冬眠から目覚めました。
深雪をA組から連れてきた最愛達は達也が指導を受けていると言われている指導室へと足を運んだ。その中でも特に最愛の足取りは非常に軽いものであり、非常にスッキリした印象を与えている。その様子を見かねた(?)のかエリカは分かりやすくため息を吐いた。
「最愛って本当にいい性格しているわね」
「それは超褒め言葉ですね」
エリカがそう言うのにも当然理由がある。深雪達を呼ぶという大義名分を掲げた最愛は迷うことなくA組へと向かった。その後ろにはあまりにもやる気に満ちている最愛と少し距離を置くように―――別に嫌っているわけではなく、嫌な予感がして―――ついてきたエリカ達なのだが、彼女達は今一科生から見れば「理論で負けた集団」というわけだ。特に最愛に関しては深雪以外のA組は全員未満である。
怒りに震えている彼らは二科生ということもあり目敏くその姿を見つけて非難と怒りの眼差しを向けられ、中には「カンニングして取れた上位は嬉しいか!」と直接野次を飛ばしてくる生徒までいるくらいだ。
だがこれは最愛の罠だった。
その野次を認めた最愛はニヤっと嘲笑い、あえて感情を逆なでするように言い放った。
「カンニングで上位とは超良いギャグのセンスしていますね」
「なんだと!?」
その煽りに一科生の生徒数人は一気に沸騰。最愛に迫るように罵倒を浴びせようとするも、だがそれを許さない最愛の追撃により閉口を余儀なくされる。
「携帯端末は当然使えない。監視もいる。この状況下においてカンニングはつまり超他人の答案を見ることになるのですが、まさか超全部写せると思っているのですか?」
二科生とは言え授業のように教えるわけではないテストには一クラスにつき先生は一人で十分足りる。つまり彼らの主張は先生の管理不足を指摘しているのと同義だ。
「たとえ写せたとして、深雪と平均点を十点以上も突き放した一位の達也、三位の吉田幹比古、そして四位のこの私よりも超上の学力の持ち主が最低でも一人、いや席が全員離れているので最低でも三人はいるわけになるのですが、まさか自分達の順位をさらに三つも落としたいと皆さんが思っていたなんて超気が付きませんでした! ごめんなさい!」
そしてカンニングは自分よりも学力が上の者にしか行わない。勿論今名前を挙げた者は誰一人としてカンニングなど行っていないが、もし行ったと仮定するとき、二位の深雪を大きく突き放した達也よりも上位の存在を認めることとなる。その事実を大げさな手振りとわざとらしい演技で一切の反省を無しに謝罪をした最愛の表情はいっそ清々しい程であり、兄に対する妬みを嫌というほど聞かされて不満を抱えていた深雪は素晴らしい笑顔で最愛達の元へと駆け寄ったのだ。おかげでほのかと雫は針のむしろもいいところだが彼女達は非難対象に入っていないのが幸いと言うべきだろう。
そして今の状況に至る訳で、エリカの言葉は多少の皮肉も込めた呆れだったのだが逆に胸を張られてしまったがために最早苦笑するしかない。しかも最愛はほのかと雫の連絡先は知っているし、深雪が九校戦の準備がある生徒会で忙しいためそもそも指導室まで来れないことを知っている。つまり一科生を煽るためだけに深雪達を呼びに行ったのだ。誰だってため息をつきたくなるだろう。
「一科生は一度超痛い目を見た方が身のためですよ。地頭は悪くないのにあんなクソみたいなプライドなんか持っているから私達に超後れを取るんです」
「最愛ちゃん、クソなんて言葉は女の子が使っていい言葉じゃないよ」
「すみません美月。でもそれ以外で彼らを超表せる言葉がなかったのが悪いんです」
「確かに達也さんへの妬みは酷かったけど……」
「でも意見には賛成」
しかも完全に無意味という訳ではなく、微量でも生産性がある煽りなのだから余計に質が悪い。美月の指摘が言葉遣いに留まったのもこれが原因であり、ほのかはあの嫌な雰囲気を―――達也や最愛への誹謗中傷とそれによる深雪の冷めた雰囲気―――思い出すように呟いて雫は最愛に意見だけは賛同する形を取った。
そして絶妙な雰囲気のままたどり着いた指導室の前。最愛が立ち止まったところでほのかと雫が駆け寄った。
「最愛ちゃん、大丈夫?」
「何がですか?」
「今日の最愛は何かを発散しきるような感じだった。もしかしてだけど……」
これには最愛も友人の感性に舌を巻いた。人を殺めたことによりしばらくブルーな気分だった最愛は休暇を設けてリフレッシュをした。これは学園都市においてルーティンみたいなものであり、これをやれば次の仕事に何も引きずることなく取り組むことが出来た。
「さすがですね、ほのか、雫。超正解です」
しかし今回、最愛はそのリフレッシュ方法を使っても完全にはリフレッシュすることが出来なかった。メリハリはしっかりと付ける最愛でも、あまりに
「何か心配ごとがあったら遠慮なく相談してね?」
「今は超大丈夫ですが、もしそうなった時はお願いするかもしれません」
「全然構わないよ」
しかし八つ当たりを終わった現在は完全に切り替えている辺り、最愛はメリハリが付いていると言えるだろう。
♦︎♦︎♦︎
それと時間を同じくして部活連本部。
そこでは克人と真由美が密談を行なっていた。
「七草は絹旗最愛という生徒を知っているか?」
「ええ、知っているわ」
話題に上がっているのは最愛。だが二人の険しい表情からとても良い話題だとは思えない。
「絹旗さんの魔法は正直に言って理解の範疇を超えているわ。魔法を打ち消しているのにその打ち消している魔法が分からないなんて」
「同感だ。しかしあいつは思っている以上に厄介のようだ」
「それはどういう意味?」
克人から不穏な雰囲気を感じた真由美は考えるように落としていた視線を上げた。
「七草は先日のテロの結末をどこまで知っている」
「そうね……十文字家が引き受けてくれたお陰で世間には広まらず一高生徒にも十文字君が解決したことになってるけど、解決の本当の要因になったのは達也君と深雪さんってことぐらいね」
「そうか。間違いではない。だが正しくもない」
克人から返ってきた答えは真由美を驚嘆させることに十分な質量を含んでいた。
「まさか絹旗さんが一人で解決をしたの?」
話の繋ぎ的にはそう思うのも無理はない。だが現実はもっと複雑で、もっと悲惨だった。
「解決だったら良かったのだがな」
そして含みのある言い方に今度は閉口して次の言葉を待つ真由美。ただ単に介入していた訳ではないことが容易に想像できる。
「俺たちが突入した時にはリーダーの司一を除くブランシュメンバーが既に全滅していた。それも無力化ではなく一方的な惨殺だ」
真由美に言葉はない。だが吃驚していることに間違いはなかった。あの克人をして惨殺が正しいと思わせるほど凄惨な様は高校生が行なって良いような、というよりも人として行なって良いものではない。
「魔法はもとより、キャストジャミング、銃、ナイフまでも効かないあいつの魔法は俺の『ファランクス』と同レベルの防御力を持っていると言っても差し支えないだろう」
「十文字君がそこまで言うなんて……」
「それにあいつは人を殺すことに対して何の躊躇いもない。頭が吹き飛んでも、身体が真っ二つになっても、原型を留めていなくても、それが例えば自分の手で行われた物だとしても、あいつには関係がない。率直に言えば、あいつは危険だ」
そこまで言われたらこの次に続く言葉は容易に想像できる。そしてそれがバレた際にはどうなるか想像がつかない、最愛を逆撫でするようなことだ。だが確認も兼ねて真由美は問いかけた。
「まさか監視を付けるの?」
「いや、分かってると思うがそれはあいつを刺激するだけだ。だから俺たち自身が監視をする」
だがそれについては当然克人も分かっている。だから別の方向からアプローチをかけることにしたのだ。
若干の戸惑いを見せている真由美を真っ直ぐに見据えた克人は、こう告げた。
「あいつには九校戦に出て貰う」
さあ結びつけていきましょう。