魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
お待たせしました。


決勝トーナメント

 クラウド・ボールは六面同時進行で試合が行われる。

 一回戦は選手二十四人計十二試合を六面で行う。

 九校のうち六校は選手三名が出場しているため一回戦目はサブエンジニアが必要であり、一試合目と二試合目のインターバルが多く取られている。また二回戦に三名とも残った場合は三名同時進行で試合を行うことになるため、一回戦第二試合と二回戦の間にもインターバルが存在する。

 つまり時間が被る以上選手以外が相手の情報を集めることになるのだが、最愛はそれを善しとしなかった。それ故に今回立てた作戦が、とにかく試合時間を短くしてある一人の情報を集めること。勿論あずさや作戦スタッフから情報は集めていたが、最愛は自分の目で見ることに拘った。

 ここまで圧倒的勝利で勝ち進んできた最愛がそこまでする人物は、当然だが三高一色愛梨の存在がある。以前最愛は愛梨の実力をそれなりと評したことがあるが、内心では良くて拮抗、気持ち的には格上だという認識を持っていた。

 慢心は絶対にしない。

 それは競技に限らず物事において通ずる頭の片隅に置くべき考え方だ。

 一試合目は真由美と克人に怒鳴り込まれたことに加えて試合時間も被っていたためほとんど観戦できなかったが、二試合目はセットの途中から、三試合目は一セットしっかりと観察することができた。

そして実際に見て、確信した。

 ———格上だ、と。

 稲妻(エクレール)の異名を持つだけあり、彼女はとても速かった。

 目で追えないという訳では無いし、最愛もかなり速い自負がある。

 だがそれ以上に愛梨が速いのだ。

 この競技は競技者の速さが攻守共に大きく関わっており、特にラケット対ラケットでは速い方が勝つと言っても過言ではない。勿論球速も大事だ。大事なのだが、明確に愛梨が速い以上最愛は手を打たなければいけなかった。

 そのために昨日桐原を呼び出して練習台をして貰ったのだ。

 このままでは愛梨に勝てない。

 そのために決勝トーナメントにまで残した、最愛の切り札。

 公の場では決して見せたくないものだが、それでも良いから勝つという決意の表れだ。

 

 決勝トーナメントの枠は最愛とスバルが決めており、残りは一枠。

 その一枠はたった今、確定した。

 肩で息をして座り込む敗者と、一切疲れた様子は見せずにそれを見下ろす勝者。

 勝者は勿論、愛梨だ。

 全試合三桁得点一桁失点のストレート勝ち。

 万全の状態で、決勝トーナメント進出を決めた。

 

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

 

 決勝トーナメントの試合順番は試合が終わった時間を考慮して、最愛対愛梨、最愛対スバル、スバル対愛梨の順番となった。

 最愛としては一戦目に愛梨と戦いたかったため非常に有難い順番ではあるが、果たして二戦連続でスバルに勝てるかどうか。スバルも決して弱くない。BS魔法の『(認識阻害(にんしきそがい))』で自身の位置を悟らせずに立ち回るプレイスタイルは相手のペースを着実に崩していく。そうじゃなくても一科生である彼女は魔法で優位に立つ力がある。ゴリ押しのプレイスタイルで最愛に軍配が上がっているだけであり、愛梨との試合の後でそのゴリ押しができる程の余力が残っているだろうか。

 そこまで考えて、最愛は頭を切り替えた。

 今は最後の調整の時間だ。

 目の前の試合にだけ集中して、確実に勝利を取ることだけ考える。

 

 

「いよいよ決勝トーナメントですね、絹旗さん。作戦は順調ですか?」

 

「やれることはやりました。後は超本気でやるだけです」

 

「それなら大丈夫ですね」

 

 

 調整し終わったCADを最愛に渡して、よしっと息巻くあずさ。

 CADも調整してもらいここまで何も言わずに付き添ってくれたのは本当に感謝している。真由美と克人が怒鳴り込んできた———怒鳴り込んだのは真由美だが威圧感的な意味で克人も———時にも小動物のように縮こまりながらも理由があることを告げてくれたし、九校戦において一番寄り添ってくれていた人物なのかもしれない。

 

 

「それでは超行ってきます」

 

「はい、頑張ってください」

 

 

 腕に汎用型のCADを携えて、ラケットを握りなおしてコートへと向かう。

 控室から出ると、歓声が最愛を出迎えた。

 全く注目されていなかった選手がまさかの本命を喰うかも知れないという興奮と、快進撃を止められるかという興奮。その両方の興奮を一身に受け止めてコートに立った。

 コートにはネットを挟んでブロンドの綺麗な長い髪を後ろに結わえた、モデル並みのプロポーションを持つ少女一色愛梨。

 こうやって面と向かって会うのは初めてだが、対峙してみると今までの選手とは格が違うことが分かる。

 今までの選手は恐怖を抑えながら最愛と対峙していた。

 だが愛梨は違う。

 必ず勝つという明確な自信を持って最愛と対峙している。

 

 だがそれは最愛も同じだ。

 試合時間短縮という暴挙に出てまで自分の目で愛梨を見ることに拘り、切り札まで持ってきた。それは絶対に優勝するという最愛の意志の表れ。

 そんな二人の意志の強さを表すように、会場のボルテージは留まるところを知らない。

 開始の合図が点り始めた時に歓声によるボルテージは下がるも、雰囲気でいうボルテージは最高潮だ。

 一つ、二つと点り、三つ目。

 始まりの合図とともに、ボールが射出された。

 

 射出されたボールは愛梨のコートへ。

 ネットを越えたと同時に素早く叩き切った愛梨に、即座に反応して力任せに振り切った最愛。全くコントロールがついていない球にも反応しきった愛梨は万全の態勢でその球を撃ち返す———が、初球よりもその勢いはない。

 球速は最愛が上、選手の速さは愛梨が上。

 その評価通り、序盤は最愛が相手の動きを封じる形で優位に立つ。

 しかしまさか序盤から明確な優劣が付けられると思っていなかった観客は、ワッと歓声を上げた。

 一球という勝敗が付きにくい球数でも猛攻を仕掛ける最愛と、球が予想以上に重かったのか踏み込みをしっかりとしながら打ち返す愛梨。

 

 

「すっげ」

 

「最愛さんも凄いですが、一色さんもよくあれに追いつけますね」

 

「流石稲妻(エクレール)と呼ばれているだけはあって速いけど、最愛の球が予想以上に重かったみたいね。しっかりと踏み込んで返している」

 

「いくら稲妻(エクレール)でも力任せの打球はどうしようもないってことだね。これはもしかしたら、もしかするかもね」

 

 

 どう見ても最愛が押している。

 レオ、美月と目の前で起きた驚愕に呟き、エリカと幹比古は冷静に状況を判断していた。

 実際に彼等達以外にもジャイアントキリングが起きるかもしれないという事実に会場は沸く。十秒、二十秒、三十秒と経ち、球数も一球から二球へと増え、球が増えても最愛が明らかに押している。押しているのにも関わらず、しかし会場は統一感のある歓声から不規則なざわめきへと変化を遂げた。

 両者の点数が一向に動く気配を見せないのだ。

 四十秒経ち、更に一球が増えた。

 二球に増えたことで最愛の勢いは更に増していき、目に見えて愛梨が劣勢になった。

 

 

「流石は師補十八家……ということかしら」

 

「あそこまで最愛ちゃんが攻めて一ポイントも取らせないなんて、流石大本命ですね」

 

 

 だがそれでも依然として点数は動かない。

 この球速に反応できる反射神経と魔法発動速度、付いていける程高度な自己加速術式、そして魔法を維持するサイオン量。

 真由美とも善戦できるだろう彼女が新人戦に出るとなれば、当然優勝候補筆頭になる訳だ。

 

 

「最愛も球数が増えるに連れてあの威力を保ったまま撃つのは不可能なはずだ。このまま時間が経つと今度は最愛が辛くなるから可能な限り序盤で点数を取っておかないといけないと思うんだけど……」

 

「最愛は全く焦ってないみたいだな。本当にすげえ胆力だ」

 

 

 だが現在その下馬評は完全に覆っており、それを示すような試合が観客の眼前に広がっている。愛梨によってなんとか保たれている均衡。

 四十秒が経過。

 三球目が愛梨のコートへと射出された。

 壁や天井を使い二球同時に来ないよう工夫していた愛梨。

 その工夫を打ち破る球数もまた、三球。

 均衡はついに崩れた。

 

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

 

 三球目にしてようやく点数が入った。

 だが最愛としては予定通り、いや予定では二球目で点数を入れる予定だったのだからむしろ予想以上に相手が上手(うわて)であると言えよう。

 魔法師としての実力に加えてボールを恐れない度胸、ボールに食らいつく根性、そして勝利への執念。才能に溺れない努力家であることはよくわかる。

 だが均衡は崩れた。

 最愛の打球に対応が追い付けず、一点、また一点と着実に点数を重ねる。

 最大限の威力を出すために壁や天井は使わず直接コートへと打ち、相手が壁や天井を経由して時間稼ぎしているのを許さない追撃でさらに点数を重ねる。

 最愛が攻勢に出られるのは四球まで。

 四球目でも何回かは最速で打てないし、五球目からは一段階打球の速度を落とさないと最愛が対応できない。そして七球以上は愛梨の独壇場へと変化。序盤と完全に真逆の展開になることは最愛の想定済みだ。

 

 

(それにしても超強いですね。これは私も体力どうこう言っていられないです!)

 

 

 最愛は決して体力がある訳では無い。

 試合時間も一分が経過し、四球目が最愛のコートへと射出された。

 最愛に点数が入る間隔も短くなり、しかし最愛は未だ無失点。

 さらに押し込まれる状況に無だった愛梨の表情に若干の焦りが見え始めた。

 それでも尚、最愛に油断は無い。

 愛梨からしてみればこの状況が九球目まで続く可能性があるかもしれないという考えが過る時間だが、最愛は何処までこの状況を続けられるのかをしっかりと把握している。

 四球目が射出されてから二十秒後。

 点数差は二十点。予定では三十点以上突き放す予定だったが無理だったようだ。ここからは最愛が徐々に押され始める時間になる。

 五球目が愛梨のコートへと射出された。

 まだ最愛は無失点。

 だがゆっくりと、点数の入るテンポが遅れていくのが分かる。

 球も追いつけるは追いつけるのだが、先程みたいな球威が出せる回数は徐々に減ってきている。対して愛梨のスピードは徐々に上がっていた。

 試合が始まってから一分四十秒が経とうというころ、点数差は三十点へと広がるも愛梨の表情には既に焦りの表情はない。

 攻守交替。

 二人の認識が一致した瞬間に、六球目が射出された。

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

 決勝トーナメント第一試合はお互いが一歩も譲らない大熱戦となっていた。

 今回の九校戦において一、二を争う程の接戦。

 五球目までは最愛が持ち前の力技で優位を取り、六球目からは愛梨が持ち前の速さで巻き返す。点数差は少しずつ、しかし確実に縮まり始めている。

 

 

「踏ん張りどころだね」

 

「ああ、手に汗握る良い試合だぜ」

 

 

 しかし縮まっているとは言っても、最愛が得点していないわけではない。

 取れるところは確実に取り、取れないと判断した球は見捨てて失点を最小限に抑える。それにより縮まった点数はわずか五点。そういう意味では最小失点と言えるだろう。

 

 

「それにしても上手く失点を抑えているわね。無理に取ると大量失点の可能性があるところは拾わないで、点数が取れるところはしっかりと取りに行く。こんな時でも冷静に状況を分析できる肝の据わり具合は流石最愛って感じ」

 

 

 エリカの評価は本当に客観的なものだ。

 明らかに追い上げられているこの状況下でも最愛は冷静に対応していた。

 そう、対応していたのだ。

 七球目が射出されるまでは。

 

 七球目。

 完全に優劣が逆転するこの球数で、二度目の均衡が崩れた。

 耐えられていないわけではない。

 最愛が完全に後手に回るようになったのだ。対して愛梨は自分のプレイスタイルを思い出したかのようにコート内を駆け回っている。打球の速さは最愛程ではないにしろ、最愛の打球の速さが落ちているため愛梨は自身の最速を常に撃ち続けられる状態になった。

 こうなるとスバルよりも少し速い程度の最愛では対応しきれなくなる。

 

 

「ちょっとヤバいんじゃないか?」

 

「押され気味……というよりも完全に押されていますね」

 

 

 それはもう、傍らから見てもハッキリと分かるような劣勢。

 残り五十秒。

 点数差は二十点。

 このまま八球、九球と増えていく現状でこの点差はあってないようなものだ。

 試合時間は残り四十秒。

 八球目は、最愛を追い詰めるかのように最愛のコートへと射出された。

 完全に追い詰められた最愛。

 観客の誰もが愛梨の逆転する姿を想像した。

 愛梨も一気に畳みかけるように三球、二球、四球と塊になるように返球する。

 今までの返し方では大量失点は免れない。

 そんな予想を、だが全てを上回り。

 最愛は、全球返球してみせた。

 




更新おくれてすみません。
1次小説書いてゲームしてたらこんな季節になってしまいました。
1次小説も投稿しますが、もう少し書き溜めたいのとそろそろ2次創作書きたい気分になったので書きました。
気分的にまだ書くと思います。
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