魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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少女探偵団

 次の日、自らを少女探偵団と名乗った――命名エイミィ――少女達四人は今屋上にいた。

 彼女らの目的は達也に攻撃をする者の発見と生徒会への密告。これが()()の最優先目的。だがこの中で一人、それを()()()としている者がいた。

 

 

「さて、ターゲットは何処にいるかなっと」

 

「いたよ。実験棟の並木道」

 

「あっ、本当だ。最愛ちゃんは怪しそうな人見つけた?」

 

「まだ超いないです」

 

 

 上からエイミィ、雫、ほのか、最愛。その内三人は達也の近辺、怪しい人物が居ないか目を凝らしており、その内一人は達也をジッと見つめている。

 最愛には、()()()()()()()()を知る必要があった。戦闘の動きひとつでその者が表の者か裏の者か瞬時に見分けられるくらいに彼女の目は、そしてその感性は鋭い。

 その精度と言えば、達也が既にこちらの監視に()()()()()()()()()()()()()()()ことを分かっている程度には、だ。その点だけでも達也、最愛両者グレーものだが、こちらは『達也を攻撃している犯人を見つける』という大義名分があり、しかもほのかや雫、エイミィと一緒にいるためそれが嘘ではないことは明白。それを踏まえて行動する達也は、なんともやりにくいことだろうと最愛は他人事のように考えている。実際、他人事ではあるが。

 

 

「あっ!」

 

 

 その時、ほのかが突然と声を上げた。当然達也を見ていた最愛にも見えたその兆候。魔法を発動する際に起こるサイオン波の兆候。だがそれは魔法になることが叶わず、霧散する。

 

 

「今の、キャスト・ジャミング……?」

 

「間違いないの?」

 

 

 キャスト・ジャミングとは、アンティナイトという鉱石を使って魔法を無効化すること。主に指輪を媒体としたものが多い。しかし、その鉱石は希少で軍事物質なため、一般民間人が手に入れることはまず出来ない。そのことは図書館の資料で魔法の対策を探していた最愛も知っている。

 

 

「うん。雫の家で見たのと同じ……あのときはアンティナイトの指輪をボディガードさんが使ったよね」

 

「でもお兄さんがアンティナイトを持っているようには見えないよ」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

 

 そして雫の家は、一般人ではあっても普通ではなかった。雫は財閥の令嬢。父親が過保護なこともあり、対魔法師の護衛用としてボディガードがアンティナイトを持っている。何より、送迎車の運転手が常に身に付けている物だ。絹旗も達也がそれを身に付けていないことは分かっている。だからこそ今の現象は不可解と言っても差し支えのないものだ。その時、達也はすぐに顔を横へと向けた。最愛達とは正反対の場所。そこに、一人の逃走者がいる。

 

 

「あっ、逃げた! 襲撃者だよ! 右の木陰の方!」

 

 

 最愛が視認したと同時に発せられるエイミィからの指示。それに素早く反応した雫はすぐにCADを起動して魔法を発動するも、既にその姿はない。

 最愛も見てはいたが、後ろ姿のみだ。

 

 

「顔見た?」

 

 

 ほのかの問い掛けに首を横に振る雫。だがその問い掛けは、別のところから肯定される。

 

 

「見たよ! バッチリ! あれは男子剣道部のキャプテンだったと思う!」

 

「えっほんと!?」

 

 

 それはエイミィだった。狩猟部に入っていることもあり、その視覚は裸眼、魔法使用時の視力共に良好のようだ。語尾に『思う』と付けたエイミィは、だがその自信の有り様からして剣道部のキャプテンという地位に対してのぼやかしであり、その周辺の人であると断言しているようであった。

 

 

「写真か何かで確かめてみなきゃだけど、多分間違いないよ」

 

「写真……」

 

「生徒会にならありそう」

 

 

 確かに生徒会になら間違いなくあるだろう。だが最愛はそこへは行きたくない。達也が話していたが、あそこには風紀委員長の摩利がいる。どうやら最愛を狙っている節があるらしく、達也に近い理由で風紀委員に勧誘してくると予想している。何にせよ話しかけられるのは間違いないため、もし行くとしたら拒否しなければならない。

 

 

「なら後で教室に行った時に深雪に聞いてみよう」

 

「あ、なら任せても良い?」

 

「私も超お願いします」

 

「うん、任せて」

 

 

 だが拒否するような流れは来なかった。ほのかと雫と深雪の仲は良好。普通に話しかける程度には良いのが幸いしたのか、ほのかと雫が請け負ってくれたのだ。そのためここは一度解散。最愛とエイミィで引き続き監視を続け、その間にほのかと雫が深雪の下へと向かう。二人が戻ってくる間に特に変わったことは起きなかったが、それでも走って戻ってきたほのかの達也に対する思いは素晴らしいものだと言えるだろう。

 結果として生徒会へ行かなくても広報委員会の学内ページに掲載されていることが深雪から教えられたらしく、エイミィにより犯人が剣道部キャプテン、三年F組の(つかさ) (きのえ)であることが判明。それを生徒会へと伝えようとした彼女らは、しかし証拠が無いことに気がついて襲撃現場の写真を撮ることで合意。引き続き、達也の監視を続けた。

 

 

「どう? いた?」

 

「うーん……今日はもう解散かなー」

 

 

 だが、思ったように成果が出ない。ほのかの問いかけを肯定した者はおらず、うわぁーと嘆くような声を漏らしながらエイミィが呟いた。

 あれから、本当に平和だった。

 達也は巡回を続けてはいたが、揉め事一つ起きない。各々双眼鏡を下げて帰ろうとしたその時、最愛が呟いた。

 

 

「超いました。達也から約二百メートル東の木陰に剣道部のキャプテンです」

 

「ほんと!?」

 

 

 急いで双眼鏡とカメラを構える三人。最愛の指示通り、目測二百メートル程の木陰にCADを操作している甲の姿があった。それはまさしく、今魔法を発動しようとしているということだ。カメラを構えてピントを合わせたのはエイミィ。その間に魔法を発動されてしまい逃げ出されてしまった。

 エイミィを心配そうに見詰めるほのかと雫。対するエイミィも真剣な表情でカメラを操作し、その顔を破顔させた。

 

 

「やったね! 決定的証拠だよ!」

 

 

 そして見せられたカメラには、後ろ姿とはいえバッチリと甲の姿が写し出されている。顔がほぼ見えていないが、特定できないわけではない。彼女達はなんとか手に入れた戦果を、匿名で生徒会へと送った。

 

 

◆◆◆

 

 

 その日の夜。司波家ではその場で焙煎した珈琲片手にソファーで隣同士に座る兄妹の姿があった。珈琲を嗜む達也の横で、顔を仄かに染めながら座る深雪。長くも居心地の良い沈黙を、達也の問い掛けが破る。

 

 

「そうだ深雪」

 

「なんでしょう」

 

「お前のクラスの光井さんと北山さん。あの二人とは親しくしているのか?」

 

「……! はい。クラスメイトの中で最も親しくさせていただいていますが……彼女達が何か?」

 

 

 達也が何の脈略もなく他の女子について触れることは滅多にない。少なくとも二人でいるときは話の中で軽く話題に上がるぐらいだ。

 

 

「普通の子達なんだよな? 異常な性癖がなく常識的な行動ができるという意味でだが」

 

「そういう意味でしたら……普通だと思います」

 

 

 それが今日はかなり踏み込んだところまで問い掛けてくる。何があったのか、深雪の思考はそれで埋め尽くされていく。そこに余裕は無い。

 

 

「あの二人がお兄様に何かご迷惑でも……?」

 

「そういうわけじゃないさ。落ち着け」

 

 

 問い詰めるような姿勢の深雪の背後には不穏な雰囲気。このまま続けば周りの物が氷漬けになってしまうため、達也は深雪の頬に手を当ててそれを沈める。

 しばらく手を宛がったあと、そっと話した達也は

 

 

「見回り中の俺のことをたびたび見ているようだから、何が目的かと思ってね」

 

「あの二人がですか?」

 

「あの二人と更に二人。鮮やかな赤毛の女子生徒と……絹旗 最愛だ」

 

「……!」

 

 

 最愛のことは勿論深雪にも伝わっている。エイミィの事は遠目で仲良く話しているのを見かけていたため脳内補完できたが、最愛は別だ。要注意人物。深雪ですら本気で監視にきた八雲の目を看破できる気がしないのに、それを一瞬で看破した者。八雲からの情報と現在の状況を照らし合わせて、こちら側から手を出さなければ問題ないという結論だったため油断していたが、予想以上に事態は深刻なことかもしれないと深雪は察した。

 

 

「それで、何かあったのですか?」

 

「いや、心配されるようなことは特に無いが、どうやら写真を撮られているようだ」

 

「写真!? お兄様のですか!?」

 

 

 だがそんな心配は何処へやら。達也の写真を撮っていると解釈した深雪は、思わず思考をひっくり返してしまった。即ちその写真が欲しいと。

 しかし、その興奮にも似た思いは、次の達也の言葉で急激に冷える。

 

 

「いや、被写体は俺じゃない。自分が撮られていたらその場でなんとかしているよ。どうも、俺にちょっかいを出している相手の撮影を狙っている感じなんだ」

 

「本当ですか!? まだお兄様に手出しする者が!?」

 

 

 冷えたのは興奮だけに留まらなかった。深雪から冷気が珈琲を、机を、部屋全体を氷漬けにする勢いで発せられる。それを一瞬で解いた達也。我に返った深雪は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

 

「……申し訳ございません」

 

「気にするな。それでまあ俺の方に実害はないんだが、彼女達が何を考えているのかと思ってな。高校生レベルの嫌がらせで済めば良いんだが、そうでないなら首を突っ込みすぎるのは……」

 

「お兄様……?」

 

「いや、考えすぎか」

 

 

 考えすぎ、と一言で片を付けて再び珈琲を口へと含む達也。深雪は先ほどの達也の言葉を反芻しているのか浮かない顔をしているが、当の達也は今回ばかりは、最愛が付いていることに安心感を覚えている。

 

 

(最愛も引き際は心得ているだろうし、今回の目的は犯人探し。警戒する方が危ないかもな)

 

 

 むしろ警戒する方が危険。そう結論付けて、残りの珈琲を飲み干した。




あれ、案外進んでないのでは……?

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