最愛のさりげなくも際どい質問攻め―――数は少ないが達也の神経をすり減らしたため文字通り攻めである―――はタイミングの良い無駄行事によって救われることになった。
来賓の挨拶だ。
それは賑やかだった高校生達が静まり返って真面目に、またはそんなフリをして聞くものであり、その結果最愛も口を閉じることとなったのだ。静かなところで話すようなことではないし、それは明らかにラインを超えることを最愛は分かっている。
正直最愛にとっては優位性を保ち続けることができたことにはできたのだが、あまりにも中途半端なため若干不満そうに壇上を見詰めている。
達也としては顔を知っている人が壇上に立っているのを無表情で見詰めながらも内心はホッとしていた。
際どい攻め程神経を使うものは無い。
入れ替わり立ち替わりで来賓挨拶が終わっていく中、恐らくこの来賓の中で最も注目を浴びる人物の名前が司会者によって紡がれた。
十師族の長老、「老師」の異名を持つ
十師族という地位を確立した人物であり、二十年前までは世界最強の魔法師の一人として目されていた人物だ。最強の名を保ったままその座を引いたが九校戦だけは毎回顔を出しているらしく、勿論最愛も魔法を学ぶ上で知っている。
まだ半年しか関わりのない最愛にはあまり感動は無いが、他の魔法師にとっては歴史を作った人物が目の前に現れる訳であり、その感動は言葉で言い表せない程だろう。
人が舞台に立った気配がしたと同時に、暗転していた舞台にライトが照らされる。
会場が、どよめいた。
舞台に立っているのはパーティドレスを纏った金髪の女性。
決して九十歳の男性などではない。
無数の囁きが交わされる中、最愛と達也も例に漏れず囁きを交わしていた。
「達也、女の人の超後ろにいる爺が九島烈ですかね」
「……そうか、最愛には精神干渉魔法も効かないんだな」
「精神干渉魔法? あの爺が魔法を超使っているんですか?」
「そうだね。たぶん悪戯だと思う」
しかしその会話は例と違いその正体を見破るものだ。
女性がライトに照らされていることで視線が誘導されてしまうことに加え若干暗いため見えにくいのだが、女性の後ろには白髪の老人が立っている。
その老人は最愛と達也が視ていることに気が付いたのか悪戯が成功したような顔で意地悪く嗤っている。
「どんな偉そうな人かと思えば超クソ爺ですよ達也」
「そう言うな」
最愛は性格の悪い老人としか思っていないが、達也はその魔法の弱さに対しての影響力を見て感動に近いものを覚えていた。
ライトに照らされた金髪の女性という目立つ対象を用意して視線を逸らすという現象を意図的に、しかもこの何百人いる人間を対象に非常に微弱な魔法で成功させたのだ。
烈が女性へと囁いて、女性がスッと脇へ退いた。
会場が再びどよめく。
「まずは悪ふざけに付き合わせてしまったことを謝罪する」
その声は九十歳とは思えない程若々しいものだった。
「今のはちょっとした余興だ。魔法というよりは手品の類いだ。だが、手品のタネに気づいた者は、私の見たところ六人だけだ。つまり―――」
烈の一言に大勢の高校生が耳を傾けている。
次に何を紡ぐのか、どんな仕掛けがまだ残っているのか、それだけが注目の的だ。
「―――もし私達が君達の
烈の口調は特に強くなった訳ではない。
だが会場は、それまでとは別種の静寂に覆われていた。
この言葉も一種の現象と言えるだろう。
烈が出したのは仮定とは言えかなりの極論であり、この場においてはあり得ないことと言っても過言ではない。だが否定する要素もない。そして烈が言ったという事実。これらの要素が相まって強力な説得力を生み出していた。
基本屁理屈気味な最愛ですら納得をしてしまった程だ。
烈の演説は更に続き、今使った魔法の強度から関連して使い方を誤った大魔法よりも使い方を工夫した小魔法の方が勝ること、九校戦はその使い方を競う場所であることを工夫という一言に表して括った。
聴衆の全員が手を叩いたが、一斉にとはいかなかった。
まばらに始まり、段々と音量を増していったのだ。
「そんなに超愉快な演説でしたか?」
他の聴衆と違わず拍手をしていた達也だが、最愛の指摘した通りその顔は非常に楽しそうなものだった。
「ああ。老師が言ったのは今のランク至上主義である魔法師社会に異議を唱えるものなんだ」
「その頂点に立つ人物がその在り方を実演をして否定したことが超楽しかった……とか?」
「その通り」
十師族を作った人物とだけあってその影響力は絶大。口に出しただけなら反感を買ってしまうそれも、実演を伴ったものとなれば話は別だ。
——私は出来る。お前達はどうだ。
演説が終わったと共に再び眼が合ったその老人の嫌らしい笑顔は、最愛にとっては本気ではないイラつきによって、達也にとっては面白いものを見せてもらったというものによって、それぞれやる気に火をつける結果となった。
♦♦♦
「達也、仕上がりはどうですか?」
「最愛が言った通り俺のやりやすい様に改良はしてみたが、一回持ってみてくれ」
九校戦前々日に会場入りしたのは例の懇親会に参加することと、前日を休日に充てるためだ。そして選手やエンジニアにはそれぞれ部屋が割り振られており、最愛と深雪、ほのかと雫と綺麗に分かれてはいるのだが、達也のルームメイトは機材となっている。
そんな大きいことはできないが軽い調整ぐらいならできるようにはなっており、最愛は九校戦で使うCADの調整をしていた。
「まあさすがは達也と言ったところでしょうか。超使いやすいです」
「そうか。試合のとき俺はそっちに行くことはできないが応援はしてる。でも本当にあの作戦で行くのか?」
「練習でも超ハマっていたので大丈夫だと思いますよ。後は超使い方です」
「ラケットの方はどうだ?」
「ラケットの素材についてルールを見てみましたが超大丈夫でした。ただ普通のテニスみたいに打てないのが超苦労してます」
最愛は通常のラケットでは無いため真由美と克人に特注したラケットを使っている。そして能力があるためCADを必要としないが、最愛は現在拳銃タイプの特化型のCADを持っていた。
最愛はラケット主体は勿論のこと、CADとラケットの併用を以て桐原に全勝をしているのだ。加えるとCAD単体では最愛が対戦を拒否しているため無敗というのもある。
「そうだとしてもモノにしてるだけすごいと思うぞ」
「そうですか。まあ超優しい最愛ちゃんは今回の件で能力についてはもう触れないであげますよ」
「助かる」
最愛は元々もう触れないつもりではいたが、達也も明言してくれた方が安心はできるし最愛にとってもこれ以上は達也の返し方によって不利になりかねないため、決着を付けるという意味でも良い口実となった。
そして達也も最愛の能力について精神干渉も効かないという情報を予期せぬところで手に入れることができたため、お互い不可抗力ということで無しにしようという気分になっていた。
「今日はどうするんだ?」
「とりあえずは超のんびりしてますよ。やることが超ある訳でもありませんし」
「そうした方が良い。最愛はクラウドだからな」
最愛の参加するクラウド・ボールは九校戦の中でも特にハードと言われており、体調管理が選手の責務となっている。最愛の能力を詳しく知らない達也でもあの能力が無尽蔵でないことぐらいは分かる故の心配だ。
CADを持って部屋を出ていった最愛を見送った後、達也はCADの情報と睨みあいながら九校戦前日を過ごすこととなった。
キリが良いのでここまで
最愛に微弱の精神干渉効かないのは窒素装甲よりAIM拡散力場によるものです。
達也の勘違い加速させていきましょう。
次回から九校戦スタートです。