魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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快進撃

 雫、エイミィ、和美の三人は順調に準決勝まで駒を進めた。

 そして栞もまた、準決勝に駒を進めている。

 対戦表は雫対栞。エイミィ対和美だ。

 前評判では雫対栞は五分五分。エイミィ対和美はエイミィが数歩優勢となっている。

 その勝った方が決勝、負けた方が三位決定戦を行うことになり、それでスピード・シューティングの順位は確定だ。

 あれから雫やエイミィも時間の都合上選手控室から出ることができなくなったため、最愛とほのかは深雪達の席にまで戻っている。

 その際に最愛の絡まれた時の行動が話題のタネになったことはご愛敬だ。

 準決勝からは試合が同時に行われる。

 エイミィや和美を知らないエリカ達は迷わず雫の試合を見ることにしていたが、ほのかはどちらに行くかかなり迷っていた。結果的にエイミィと和美の後押しで全員が雫の試合を見ることになったが、後押しがなければどれだけ時間がかかっていたか。

 

 

「あの十七夜(かのう)って人、本戦二つともパーフェクトだけどクレーを逸らす魔法を使う雫なら案外あっさり勝てるんじゃない?」

 

「それは超あり得ないですよエリカ。雫の魔法は自分のクレーだけ超狙いやすくするため空間に対する自分のクレーの密度を高める収束魔法であって、クレーを逸らす魔法ではありません。あれぐらいの妨害では超修正されてしまいます」

 

「もしそうだとしたら雫さんはかなり不利ということですか?」

 

「いえ、そうとも限らないわ美月。それに関しては試合を見れば分かるわよ」

 

 

 熱気は十分。

 盛り上がりで言えば本戦よりも増している。

 今大会一番のカードとも言えるだろう。

 サッと静寂が競技場を支配していく。

 開始のランプが一つ、一つと点灯していくにつれて、二人の気迫が高まっていく。

 全灯。

 同時にクレーが発射されていき、それら全てが二人の魔法によって次々と打ち抜かれてく。最愛の予想通り、多少クレーが逸れる程度では連鎖が途切れることは無かった。

 

 

「凄い。お互いに一歩も引いていない」

 

「いや、これは十七夜さんの方が優勢だ」

 

 

 感嘆を漏らすエリカと、客観的な情勢を口にした幹比古。あらゆる方向に逸れるクレーに全て対応して見せる栞。雫も撃ち漏らしは今のところないが、一つの撃ち漏らしがミスに繋がる。そして今までの雫のスコアを見ると、最低でも二個は撃ち漏らす計算だ。

 つまり確実に勝ちを取るには五個は連鎖を外して貰わないと困るのだ。

 

 

「それにしても雫は特化型CADのはずですが、九つの起動式とは思えない超多彩な逸らし方をしていますね。連鎖が超不規則なものになっています」

 

「違うわよ最愛。雫が使っているのは特化型ではないわ」

 

 

 汎用型CADと特化型CADの違いは格納できる情報量を重視しているか、起動式の展開速度を重視しているかだ。汎用型CADは魔法系統の組み合わせを問わず最大九十九種類もの起動式をインストールできる代わりに使用者にかかる演算の負担が大きく、特化型CADは同系統の起動式を九種類しかインストールできない代わりに使用者にかかる負担を軽減し、より早く発動できるように照準補助システムと一体化しているのが主流となっている。

 抜け道も存在しており、たとえば能動空中機雷みたいに収束魔法と振動魔法を一つの起動式にインストールすれば扱うことはできるが、個別に発動することはできない。

スピード・シューティングやクラウド・ボール等特定の競技においても基本的に特化型を使うことが多い点、照準補助がついている点、小銃形態という特化型CADの特徴的な形をしている点で最愛は特化型CADだと断定していたのだ。

 

 

「まさか汎用型ですか? でもあれは照準補助が超ついていますし、小銃形態の汎用型なんて存在―――」

 

 

 しない、という言葉は出なかった。

 まさかの可能性が、だが達也ならあり得る可能性が脳裏に浮かんだからだ。

 

 

「―――まさか達也は超作ったんですか!? 照準補助がついている汎用型を!?」

 

「その通りよ最愛。雫は準々決勝まで()()()()()()()()()()だけで戦ってきたの。本当は決勝戦で使うはずだったのだけど、相手が相手だからここで使うことにしたのね」

 

 

 納得がいった。

 九つの起動式だけ使っている割には準々決勝よりも動きが加わっていると思ったら、実際は九十九種類の起動式を使っていたのだ。

 だが当然雫にもリスクがある。特化型CADで補っている演算を自分で行わなければならない点だ。しかし見ている限りではその点は全く問題ない。特化型CADを持つ百家の令嬢と五分の対決を見せている点からも、雫の魔法力が九校戦の中でも高水準であることが良く分かる。

 対して栞はそれらを全て計算しながらたった九つの移動魔法と振動魔法で対応しなければならない。今はまだ大丈夫でも、時間が経つにつれてそれは顕著に表れてくる。

 両者ともに五十点を超えた頃、ついに栞の連鎖が一つ途切れた。

 

 

「外した!」

 

「まだ繋がります」

 

 

 エリカから上がった歓声は、最愛の否定と軌道修正して再構築された連鎖によって抑えられる。だが栞が演算能力を酷使しているのは間違いない。今のミスが致命的なところで起きれば、確実に連鎖が成り立たなくなる。最早線と線がただ繋がっているかのような連鎖になってしまっており、いつ途切れてもおかしくないような不安定さだ。

 しかしその不安定さとは裏腹に栞の点数は雫よりも先に八十点に到達。

 それと同時に、ついに致命的なミスが起きた。

 

 

「また外した!」

 

「今度は完全なミスだぜ!」

 

 

 連鎖の構築が上手くいかず一つのミスが命取りになっている栞と、着実に点数を積み重ねていく雫。観客のボルテージは最高潮だ。

 そして、ついに決着がついた。

 栞が膝から崩れ落ちる。

 絶対に外してはいけないクレーを、ついに栞が外してしまったのだ。

 九十六対九十二。

 新人戦準決勝らしからぬ激闘の末に、雫は決勝へと駒を進めた。

 

 

 

♦   ♦   ♦

 

 

 

 結果として一位から三位は一高が独占する形となった。

 決勝戦は雫対エイミィで雫の辛勝、三位決定戦は和美対栞で、準決勝までの栞から考えればあり得ないミスを連発して和美が圧勝という形で幕を閉じた。

 達也がメインエンジニアとして行われた最初の競技は、上位独占という快挙によって幕が落とされたのだ。

 恐らく一高天幕では真由美や作戦スタッフから称賛の嵐が飛んだことだろう。

 だが知り合いが出場する競技はまだある。

 バトル・ボード。

 陽も西に落ち始めている時間に何故まだ予選をやっているのかと言えば、一レースにつきおよそ十五分の競技時間、ボードの上げ下げや水路の点検、魔法により損傷があればその修復作業等競技時間以上に時間がかかってしまうためだ。

 だがスケジュールも組まなければならないため、バトル・ボードは一時間おきに試合が行われる。

 

 そしてほのかは最終の第六レース。

 本日一高最後の選手というだけあって、一高生の多くがその勇姿を見に来ている。

 ほのかの場合は緊張で普段の実力が出せないことが一番不安視されているが、幸いにも達也がいる。そして達也が作戦にも一役買っていることから、遠目で見たところは表に出る程の緊張はしていないみたいだった。

 

 

「いよいよですね、雫」

 

「うん。ほのか昨日からずっと緊張していたから心配だったけど、これなら問題なさそう」

 

 

 実は雫と最愛は自分の競技よりほのかが大丈夫かどうかが心配だった。

 もしバトル・ボードで予選敗退にでもなってしまえば、その後のミラージ・バットにも大きく影響していたことだろう。

 だがほのかを安心させているその作戦が気になる。

 

 

「達也。どんな作戦を超考えたんですか?」

 

「作戦、とは言っても本当に単純なものだよ。単純だからこそ、とても効果的だ」

 

「……超性格の悪い作戦ということだけは分かりました」

 

 

 達也の悪い顔に最愛はジト目で返す。

 だが達也はそんな最愛の表情を気にすることも無く、最愛と深雪、そしてほのかのエンジニアを担当している二年生で生徒会書記の中条あずさに遮光性の高いサングラスを配り始めた。

 ちなみにレオと幹比古はエリカと美月に連れられて男子スピード・シューティングの観戦に行った。エリカはその理由を一切話そうとはしないが、恐らくエリカなりの配慮なのだろう。バトル・ボードは水上競技のため、ウェットスーツとスイムシューズの着用が認められており、基本的に全員が着用している。だがそれらは身体にフィットするように作られているもので、ほのかのような高校一年生とは思えない刺激的なプロポーションをしている女子にとってはその視線に委縮してしまう可能性もあるのだ。

 それが知り合いなら顕著になるかもしれない、という判断でこの競技場にはいない。

 元々彼らは観戦に来ているだけであり、達也に見られても問題ないなら問題ないのではと思わないでもないが、少しでも不安要素を取り除いてくれるなら感謝すべきだろう。

 

 新人戦バトル・ボード女子予選最終レースのスタートが切られた。

 その直後、観客は水路から一様に視線を背けた。

 視界が眩むほどの光が水面を照らしたのだ。

 その中を颯爽と走りぬける、見慣れた顔の友人。

 作戦は成功のようだ。

 

 

「単純故に対策がなければ超強力な妨害になる訳ですか」

 

「そういうことだ。だが―――失敗したかもな」

 

 

 作戦は成功したが、達也はその作戦を組み立てたこと自体を後悔し始めた。

 序盤に大差をつけて走り抜けるという手法としては順当なものだが、序盤に広がった差がさらに広がり始めたのだ。

 そんな作戦が無くても自力でほのかは勝てたという事になる。

 

 

「作戦があったから超リラックスできたんです。差がついたかどうかは結果論ですよ」

 

「ああ、確かにそうだが、準決勝からは三人一組だ。一対二の構図になるのはあまり好ましいことじゃない」

 

「そんなことでしたか。一高は元々全校からマークされているので、気にしなくていいですよ」

 

 

 それは慰めなのだろうか。

 あずさが小動物のような可愛らしい笑顔と共に紡いだ言葉に達也は苦笑するしかない。

 それにしても圧倒的なレースだ。

 ほのかは普段以上に力を出せているのだろう。

 後方から放たれる僅かな妨害を諸共せず突き進んでいる。

 一周目が終わった時点で、予選突破は確実なものになっていた。

 




 次回、クラウド・ボール開幕
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