「あれから音沙汰無しか……せっかく頑張って写真とったのに」
「やっぱ匿名じゃ信用なかったのかなあ」
「それもある」
証拠を撮って生徒会に匿名で提出した四人ではあったが、あれから特に変わったこともなく、達也の苦労は変わらずだ。
それに溜め息をついていたほのかとエイミィだが、何か含みのある言い方をした雫に対してエイミィは疑問を浮かべる。
「それ
「そもそも魔法は写真に写らない」
「あっ……」
そう、魔法は写真に写らない。
もし写るのなら非魔法師に魔法が見えない道理がない。
「しかも発動の瞬間じゃなかった」
「ああああ……」
「もっと言うと、超後ろからでした」
「何やってるんだろうね、私たち……」
「うん……」
完全なまでの蛇足にほのかとエイミィが再び溜め息をつく。
「やっぱり私たちだけじゃ無理だったのかなあ」
「でも卑怯なことがあったのは事実だし」
「襲った相手からなーんか嫌な感じがしたからそのまんまにはしたくないんだよね」
最愛は素直に感嘆した。
エイミィの言った嫌な感じというのは間違っていない。最愛が甲から感じたのは陰謀だ。しかも当の甲は途中からこちらを誘ってきている節があった。まだそこまであからさまではないが、何かが起こらないとも限らない。例えばそう――今みたいに。
「あっ」
「えっ、何?」
突如として声を上げたエイミィ。それにほのかが若干驚いたような反応をしながら次を促す。
エイミィがつい言葉を発してしまったのも仕方のないことだろう。
「あそこホラ。剣道部の主将だよ」
「えっあの写真の? ……あれ、でも今日剣道部は休みじゃないって教室で聞いたけど」
「そうなの!? 怪しい! なんかピンときた。ちょっとつけてみようか?」
「そうだね、気になるし」
「私も異存はないよ」
最愛としてはやはり、と思ってしまうような事態になってしまった。動いてきたか、というやはりと、ついていくのか、というやはりである。これは間違いなく、罠だ。
「私は超反対です。明らかに罠です」
だからここは止めなければならない。まだ日が浅いとはいえ、彼女らは表の、影のない明るい道を突っ走っているだけだということは十分理解できた。しかしここで寄り道をしたがために、闇へと引きずり込まれようとしている。今はそんな状況にあるのだ。ここは
「もしついていったら――」
「大丈夫だって。少しでも危ないと感じたら逃るから」
「――あ、ちょっと」
だが制止の声は華麗に受け流される。目を輝かせているエイミィは音をたてないように甲の後ろへとついていき、ほのかと雫も一度最愛の方を見たが、溜め息をついただけでそれ以上強く言わなかった最愛を見て「これを逃すと達也さんへの嫌がらせは続くことになるし、もし危なくなっても私の魔法があるから」というほのかの言葉だけ残し、エイミィの後ろへとついていった。
そして一人残された最愛。押し返そうとしたら華麗に横を通り抜けられたようなものだ。溜め息しか出ない。よく分からない世界に放り込まれ、よく分からない出会いをして、よく分からない事態に巻き込まれ始めている。だがそれでも最愛は後ろを追うことにした。
「……まぁ退路ぐらいは超確保してあげましょう。恩もありますし」
たとえ彼女らがどんな状況に陥ったとしても必ず逃げ道が出来るように、最愛も行動を開始した。
◆◆◆
最愛を置いて甲についていった三人。場所はもうすぐ学校の監視システムの外に出ようとしているところだ。家に帰るというのなら納得出来るが、エイミィがキャビネットで登校をしているのを見たためにその可能性は消される。少しずつ怪しくなっていく雲行きに、最愛の言葉が頭を過る。
「なんか……ちょっとだけ不安かも」
「実は私も」
「えっエイミィも!?」
「完全に不安がないってわけじゃないけど、私達なら大丈夫」
ほのかが溢した不安は、その場の共通認識だった。雫の言葉で不安を拭いつつも、後をついていく。そして甲は急に脇道へと入っていった。三人に若干の緊張が走る。どうやら甲は誰かと電話をしているようだった。気づかれないようにゆっくりと近づく三人。話し終えて携帯を切った甲。突然、走り出した。
「気づかれた!?」
「わかんないけど、とにかく追うよ!」
元々の距離に加えて反応が遅れた、男女の身体能力の差など様々な要素により離されていく距離。角を曲がった甲の後に十数秒空けてからついた三人は、だがその姿を見失う。
「あれ、いない……!?」
「な、なんですかあなたたちは!」
それを確認した直後、三人の前方に四台のバイクが立ち塞がった。疑う余地もない。絹旗の言うとおり、罠に掛かってしまった。あまりの突然の出来事につい叫んでしまったほのかだが、それを抑えることも含め、雫が淡々とこの状況の打開策を伝えた。
「ふたりとも、合図したら走るよ」
「うん」
「CADのスイッチを」
今ほのかと雫はお互いに手を握っており、エイミィは胸の前で手をクロスさせている。傍らから見れば恐怖で身体を抱いているかのように見えるその姿勢は、隠し持ったCADのスイッチを入れるに十分な姿勢でもあった。ほのかと雫はお互いがお互いのCADのスイッチを入れる形にする。
「ふん。こそこそと嗅ぎまわって。我々の計画を邪魔するネズミは――」
「GO!」
「――! 逃がすな!」
相手が喋っている隙をついて後ろへとターンをし、逃走。だが男女の身体能力の差は大きい。実際にすぐに肉薄してエイミィの制服を捕まえんと伸びる腕。だが捕まれる前にそれを振り切り、CADを操作しながら振り返る。
「ただの女子高生だと思ってなめないでよね!」
発動したのは加重の魔法。単純に身体にかかる重力量が増えた腕を伸ばした覆面ライダーとその隣にいた覆面ライダーは、地面を舐める結果となった。
「エイミィ!」
「自衛的先制攻撃ってやつだよ!」
だが、まだ二人残っている。魔法でやられた二人を置いてほのか達へと迫る。
「私も……!」
その二人も、ほのかの魔法により目を眩ませてしまった。
「しまった。目が……っ」
「くそ、化け物め! これでも喰らえ!」
しかし、逃げ切ることはできなかった。
突如として三人に脳を揺さぶるような不快音が鳴り響く。特に感受性の高いほのかは、それで立ち上がることすら困難な状態へと陥ってしまった。
「ふふ、苦しいか。司様からお借りしたアンティナイトによるこのキャスト・ジャミングがあるかぎり、おまえらは一切魔法は使えない……まだ効果が足りないようだな?」
ほのかは既にダウンしているが、エイミィと雫はまだなんとか平衡感覚を保っていた。しかしそれを見てさらにキャスト・ジャミングを強くされ、二人とも顔を地面につける。
「始末するか?」
「ああ、手はず通り。我々の計画を邪魔するものには、消えてもらう」
三人の頭の中では、先程の絹旗との邂逅が過る。あの時絹旗の忠告を聞こうとしなかった結果がこれだ。自分達は結局逃げることすらもできず、目の前にいるナイフを持った覆面ライダーによって命を絶たれようとしている。
「この世界に魔法使いは必要ない!!」
そして振り下ろされたナイフは、だが一瞬で現れた目の前の手によって
「いっつ!?」
「逃げることも超考えていると思っての行動だと思っていたのですが、まさか本当に四人だけとは可哀想なほど頭の弱い方達ですね」
聞き覚えのある声に特徴的な口癖。
三人は頭痛に耐えながらも、覆面ライダーと自分達の間にいる目の前にいる少女の姿を確認した。
「せめて一人は背後に回すなどをするべきです。まあおかげで超楽はできましたけど」
片手を横に流しただけでナイフとその腕までもを破壊した少女。エイミィは絞り出すかのように、その少女の名前を口した。
「最愛ちゃん……?」
「そうです。忠告は最後まで超聞くべきですよエイミィ」
「ぐぉッ!?」
ありえない方向へと腕を曲げたライダーを、その小柄な体型から出たとは思えない威力の蹴りを放ち、数メートルほど跳ばしながら最愛は静かに叱責をいれる。
「バカな! この状況下で魔法が使えるはずが……おい、もっと出力を上げろ!」
その力を魔法だと断定した覆面ライダーは、最愛にキャスト・ジャミングが効いていないことに戦きながらも、その効力を強くすることにより動きを封じようと試みる。更に強くなったキャスト・ジャミングに三人の意識が遠退きそうになる中、だが最愛は悠然と立っている。
「残念ながら超無駄ですよ。私にキャスト・ジャミングは超通用しませんから」
「どうせハッタリだ! さっさと死ねこの化け物!」
それをハッタリと取った覆面ライダーの一人は、ナイフを片手に突っ込んだ。恐らく先程腕ごとナイフを壊した現象も魔法だと思ったのだろう。だが違う。
降り下ろされるナイフは、今度はただ立っているだけの最愛の顔の目の前で甲高い音と共にその原型を崩した。
「ぐっ――! 腕がふッ!」
そして腕を抑える覆面ライダー。折れてはないにしても、恐らくヒビは入っている。そして腕の痛みを声に表す間もなく、腹を殴られて吹き飛ばされるライダー。キャスト・ジャミングは機能しているのにも関わらず魔法を打ち消せず、半分の戦力を失った彼らは恐怖のあまり後退を始める。
「ナイフでは私の
恐怖に覆面ライダーの顔がひきつるが先か、最愛の地面を踏み砕いての突進はまさに一瞬。その威力のまま放たれた拳は覆面ライダーをいとも容易く吹き飛ばし、後方のバイクへと激突させた。更に間を置かず、隣にいた最後の覆面ライダーをメキッという嫌な音ともに蹴り飛ばす。
鎮圧は、あっという間だった。
そして身体を起こし始めている三人に近寄る最愛。
「最愛ちゃん……ごめんね……私達が最愛ちゃんの忠告を聞こうとしなかったから……」
「全くです。以後超気を付けてください」
一人ずつ手を貸して起き上がらせる最愛は、若干むっとした表情でほのかの謝罪を受けとった。他の二人も面目無いと言った表情をしている。
「まぁ大丈夫なら超良いです。という訳で、さっさと帰りますよ」
「えっ、でもこの人たち……」
「ここに来る前に警察に超連絡してあります。早く逃げないと面倒なことになりますよ」
「げっ、それはやだな。よし、さっさと逃げちゃおう!」
警察に取り調べを受ける未来を見たのか、あっさりと頷いた三人は最愛と共に来た道を走って戻っていく。それを物陰から見ていた一つの人影。姿が見えなくなるのを確認して倒れている四人へと近づき、CADを操作して魔法を行使してから耳につけられた携帯とイヤホン一体型の機器に手をかけたところで、先程まで聞いていた声がかけられた。
「高見の見物とは超良い趣味してますね。
驚いたように振り返り、先程見送った人物の姿を視覚でも認め、更に目を見開く深雪。
一歩ずつ近づいてくる最愛に冷や汗をかきつつ、深雪は迷わずにCADに手を添えた。
食虫植物飼い始めました。