魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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遅れました。

魔法科高校の絹旗最愛という作品を友人に薦められたので今度読んでみたいと思います。どうやら次話で入学編終わるらしいですね。絹旗最愛のss少ないですからね。


抹殺

 日中にも関わらず薄暗い廊下を歩く、一人の少女。だがその高校生にしては幼い顔には無表情。その容姿に似合わない雰囲気を漂わせ、その道の者ならそれこそ臨戦態勢に入らざるを得ないほど。

 そこでふと、少女の、絹旗の足が止まる。

 

 

(……かなりの数いるみたいですね)

 

 

 感じた、多数の人の気配。色濃くなる、銃器の臭い。確実にこの先に待ち構えていることが予想できた。警戒しながら歩みを――ということは無く、先程と変わらない歩幅で絹旗は歩いていく。

 多数の人、多数の銃器。もしかしたら魔法師もいるかもしれない。

 だからなんだと言うのだ。あの世界に比べたらそんなもの、生温いにもほどがある。

 

 絹旗の仲間にすら絹旗を即死させる程の能力者が、それもところ構わず即死能力を発動させる仲間がいたのだ。むしろ今の一人でやる状況の方が安全だ。

 

 ふわっと風を感じる。

 どうやらわざわざ広間で待ち構えているようだ。

 気にしてはいないが来る途中カメラもあった。恐らく分かったのはそれが理由だろう。

 廊下の角には開き放たれたドア。

 そこを曲がると――

 

 

「大歓迎ってとこですか」

 

「その通りだよ、絹旗最愛くん」

 

 

 ――銃で武装した多数のテロリストに、眼鏡をかけ芝居がかった口調の男性が待ち構えていた。

 

 

「私がブランシュ日本支部のリーダー、(つかさ)(はじめ)だ」

 

「超どうでもいいです。まぁ探す手間を省いてくれたことだけは評価してあげなくもないですよ。せいぜい泣き喚めきながら超死んでください」

 

「そんなできもしないハッタリで脅そうなんて、やっぱり子供だねぇ」

 

 

 ゲラゲラと笑うテロリストたち。

 その光景に絹旗は溜め息一つ。

 笑い続けているテロリストたちに一気に肉薄。その弾丸のような勢いそのままに、一の近くにいたテロリストを殴り飛ばした。

 

 しんっとなる広間。

 

 

「ハッタリ? 何言ってるのか超分かりません」

 

「……ッ!? は、早く撃て!」

 

 

 絹旗の目は、本気だった。

 現に殴り飛ばされた男は壁にめり込んでおり、首があらぬ方向へと曲がっている。

 最早先程のような芝居がかった口調ではなく、ただ焦りと恐怖に支配された震えた声音で指示した一に、テロリストたちは一斉に銃を構え、連射した。

 

 

「バカめ! 我々に手を出すからこうなるのだ!」

 

 

 嘲笑の意味が込められたその言葉は、その場の共通認識でもあった。手を出した結果、絹旗は死ぬ運命となった。撃ちはじめた頃は、誰もがこれで終わったと確信していた。

 

 

「バ、バカな……一体何が起きている……」

 

 

 しかし撃つ時間が長くなるにつれて、その確信は恐怖へと変わっていく。

 全ての弾丸は絹旗に当たる前に粉々となり、当の本人は何事もないかのように立っているだけ。それも、見下すような視線で。

 足を一歩踏み出した絹旗。一は無意識に、一歩下がっていた。

 

 

「銃ごときで私を超殺せると思っていたのですか。なめられたものですね」

 

 

 銃声の中で放たれた嘲笑の色を濃くしたその言葉は、何故かその場にいた者全員の耳に届き、そして恐怖のどん底へと叩き落とした。

 全員足が動かず、銃を撃つのがやっとのテロリスト。それに絹旗は歩きながら近づき、腕を掴んで握り潰した。

 

 

「ぎゃあぁぁがッ!!」

 

 

 あまりの激痛に顔を歪めながら叫ぶテロリスト。だがその後すぐに絹旗に喉を潰されたため、それすらも許されなくなった。

 そしてそのまま横腹を蹴り飛ばされたテロリストは、壁に叩き付けられ、そのまま動くことはなくなった。

 

 いつの間にか、銃弾の嵐は止んでいた。

 ただ恐怖だけがその場を支配している。

 

 

「ば、化物め!」

 

 

 一番初めに足が動いたのは、一だった。

 仲間を置いて奥へと逃げ去っていく一を、だが絹旗は追わない。奥にも人が待ち構えているのを知っていたからだ。

 向けていた視線を戻し、戦意喪失のテロリストたちへ。彼らはもう、銃を持つ気力すらなかった。

 

 

「さすがにリーダーに見捨てられ、銃を持たない相手をいたぶるのは可哀想ですね」

 

 

 だからその言葉には、希望を持たざるを得なかった。

 

 

「そ、それじゃあ……!」

 

「ええ、一瞬で超楽にしてあげますから安心して死んでください」

 

「……ッ!?」

 

 

◆◆◆

 

 

 達也は走っていた。

 当初はブランシュを壊滅させるために。

 今はブランシュを助けるために。

 

 勿論壊滅はさせる。だがそれは相手を()()させることと同義ではない。その()で状況を把握した達也は、深雪とともにもっとも早く広間に着くルートを選んだ。

 

 

「お兄様、そんなに急いでどうされたのですか?」

 

 

 だがその状況を知るのは、本当に達也のみ。

 だからあまりにも急いでいる達也に、深雪は疑問を持たざるを得ない。

 

 

「最愛が先についている。早くしないとテロリスト全員が()()

 

「え……」

 

 

 それは、深雪を絶句させるには十分な理由だった。

 やっと穏和な態度になった絹旗。それが今はあの裏路で会ったときのようだと言うこと。

 深雪の表情が引き締まる。

 

 そして広間へと出た達也と深雪。

 そこに広がる惨状に、深雪は目を伏せた。

 

 

「ダメージの大きさからして一発。恐らく手のみだな」

 

「そ、そんな……」

 

 

 近くの凶器と遺体の状態を眼で確認した達也は、淡々とその攻撃手段を語る。だがその惨状に対して使われた凶器は、あまりにも現実離れしたもので、それでも今の彼女なら……と思えてしまう凶器だ。

 

 壁には口から吐血している首があらぬ方向へと曲がっている男に腹部を中心に真っ二つに折れている男。

 地面には首から上が無いものや身体が破裂しているもの、クレーターの中央で人の形をしていないものなど様々な形がある。

 

 

「奥にいるな。行くぞ、深雪」

 

「……! はい、お兄様」

 

 

 あまりの遺体の惨状に気づかなかったが、正面には奥へと続く廊下があった。遺体もこのレベルまでくるとさすがの深雪にも少しくるものがある。

 先へと進む達也に合わせて、遺体は視界にできるだけ入れないようにしながら深雪も走り出した。

 

 

「――これはッ!」

 

「少し距離があるが、少し先の広間でキャスト・ジャミングが使われている。それも複数人。一人一人がかなり強力だな」

 

 

 深雪に焦りが生まれる。

 まだ距離があるにも関わらず深雪ですら頭痛を覚える程の強さ。それを間近で受けているということだ。

 さらに続いて、無数の銃声が鳴り響き、数秒後に地面が揺れた。

 

 

「お兄様!」

 

「……不味いな」

 

「――ッ!」

 

 

 達也は、状況を完全に把握できる。

 その達也が不味いと言った。

 それが意味することで良い意味が無い。

 そして次の達也の言葉により、別の意味で冷や汗が流れた。

 

 

「最愛が怒っている。早く行かないと全滅するぞ」

 

 

 それはつまり、あのキャスト・ジャミングすらも超える干渉能力を持っているということ。そして先程から地面が鳴り響いていることから、もう既に絹旗の攻撃は始まっていることも分かった。

 その現場まで後数十秒。

 見えてきた光景は、手らしきものを投げ捨て、右手首を持ち上げている絹旗に、激痛に叫びを上げる男。そして、原型を留めていない遺体の数々。

 再び起きた惨状に少し目を逸らした深雪に、あの時と同じ声音が聞こえてきた。

 

 

「勘違いすンなよォオマエ。こッちはすぐにでもオマエを殺すことがァできンだよ。手が滑る前に早く言ッた方が身のためだかンなァ?」

 

「ひいぃぃぃぃ! ほ、本当に知らないんだって!」

 

「そォですか……なら派手に死ね!」

 

「そこまでだ、最愛」

 

 

 なんとか間に合った達也と深雪。

 一の左肩から先は、無かった。

 先程の状況と照らし合わせると、引きちぎられたということだ。

 

 

「あァン? なんだ、オマエか。だいたいいる理由は予想ついているが、銃を向けてるってことはつまりはそォいうことでいいんだよなァ?」

 

「俺はお前と殺り合うつもりは無い。ただその男を殺すのだけは待って欲しいだけだ」

 

「こッちのメリットを教えてもらおうかァ?」

 

 

 そして今の絹旗は、いつになく好戦的だった。

 あまりにも人の命を奪いすぎたのだ。

 前の警戒心丸出しの絹旗、穏和な絹旗、そして今の好戦的な絹旗。この内の好戦的な絹旗は、また別の何かがある。達也は何処か確信に似たものを抱いた。

 

 

「今は提示できない。だが出来る限りの事は融通を利かせる」

 

「……本当だなァ?」

 

「ああ。だからそいつは生かしておいてくれ」

 

 

 懐疑的な目を向ける絹旗。

 それに無表情で答える達也。

 両者の間に起きた、短い邂逅。

 その間が、一の運命を変えた。

 

 絹旗の正面の扉に、突如として斬り込みが入り始める。その光景をじっと見詰める絹旗。四角を描いて開けられたその扉の先にいたのは、竹刀を携えた一高生徒の姿。

 

 

「な、なんだこの惨状は!?」

 

「司波。これはどういうことだ」

 

 

 そして後ろから現れた大柄な男。部活動連盟会頭、十文字克人。十師族の十文字家の事実上の当主。

 世間には()()の名前を冠する家柄として有名で、その防御力は窒素装甲すらも超えると絹旗自身も思っている相手。故に、ここでの戦闘は避けなければならない相手だ。

 ここにいるということは達也と共に来た、つまり達也の仲間だ。達也への攻撃行動は、克人への攻撃行動に直結している。

 

 

「……チッ。命拾いしたなァ、オマエ」

 

 

 聞きたい情報に比べてこれでは割に合わない。

 あくまで()()として扱っている今回の突入の目的はほのかと雫の安全を脅かした者の排除。情報収集は二の次だ。

 第一目的は達成している。潮時だった。

 

 

「この状況の説明は後で。今そこにいるのがリーダーの司一です」

 

「なんだと!?」

 

 

 そして他の介入は不味いと思った達也が、標的を変えるかのように一の存在を開示。それによりドアを蹴り破った男子生徒は、一気に沸騰した。

 

 

「テ……テメェのせいで……ッ! 壬生(みぶ)がどれだけ苦しんだか! 思い知れぇぇぇ!」

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

 

 降り下ろされたのは竹刀。しかし振動魔法によって名刀さながらの切れ味を持つその刀は、顔を庇おうと反射的に掲げた一のもう片方の腕、右腕までも切り落とす。

 左は肩から、右は肘から落とされた一は、それまでの出血もあって既に意識を失いかけている。だがそこに無情と言うべきか自業自得と言うべきか、再び刀を構える男子生徒。その目は一しか映していなかった。

 

 

「これで終わりだ!」

 

「桐原ッ!」

 

 

 しかし、その一刀はドスの利いた威厳のある声によって制止させられた。

 

 

「そのくらいにしておけ。お前が手を汚すことはない」

 

「し、しかし……」

 

 

 一般の生徒に人を殺めさせるのは不味い、という十師族としての判断を下した克人。桐原も納得はしていないが、引き下がった。

 ギロッと一を見る克人。しかし一はこれから死の淵を彷徨うことになること確実の重傷。死因の一端を握らせるのもまた、よろしくない。

 克人は手際よくCADを操作して魔法を発動。

 肉の焼ける臭いと共に、一はその場で気絶した。

 

 静寂が、辺りを包む。

 

 

「待て」

 

 

 そして、無言で帰ろうとした絹旗に待ったをかけた克人。彼はこの場の収拾をつける者として、ここまでの経緯を知る必要があった。

 しかし、その呼び掛けに絹旗は応じない。

 その胆力は対したものだが、今の克人にそこを褒める訳はない。

 

 

「お前には説明責任がある。それを放棄することは許されない」

 

「……友人を守るためにやった。超それだけです。そんなデカイ図体して言うことは超小物ですね」

 

「黙って聞いていればテメェ――ッ!?」

 

 

 ここで沸騰した二年生の男子生徒、桐原。その心情を考えれば仕方のないことだろう。大切な人の心を弄ばれ、そして止めを刺すことも出来なかった。

 そこに恩がある克人に対する侮辱行為ともなれば、黙っている方がおかしい。だから竹刀に高周波ブレードを纏って威嚇するくらいのことは、むしろよく抑えた方だと言える。

 しかし今回は、相手が悪かった。

 

 

「……次は無いですよ」

 

 

 手で触れるなどその手をいらないと言っているようなもの。それを絹旗は弾丸の勢いで桐原に肉薄し、竹刀を手で掴んだ。キィィィンという甲高い音と共に竹刀の魔法は霧散。そのまま竹刀をへし折られたのだ。

 そしてまた無言で来た道を戻る絹旗。

 克人も今度は止めることはせず、何かを見定めるかのように絹旗の後ろ姿をじっと見ていた。

 




魔王絹旗、ここに見参。
入学編は終わりです。

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