九校戦準備会合が終わってからというもの、最愛の学校生活はゆったりのんびりとした日常から、授業が終わったら同じように選手に選ばれたほのかや雫と一緒に最終下校時刻まで競技の練習という絵面だけで見れば青春謳歌を全うしているようなものではあるが、実際のところそんなたいそうなものではない。
その合間合間に九校戦の発足式や学期の終わりを告げる終業式等を迎えた訳だが、結局学校には行かないといけないため内情は変わっていない。
だがそれも直近となれば、雰囲気はがらりと変わってくる。
八月一日、九校戦前々日の午前。
最愛はバスの中で一人映画鑑賞を行っていた。出発時刻はとっくに過ぎているのだが、真由美が家の事情で遅れているらしい。達也と摩利以外はバスの中で待機しており、最愛は出発しても見続けられるという理由で映画鑑賞を行っていたのだ。
本来は映画館で観たいのだが、今見ているのは過去作。劇場ではもうやっていないため仕方なく端末にレンタルして鑑賞している。
しかし最愛が見る映画はやはりというべきか知名度が低いものであり、最近見ているものは例の映画好きマスターと親交を深めているうちに出てきた名前の映画だ。マスターはネタバレや飽きるような言い方などせず、その続きが気になる、という部分であらすじの説明を終えてしまうがためにその全てが『見たい映画』に変換される訳だが、マスターの薦め方が上手すぎるが故に映画が残念に感じてしまう。
だが今回は見事に当たりを引いたようだ。主人公の母校が廃校になってから数年、そこは肝試しや探検に向かった人がいなくなるという神隠しの学校で、当時の同級生たちが集まって謎を解明するという案外なじみ深そうなものではあるが、役者の名演技に加えて臨場感あふれるカメラワーク、そして伏線が伏線を呼び完全に視聴者を惑わす物語、そして神隠しの犯人は主人公だったという突飛な展開でありながらも、それまでの謎との関連性や行動理念の辻褄が合い、全ての伏線が回収されるという衝撃的なラスト。
最愛が見た歴代映画の中でも最大級の出来栄えだろう。むしろ何故埋もれてしまったのか最愛には理解できなかった。たまにこういう当たりを見ることができるからB級映画鑑賞はやめられないのだ。惜しむらくはこれを劇場で見ることができなかったことだろうか。
多分の満足感を胸に自分の世界から帰還した最愛は、既にバスが出発していたことを理解した。出発時刻から既に二時間が経過している。出発時刻から映画を見始め、三十分程経ってからはのめり込んでいたためその間に出発したのだろう。
「最愛ちゃん……」
そこでふと、自分の名前を呼ばれていることに気が付いた。
横を確認すると、そこには涙目のほのかが懇願するかのように名前を連呼していたのだ。
「ど、どうしたんですかほのか。超乗り物酔いですか?」
「違うよ! 隣見て隣!」
非常に呑気な最愛に対してほのかはもう耐えられないといった様子。よく見れば周りの空気も非常に重い。さらに最愛の隣から、物凄く不気味な雰囲気を感じ取ることができた。
首を百八十度回転させた最愛。そこには窓の外を眺めながらぶつぶつと何かを愚痴っている深雪の姿があった。
周りの反応を見るにどうやらずっとこの調子らしい。最愛自身この状態の深雪の真隣でよく映画鑑賞を、そしてその余韻に浸れたなと思えるほどには、今の深雪は不機嫌だった。
「どうしてお兄様がこんな炎天下で待たないといけないんですか……別にお兄様がやらなくてもいいのに……」
どうやら深雪は達也が炎天下で真由美を待っていたことが気に入らないらしい。それも真由美を待っていたことに対してではなく、真由美が遅れて来ると分かっていたのにも関わらず何故外で待つ必要があったのか、という点について不満のようだ。
普段ならそこまで理解したところで他人事だと無関心を貫く最愛だが、今は非常に気分が良い。たまには深雪のご機嫌取りをやってしまおうかと思っている程度にはいい気分なのだ。
「確かに超その通りですよ、深雪」
ビクッと深雪の背中が揺れる。
どうやら独り言を聞かれているとは思っていなかったようだ。
こんな静かな車内での独り言はそれなりに響くものだが、そんなことですら抜けている程深雪は不機嫌だったということだろう。
「私や他の人のようにバスで超待っていても誰も何も言わないと思いますが、それでも達也は言われたことを超こなしていたのです。依頼されたことをやり通すことは当たり前ですが、完全に超やり通すということは意外と難しいものなんですよ」
最愛の言っていることはなんてことないはずなのだが、そこには妙な説得力があった。
「でも達也は超完璧にこなした訳です。私はこの炎天下で待つなんて超やりたくないです。私は達也のそういうところ、超高く評価していますよ?」
この最愛の言葉は深雪の雰囲気を感じ取っていた生徒全員が耳にしていた。
そして最後に言った評価している、という言葉は同年代に向かって言えば自分が相手よりも上であることを示しているため説得に使うという意味では的外れも良いところの文言ではあるのだが、深雪の威圧感とも呼べる雰囲気は段々と鳴りを潜めていった。
「そ、そうよね……最愛に評価されているなんてお兄様ったら……」
達也と深雪、最愛の関係を知らない者にとっては何故深雪が段々ご機嫌になっていくのかは首を傾げざるを得ないが、深雪から見て最愛はどちらかと言えば敵対側であり、その実力は達也、師匠である八雲や十師族である真由美、克人も認めるもの。そして最愛はお世辞を言うような性格をしていない。そんな最愛が高く評価しているというのは、深雪にとっては大きな意味合いを持つのだ。
知らない者も何が起きたかは理解せずとも、状況が良くなったことは変わりない。誰もが心の中で最愛に最大限の賛辞を送り、ほのかはガッツポーズをしているそんな和やかな雰囲気のバス車内。深雪の雰囲気も温和になったことにより深雪の周りには人が集まり始める。
そして隣にいる最愛にもまた声をかけ始める人、両者共に上級生が多く見受けられたが、それは狭いバスの車内では一種のパニック状態にもなっていた。
見かねた摩利が叱責を入れた後に深雪と最愛を自身の真後ろへ、そして深雪と最愛の後ろに克人がつくという事も起きたが、それ以外は非常に平和な時間が過ぎていた。
その車内に、一つの悲鳴が走る。
「危ない!」
一瞬にして全員がバスの外を覗いた。
その視線の先、対向車線には大型車が傾き火花を散らしていた。普通ならこちらへの被害を気にしてパニックになったりするものだが、ここは実戦魔法師の育成機関でもある第一高校の中でも特に精鋭の生徒達だ。そこの緊張感らしい緊張感はない。現在走行中のハイウェイは対向車線との間に堅固なガード壁が置いてあるのも一因となっている。
だがその大型車はあまりにも、不気味だった。
「これ超こっちにきますよ」
「それは―――!」
証拠は無い。だが長年―――実戦経験という面で―――の勘により確信を持って呟いた最愛に深雪が問いかけようとしたその瞬間、短い悲鳴が上がった。
大型車は突如としてスピンをし始め、ガード壁に激突し宙を舞いながら対向車線へと入って来たのだ。
急ブレーキによってバスは止まる。
直撃は避けた。
だが車は炎を纏いながらバスへと一直線に向かっている。
「吹っ飛べ!」
「消えろ!」
「雫は超落ち着いてください」
「―――ッ!」
この状況に陥って尚パニックにならなかったことは大変褒められたことだろう。
だが魔法科高校で勉学に励んでいた最愛はその状況が悪手であることを理解しており、こうなることは大型車がこちらに来ると分かった時からある程度は予想していた。
だから最愛は全体を見る余裕があり、そして魔法を行使しようとしていた雫を確認、案の定立ち上がったため何か言う前に雫の腕を掴んで正面に立ちふさがった。
「バカ、止めろ!」
そして摩利の叱責によって残りの二人も魔法をキャンセルするも、完全に魔法を止めた雫とは違い残りの二人は中途半端に魔法が発動している。無秩序に魔法を発動しているため、結果として無秩序な事象改変が起こるのだが、キャンセルされているため何も起こることは叶わず、しかしその場に魔法式の残骸があるためその魔法式を吹き飛ばす程の魔法力が必須となってしまった。事実上のキャストジャミングである。
だがそれでも後発組は冷静に動いていた。
「私が火を!」
その言葉と同時に立ち上がったのは、既に魔法の発動準備を終えている深雪。それに呼応するように克人も防壁の魔法を構築した。
最愛のおかげで多少は弱くなっているとはいえ、それでも
無秩序に放たれていた魔法式が、突如として吹き飛んだのだ。
それと
そういえば鬼滅の刃の新作書いてます。
原作12巻以降からスタートのためアニメ勢やそこまで読んでいない原作勢の方はネタバレ注意です。興味ある方は是非一読の程よろしくお願いします。
師の意志、現世へ継ぐ
https://syosetu.org/novel/211707/