魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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交渉

 達也が解放されたのは指導室に絹旗達が着いてから四半刻が過ぎてからだった。達也は指導室を出た直後にその姿を認めて困惑したような表情を浮かべていたが、自身を心配している―――表面上だけという人物が少なくとも一名いたが―――ことが分かったため指導室内で実技試験について訊問を受けてた事、実技は本当に苦手だということを話したら四校を勧められたことを丁寧に話した。

 レオ達がそれについて憤慨したのは言うまでもないがいつもならこのまま帰路につくはずだった。

 

 しかし今日はそのいつもとはいかない。

 指導室の前ということもあり目立っていた一行だが、その二人、真由美と克人の登場により周囲の視線は一点に固定された。そして誰もが達也に用件があると思っていた。達也自身も理由は分からないが自分に用があると思っていたほどだ。

 だからこそだろう。克人から話しかけられた対象が達也ではないことに全員が意外感を覚えたのは。

 

 

「絹旗だな」

 

「超そうですが」

 

「絹旗さん。話があるので生徒会室まで来てくださいませんか?」

 

 

 その対象は最愛。しかも意外なことは連続して起こるものだ。

 いつもの最愛なら上級生だろうが十師族だろうが無関係に断る事案だ。実際通常なら最愛は断っている。

 だからレオやエリカが呆けた表情を浮かべるのも仕方のないことだ。

 

 

「いいですよ。超手短にお願いします」

 

「出来るだけ早く済ませよう」

 

 

 真由美と克人に連れられる最愛を見て、唯一達也だけがその理由の根底にあるものに気が付いていた。

 

 

 

 不満気な顔を一切隠そうとしないで二人についていく最愛は一言も話そうとはしない。最愛自身どういう切り口であれ最終的な目的は理解しているし、それがこの道中で話していいようなものではないことも理解している。理解しているからこそ不満なのだ。

 生徒会室へと入り真由美に案内された席へと腰を落ち着かせた最愛。たとえバレているとしてもあくまで今は何も分からないふりをして相手の出方を探る。

 

 

「急に連れてきてすまない。何か飲むか?」

 

「超お構いなく。それで何の御用ですか?」

 

 

 まずは定型ともいえる社交辞令で迎えた克人だが、最愛は長居をするつもりはないと暗に告げて話を促す。

 しかし真由美は単刀直入に話を進めることは無かった。

 

 

「絹旗さんは九校戦に興味がありますか?」

 

「超興味はあります」

 

「それでは―――」

 

「それでは次はこちらから」

 

 

 一問一答形式で話を進めようとする真由美に、だがそれは許さないと最愛が被せた。

 

 

「今日呼び出した用件は何ですか?」

 

 

 質問をする側と受ける側ではする側の方が有利な立場にある。今回の場合特に黙秘は何か意図があることを示唆することになり、一度答えた場合も都合が悪いことで黙秘すれば意味は無い。全部答えるなど論外。

 だから最愛はあくまでも対等な立場というスタンスを取ったのだ。

 チラッと克人に視線を送った真由美。「どうすればいいの?」というものだったが、克人は最愛と真由美の質問に同時に答えてみせた。

 

 

「絹旗には九校戦にメンバーとして参加して欲しい」

 

「超お断りです」

 

 

 即答の否定。だがそれくらいで折れる二人ではない。

 

 

「理由を聞かせては―――」

 

「超回りくどいです」

 

 

 これには質問をしようとした真由美も思わず顔を顰めてしまった。二度に渡って質問を遮られた無作法な振る舞いに対しても勿論だが、それ以上にやりづらい相手だと思ったのだ。

 

 

「素性を明かし、ついでに口を滑らせて能力についても超知りたい。はっきりとこう言ったらどうですか?」

 

 

 そして何より性格が悪い。言いたいことを全部当てられた真由美は下手に出ることができないため心の中で舌打ちをするというささやかな抵抗しかできなかった。

 十師族とはいえ長兄、次兄といる真由美にとってこういった駆け引きはあまり出会わないものであり、せいぜい一般家庭―――魔法師を一般と言ってもいいのか難しいところだが―――よりは慣れている程度。日常が、というよりもそもそも生きていくことそのものが駆け引きの世界で、下手を踏めば命を落とす危険もある闇に生きていた最愛とは潜ってきた修羅場の数、難易度、密度が段違い。場数以外にもスキルや搦め手などあらゆる点において歴然とした差が生まれていた。

 

 

「言いたいことが分かっているのなら話は早い。勿論見返りの融通は利かせるつもりだ」

 

 

 だが克人は違う。高校三年生にして既に十文字家次期当主を与っている克人は十分な場数を踏んできている。開き直りも誘導も、この状況下において真由美にはできない芸当だ。

 

 

「なるほど。さすがは十師族の次期当主。話が超分かるみたいですね。考えているプランを教えてください」

 

 

 だがある程度スキルがあるために立場的有利を取られてしまう。今最愛は任意でこの場にいるだけであり、向こうが最愛を無下に扱った瞬間に帰ることも可能。対話に応じる姿勢を見せている限りは克人も従うしかない。

 

 

「まず先に言っておくが、俺が九校戦に誘う理由はその力が優勝に必要なものだと本気で確信しているからだ。絹旗の今ある情報からしてアイス・ピラーズ・ブレイク、クラウド・ボール、バトル・ボードの三種目が妥当だと思っている。それ以外の種目も含めて、まずはルールブックを確認して欲しい」

 

 

 そう言って手渡されたルールブックを手に熟読する程十数分。しっかりと吟味した上で、最愛は口を開いた。

 

 

「一種目だけ出られますね。続きを超お願いします」

 

 

 どの種目かは告げずに答えた最愛だが、それだけでも克人としては及第点だったのだろう。特に表情を変えることなく淡々と続ける。

 

 

「その競技で能力を使ったまま一度試合をして欲しい。相手は俺か七草で行おう。そこで最終的な適正を確かめさせてもらう」

 

「そこで超適正があればそのまま採用して優勝に近づける。超適正がなくても能力を目の前で使ってくれれば自分たちとしては超問題ない。こちらも能力を超見せるだけで良いから分からなければ分からないまま、とこんな感じですか」

 

「その通りだ」

 

「なるほど、確かに超面白いプランです」

 

 

 最愛はそれを本当に面白いプランだと思ってる。それこそ笑みを浮かべるくらいには面白いと思った。だから真由美も、克人ですら表情には出さずとも乗ってくると思っていた。

 しかし最愛が笑顔のまま紡いだ言葉に、ついに克人までが言葉を失う。

 

 

「でも超足りないですね」

 

 

 この条件、両方に利点があるようで全くそんなことはない。

 

 

「そもそも何故私が超利点もないプランに乗る必要があるんですか? 能力のことを話さないというのは超利点ではなくて絶対条件です。それとも別の超利点を用意してくれているんですか?」

 

 

 最愛はこの誘いにそもそも乗る必要がない。これは利点があるように思わせて相手を乗らせるための罠だ。だから最愛はあえて相手の言いたいことを全部言うことによって相手の足掻きを一切許さない。

 

 

「何が欲しいのだ」

 

 

 よって克人は最愛の要求を聞くしかない。しかも克人が要求を先にしたがために最愛の要求はある程度呑まなければならない。

 どう考えても最愛の交渉スキルは高校生の域を超えている。少なくとも真由美は勿論のこと、克人ですらその域には達していない程だ。

 

 

「超物分かりが良くて助かりますが、そんなに超身構えなくても平気ですよ」

 

 

 だから必然的に克人、そして今は傍観に徹している真由美ですら思わず身構えてしまった。だからそういう意味では杞憂に終わったと言うべきだろうか。良い方向か悪い方向かどちらに転がっているのか克人と真由美には測りかねている。

 

 

「今から言うことを超手伝ってくれるだけで良いのですから」

 

 

 だから意図が分からない答えに、克人は沈黙を余儀なくさせられてその手伝いと言う名の条件を聞くしかなかった。

 

 

♦♦♦

 

 

 深雪は生徒会、他全員は部活動のため電子媒体の図書を読み漁っていた達也に静かな着信音が流れる。無作法だとは思うが現代では個室形式になっている図書館では携帯の着信音もマナーモードがあたりまえだという風潮が残っているが、マナーと括られるほど大事な事でも無い。

 確認するだけのつもりでチラッと見た達也は、だがその内容に目を奪われてしまった。考えること数秒。達也は全ての機器をシャットダウンして個室を出て行った。

 メールの相手は真由美。内容はこうだ。

 

 

『今から私と絹旗さんでクラウド・ボールの試合を行います。達也くんにも立会人をして貰いたいので、添付した場所に来てください。絹旗さんの許可は貰っているので気にしないでね』

 




まぁこんな感じで九校戦に関わっていきます。
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