――眠い。
仕事のある日ならこれを無視して起きなければいけないのだが、今日は休日。身体にムチ打ってまで起きる必要は無い。昨日の魔術師との死闘で気力も体力も消耗しているのだから、今は睡魔に任せてもう一眠りしよう。
そんな考えに至った最愛だが、ふと、違和感。
――何故、生きている。
睡魔は何処へやら、一気に意識が覚醒した絹旗は勢いよく起き上がり、周囲を見渡す。木造ならではの内装をしたそこは、暗部御用達の病院ではなかった。綺麗に片付けられ、寂しいとは思わない程度には家具が置かれた部屋は、とても生活感のあるもの。
防御膜も展開している。生きている。ということは、誰かが助けてくれたということなのだろうか。
ベッドから起き上がり、助けてくれた恩人とはいえ初対面。警戒も怠らずに部屋を出る。チラッと見えた窓からの風景から分かったが、ここは二階。足音を立てれば下にいる誰かに気づかれるかもしれないため、慎重に、だが確実に捜索をしていく。
二階は誰もいない。なら一階。
警戒は崩さず、階段を降りていく。防御膜は常に展開しているから不意打ちは大丈夫なはずだが、魔術師の例があるため今では気休め程度だ。
一階に到着。まずは近くの部屋へ。ドアが閉まってるため中は見れないが、人がいる気配はない。そっとドアを開け、中を見る。
キッチンと一人で使うなら丁度良いサイズのテーブル。そして椅子が一つ。助けてくれた人物は一人暮らしだと推察できる。
部屋の中を見渡し、再びテーブルに視線が移る。上に何か置いてあるのだ。
本来なら見ることを遠慮するものだが、彼女はそんな謙遜で生きていける場所に住んではいなかった。念のため隠れるような場所を把握してから、机の上に置いてある封筒を一つ取る。
どうやら取っても問題なかったようだ。
封筒には『最愛ちゃんへ』と書かれている。ここの住人が残してくれた線が高いが、そうなるとここの住人は暗部関連の人物である可能性が高い。
最大限の警戒をしつつ、身を潜めながら封を開け、中に入っている一枚の手紙を読んだ。
◆◆◆
――意味が分からない。
持った感想はこれだ。
意味不明な点が多過ぎて混乱している。
まず一つ目。手紙は確かに自分宛であり、差出人が誰なのか分からないのはよくあることだが、内容が不思議だった。
『最愛ちゃん一高入学おめでとう。お祝い金と今月分のお金は振り込んでおいたから、通帳確認しておいてね。最愛ちゃんにとっては知らないおじさんかも知れないけど、遠い親戚ではあるのだから遠慮なく家へ遊びに来ても良いんだよ? 雫もほのかちゃんも、最愛ちゃんのことを歓迎するよ。 北山潮』
一高入学おめでとう、だけなら潜入調査なのかと思えるのだが、どうやらそうでもない。お金の話は置いて、遠い親戚も何も自分には親戚がいない。いたら暗部などに身を落としていない。そして雫とほのか。誰だこの二人は。
そして一つ分かったこともある。それは、ここは自分の家だということだ。どういうわけか分からないが、文章の内容からしてその可能性は高い。まさか同姓同名で、同性で、たまたまあの場所にいた私を拾ってくれるなんて何光年レベルの奇跡が起きるはずがないのだ。
次に二つ目。ここが何処なのか確認しようと外へ出たところ、すぐにここが学園都市とは似て非なる場所であることがわかった。科学的な意味ではほぼ同じかそれ以上の町並みではあるが、学園都市を象徴する『窓の無いビル』が無いことが証明してくれた。
三つ目。情報収集の途中で見つけた図書館に寄った時だ。まず年号。絹旗がいた時は二十一世紀初頭だったはずなのだが、今は2095年。二十一世紀の終わりだ。そして学園都市の存在。自分は間違いなく学園都市にいたはずなのだが、図書館からはその一切の情報が取れず、魔術と同じ部類なのか分からない『魔法』についての記述のみだった。
この三点から導きだした絹旗の仮説はこうだ。
――自分が幻惑、精神系統の魔術に掛けられている。
あれほどの魔術師がいるのだ。このぐらいの魔術は難なく発動するだろう。そして、それを防ぐ術が自分には無いことも。しかし、こういうのは必ず糸口がある。今でいうならまずは、一高という場所へ行くことだろうか。入学式は明日。それまでにもう少し一高について調べておかなければいけない。そうやって本を漁る最愛の表情は、年相応の表情を浮かべていた。