最愛、スバル、愛梨の勝敗が
スバル二勝0敗
最愛一勝一敗
愛梨一勝一敗
となっていたので、
愛梨0勝二敗
と修正しました。
感想で教えてくれた方ありがとうございました。
もう一つの決着
クラウド・ボールの決勝戦はスバルの優勝で幕を閉じた。
結果だけを見ればジャイアントキリングと呼ぶに相応しい一高の大金星なのだろう。
しかしその内容を詳しく見ていけば当然の結果だったと言わざるを得ないものだ。
決勝戦の初戦。
突如として優勝候補として名前を連ねたダークホースの最愛と当初の優勝候補である愛梨がいきなり激突。
過去に類を見ない程の乱打戦を繰り広げた彼女等はお互いに
スバルが2勝0敗、最愛が1勝1敗、愛梨が二敗という訳になる。
大本命とダークホースは眠れる獅子によって破れた、というストーリーがあるならこの結果も納得の行くものだろう。
しかしそんなことはなく、この結果に納得がいかない高校がある。
当然のことながら三高だ。
第三セットの動きを見た限り、第二セットの最愛の動きは誰が見ても明らかにおかしいものだった。それこそ、談合をして愛梨を陥れようとしていたという言い分が通る程度には不自然なもので、勝つための作戦が失敗したという言い分もまた通る自然なものだ。
以上のことから三高は大会運営に最愛とスバルの両名が談合をしていたのではないか、レギュレーション違反ではないかという抗議文を出し、大会運営は三高の抗議を受け入れて再審議を行うことを発表した。
つまり運営としても一高側に不正がある可能性があると判断を下したのだ。
当然そうなれば一高も抗議を出すことになる。
今回両名が談合をしたという事実はなく、また一高作戦本部も指示をしていないため仮に談合をした事実があるのなら証拠を提示して欲しいという証拠の提出を求めたのだ。
一高としては取り合う必要も無いことなのだが、真っ当に勝利をしていると納得してもらう為にも姿勢を崩すことはしなかった。
当然三高側に両者が談合をしたという明確な証拠はなく、両者の折り合いを付けるためにも一先ず当事者から事情聴取をするというながれになったのだが、
「そう……やっぱり絹旗さん何処にも居ないのね」
クラウド・ボールの決勝戦直後から、最愛は忽然とその姿を消した。
一切の連絡はなく、まるで九校戦に最初からいなかったかのように全ての荷物を部屋から持ち出している状態でいなくなってからもう二日が経とうとしている。
競技は順調に進んでいるが渦中の人物が消えたことよりも生徒一人が姿を消したということもあって、一高本部も穏やかではない。
「同室の深雪もこの二日間は一度も部屋に戻った様子が無いと言っていました」
「北山さんと光井さんも何処に行ったのか見当が付いていないようです」
「最愛にここらへんの土地勘があるとは思えませんし、部屋の荷物が全て消えている点から連れ去られたということは無いと思います」
「本当にあの子は……」
取り繕う必要もないと判断したのかそれとも思わず溢してしまったのか、珍しく悪態をつく真由美に達也も僅かに驚きを感じた。
だがその気持ちは分からなくもない。
最愛が姿を消したということも併せて先の件はいつの間にか噂として広がっており、事情聴取もできないため大会運営と一高、三高の協議は泥沼化し、結局曖昧なまま結果通りに事は進むこととなった。
達也は今回の件を間違いなく最愛が想定して行ったものだと確信している。
それは真由美も同じなのだが、それは最愛のことを他の人よりも多少深く知っているからであって、最愛を知らない者の大半は最愛の勝利を讃えた。
事実最愛は談合などせずとも愛梨に勝てる程の実力があり、最愛側から申し出ることは勿論最愛が談合を受けるメリットもない。
故に談合をした黒幕として一高本部に白羽の矢がたった訳だが、事実として談合を示唆したことは無いので結論は付けられないという結果に落ち着ついた。
ここまでのシナリオを最愛が行ったとして問題になるのは何故それを行うに至ったのかだが、そこは本人のみぞ知ると言ったところだ。
だから一高本部が気にしているのはその部分ではなく、クラウド・ボールで優勝したスバルの方にある。
「里美さんは大丈夫ですか?」
「本人は本当に気にしていないと言っていたし私から見ても変に抱えている様子はないから、そこは私たちがこれ以上何かする必要は無いと判断したわ」
今回のクラウド・ボールで一番の批判を集めたのは最愛でも一高本部でもない。
優勝をしたスバルだ。
誰がどう見ても最愛、愛梨とスバルの間には大きな力量の差が存在している。
だが結果はスバルの圧勝。
そういった現象は九校戦では良くあることなのだが、如何せん二人の激戦とその後の試合の差があまりにも大きすぎた。
その内容の差が落胆の差であり、そして観客の不満度合いの大きさでもある。
「折角二人で優勝と準優勝ができたのに、どうしてここまで頭が痛くなるのかしら」
「これ以上目立つような真似はしたくない、関わるなという意思表示なのだろう」
真由美の溜息を遮るように、威厳溢れる声が一高本部に響いた。
空気が張り付き、全員の背筋が自然と伸びる。
達也としては特に姿勢が変わったわけではないが、背筋が張り詰めるような感覚と緊張感は感じていた。
「十文字くん……」
今回の件、対応に追われているのは真由美よりも克人だった。
今も大会運営から帰ってきたところであり、真由美にその報告を行いに来たところだ。
「元々絹旗を九校戦に出したのは我々———というよりも、俺だ。絹旗の魔法は十文字家の魔法に非常に近しいものであり、その詳細を確かめる必要があるという十文字家としての判断を下したのだが、結果として悪い方向へと進んでしまった。申し訳ない」
普段からもこういった問題に積極的に動く克人ではあるが、今回積極的に動いている最大の理由は自責にあった。
魔法とは魔法師にとって生命線であり、魔法について言及するのはマナー違反と言われている中で克人は公に見せることを強要した。
最愛は納得していた、というのは通じない。
それは克人側の言い分であって、最愛側の言い分ではないのだから。
「私も賛成したのだから十文字くんだけの責任ではないわ」
「だがここで何をしようと絹旗は戻らないだろう。出場する競技が終わった以上ここにいる意味もなくなっている」
「だからっていきなり居なくなる必要は———」
「我々にはもうどうすることもできない。我々が絹旗を探すために人員を割いたとして、絹旗がそれを監視行動と捉えてしまえば最悪のケースも考えられる。もしかしたら、あの約束を交わした時から既に今の事を想定していたのかもしれんな」
そこを頭ごなしに否定できないのが厄介なところだ。
最愛の能力がどういうものなのかを知りたい。
そのために交わした約束が、こんな形で圧し掛かってくるとは誰も想定できないだろう。
達也もその条件を受け入れた身であり、同様の理由で無闇に動くことはできない。
今まで築いてきた関係も一瞬で瓦解してしまうことは必然であり、深雪にも害が及ぶため現時点でできることは何も無い。
つまりこの場で打つ策などただ最愛を煽動するだけの愚策にしか成り得ないのだ。
「ここで考えたところで何か手が打てる訳でもない。まずは選手のケアが最優先だ」
「そうね。達也くんは光井さん、引き続き里美さんのケアをお願いしても良いかしら」
「勿論です」
今日は新人戦四日目。
ミラージ・バットの予選から決勝と、モノリス・コードの予選が控えている新人戦の華となる日だ。
ほのかもスバルも優勝という大きな結果を残しているが、昨日行われたほのかのバトルボード決勝はメンタル面に不安定なところが垣間見えていた。
そのケアをするのもエンジニアの仕事の一つであるため達也としては言われるまでもなくケアをするつもりなのだが、同時に完全にケアをするのは無理ではないかとも考えている。
今回の件はそれほどまでにほのかと雫に重く圧し掛かっているのだ。
「それでは自分はこれで失礼します」
「時間取らせちゃってごめんね、達也くん」
真由美と克人に見送られながら、達也はあの高校生に見合わない少女———自分のことは棚に置いて———を思い浮かべた。
達也はその場にいなかったため映像で確認しただけだが、最愛が居なくなった根底にあるものは簡単に想像が付く。
いつもの最愛とは全く異なる、例の顔。
冷徹で、暴力的で、狂乱的なあの時の最愛ならば、現在の状況を作り出したとしても不思議ではない。
しかしたとえそれが事実だと仮定して、達也には分からないことが二点あった。
一つ目に、現在の状況を作り出そうと考えた時の最愛の心境だ。
先述の暴走している最愛ならば意図は分からなくともこの状況を作り出したところで驚きはない。だが最愛はクラウド・ボールの決勝まで変わった様子はなかった、というのが試合を見ていた全員の見解だ。
そして達也が映像を見た限りでも異常があったのは第三セットからであり、この状況に持ってくる準備段階である第一セット、第二セットはあくまでも普段通りの最愛だった。
いつから考え、何のために実行したのかは最愛にしか分からない。
断言できるのは、この状況は意図して作られたものだということだけだ。
二つ目に、最愛が暴走するトリガーとなったものが何なのかということ。
今までのことから、最愛が暴走するのには何かしらの原因がある。
最初は見えない何かから身を守るかのように、次に襲われていた友人を見捨てようと———これは誤解だったのだが———していた深雪に対して、そして最後に人を殺めたことで。
ある一定のラインがあって、そのラインを超えた時に最愛は暴走するというのが達也の見解であり、注意して何とか超えないようにしていたラインでもあった。
しかし今回の最愛には一切の前兆が無い。
突然豹変したという表現が正しいだろう。
(最愛……)
ミラージ・バットの控室へと向かいながら、達也は行方知れずの最愛を再び思い浮かべた。
特段仲が良いというわけではない。
むしろ未だに警戒はしているし、お互い軽口を言い合いながらも何処か牽制しあっているという不思議な関係だ。
しかし同時に興味深い存在でもあった。
明らかに高校生には見えない体格、達也の異質さに入学当初から気がついていながらも積極的に関わってくるという矛盾、そして何より高校生とは思えない程の実戦経験と未だかつて見たことも無いような魔法とその魔法熟練度の高さ。
多分の警戒と興味を含みながら接していくうちに、いつの間にか有事の際には手を貸せると断言できる程度には友と呼べる間柄になってしまっている。
だから達也は、強硬手段を取ることはできなかった。
あくまでまだ友人として関わっていたいから。
これ以上動くようなら、最悪のケースも考えられるから。
(どうしたんだ、本当に)
せめて災いの予兆ではないことを、最愛を完全な敵として認知することがないように切に願った。
数か月後。
とある山奥の盆地にある、地図にも載らない小さな村に似つかわしくもない壮観な屋敷。
そのある部屋にて三つの人影が対峙していた。
男女比一対二。
片や初老の男性と見た目三十代前半の異性を惹きつけずにはおけない大人の可愛らしさが同居した妖艶な女性で、片やこの場には似つかわしくもない中学生と思わしき少女。
「まさか自力でこの屋敷に辿り着く人がいるなんて思いもしなかったわ。もし良かったらお茶でもどうかしら?」
「超いらないですし、案内したのは超そっちです」
「あらつれないわね。折角息子と姪の友達が来てくれたのだから私としては是非歓迎をしたいのだけど」
「超ゆっくりするつもりはないです、四葉真夜」
『極東の魔王』『夜の女王』という異名を持つ、当代における世界最強の魔術師の一人と目されている四葉家当主、四葉真夜と絹旗最愛が四葉家本宅にて対面していた。
「貴女の魔法や異常性は興味があるのだけれど———良いわ、用件を聞きましょう」
その理由とは、一度折り合いをつけたはずのもの。
しかしどうしても切り離すことができなくなってきたもの。
「超単刀直入に聞きます———」
それは、この世界に最愛が何故いるのかという根幹に関わる話だった。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。
そしてお久しぶりです。
二、三話は書き溜めているので明日明後日も同じ時間に更新します。
九校戦も終わり横浜騒乱編に突入するのですが、この物語の終わりは最初に明記した通り横浜騒乱編です。
あと数話、多くて十数話ですがよろしくお願いします。