芝で広場を作り、そこにベンチと日差し避けの屋根を置いた単純な物だ。それでも幾つかの子供連れの家族が遊んでいる。

「ここって結構良い眺めだよね。新宿の街が良く見えて……あ、さっき言ってたB級グルメのお祭りってアレかな? 屋台が一杯出てる」

「今時屋台って……簡易型の家なら今じゃ幾らでもあるだろうにご苦労なことだな。そもそもあれじゃあコンテストというより縁日だろ」

「まあ似たような物だし、そういうの最近じゃ見ないからね。みんな懐かしくてやってるんじゃない?」

「旧時代の文化なんて今の老人でも見たことないだろ」

 言いながら、手を合わせる。

 洒落た包装をひっぺがして出てきたのはチーズバーガーだ。仄かに湯気を放つ挽き肉をシャキシャキのレタスとスライスチーズ、酸味のあるピクルスを歯応えのあるパンズで挟んだそれを口を開けて噛み千切る。口の中を大量の味覚情報が蹂躙し、否が応でも顎が上下に動いてそれを咀嚼させる。

 上手い。

 旨いではなく、上手い。

 大量生産の、効率を重視しておきながら誰にでも一定の評価をさせるように作られた一品に素直に感嘆する。

「……美味しい」

 自然に声が出たように梓が声を漏らした。手に持っている包装からはデミグラスソースのかかった肉と目玉焼きを挟んだ春限定のハンバーガーが覗いていた。

「何て言うか、万人受けしそうな味だね。味が濃くて、食感が色々あって……皆が好きになる味っていうのかな」

「誰にでも売れないとジャンクフードなんてやってられないからな。皆が旨いと思うものを集めたら、自然と味は濃くなんだろ」

「……シロってこういうの好きなの?」

「昔からよく食ってるからな。安くて何処にでもあって、何でもそこそこ旨いし」

「へぇ、それも美味しい?」

「まあ、この店じゃ一番旨いとは思うが」

 そっか、と言うと梓は顔をこちらに向け、

「あーん」

「……なんだよ」

「一口ちょーだい?」

「…………」

 多分やるだろうな、とは思っていた。

 俺はバーガーを軽く千切って食べさせようかとも思ったが、思い直してそのまま彼女の口にバーガーを近付けた。今さら気にすることでもないだろうし、逆に梓が怒りそうだったしな。

 あむっ、と大きめに開いた口がバーガーを()み、バーガーを咀嚼する。少し軽く手で口を上品に抑えて数秒後、飲み込んだ彼女は美味しいね、と口にした。

「じゃあ、お返しね」

 案の定、というべきが。今度は俺の番のようだ。差し出された一口食べられたバーガーを前に少しだけ逡巡(しゅんじゅん)し、俺は観念したように口を開けて、バーガーを食べる。デミグラスソースが目玉焼きの味を引き立て、まろやかな食感が口に広がった。

「美味しい?」

「……うまかったよ」

「そっか」

 梓はそう言って小さく笑った。目を細めてこちらを眺め、そして何かに気付いて、

「シロ、ちょっとうごかないでね?」

「ん? なにを──」

 そう続ける前に梓は腕を俺の首に回すと、グイッと顔を近づけてゆっくりと舌で唇を嘗める。

 驚きを口にする前に彼女の舌は唇を何度も拭った。

 チロチロと舌先を少し出しては猫が水を嘗めるように、焦らすように、何度も。

 やがて満足したのか、一度軽いキスをして腕を離し、

「ソース、付いてたよ」

 そう言って楽しそうに笑った。

 俺はいきなりのことに声が出せず、ハッと気付いて口許に手をやる。その反応に梓は計画通りと言わんばかりに、笑みを深めた。

「……うそつけ」

 少し考えて、結局俺が言えたことはこれくらいだった。

 顔が熱かったが、日が照ってきたからだろう。

 そう、思いたかった。

 

 

 




白夜君はわりとジャンク好き。
そのくせちょっと味に敏感だったりします。特に意味は無いです。

よく考えたら衆人観衆のなかでこんなことやってるんだよなって今さらながら気付いた作者。
でも梓さんなら多分周りに人がいても躊躇いません。エロならちょっと考えるけどキスなら……って感じ。
ちょっぴり頭のネジ跳んでるのは、きっと呪いとか白夜のせいなので気にしない。
呪いの詳細はお泊まりデート後かなぁ……。


次回は番外編(というより舞台裏?)。
かなり話が突拍子もないけど仕様です。
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