魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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根性勝負

 桐原の二回戦の対戦相手は三高のエース。

 実力面で見たら決勝戦レベルの好カードだ。

 一高の選手は桐原ともう一人が二回戦に進んだが、一人は一回戦で敗退してしまった。

 桐原は相変わらずのラケットスタイル。

 対して相手もまた、ラケットスタイル。

 同じスタイルなら如実に実力差が浮き彫りになるため勝敗は五分―――前評判から言えば桐原が不利だ。

 その不安感は拭いきれるものでは無く、紗耶香の顔にも出ていた。

 

 

「まあ桐原なら超問題ないですよ」

 

「そう……ね。そうよね。桐原君だもん」

 

「へぇ……」

 

「おっと……」

 

「なんですかレオ、エリカ」

 

「別に? 最愛でもそんなこと言えるんだって思っただけ」

 

「ああ、いつもは(おだ)ててばかりだから」

 

 

 珍しいものを見たとレオとエリカが笑う。

 美月もハハハ、と困ったようにではあるが笑みを浮かべている。

 そんな反応が不服だったのか、最愛はムッとしながら反論した。

 

 

「TPOは超弁えています。私も桐原の努力は知っていますし、普段は煽っていますが一定の超敬意を払っていますから」

 

「最愛が桐原君をそんなに評価していたなんて意外だね」

 

 

 エリカは軽い口調の割に本気で驚いていたが、同時に納得もした。

 それだけ相手の力量が高いということであり、この試合は前評判通り桐原が不利と最愛も感じているということ。

 観客からしたらそれだけ見ごたえのある試合ということだが、相手はともかく桐原は勝っても余力を残すことができるかどうか。恐らくこの試合には勝てても優勝はおろか、三回戦を戦い抜くことも厳しい。

 

 

「……始まるね」

 

 

 紗耶香の不安そうな声と共に、開始の合図が点った。

 一球目は桐原の方へ射出される。

 それをまずは様子見で返し、見誤ったことを理解した。

 先手必勝。

 一気にネットまで詰めた相手は桐原の打球をコートに叩き付けて先制されてしまった。

 

 

「超力押しタイプですね」

 

「力と力なら強い方が勝つ。単純だからこそ厄介だね」

 

 

 相手同様、桐原も力押しスタイルだ。

 故に実力で負けている桐原は不利というのがエリカの素直な感想。

 しかし、最愛はそれを笑って否定する。

 

 

「前の桐原ならそうでしたが、今の桐原なら超純粋な力勝負でも優位に立つことができます」

 

「最愛。それはどういうことだ?」

 

「見ていれば超分かりますよ、レオ」

 

 

 最愛の意味有り気な言葉は、すぐに現実となって証明された。

 

 

 

♦  ♦  ♦

 

 

 

 戦える。

 戦えている。

 思った以上に、戦えている。

 現在五個のボールが射出されており、点数は()()()()()()十点程上回っている。

 実力差は開始早々から感じている。間違いなく格上の相手だ。

 だが優勢に事を進められているのは練習の成果と言えるだろう。

 

 試合中の桐原の胸中は思いのほか穏やかだった。

 緊張していない訳ではないが、程よい緊張感でむしろ十全に力を発揮できるコンディション。だがそれ以上に相手のプレイスタイルが力押しスタイルだったのが功を奏している。

 例えば真由美みたいな圧倒的魔法力で完全に抑え込むわけでもなく、技量によって翻弄されるわけでもない。ただただ力による圧力。だが優勝候補の筆頭だけあってその力押しも凄まじいものがある。

 

 ―――()()()桐原なら、惜敗が関の山だった。

 

 だが桐原は知っている。

 一つ下に圧倒的なまでの力押しスタイルのプレイヤー、絹旗最愛を。球が見えず怪我防止のため『防壁の魔法』の使用が前提条件となるあの力業に比べれば、この程度の力押しなど可愛いものだ。

 それにしても―――

 

 

(防壁の魔法が無いと怪我をするとか、ラケット殺しにも程があるだろ)

 

 

 思い出して、あまりの理不尽さに思わずニヤけてしまう。

 『防壁の魔法』そのものは難しいものではないが、ラケットスタイルでずっと使用しなければならないのはとてつもないハンデだ。それに加えて自己加速術式の常時展開。それならいっそ魔法スタイルに変えようとすら思ったが、あまりにも非現実的だったため諦めた。

魔法スタイルで戦う場合は球の運動エネルギーを超えるだけの魔法力、そしてその魔法力を維持しながら最低限の魔法で対処するという荒業が必要不可欠。

練習では外野の一人が『防壁の魔法』を展開してようやく試合ができるレベルであり、唯一助力を必要としない真由美がガス欠を心配して短期決戦を挑む程といえばその難易度が分かる。

魔法スタイルよりもラケットスタイルの方がまだ勝算があるということだ。

 

思い出してみれば最愛との第一印象は最悪だった。

当初会った瞬間は怒りによって我を忘れていたが、改めて状況を見て恐怖を抱いた。これが人の手によって行われた惨状かと思えるほどの凄惨さ。いくら魔法師とはいえ、一つ下の二科生の女の子が行ったと言われても信じる者はいないと断言できるほどのことが、容易に行われていた。

 そこからクラウド・ボールの選手として一緒になった時、雰囲気が違い過ぎて別人だと思ったが恐怖感は拭い切れなかった。それは向こうも理解していたはずだが、それでも最愛は気さくに話しかけてきた。

 今でも恐怖感は抜けていない。

 一人で抱え込むには重すぎて服部にうっかり喋った時、最愛の言葉は死神から余命宣告をされた気分になった程だ。

 だがそれが今ではどうだろう。自身に活力を与えてくれる存在になっている。

 

 

(これは後で礼を言う必要があるな……笑えるぜ、本当に)

 

 

 六個目のボールが射出される。

 試合はまだ始まったばかり。

 本来なら第二セット、第三セットの余力も気にしなければならないが、そんな戦い方ができるのは同程度の相手まで。格上の相手にできることではない。

 左右前後に壁や天井を使って撃ち込みながら相手を揺さぶり、相手の狙いを予測して失点を可能な限り少なくなるように返す。

 笑みを携えながら試合を行う桐原は、対戦相手にとって不気味に映っていた。

 

 

 

♦   ♦   ♦

 

 

 

「正念場だね……」

 

 

 エリカの呟きに誰も反応は無かったが、全員の共通認識だった。

 セットカウントは二対二。最初の二セットは後を気にしているのか分からない程飛ばしたことにより桐原が取ったが、第三セットからは相手が追い上げをかけて二セットを取られた。

 そして運命を決める第五セット。

 五球目まで射出されており残り百秒。

 点数差はわずかに五ポイント。

 相手の追い上げを気力で止めているのが感じ取れるが、それでも短期決戦を逃した桐原は不利な状況に追い込まれていた。

 紗耶香と美月は不安そうに、最愛とエリカ、レオは真っ直ぐとその勇姿を見詰める。

 第一セットに比べたら両者共に動きが鈍くなっているが、放たれる気迫は点数を重ねるごとに増幅していく。

 

 これ以上点数を重ねたら不味いというタイミングで、六球目が相手コートに射出された。

 残り八十秒。

 このタイミングで相手が自由に使える球が一つ増えるというのは非常に不味い状況だ。

 たった一球。

 その一球が勝敗を決する要因となる。

 お互いに点数を重ねながらもポイント差は一向に動かない。

 ここまで来たら気力の勝負。

 実力差は既にあってないようなものだ。

 

 ―――誰もがそう思っていた。

 

 次の瞬間、競技場の一角が歓声に沸く。

 それは第一高校の応援席。最愛達も例外ではなかった。

 

 

「吹き返したぜ!」

 

「まだあんな力が残っていたのね」

 

 

 均衡を壊したのは相手でも追加された一球でもなく、桐原本人。

 ラストスパートをかけるかのようにスピードを上げた桐原は、最小限の動きで次々とポイントを重ねていく。

 これが最愛と幾度となく行われた試合で身に付けた、桐原の力。

 

 

「超予想通りですね」

 

「何々、どういうこと?」

 

 

 最愛の反応に興味を示したのは、エリカだった。

 

 

「私とクラウドの試合をするには『防壁の魔法』の使用を超前提条件としているのですが、それでは超負担があまりにも大きすぎるということで『防壁の魔法』は別の方が発動して試合を行っていました」

 

 

 突っ込みどころが多いが、ここで突っ込みを入れる程野暮な人はいない。

 

 

「そして桐原と私対戦成績は私の超全勝。しかし他の人と違う点が一つだけあります。それは桐原が『防壁の魔法』を自分で発動して、文字通り単身で超試合を行ったことです。最初は一セットすら持ちませんでしたが、最終的には女子の三セットまで超戦い抜ける程度には持久力と回復力を付けました」

 

 

 桐原が身に付けた力は誰しもが持つ『持久力』と『回復力』という力。

 自身に厳しい条件で最後まで戦い抜いて手に入れた、努力の賜物だ。

 

 

「最初から飛ばしていたので心配していましたが、短期決戦に見せかけた長期決戦だったということですか?」

 

「その通りです、美月。それに気が付いた相手は第三セットから超追い上げる戦法に出ましたが、最初の二セットで思ったよりも力を使ったみたいです」

 

「それ一見作戦勝ちに見えるけどさ……」

 

「ただの根性勝負だよな……」

 

 

 呆れたような呟きに反して、点差は十点、二十点と開いていく。

 なんとか喰らいついていた相手も、九球が射出された時点でついに膝をついた。

 第二回戦にして優勝候補筆頭を倒すという快挙を成し遂げたのだ。

 盛り上がる一高応援席。

 紗耶香もホッとしたような表情を浮かべながら、健闘を称え拍手を送っていた。

 これで桐原が一気に優勝候補筆頭に。

 

 

「紗耶香。桐原のところへ超行ってあげてください」

 

「うん! それじゃあ皆先に失礼するね」

 

 

 ずっと抱えていた不安が消えたのか明るい表情で控室に向かった紗耶香だが、そう勧めた最愛の表情はあまり明るくない。それはエリカも同じだった。

 

 

「最愛にエリカ。折角勝ったんだからそんなシケた顔すんなよ」

 

「……はぁ」

 

「エリカ、超仕方ないですよ。レオですから」

 

「とりあえず馬鹿にされていることだけは分かったぜ」

 

 

 ムッとした表情を浮かべたレオだったが、二人がふざけているわけではないと理解して真面目な表情に戻る。

 美月も二人の表情を見て、首を傾げていた。

 

 

「勝てたとはいえ桐原は三回戦を超戦える程の力がありません。使い果たしたことに変わりはありませんから。それは桐原本人が超理解しているはずです」

 

「勝てたは良いけどそれでも三回戦は棄権。決勝戦並みの内容だっただけに、くじ運が無かったとしか言いようがないわね」

 

 

 少し考えれば分かることだった。

 実力は相手が上なのだ。

 勝つためには力を出し切らなければならない。

 桐原も三高の選手も、本当にくじ運が恵まれなかったとしか言えなかった。

 それから数十分後、桐原が三回戦を棄権することが戻ってきた紗耶香によって告げられた。

 




 そろそろ新人戦です。
 あとよう実の二次始めました。
 この作品含めて完結させてから本格的に書きますが、先行投稿という形で。

 ようこそ請負人のいる教室へ
 https://syosetu.org/novel/244874/
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