傭兵と紳士   作:急須
<< 前の話

3 / 3
市場

カランカランとドアベルを鳴らしてありとあらゆるプレイヤーが行き交う市場の大通りに出る。

NPCが運営する青果店にておつかいを済ませたコナタはいつもの迷彩服のズボンにブーツを履いて、黒いタンクトップの上に半袖のパーカーといういつでも出撃できるような服装で買い物に出かけていた。

同じく買い物に来て青果店の外で待っていた隊長こと温泉卵が片手を上げてコナタに居場所を知らせる。

 

「買えたか。」

「バッチリです。この後はどうしますか?」

「武器屋に行きたいが、お前はアバターか?」

「はい。自由市場(プレイヤーバザール)に。」

「ならアバターからみるか。」

 

自由市場はチャンネルが設定されていて、売る商品によって出店する場所が変わる。

アバターと武器店は出店者が多いため十チャンネル分用意されていた。

アバター自体にステータスが付いているゲームも多い中でBSはただのおしゃれ要素として実装している。

戦地に出ればどうせミリタリースーツや防弾チョッキ。

拠点や市場でぐらいはオシャレしたいプレイヤー向けコンテンツである。

 

世界観を崩さないチョイスに現代風の衣装から和服まで用意されてはいるが値段は高い。

純白のウエディングドレスが実装された時は血眼で課金する輩が増え、たまたま当ててしまった時に大いに値段を吊り上げて儲けさせてもらった。

男性アバターはタキシードだが面白要素で女性アバターでなくてもウエディングドレスが着れる。

と言うかだいたいが着れる。

馬鹿騒ぎのネタ要素としてはグッジョブな設定だ。

 

だが今回の目的はイチゴ系のデザートとともに実装されたモッズコートとジーパン。

夏でも冬でも迷彩服にパーカーだったコナタが唯一欲しがったセットである。

Tシャツも付いてくるが柄はカスタマイズ可能。

クソダサ一言Tシャツが増えに増えている今日この頃である。

因みにコナタは"ごまだれおいちい"と書く気で購入予定。

ごまだれのことになると頭のネジが全て吹っ飛ぶレベルで頭がおかしくなるコナタらしい一言だ。

 

閑話休題。

バザールの入り口に到着した。

目の前に現れたシステム画面に目的のチャンネルを入力していざ転移。

フワッとした浮遊感が過ぎ去れば多くのプレイヤーが賑わう自由市場に到着である。

 

「リアルの出勤もこのぐらい楽だったらなぁ。」

「目が死んでるぞ。さっさと買ってこい。」

 

転移するたびに思ってしまうことをボソリと言うと、後ろから背中を押されて目的の店に促された。

自由市場の中でも中央から少し外れた場所が目的の露店である。

コナタがBSを始めたきっかけである男がひょっこりと顔を出した。

 

「おお、コナタちゃん!温泉ちゃん!お買い物?」

「ツナ、久しぶりです。」

「ようツナ缶。そっちのギルドはまだ生きてるか?」

 

露天の店主"ツナ缶"はコナタのリアル同僚。

BSベータ版当初からプレイをし続けており、飲み友達になってから誘われた。

始めた当初はツナ缶が所属するギルドに行こうかと考えていたが今のマスターに声をかけられて、今のギルドに入ることになった。

ツナ缶は戦闘よりも商売に向いていて、いくつもの露天を運営している。

温泉卵とも古き知り合いだ。

 

温泉卵が近況を聞くと苦笑いで内情を話した。

 

「まあまあだよ。最近マスターが失踪気味。」

「あの爆弾魔が?」

「サブの方でログインしてるみたい。もともと寡黙な人だけど一言声かけてから行って欲しいよねぇ。」

 

ツナ缶が所属するギルドはSilver Bearと交流のある"寝床"というギルド。

ギルドが実装されてからギルドランキング一位から三位のどれかを保ち続けている。

現在はランキング1位だったはずだ。

そのギルドマスターについた二つ名は爆弾魔。

手榴弾から設置型爆弾までなんでもござれ。

大抵のことは爆破して壊せばなんとかなると無言で地雷を置いていくタイプである。

プレイヤーネームは"足手まとい"などと自分から弱さをアピールしてくるが、後ろに居させると手榴弾を投げてくるとんでもない輩である。

母なる拠点であったことは一度だけあるがろくに話もしなかった。

ログインは毎日必ずする人と聞き及んでいたが、ここ最近見かけないと。

 

「まあマスター不在でもうまく回ってるよ。そっちは?」

「あいも変わらず。変人共の巣窟だよ。」

 

話し込む二人をよそに、目的の商品を探す。

好みを把握されているので手を出す前に目的の品を出されて片手でシステムウインドを表示させた。

取引の際に具体的な値段を申請する画面である。

この厳かな友人に本当の予算を提示するとギリギリまで吊り上げてくるので、顔色を変えずに予算の半分を提示する。

値段を確認して一瞬チラッとだけこちらを見たが申請した予算より少しまけた値段を提示してきた。

ここで即決しようか悩むが、相場よりかなり安いのでそのまま購入した。

 

システムウインドウであらかじめ用意したロゴをTシャツに反映していると、話し終わった二人がこちらを向いた。

誰かと話しながら商売をするなど友人の前だけだろうが頭の回転が速い奴である。

 

「買えたか。」

「格安で。」

「お前顔色かえねぇから値段上げにくいんだよ。もっと余裕な表情してくれよ。」

「吊り上げるのわかっててやりませんよ。」

 

話しも終わったようで、温泉卵に促されるまま露天を離れる。

手を振るツナ缶に手を振り返し、温泉卵も軽く挨拶をして次の目的地のチャンネルまで飛んだ。

 

 

 

 

 

 

何やら急かし気味の温泉卵が案内した露天は店主が不在中のようでNPCが鎮座して居た。

値段交渉はNPCを通してメールを送れるが、温泉卵は勝手知ったる人の家ならぬ人の店とバンバンものを見ていく。

いくつかのレアドロップも見受けられる。

なぜか露天の裏側に回った温泉卵はゴトリと真っ黒な銃を取り出した。

 

B&W(バレド&ウエッジ) とかマジっすか…。」

「大マジだ。見た目カスタマイズで中身はリヒターCR25だ。」

「詐欺じゃないですか!」

 

アサルトライフルであればテクスチャ改造などお手の物な露天も多いがセンスが渋い。

さらに中身がリヒターというのがひどい。

コンパクトアサルトライフルのリヒターは小機関銃のB&Wには見合わない。

見た目の重厚感は本当に見た目だけでかなり軽かった。

 

「見た目だけの改造を依頼していてな。金はすでに払ってある。」

 

NPCに受け取り確認をさせて手に持った温泉卵が満足げに構える。

スコープは後付けでつけられるが見た目と中身が釣り合わなすぎて違和感がありそうだ。

 

ーーこの時苦笑いでゴツイ銃を眺めていたコナタは喧騒に紛れて襲撃者に気づくのが遅れた。

 

「マァァァァァイハァァァァニィィィィィッ!!」

「鉄拳制裁!!」

「ブフォッ!?」

 

人通りが減り始めた自由市場の道。

真後ろからタキシードでロンダートをかましながら突撃してきた襲撃者の顔面に温泉卵の回し蹴りが炸裂した。

断じて鉄拳ではない。

コナタの鼻先数センチで温泉卵の足が止まったため、ヒュンッと身が縮む。

ある意味助かったが筋肉隆々のその足に蹴られそうになった。

 

けられた襲撃者はロンダートの勢いそのままひねりながら地面と熱い接吻をかましている。

ざまぁねぇな。

 

「件のストーカーか?」

「一瞬すぎてなんも見えなかったですが多分そうです。」

「ひどいねマイハニー。この顔に見覚えないわけないだろう?」

「うわ復活早っ。」

 

アバター体なので直接的なダメージはない。

戦闘禁止区域でもあるので衝撃だけは感じるがHPは減らなかっただろう。

というかなぜタキシード。

 

「はぁ、全く護衛をつけて買い物とは。僕に痛みが降りかかるではないか。けしからん。もっとやれ。」

「なるほど。これは確かに話ができそうにないな。肉体言語と行くか?」

「話が拗れるだけなのでやめてください。ここは素直に逃げましょう。」

「待て、せめて情報が欲しい。」

 

危ない発言をするストーカーを他所に温泉卵とコナタがこそこそ話しをするが全く気にした様子はない。

むしろご褒美だとハアハアし始めたので早めの対処を温泉卵に託した。

 

「おいど変態。」

「君のお友達なかなかにSだね!素晴らしい!」

「んなことよりテメェの名前を教えろ。」

「罵ってくれたら考えようかな。」

 

特殊な交換条件である。

温泉卵に判断を委ねたコナタは静かに見守った。

しばし考えた後、嫌そうに口を開く。

 

「納豆。イカ。ウニ。」

「なんで隊長の嫌いなもの挙げてるんですか。」

「罵り方が特殊だね!でもいいよ!教えない!」

「何がいいだテメェ!もういっぺん蹴るぞ!」

「どーどー!」

 

なぜか罵りが温泉卵の嫌いなもの。

敵に対して天邪鬼な性格の温泉卵は喜ばせろと言われれば喜ばせたくないと考える。

交換条件を満たす範囲で悦に浸らない罵倒が思いつかず、適当に嫌いなものを挙げてみたという。

もっと他にあっただろう。

 

「せめてギルド名でも教えろゴラ。」

「恐喝まがいですよ。隊長。」

「無所属だから答えろと言われてもね。僕は君たちの所属は知ってるケド☆」

「殺す。」

「隊長!ストップ!ストップ!」

 

ポキポキと手を鳴らす温泉卵を止める。

たった二文字言葉だが彼が言うと本当に起こるとしか思えない。

しかしここは自由市場。

暴動はご法度な上にHPが減らないのでただこちらが疲れるだけである。

先ほどの回し蹴りは正当防衛でノーカウント。

持っていた銃はいつの間にか収納していたが、本気で拳で語り合うのはまずい。

これ以上の会話はよろしくないと判断して、温泉卵を強制的に転移させることにした。

パーティー移動に便利な複数転移というものがあり、楽だろうとコナタをリーダーにして転移コマンドを出せるようにしてある。

 

温泉卵の了承を得ずに拠点のコマンドを入力して母なる拠点まで瞬間転移した。

 

座標を考えない適当な転移で拠点のヘリポートに放り出された二人はなんとか着地をして立ち上がる。

数メートル上から落とされたがそこはゲームなのでなんともない。

青筋を立てた温泉卵がボソリと言葉を落とした。

 

「あのクソストーカーぶち殺す。」

「同意します。」

 

神妙に頷いたコナタと温泉卵は熱い握手を交わした。







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。