深雪がこの場に居合わせたのは、偶然と言ってもよかった。生徒会書記の中条 あずさが発注のミスをして、尚且つ次の配達は週明け、更にネットでは売っていないということで深雪が直接買いに来たのだが、そこで偶々ほのか、雫、エイミィを見掛けたのだ。
兄の言葉もあり、何処か怪しげな行動をしていた三人に胸騒ぎが起き、発注をささっと済ませ三人を探そうとしたのだが、そこで魔法の気配。
急いでその場へと向かうと、なんとアンティナイトを持った覆面ライダーのキャスト・ジャミングが辺りを覆っていたのだ。
急いでCADを起動させて覆面ライダーが持っているナイフを破壊しようと魔法をかけようとするも、それはまた別の場所からやってきた助っ人により、魔法を霧散させた。
魔法の兆候無しでナイフと共にその覆面ライダーの腕をも変形させた彼女は、まるでこういう状況が馴れているかのように相手を無力化させる。
更に強化させられたキャスト・ジャミングも、効いた様子は無い。先程までの行動は人間離れした運動神経の持ち主でまだなんとか納得できるが、この状況は納得できるはずもない。深雪は新入生の次席がほのか、三位が雫であることを知っている。そしてその二人は動けていない。これから考えられるのは、少なくともほのか達よりも事象干渉力が高いということになる。
そして聞こえてきた単語は、オフェンス・アーマーというもの。それが彼女の魔法だという。意味だけ取れば、攻撃性鎧。絹旗の怪力はこの能力によるものだと容易に察しがついた。
助けに入ることを忘れ絹旗の観察へと入ってしまった深雪だが、オフェンス・アーマーの原理が全く分からない。BS魔法師だということは聞いていたが、少なくともその兆候は分かるはず。それなのに、である。
そしてあっという間に四人を殲滅させた絹旗は、三人に手を差し伸べた。結局何も分からないままではあったが、結果的には良かったと言えるだろう。
だがホッとしたのも束の間。この事態を警察に連絡してあるというのだ。それだけは困る。三人がこの状況になったのは、兄である達也が原因なのは明白。そして襲ってきた暴漢はアンティナイトを持っていたのだ。事態は思っているよりも深刻なもの。
警察が来る前に逃げる、と言って三人は駆け出していったが、それはさせられないと倒れている四人に近づき、CADを操作してサイオンシールドと音波遮断を展開。
とある人物に電話をかけようと耳に手をかけたところで、突如声をかけられた。
「高見の見物とは超良い趣味してますね、
心臓が止まるかと思った。
いや、実際に止まった気がした。
それだけショックが大きい声が、聞こえてきた。
振り返ってみると、そこにはゆっくりと近づいてくる絹旗の姿。先程一緒に逃げていったと思っていた彼女は、今目の前で深雪に
どう見ても、最悪の状況だった。
もしものために、既にスイッチが入っているCADに手を添え、深雪は臨戦態勢へと入った。
◆◆◆
見えない何かが、路地裏でぶつかり合う。魔法という超常現象が一般化されたこの世界でも不可解なぶつかり合い。即ち相手の動きを見逃さないその目力が、両者の間で均衡していた。
それでも歩みは止めない絹旗に、深雪も気丈に振る舞う。だが、その歩みは突如止まった。
「分かっていると思いますが、私は超怒っています」
それと同時に放たれた言葉は、現在怒っているということ。それも言外に深雪が原因とでも言いたげな様子で。
「……何故助けるそぶりすらも超見せなかったのですか? そちらからしたら信用できない、魔法も不明の奴しかいなかったのに?」
だんだんと雰囲気が、そして何より口調が変わっていく。だが深雪に反論はできない。たまたま絹旗が力を持っていたから良かったものの、普通の二科生、またはキャスト・ジャミングに優位な能力じゃなければそのままダウンして状況はさらに悪化していた。というよりも、そもそも見ているという選択肢そのものがおかしい。
「ほのかと雫は言ってました……深雪はとても超優しくて良い人だって……もっと仲良くなりたいって……それが! それなのに! オマエにとってほのか達は助けるよりも囮に使う程度の仲だったってことですか!?」
「……ッ」
何も言い返せない。
ただ深雪は、CADに添えた手を下ろした。
これは戦闘ではない。攻撃される可能性は否定できないが、絹旗は達也や深雪の今までの関係抜きで、叱責を入れているのだ。深雪のやったことは捉え方を変えればほのか達を囮にして絹旗の力を試した、とも取れる。
「何黙ッてンだクソ野郎が! こっちはもうキャパ越えそォなンだけど状況分かッてンのかオマエ!?」
その小柄な体型から出されているとは思えない、重圧。
これはただ喧嘩を吹っ掛けられているのではなく、絹旗はちゃんとほのかや雫、エイミィを仲間だと認識しており、彼女らを無下に扱った深雪にキレているのだ。
問題に関わったのはあの三人だが、今回の件で言えば絹旗に非はほとんどない。間違いなく深雪が悪かった。
「……ごめんなさい」
「それは今言ッたこと全部肯定したッてェことでいいんだなァ?」
「……結果論としては間違いではないわ。今回彼女達を囮にして絹旗さんの力を測ろうとしたのも間違いではない――でも! ほのかと雫は私の大切な友人です!」
「どの口でそんな事言ってンだオイ!」
本当にどの口が言ってるんだ、だろう。だけど、深雪にも言い分がある。確かに深雪が悪いが十悪いわけではない。その監視に徹した原因は、他でもない
「……私たち兄妹は……絹旗さんも知っての通り普通ではない。詳しい事情は言えないけど、とある理由でお兄様も視線には敏感なの。入学式の際に絹旗さんに向けられた視線から、絹旗さんがただ者では無いということを察して警戒しているわ」
「…………」
嘘ではないことは、絹旗が一番よく分かっている。
達也からは同業者の臭いを感じているのだから。
「今回私がいたことに気がついていたのなら、私が途中まで魔法を使おうとしていたのは分かっていたはず。でも動かなかったのは、できるだけ絹旗さんと関わらないようにってお兄様から言われていたからよ。関わらなければ、何も起きないって……だから手を出すのを躊躇ったの。いることがバレなければ問題ないだろうって。勿論魔法はいつでも使えるようにしていたわ」
嘘ではない。事実でもないが。
その真意を見極め、顔を落とし、絹旗は何かに耐えるかのように拳を強く握って肩を震わせている。
「……誰に連絡を入れようとしてたンですか?」
「私達の師匠よ。アンティナイトを持っている暴漢なんて普通いないわ。つまり、それなりに規模のある組織が関わっているということ。その情報を探るのは、私達師匠の得意分野なの」
「つまり、あの時の視線はそいつからですか……」
かなりギリギリのラインを攻めながらも、重要な部分は隠した深雪は、よく頑張ったと評するに値するだろう。何かと葛藤するかのように肩を震わせる絹旗は、突然腕を振りかぶり、地面を殴り付けた。
「――!?」
殴り付けた、にしてはあまりにも高すぎる威力。深雪も目の前の惨情に目を見開いた。
ただ腕を放っただけで、そこには小さなクレーターが生成されており、一瞬ではあったが地面が小さく揺れたのだ。それから分かったのは、あの覆面ライダーにはちゃんと手加減をしていたということ。
「……今回は偶然の重なりってことで超見逃してあげます。ですが、次同じようなことをやった場合は、超覚悟しておいてください」
腕を引き抜いて深雪に背を向けてから、絹旗はそう言い放った。いつの間にか口調が戻っている。
「警察には連絡していません。あれはほのか達を離すための超嘘です。その師匠って人にでも超引き取ってもらってください。私は帰ります」
来た道を戻る絹旗を、ただ見つめる深雪。絹旗の背中が表の大通りを出るまで、深雪は視線を外さずただ一点を見つめ続けていた。
そして、脱力。
未だに爆音を上げる心臓を抑えながら、なんとか乗り切ったという達成感に身を浸らせる。そして深雪は、突如喋りだした。
「今聞いた通りです、
『これはよくやったとしか言いようがないね、深雪君』
深雪に答えたのは
『でもね深雪君。その割には有力な情報が手に入らなかった訳だけど――君たち
今回深雪は電話を繋いでから絹旗と相対していたのだが、これは深雪が意図したことではない。本当に偶然だ。通話を切る仕草をすれば何をされるか分からないという判断のもと、そのまま放置しただけ。そのため深雪は、八雲に隠していることをうっかり話さないように気を付けながら喋る必要があった。
『にしても彼女、引き際は心得てるみたいだね。相当手馴れているよ』
「……詳しいことは後日でよろしいですか?」
『うん、今日はちゃんと休むんだよ』
そう言って頭を下げてから通話を切った深雪。
ボロが出ていないことに内心ホッとしつつ、長居は無用のため深雪もその場所からそそくさと走り去っていった。
一度間違えて消してしまったためダッシュで再稿。
三十分遅刻ですがお待たせしました。