前世紀末、太平洋上のミクロネシア連邦領内において、未知の新物質「ニルヤ」が発見された。
加工すれば従来のどの金属よりも強靭かつ軽量になる一方、そのまま用いれば燃料資源としても使用可能な「ニルヤ」は、石油に代わる新資源として各国から注目され、結果として激しい争奪戦が行われた。
しかし、これによりミクロネシア連邦と周辺の島嶼国家群においてエネルギーナショナリズムが勃興。
同一文化圏をベースとした新国家「太平洋連邦」を樹立。
今世紀に入り、新資源による繁栄を謳歌する先進国と、搾取され貧困にあえぐ太平洋連邦の対立は激化。後に環太平洋戦争と呼ばれる大規模な紛争に発展する。
そして正化22年、血で血を洗う紛争が終わりの兆しを見せたその時、人類に新たな脅威が襲い掛かった。
海の底から出現する人型の艦艇群、「深海棲艦」。
人型でありながら、かつての大戦の海洋兵器と同等の性能を持つ深海棲艦に対し、近代兵器を駆使し一時は戦局を有利に進めていた人類だったが、それらを無効化する姫、あるいは鬼と呼称される新型深海棲艦の登場により一転、人類は敗退を続け、制海権の大部分を喪失してしまう。
正化23年、ハワイ、オーストラリア、南洋の島々を制圧した深海棲艦は、東日本に対する大規模な侵攻を開始。
大きな犠牲を払いつつ、辛くも深海棲艦を撃退した日本はそれまでの防衛主体の戦略を転換。対深海棲艦に限り、それまで憲法が禁じていた先制攻撃、他国領への軍事力派遣を含んだ特別法を制定。
防衛組織である自衛軍に代わる攻性組織として、艦娘を主力とした「日本国連合艦隊」を創設。
これは大海原を駆け抜けた少女達と、彼女達の傍に寄り添い、共に戦った人々の鉄と血の物語。
――正化25年
――南方海域、艦娘搭載型護衛艦「はしだて」
「敵影、光学にて補足。輸送ワ級3認ム」
「護衛は?」
「艦識不明なれど、3個巡洋戦隊を確認」
「ふむ…」
見張り員の報告を受けたはしだて艦長である二佐相当官は、自らの自慢である顎鬚を撫でて考え込んでいた。
この日、連合艦隊は南方方面において確認された深海棲艦の活性化報告を受け、同海域に対する強行偵察任務を実施するはずだった。
が、直前になり鬼、もしくは姫級の個体が確認。任務内容を強行偵察から鬼、もしくは姫級の撃破に変更、作戦を実施したのだった。
既に何度かその個体と遭遇、戦闘しているが撃破される度に海域の奥へ逃げ込み、その都度艤装が強力になっているという厄介なタイプだった。
追撃か後退か、ふと頭に浮かび、これは自分が下すべき判断ではないなと心中で苦笑する。
「艦長、遅くなった」
背後からかけられた声に首を回すと、司令席の背に手を置いた若い男性が立っていた。
「式司令、如何します?」
自分より二回りほど年下の連合艦隊司令官に立ち上がり敬礼しようとすると、若い司令官がそれを制する。
「やるぞ。追撃続行だ、邪魔な障害は排除する」
「ほう?」
浮かべた表情で物資の残りについての不安を言外に指摘、頷いた式は口を開く。
「不安はあるが、アレを見逃せば後々な……操艦と母艦隊の指揮は任せる」
「了解しました、お気をつけて」
言うや否や、踵を返して艦橋から退出した若き司令官から視線を外して正面を見、
「各員聞いたな、やるぞ」
制帽を被り直し、艦長は手早く指示を出す。
副長の復唱によって、にわかに慌ただしく動き始めた艦橋内を見回した後、ふと意識を外へと向けると、海自から分派された護衛艦二隻が速度を上げ、はしだての前に出ていた。
言われなくても分かっている、そういう態度に思えるのは邪推かそれとも。
思考の散らかりを戒めるように、レーダー士から報告が飛ぶ。
「ワ級より飛翔体の発射複数確認!」
「海自艦より入電、対空戦闘は任されたし、貴艦は艦娘の抜錨を優先せよとのことです」
「言われんでも分かっている。艦娘隊の抜錨を急がせろ、指揮はいつも通り司令と「提督」達が取る」
舌打ちを飲みこんで唸るように告げ、こちらに向かっているであろう飛翔兵器を睨みつけた。
『敵艦影を確認、各艦隊は抜錨準備始め。繰り返す、敵艦影を確認、各艦隊は抜錨準備始め』
『選抜航空要員は「格納庫」へ集合せよ』
「野郎共、道具出せ!ちんたらしてる奴ぁ、海ん中蹴落とすぞ!」
緊迫したアナウンス。はしだてのウェルドックに響く整備班長の怒声。
それらを浴びつつ、整備クルーは手早くウェルドック内で待機していた自分の受け持ちの艦娘達の艤装チェックしていく。
艦娘、深海棲艦同様、人型でありながらかつての大戦で使用された海洋兵器と同等の性能を持つ者達。
が、その外見は可憐な少女達そのものである。
敵側の深海棲艦も同じだが、何故か両者は共に少女の姿をしているのだった。
「神様というのは、まったく良い趣味をしている」
等間隔で並ぶ艦娘達を横目に見ながら、ウェルドック後方へと向かうのは筋肉質な身体を陸上自衛軍の野戦服に包んだ40代くらいの男。
我知らず漏れ出た呟きに困惑しているのか、それともこの光景に未だに慣れないせいか、その眉間には深い皺が刻まれていた。
が、それも束の間、何かを振り払うように頭を振ると、ウェルドック後方で整列し待機していた部下の「提督」達に声をかける。
「聞こえたな、やり方はいつも通りだ。突っ込む、撃ちまくる、沈める、お嬢様方のエスコートだ、邪魔にならん程度に仕事しろ。以上だ、総員着装!」
弾かれたように駆け出す彼らの先に鎮座するのはTALOS、日本では戦術装甲と呼ばれる現代の鎧。
かつて、対テロ戦争と呼ばれる人類同士の低規模紛争が多発していた、懐かしくも忌まわしい時代。
兵士そのものの強化を目的としてアメリカがTactical Assault Light Operator Suit、TALOSと呼ばれる強化外骨格の一種を開発。実戦にて使用し多くの戦果をあげた。
そして深海棲艦の出現に伴いTALOSはより強化され、人類が深海棲艦に対抗できる数少ない兵器の一つとなっていた。
部下達が戦術装甲へ向かうのを見届けた男は、自身に割り当てられた戦術装甲、自衛軍採用の10式戦術装甲の指揮官仕様へと向かう。
ぱっくりと開いた腹部から内部へと身を入れ、脚筒へ足を入れ固定。
続いてマスターアームに付いた起動スイッチを押す。
腹部が閉じられ一瞬の暗転の後、響く中性的な機械音声。
『ID、音声確認』
「日本国連合艦隊、洋上機動歩兵大隊、青島・ハマー一尉。ID……」
長ったらしい数字と英語の混じったIDを告げると、滑らかな電子音。
『認証。ようこそ青島一尉、あなたの戦場への帰還を歓迎します』
そこで男、青島は思わず吹き出す。塗装以外は使い慣れた陸上自衛軍のものと同型ではあるが、補助AIの多分に誌的なこの言い回しは連合艦隊仕様独自のものだった。
『全システムオールグリーン、システム通常モードで起動します』
まもなくHUDに外部映像が表示され、薄暗かった戦術装甲が明るくなる。
既に艦娘達も部下の「提督」達も準備を終え、整備クルーは両側のデッキへと退避していた。
『作業員の退避完了、ウェルドック内への注水開始』
ビープ音と共に注水が始まるのを確認すると、青島は舌で唇を湿らせてから無線を開く。
「艦娘並びに各員に通達、作戦を確認する。我々はこれより敵護衛艦隊を突破、敵母船であるワ級三隻を攻撃する。毎度の事ながらこちらの艦隊の支援はワ級による電子妨害に当てにならん、艦娘は素早くワ級の機関と妨害機器を無力化しろ。提督連中は俺と一緒に濡れ女共とデートだ、気に入られたからと言って連中のお家にお邪魔するなよ。突っ込むなら終わった後、貴様等の嫁さん共に入れろ」
艦娘達の何人かが抗議の声、さらに女性提督からもセクハラだとの声。
元気があるようでよろしい、淡々と返してから脚部ホバーユニットの暖機を開始。
『注水完了を確認、後部ハッチ開放』
再びのビープ音、背後からウェルドック内へと陽光が差し込み明るく内部を照らす。
『針路宜候、全艦抜錨準備』
「時間だ、行くぞ!ケツを上げろ!」
脚部のホバーを起動と同時に固定器具を解除。水の流れに身を任せ、ホバーユニットが唸りをあげ船外へと飛び出す。
「空母艦娘隊は艦載機発艦!残りは単縦陣にて進撃開始!」
指示を飛ばすと同時に頷いた空母艦娘、赤城と加賀が弓を番え、矢を放つ。
それはしばらく飛翔の後、実体化しかつての軍用レシプロ機、零戦52型へと姿を変える。
続いて放たれた矢はそれぞれ彗星と流星へ。
口の中で爆ぜるアドレナリン、それは戦いを前にした暗い歓喜だった。
幽霊船、それがワ級を見た者の感想だろう。
それはかつて人類が海運の要としていたコンテナ船やタンカーの慣れの果てである。艦橋が吹き飛ばされ、あるいは船体に大穴が空きつつも、舳先に悪趣味な彫像としてワ級の本体が鎮座し航行するそれはまさしくかつて船乗り達が恐れた幽霊船の姿そのものだった。
『飛翔個体による体当たり攻撃失敗、電子妨害最大出力』
『該当個体を敵性生命体と認定。該当項目検索………人間及び艦娘と確認』
『艦隊総旗艦へと通報。並びに収容各級の活性化を開始』
『通達、総旗艦より別命あるまで既定命令を実行……殲滅せよ』
『了解』
『了解』
周囲に展開していた護衛艦隊に迎撃を命じつつ、自らの体内で眠る各個体に信号を送り覚醒を促す。
そこにあるのは戦闘への歓喜でも、あるいは恐怖でもない。
巣に踏み込んだ障害を排除する、蟻あるいは蜂のそれだった。
『零戦隊、こじ開けるぞ!ガンホー!』
『彗星隊!最優先はヌ級だ!起こしが遅れて突っ込むなよ!』
『雷撃高度到達、これより……がっ!?』
『一番機被弾、こちら二番機指揮継承!一番機航空要員はベイルアウトしろ!早く!』
雑音混じりの無線から聞こえる悲鳴と罵声、それは先行していた航空隊の死闘を如実に物語っていた。
存外、対応が早かったなとどこか冷めた感想を抱きつつ、彼我の距離を確認した青島は対空警戒を命じる。
『敵機来襲!』
間髪入れずに対空電探で警戒していた駆逐艦吹雪より警告。
「各員、来るぞ!重巡は前へ!突撃陣形へ移行!」
二個艦隊がその場で単縦陣を解除、鳥海を起点として重巡艦娘が楔形陣形を形成。
その背後に駆逐艦、戦艦、空母娘と「提督」達が並ぶ。
通常の艦隊陣形とかけ離れたそれは、陸上戦闘において機甲部隊が用いたパンツァーカイルと呼ばれる陣形。
間もなく、蒼空を汚し黒々とした姿を見せた敵機に対して重巡艦娘が三式弾による対空射撃を実行。
密集が崩れたところに駆逐艦娘が10cm連装高角砲を、「提督」達が戦術装甲の主兵装である改12.7mm機銃を浴びせる。
それでも何機かはその砲火を掻い潜り爆撃、あるいは雷撃を行う。
「損害確認!」
二人の戦艦娘、金剛と榛名が異常無し、ノープロブレムネと返し、加賀と赤城も損傷なしとの報告。
吹雪、夕立、睦月、如月も無事、前衛たる高雄型4隻も同様。
「鳥海、敵艦隊は?」
『現在3個巡洋戦隊が三方から接近中』
「今の艦載機、恐らくヌ級からだが、そいつらがいるのは?」
『赤城、加賀からの偵察報告ですと中央です』
「よし、ぶち抜くぞ。艦娘隊は突破後そのまま敵母艦隊へ、反転して追いすがってくる両翼の艦隊は俺と提督共で遅滞行動」
『青島一尉、別に倒してしまっても構わんのでしょう?』
提督の一人が茶化すような口調で混ぜっ返す。
「言ってろ馬鹿が」
苦笑しつつ応じた青島に、一尉は冗談が通じないやら、青島一尉が知る訳ないでしょうに、という艦娘と他の提督達の突っ込み。
心外だな、俺だってそれくらい知っている。
そう反論しようと思った青島だが、野暮だなと言葉を飲みこみ代わりに引き締めに入る。
適度にリラックスしているのは良い兆候だが、ダレ過ぎてはよくない。
「お喋りは終わりだ。進撃するぞ、総員続け」
一同の了解の声。
頷き、隊列を整え洋上を最大船速で突っ切り、中央の艦隊に肉薄。
高雄型と外周の駆逐艦娘四人が辻斬りよろしく一撃加えたのを見、
「行くぞ!機動と攻撃を繰り返すのを忘れるな!」
前進を続ける艦娘達の背後を守るように散開。
牽制射を加えつつ提督達が、三機一組となって深海棲艦に攻撃を仕掛ける。
改12.7mm機銃を浴びた駆逐イ級の周囲に飛び散る欠片、それはクラインフィールドと呼ばれる特殊な防護システムが飽和し可視化されたもの。
『よし、飽和した!』
『任せろ!』
二機が機銃を浴びせ、動きが鈍ったところに、もう一機が背部にマウントしていた110mm個人携行対戦車弾を放つ。
断末摩とも、機械が擦れあう金属音とも取れる音を響かせ沈みゆくイ級。
クラインの壺理論を応用、外部からの運動及び熱エネルギーのベクトルを任意に変換、無力化するこの防御システムは、しかし一定量のエネルギーを受けると飽和し崩壊するという弱点を持っていた。
そしてその許容範囲は艦種サイズに比例し、重巡クラスまでなら戦術装甲でも対応が可能であった。
部下達の戦果を見た青島は頷き、近くにいた二機と共に艦隊旗艦と思しき重巡リ級へ突撃。
すれ違い様に改12.7mm機銃のバースト射撃。
こちらを追尾しようと反転したリ級の背中に僚機の機銃が突き刺さる。
苛立たしげに唸り声を発するリ級、ロクに狙いも付けずに砲撃を行うが、それは海面に刺さり瀑布を作るのみ。
「仕留めるぞ、お前達は足止めを」
『はっ!』
『了!』
二機が8の字でリ級に対しそれぞれ一撃離脱を敢行、その間に青島は大きく円を描いて反転。
背部にマウントしていた110mm個人携行対戦車弾4発のうち2発を起動、FCSが弾道補正用のガイドラインをHUDに表示。重なる。
「喰らえ」
マスターアームのトリガーをオン。
音響補正の発射音と共に弾頭が飛翔、命中しリ級が爆炎に包まれる。
クラインフィールドの崩壊を確認すると戦術装甲の格闘兵装、陸自で使われる軍用ナイフのスケールアップ版を抜き放ちそのまま吶喊。
爆煙を纏いながらリ級の咽喉を切り裂くと、そのまま胸元に突き立てる。
ふいにリ級と交わる視線、そこに宿るのは紛れもない憎悪。
恨むなよ、呟いてから改12.7mm機銃を接射、反動でナイフを引き抜き離脱する。
『一尉、やりましたね』
「ああ……各位、状況報告」
もたらされたのは全員損害無しの報告、各々がまだ110mmを2~3発残し12.7mmの残弾も7割。
頷き、先程の鳥海からの索敵情報を元にAIが予測した敵艦隊の針路を確認。
「よし、次は左翼の艦隊を襲撃する。お前等の大好きなハラスメントだ。良かったな、これなら神通さんも怒らないぞ」
勘弁してくださいよと何人かが悲鳴を上げる。
どうやらキツいお仕置きを喰らった経験があるらしい。
程々にな、と注意してから手早く集結、そのまま目標の艦隊へと進撃する。
「榛名っ、いきますヨー!」
「はいっ!主砲!砲撃開始!」
榛名と金剛が敵の艦載艦の防御をその火力と速力で突破しつつ、ワ級の機関と元の艦船では船橋であった箇所。
今では醜悪なクラゲのような物を生やした、電子妨害機器部分を砲撃で吹き飛ばしていく。
船首部分で悲鳴をあげその身を悶えさせるワ級。
「雷撃戦準備!敵を追撃します!高雄さん!」
「任せて吹雪、砲雷撃戦準備!各艦は敵防衛艦を近づけさせないで!」
船速の落ちたワ級に対して吹雪達4隻が雷撃を敢行すべく吶喊。
高雄達はそれを支援すべく火力を集中し、敵の直掩艦載艦の隊列を切り崩す。
「ヘーイブッキー!援護するネ!」
「逃しません!」
反転し再び突入してきた金剛達もその支援に入る。形成される突破口。
「針路よし……各艦雷撃開始、いっけぇっ!」
吹雪の号令と共に4隻が雷撃、吐き出された魚雷が疾走、ワ級の船体の横っ腹に当たり爆炎と水柱があがる。
急速にその船体を傾けさせ水底に沈んでいくワ級。
「これで、あと二隻…」
「つってもキツいなこれ」
鳥海の呟きに摩耶がうんざりした調子で応じる。母船の一隻を失った深海棲艦達は明らかに殺気立ち、砲撃も正確になってきている。
『各艦各提督、聞こえますか?こちら間宮』
「こちら鳥海、感度良好」
『ハマー、感度良好。よし、仕事はしたようだな』
「敵妨害機器は無力化、それとワ級一隻は仕留めました。ですが、敵の反撃が本格化しています」
『状況了解、こちらもそろそろ限界だ』
『了解しました、残存ワ級は母船隊による砲撃で仕留めるとのことです。皆さん撤収してください』
「鳥海了解、赤城さん!」
『こちら赤城、加賀航空隊と共に後退支援を行います』
やや後方から航空支援を行っていた赤城の返答。
それと同時に上空に展開していた航空隊が眼下の深海棲艦に阻止攻撃を行う。
『ハマー了解、後退路確保に移る』
「はいっ。鳥海より各艦、後退しますっ、離脱してください」
同時に鳥海が撤退の信号弾をあげる。
それを見た金剛達がすぐさま殿を務め、吹雪達駆逐艦4隻が離脱行動に入る。
ある程度の距離を取ったところで、相互に支援しつつ金剛、鳥海達も離脱。
最後にダメ押しとして赤城と加賀がハラスメント攻撃として艦載機による機銃掃射を浴びせて牽制を行い、安全距離へと離脱した。
――「はしだて」艦橋
『艦長、こちらの各艦隊は撤収した。やってくれ』
「了解です」
頷き、艦長は艦内通話機を戻すとブリッジ内に号令。
「各艦最大船速、僚艦に伝えろ。対水上戦闘用意、主砲で残りのワ級を仕留める」
「了、対水上戦闘よーいっ!」
副長の復唱を受け、CICと僚艦に指示が飛ぶ。斜め前方を行く二隻の僚艦から了解の発光信号。
「弾種徹甲榴弾、手動砲撃。妨害が晴れたとはいえ油断するなよ」
CICから砲撃準備完了の報告、しばらくして僚艦からも準備完了の返答。
「よーし、撃ち方始めっ」
「うちーかたーはじめっ!」
号令と共に船首の単装砲が砲撃を開始、一拍遅れて僚艦も砲撃を開始する。
スクリーンには飛翔する砲弾と、目標のワ級を示す輝点。
しばらくして砲弾がその輝点に突き刺さり、消滅する。
「全ワ級撃沈!」
報告を聞き、ほっと漏れそうになった溜息をなんとか抑え込んだ同時に艦内通話機から呼び出し音。
「こちら艦長」
『艦長、このまま進撃する』
「残存艦はどうしますか?」
『偵察によると潰走している、放っておいていい』
「はっ、了か……」
『左舷見張り要員から艦橋へ、緊急!』
「お待ちを……何事だ!」
「艦長、あちらを」
受話器から顔を離し副長に誰何、副長が指指したほうへと視線を向け、絶句する。
「空と…海が…」
血のような紅に染まっていた。そしてそれは左舷から徐々に広がり、見慣れた光景を侵食していっていた。
そしてその先には今までなかったはずの小島が一つ。
『艦長、どうした』
問われて我に返った艦長は、式のいる艦内指揮所へと映像を回す。
それを見た式は、
『艦長、小島に進撃だ。いるぞ』
「はっ?」
『奴はそこにいる』
その声は待ちに待った得物を見つけた、捕食者の歓喜であった。
――???
それは微睡から目覚めた。
微睡の中でそれは何か懐かしい、胸を締め付けられるほど焦がれていた物の夢を見ていたが、訪れた目覚めと共に忘却していた。
同時に自分が何であるか、そして与えられた役割を思い出す。
南方棲戦姫、それが彼女に与えられた名だった。
既に人類との戦いで受けた傷は癒え、艤装の改造も完了していた。
彼女にとってここまで攻め込まれ、追い詰められるのは想定外だったが、それでも焦りはなかった。
それ以上に体の奥底から憎悪と怒りが湧き上がる。
そうだ、貴様たちに、のうのうと陸で暮らす者達には理解できないのだ。
あの水の冷たさを、光すら届かぬ漆黒を。
「ナンドデモ ミナソコニ オチテイクガイイ…」
艤装と合一した彼女は呟く。
光すら届かぬ闇の、魂すら凍て付かせる冷たさを以て人類に鉄槌を下す。
それが己の役目だった。
――数週間後
――「新柱島鎮守府」、日本国連合艦隊司令官執務室
『内閣府本日発表!過日、日本国連合艦隊は南方海域の強行偵察任務を敢行。そのさい、強力なる敵艦隊と新型深海棲艦と遭遇するもこれを撃破!深海棲艦に奪われた島々を解放、故郷への帰還を喜ぶ地元民達の歓喜の声に見送られ、さらなる奥地へと進撃中!護国の誉れはここにあり!日本国連合艦隊万歳!艦娘と提督に幸あれ!』
随分と陳腐なプロパガンダだ、と式は溜息をつきテレビを消す。
劇場型政治というポピュリズム丸出しで政権を取った現与党、海洋秩序回復運動の連中にしては安い演出ではある。
とはいえ、
「国民自身がそれを是、とするか」
大国日本、東アジアの番人、太平洋の守護者。
どれも実体以上の虚像ではあるが、しかし今の日本人はそれを是としていた。
それについて思うところはある。が、
「今は考えるべきではない、な」
呟くと同時に司令室のドアを誰かがノック。
入りたまえ、と言うと扉を開け男が一人入室する。
海上自衛軍の制服を身に纏っているものの、眼鏡をかけた猫背のそれは自衛官というより大学の学生か何かに見える。
「畠山主席幕僚、ご苦労」
「はっ、そしてこちらが例の物です」
畠山と呼ばれた男が持っていた書類を執務机に置くと一礼、頷いた式は口を開く。
「単刀直入に聞こう、どうか?」
「当たりですな、さすがと言いますかなんというか、相変わらずの剛運で」
やや砕けた物腰になった畠山が頭をバリバリと掻きながら頷き返す。
それを聞いた式は眼を細める。
「では?」
「我々は戦艦大和の素体を入手しました。これで、ついに」
「相分かった」
椅子から立ち上がり、背後の窓にかけられたブラインドをあける。
陽光と共に室内に差し込むのは、東京湾の景色。
そこには確かにこの国の発展が現されていた。
「しかし、それも瀬戸際……」
背後の畠山はその呟きを聞くも、礼儀正しく無言。
式はしばしその景色を眺めたあと、視線を室内に戻す。
「日本国連合艦隊司令官として命ず、我々は戦力再編が完了しだいソロモン方面へ攻勢を行う。全提督と艦娘に伝えろ、目標はガダルカナルだ」
「はっ」
敬礼を行った畠山に答礼、下がらせたあと執務机横の壁にかけられた南方方面の海図を見る。
ガダルカナル、その名を聞けば日本人なら深い悔恨に苛まれざるを得ないだろう島。
「だが、亡霊はいい加減滅び去るべきだ。人の世は既に新しき時代、新しき時を迎えているのだから」
呟きながら地図に近づき、ガダルカナル島にそっと指を這わせ、そして握り拳を固め叩きつける。
「過ちは繰り返さない、そうだとも」
それはこの国を長く縛り付ける言葉、初めは願いであるはずだった。
だが、今やそれは呪いと化しこの国全てを蝕む。
終わらせる、呟いた式は拳を離すと執務室を後にした。
ご存じの方はいつもどうも、初めての方は初めまして、山本五十美と申します。
という訳で長年温めてきた二次創作投稿開始です。
拙いものですが、読んで頂けたのなら幸い。
さて、中身についてですが、いきなりオリ設定多数で困惑される方も多いと思われます。
が、これは後々劇中で解説されていきますのでご安心下さい。
では皆様、これから始まる新たなる提督達と艦娘達の物語、どうぞ楽しんでくださいませ。