次々回はお泊まりと夜の営み……は18禁になるので17.9くらいまでに抑えます。
今回はラブコメになった……かな?
旧時代においては、デパートなどの下着売り場は客足を伸ばすためか、はたまた客が萎縮させないためかは分からないが、結構オープンに店を展開させていたという話を以前聞いたことがある。そもそもデパートという老若男女問わずあらゆる人が入り乱れる場所に店を構える時点で、その店の敷居を意図的に下げることで客を入れやすくしていることは想像に固くない。
現代では店によって異なるが、旧時代とは違ってガードが高くなっている。具体的に言えば店構えが少し固かったり、ウィンドウが曇りガラスになっていたりだ。店内の様子が全く分からないのは大衆向けの店として致命的だが、かといってそういったデリケートな事情に対する価値観が広範囲に渡る現代では、経営側としてはオープンな雰囲気は避けなければならない。
……ここまで長々と話していながら詳しい事情は俺自身も分かっていない。旧時代についての見解が正解なのか否なのかも知らないし、現代の下着売り場の経営事情も知ったことではない。
じゃあ何だってこんなことを考えているのか。
答えは簡単だ。
今目の前に立ってるからだよ、下着売り場の。
──昼食を終えて一息ついた俺達が向かったのはデパートの女性用下着売り場だった。
筆記体で書かれた
「……ここに入れってか?」
「私もいるし不審者扱いはされないと思うよ?」
「そういう問題じゃねぇよ……」
例え彼女の付き添いという大義名分のある立場にいるが、それにしても一介の男子高校生の俺にとってこの店は入るのに抵抗がある。ていうか抵抗しかない。
苦々しい顔で入店を渋る俺を梓は楽しそうに笑っていた。
からかう様に、ではなく。幸せだと、言うように。
「私はシロと一緒に選びたいな」
「……お前が好きなの着れば良いだろ」
「私としては、シロが着てほしいと思ったのを着たいよ。私も好みはあるけど拘りがあるわけじゃないし」
それに、と梓は俺の手を強く握って、
「自分が選んだ下着着てるの、見たくない?」
誘うような声音で
手を繋いでない方の手で首のチョーカーをさすり、上目遣いでこちらを見る梓が妙に
自然と目が彼女の顔より下へと動くのを自制し、息を飲みかけた首を何かを払うように振った後、俺は空いている手で頭を掻いた。
彼女と繋いだ手が疼き、彼女の手を強く握りそうになる。
──このまま彼女の手を砕けるくらいに握ったとしても、梓はきっと嬉しそうに笑うんだろう。
だからこそ、俺は肩の力を抜いて、疼きを止める。
「……分かった。さっさと選ぶぞ」
「シロのそういうところ、私は大好きだよ」
そういうところがどれを指しているかは聞かなかった。
そんなものは、聞くまでもなかった。
幸いにも店内には他の客がいないようで、レジに女性店員が一人いるくらいだ。こちらを見て一瞬顔が
店内には幾つも棚が並び、様々な下着が陳列していた。カラフルな下着がそこら中に並んでいるのは色気の無い光景ではあったが、柄にもなく緊張しているせいかこれを梓が着ている光景を幻視しそうになる。
待て。落ち着け。まだ考えるな。
内心でそんなことを考えながら梓と手を繋いで棚の奥の方に歩いていく。他種族の需要に答えていると言っても品揃えは人間向けの物が大多数で、かなりの数が並んでいる。心なしか店員が少し好奇の視線でこちらを見ているのが気になり、出来れば見られないところまで動きたい。
「さて、シロ。単刀直入に聞くけど、どれ着てほしい?」
この上なく唐突に喋り出しやがった。
俺は梓の楽しげな顔を苦々しい顔で見ながら、冷や汗をかきながらも思考する。
……実を言えば、梓に着てほしい下着は心当たりがある。
別にこの状況を期待していたわけではない。あくまで彼女に下着を選んで欲しいと言われ、偶然頭に浮かんだレベルの考えであり、決して真剣に考えた結果の物ではなく、これは健全な一高校生でありまだ四ヶ月とはいえ彼女と付き合っている者としては当然というか必然的に頭に浮かんだ考えである。
決して俺の趣味じゃない。服のセンスが無い俺でも、真っ先に行き着く考えだ。
「…………」
喉が乾いて唇が思うように動かなくて、クールぶって話を振るなんて出来なくて。
上手く口が動かなくなった俺は、結局無言のままとある方向を視線で指した。
梓は俺の様子が珍しいのか、キョトンとした顔で俺の指した方向を向き、やがて心底嬉しそうに下着を手に取り、
「ふふっ、じゃあ着てくるね?」
そう言って、二重扉の試着室に入っていった。
俺はその内の一枚目を開けて中に入って静かに扉を閉めて、天を仰いだ。
(……死にたい)
何て言うか、情けなかった。
緊張するのはまだ許容できるが、それで声が出てこなくなるのは……あまりに情けない。女子の下着を選ぶなんてのは初めての経験ではあったが、それにしたって酷すぎる。これで元不良だとか全くもって笑わせる。
(……いや、別に好きで不良やってたわけじゃねぇけどな)
そんなことを考えていると、扉の向こうから梓の声が聞こえた。どうやら準備が出来たようで、ゆっくりと開いた扉から出てきたのは──黒いレースの下着を着た梓だった。
梓の控えめな胸と線の細い下腹部を覆う下着は
──何度か彼女が着て見せた黒の下着。
俺が選んだのはそんな平凡な選択だったが、梓に合う下着を問われればこれは真っ先に思い付く物だ。
隈がついた眼と病人のように細い体つきと白い肌、今では少しは標準に近づいた体だが、未だ梓の体は健康とは程遠い。
だからこその、黒。
最も強調され、危うげな少女を一瞬で退廃的な香り漂う女にする色だ。
それが──
嫌になるくらいの独占欲が、胸を締め付ける。
──梓は俺の反応に満足そうに笑うと、後ろを向いてパンツを指で直し始めた。揺れる後ろ髪が何故か目に焼き付いて、それでも視線は少し突き出した尻を頑なに離そうとしない。
人差し指で黒をなぞり、布を引っ掛けて、またなぞる。指が下着を引っ掛ける度に息を飲みそうになる。いつの間にかうっすらと上気した顔を俺に向けつつ、梓は誘うようにこちらに目を向ける。
「しろ」
優しくて甘い声だ。
壊したくなるくらいに、甘美な声だ。
「さわる?」
そう言って下着を指で軽く下ろし、黒で隠された白い肌が、二つに別れた
自然と俺の足は動いていて、ゆっくりと彼女に近づきながら疼いた右手を開き──
そのままチョップした。
「あう……」
力の抜けた、情けない声が上がった。
俺は肺に溜まった黒く淀んだ空気を吐き出し、
「……こんなところで誘ってくんな」
少しは口調が強くなったが、梓は「はーい」なんて残念そうな声を上げて、けれど何だか嬉しそうな顔でこちらを見た。
「ふふっ、ごめんね? シロったらあまりに可愛い反応するから、ついそういう雰囲気作りたくなっちゃって」
「何が可愛いだ、つかあの動きは確信犯だろ」
「だってシロが本当に選んでくれるなんて思わなかったからね。驚いちゃった。しかも何あれ、あざとすぎだよ。誘ってるのかと思っちゃった」
「……知るかよ、そんなこと」
梓の額を指で軽く弾く。避ける素振りすら見せずこのままデコピンされた梓は、それでもどこか嬉しそうだった。
「それじゃあ改めて、どうかなシロ? 感想が聞きたいな」
「……さっきので終わりじゃ駄目なのかよ」
「ちゃんとした言葉で聞きたいな」
軽く詰め寄りながら感想を
──今度は、逃げちゃダメだろ?
梓の顔から外していた目線を戻し、目を見る。期待の
「──似合ってた。お前には……やっぱり黒が映える」
それを聞くと、やっぱり梓は少し目を見開いて、そしてやっぱり顔を赤くしながら笑うのだ。
──結局このあと、幾つかの黒い下着を試着しては見てを繰り返して、最後に二着のお買い上げとなった。
満足げな梓と、手で顔を覆った俺と、それを生暖かい視線で見る店員がそこにはいた。
「ふぅ……っん……はぁ。今日はちょっと疲れたけど、楽しかったね、シロ」
「……まあお前が満足なら、それでいいんだけどな」
「シロは楽しくなかった?」
「……暇潰しには、なったな」
「……あざとい、それはあざとすぎだよシロ。やめてよ、これ以上
「知らねぇよ、気合い入れて自制しろ」
「だってそのツンデレは反則……あら?」
「どうした、忘れ物か?」
「いや、さっきのデパートなんだけど……あれってパトカー停まってない?」
「あぁ? ……いるな、なんかの事件か?」
「私達がいた時は何にもなかったと思うけど……」
「……まあいい、さっさと帰るぞ。俺達には関係ないだろうし」
「シロって結構ドライだよね。……まあ警察が来てるなら、もう大丈夫かな。日本の警察は旧時代から優秀だし。
それよりさ、今日はシロの家にお泊まりだからね? ちょっと早いけど一緒に夕食食べて、着替え持ったらすぐシロの家に行くから、忘れちゃダメだよ?」
「……お前も人のこと言えないくらいにはドライだよ」
男の子だもんね。
彼女に対する黒い感情なんていくらでもあるよね。
作者恋愛経験無いけど、そういうのってわりと大事だと思ってます。
気付けば梓さんいつも笑ってんな……その理由もおいおい書いていくので、気長に待ってくれると嬉しいです。
次回はショッピングの裏側、最終話。
こういう主人公以外のキャラとかアイディアが色々あるので付き合ってくれると嬉しいです。
筆が乗れば明日にでも……筆ないですけどね。