第一レースは、圧倒的だった。
開幕四校が後方を爆発させて自分だけ推進力を得ようとしていたが、結果は自滅行為。一人だけ対応して見せた摩利が開幕から独走状態となった。初日のバトルボードは予選のみであり、一高の選手の出場は午後から。しかし午後からはスピード・シューティングの準決勝と決勝が行われるため最愛達はそちらを見に行ったが、真由美の技量が圧倒的過ぎて予選と同じ魔法で突破してしまったという点以外は特筆することもなく優勝を飾った。そもそも世界的に高水準である真由美は既に高校生レベルではないため、個人戦で負ける可能性は皆無だった。
ちなみに男子スピード・シューティングの服部も優勝を飾っている。
そして九校戦は二日目に突入するが、ここで最愛にとって嬉しくないニュースが飛び込んできた。なんでも達也が今日行われる女子クラウドの副担当をすることが決まったらしいのだ。これでは魔法についての解説が無くて困る。加えて同時刻にピラーズ・ブレイクの試合もあるため新人戦の選手である深雪と雫はそちらに向かうこととなり、ほのかもついていくこととなる。残念ながら最愛の出場競技はクラウドであるためそちらを見に行かなければならず―――なんてことはなく普通にピラーズ・ブレイクを見に行った。
実戦的な魔法が多く見られ、さらには深雪や雫、ほのかと魔法に詳しい人が多いのだ。加えて深雪と雫はその眼で実際に魔法を見ているだろうし、それらの長所短所も知っているはずだ。つまり解説役として不足はない。
エリカやレオは「出場競技だし俺達も一緒に行くから見に行こうぜ」と誘ってくれたが解説者がいない競技など見る意味が無い。真由美のストレート勝ちなのは目に見えている。そもそもどちらを見るかなど考える余地も無かった。
最愛の最優先事項は、生きることただ一つなのだから。
ピラーズ・ブレイクに出場する選手で優勝候補とされているのは二年生である千代田花音。先の事件で真っ先に魔法を発動して鎮圧化を図ろうとしていた残り二人のうち一人(もう一人は森崎)である。
応援も兼ねて見に来ているのだが、人はそれなりにいるといった感じだろうか。恐らく大半は真由美のクラウドを見に行っているはずだ。その点を考えたらこの人数は多いと評しても良いのかもしれない。
まずは一回戦。相手は四高の選手だ。
アイス・ピラーズ・ブレイク。通称ピラーズ・ブレイク、棒倒し等と呼ばれている。
選手は自陣奥に設置された高さ四メートルの櫓の上に立ち、十二メートル四方の自陣に配置された氷柱十二本を守りながら、十二メートル四方の敵陣の氷柱十二本を先に倒す、あるいは破壊するという競技だ。真夏に氷柱を用意することや広範囲のフィールドの関係上、競技フィールドは男女二面ずつの四面を確保するのが限界であり、一回戦十二試合、二回戦六試合の十八試合を行うのが一日の限界だった。
またこの競技性故に身体能力は必要なく、純粋な魔法力や駆け引きが重要となってくる。
故に見栄えが良く、非常に人気の高い競技だ。
魔法の煌びやかな攻防戦、圧倒的魔法力から放たれる殺傷ランクAの魔法等魔法技能を見られるのも人気の一つだが、それ以上に公序良俗に反しないもの以外の制限が無いユニフォームの自由という点があるだろう。各々が自身の落ち着く衣装、気に入っている衣装等多種にわたり、九校戦のファッションショーとまで言われている。それを目的に見に来ている者も少なくは無いのだ。ちなみに最愛は九校戦期間ということもあり花より団子、服より魔法である。
「雫、あの人は超強いのですか?」
「うん。百家千代田家。振動系統・遠隔固体振動魔法の中でも地面を材質関係なく振動させる魔法を得意としている。地面と言う概念を持つ固体に強い振動を与えられるという『地雷原』と、『地雷を作り出すもの』=『地雷源』という二つの点から千代田家には『地雷源』という二つ名が与えられている。去年の新人戦ピラーズ・ブレイクの優勝者……始まる」
最愛の問いに雫はその詳細を話し終えた同時に、試合開始の合図が点く。
そしてその場の全員が、地雷源と呼ばれる所以を直に感じた。
正しく直下型地震。
上下の爆発的な振動に相手はすぐさま硬化魔法で地面と氷柱をくっつけ転倒を防ごうとするが、そのまま十二本全ての氷柱が倒壊した。
圧倒的な魔法力での最短決着。
―――有用な魔法だ。
ただ振動させているだけに見えるが、使い方は多岐に渡る。振動により建物を倒壊させる手法は勿論のこと、相手の直下を振動させて一時的に拘束することもできる。大多数の侵略戦や少数での防衛戦、対陸上兵器等単純故に戦争での使い方も非常に幅広い。だが最愛はその魔法を、問題なしと判断した。
「為す術も無くって感じだな」
「対抗魔法はそれなりにありますが、変に氷柱を強化したり固定したりしたら逆に氷柱は壊れやすくなってしまいます。今回は振動で転倒させないための硬化魔法が裏目に出ましたね」
「中途半端な魔法は逆効果ということね」
「ええ」
レオの客観的な呟きに深雪が理論的に返し、エリカがなる程と頷く。
このピラーズ・ブレイクにおいて防御した方が不利という状況はつまり短期決戦を意味するが、倒しても負けという条件の中、文字通りの直下型地震を無防備というのは得策とは言えない。対処するかやられるよりも早くやるか。ピラーズ・ブレイクにおいて厄介な魔法だろう。
そしてピラーズ・ブレイクも良くても悪くても高校生レベルというべきか、そこまで強力な魔法は見られないようだ。
陸上兵器に対して十師族並みの破壊力を誇ると評されている魔法を超えるような魔法は、雫から聞いた感じ出てこない。つまり新人戦前までの本戦で見るべき競技は決勝戦のピラーズ・ブレイクのみであり、午後から見る競技が無くなったとも言える。むしろ新人戦の方が最愛の目的として見栄えが良さそうだ。
ここで、エリカが席から立ちあがった。
「さてと、私はちょっと行くところがあるから行ってくるね。美月も行こう」
「私も良いですが……吉田君もどうですか?」
「うん、良いよ柴田さん。レオも行こう」
「いいぜ。最愛はどうする?」
「超行きますよ」
「……結局行くのね」
「桐原の試合を超見に行くんですよね。もしかしたら良いものが見られるかもしれないので行きますよ」
「最愛ちゃん……」
まさかの二科生面子全員集合。
エリカが美月を誘い、美月が幹比古を誘い、幹比古がレオを誘い、ダメもとでレオが最愛を誘うという構図だ。最愛の言った通り桐原の試合を見るためだが、先程頑なに行こうとしなかったのに何故かいきなり乗り気になって、しかもその理由が何とも不穏―――この場にいるものでは無く、桐原にとって―――なのだ。苦笑するのが精一杯である。
ちなみにエリカが何故桐原と面識があるのか。それは例の襲撃事件に遡るが、最愛が聞いた雰囲気だと剣道や剣術の繋がりによるものらしい。その際に桐原の恋人となったのが壬生紗耶香という二年E組の生徒であり、こちらは最愛も実際に会ったことがある。剣道を嗜んでいる麗人と評するに相応しい人物であり、彼氏と同じで非常にいじりがいのある人物だ。
紗耶香は競技場で席を確保しているらしい。行ったら分かるがクラウド・ボールは真由美が出ているため桐原の試合にはあまり人はいないため席の確保は他の競技と比べても容易だ。競技場に着くと、手を振って居場所を教えてくれる紗耶香の姿があった。若干困惑顔なのは予め連絡が行ってあったものの、予想以上に連れ人が多かったからだろう。だがすぐに慣れたところに紗耶香の人の良さが伺える。
桐原の一回戦は席についてからものの数分で始まった。
花音のピラーズ・ブレイクが初戦、桐原のクラウドが三戦目であったこと、花音が最短決着だったこと、男子クラウドの一戦目が第五セット、二戦目が四セットまで続いたことが挙げられる。花音が少し時間をかけていたり他の試合が長引いたりしていたら恐らく始まっていただろう。
ちなみにクラウドの試合は男女合計六面で行われており、今日中に決勝まで行う。試合と試合の間隔も短いため非常にハードな競技だ。
相手の選手は二高。
お互いにラケットタイプであり、魔法技能だけでなく壁や天井からも来る低反発ボールの軌道や何処を狙っているか、何処を狙うかという心理戦や状況判断も大事となる。
初球は桐原から。
自己加速術式を展開して素早く近づいた桐原は右の壁を狙って全力で振り抜いた。その軌道は右の壁から天井、正面の壁へとバウンドして相手のコートを狙うも、さすがに初球で落とす程相手も甘くない。
同じく自己加速術式で返してきた相手、という構図が出来上がれば後は心理戦となる。
何処を狙うのか、何処を狙われているのか、何処を狙わせるのか、その駆け引きが重要だ。
「速いな」
「まだ一球です。試合は超これからですよ」
ここで相手との駆け引きに勝てるかどうか。ペース配分も重要であるため動き自体は様子見だが、駆け引きで制したものが最初の流れを引き寄せる。
開始二十秒が経過。二球目が相手コートに射出された。
それが事実上の試合開始の合図だ。
駆け引きも五分だったため、まずは最初の一点。それを取りに来た相手は一球目を左へ、二球目を右へと放つ。左右に分けることで桐原の運動量を増やしつつ点数を取りに行く作戦だが、この競技の難点はテニスとは違い球速的に回転をかけてコートに落とすということができない。つまり一度は壁か天井を経由してしまうため、自己加速を使った桐原はその打球に追いついた。
桐原は剣術部のためテニス経験者みたいなラケット捌きは持たないが、コントロールは付けられる。その二球を共に相手の正面へと返した桐原は、コートの中央へと駆け戻った。振り抜くことは出来ないが、それでも正面の打球というのは効果的だ。驚いて腰を引かせた相手は一球をラケットに当てただけであり、もう一球はコートに突き刺さる。
そして付け入る隙を見つけた桐原は甘く返ってきた球を一気に叩き付け、そのまま球が点々と転がり、桐原が一挙に八点を入れた。
「魔法の技能は桐原先輩が上。決まったね」
「むしろここで負けた方が超面白かったんですけど」
「絹旗さん、一応私もいるんだけど……」
「超安心してください紗耶香。超分かって言っています」
エリカの呟きはあまりにも早計だが、二球の時点で八点差の優勢。魔法も精神面でも勝った桐原には既に勝ちの一文字が浮かんでいた。最愛と壬生のやり取りも勝利が確定しているからの余裕であり、その試合を桐原は三セット連取のストレートで勝ち進んだ。
そろそろ最愛が本気を出すようです。
私も結構書くの我慢してます。