「そこまで超警戒しなくて良いじゃないですか。まあ達也と深雪がどうしても私と遊びたいというのなら超構いませんが、どうしますか?」
夕日が差す日常的な学校の一ページが一触即発の張り詰めた雰囲気へと切り替わる。
あまりの急な展開に雫とほのかは付いていけず、達也と深雪はCADに手をかけようとしてしまっていた。
それ程までに今の最愛は怖いと、達也と深雪は直感したのだ。
同時に最愛が本当にその気で来ているのなら既に戦闘が始まっていても可笑しくはない状況下でもある。
その選択肢を達也に託している以上は、話し合いをするのが得策なのは間違いなかった。
「すまない。俺達に争う意志は無い」
「そうですか。まあこちらとしてもそっちの方が超有難いですから」
最愛と戦うのはあくまでも最悪の状況になってから。
それは初めから決めてある以上、達也と深雪も自ら吹っ掛けるようなことはしない。
そこは最愛も同じ考えだ。
「まあ達也と深雪にも後で用事がありますから超安心してください。校内にも用事があるので、ほのかと雫にはここで超待っていて欲しいです」
「分かったけど……校内?」
「俺達はどうすれば良い?」
「時間があるなら私が超戻るまでは一緒に居て欲しいですね。私達の話を聞いても良いという意味ではなく、通り魔から超守って欲しいという意味で」
「……変な意味じゃないよな?」
「通り魔という言葉と通りかかりの魔法師を超冗談っぽく言っただけなので気にしないでください。超追われるようなことはたぶんやっていませんから」
「たぶんって……」
手をヒラヒラと振りながら校舎へと向かう最愛の態度からして通り魔が来るというのは冗談だということは分かるが、それにしてもその冗談を使うタイミングは非常に悪い。
しかもたぶんと付け加えている以上、現在は足が付いていないにしても何かしらに追われることをやったことも推察できる。
そうなると達也としては何をやったのかが気になるところだが、後で話す時間を作るというのならその時まで待つしかない。
「最愛が無事で本当に良かった……」
「うん。心配だったけど元気そうで何より」
ただほのかや雫のように、心の何処かで最愛の無事に安堵している自分がいるというのも確かだった。
達也としては非常に不思議な感覚だ。
これが感情なのかと問われれば否と答えるが、これが何かと問われれば答えることができない。
答えが出ないもの程好奇心をくすぐられるものだが、そちらに気を取られていては万が一ということもあるため今は思考の端へと寄せなければならない。
最愛の言っていた通り魔が本当に来ても対処できるように目を光らせながら、四人で最愛の帰りを待つ。
「そういえばほのかと雫は最愛に呼び出されたことに心当たりあるのかしら?」
「心当たりがあると言えばあるよ。でもありすぎてどれのことを指しているのかは分からない」
「心当たりがある中で一番可能性が高いのはどれだ?」
「たぶん最愛の
それは達也も雫から聞いたことだ。
雫が知っていることは本当に表面上のことだけであり、それ以上のことは本当に何も知らない。
達也の情報入手経路の異常性を考慮したとしても、少し探れば知ることができることも知らないのだから相当だろう。
そしてそれは当然最愛も分かっているはず。
だからこそ目的が分からないのだ。
雫とほのかに何の用事があるのか、校内に何の用事があるのか。
何故姿を消して、何故このタイミングで姿を現したのか。
全てが謎であるが故に話題の種は尽きることはない。
それこそ最愛の用事が終わる程度の時間、あっという間に過ぎる程だ。
薄暗い校舎から分かりやすいシルエットが三人分確認できた。
「あれは十文字会頭と七草会長……ですよね? どうして最愛と一緒にいるのでしょうか」
「分からない。ただ、最愛の用事というのはあの二人で間違いないな」
達也としては関係性もあって意外と見慣れてしまった組み合わせでもあるが、雫やほのかからして見れば全く理解できない組み合わせだろう。
達也たちの存在に気が付いたのか、真由美も少し険しかった表情を柔和にさせて小走りに近寄ってきた。
「あら達也くん。まだ帰ってなかったのね」
「ええ、校門でバッタリと最愛に会っちゃいまして、ここに居て欲しいと言われたので待っていました」
「そうか。なら俺達は先に帰るとしよう」
「ええ、そうね。達也くんと深雪さんはまた明日。北山さんと光井さん、絹旗さんもまたね」
あくまで対立した様子は見せないのは流石というべきか、それとも本当に対立が無くなったのか。
判断を付けることはできないがヒラヒラと手を振りながら帰路についた真由美と克人を見送って、校門で待っていた四人が最愛へと視線を向ける。
「校内への用事というのは会長たちか?」
「それはまた後で超話します。達也たちは先に帰っていてください」
「深雪や達也さんには聞かれたらダメな内容なの?」
「私は達也と深雪のために超言っているんです。二人がほのかと雫に聞かれても良いと言うのなら二人の用件もここで超済ませちゃいますけど————」
「そういうことなら分かった。深雪、帰るぞ」
一瞬、深雪がハッとしたような表情を浮かべ、達也の雰囲気が変わったのがほのかや雫にも分かった。
本当に僅かながらの、しかし普段の二人の冷静さからは想像もできない程の動揺と警戒。
最愛が達也と深雪に関して何かしらの情報を掴んでいると理解するのは容易だった。
「それが超賢明です。また後日連絡を入れるので、その時に超ゆっくりと話しましょう」
「そうしよう。ほのか、雫。また明日」
お互いに別れの挨拶だけ済ませて、達也と深雪は長い一本道を下って行った。
校門の前に残ったのは、ほのかと雫、そして最愛の三人だけ。
達也、深雪の二人と一瞬不穏な雰囲気になったことから言い様も無い緊張感が漂う中、
「二人とも超久し振りですね。相変わらず仲が良くて安心しました」
最愛の第一声があまりにもいつも通りで、それこそ夏休み前に並んで帰っていた放課後のような声音で声をかけてくれた最愛に、ほのかは勿論のこと普段は表情に乏しい雫でさえもその表情に安堵と涙を浮かべた。
「私たちも安心した。本当に元気で良かった」
「急に居なくなっちゃって本当に心配したんだからね! 七草会長も十文字会頭も全く探そうとしないし、私たちが探しに行こうとするのも止められるし!」
「それは超申し訳ありません。あの二人とは九校戦関連で超色々あったのは二人とも知っていると思いますが、そこを超詳しく話すと長くなりそうなので居なくなった理由とかも含めて今度、近いうちに必ず話します。それで超大丈夫ですか?」
「分かった。最愛は約束を必ず守るからそれでも良い」
「超助かります」
言いたくないことは絶対に言おうとしないし、気に入らなければ目上の人だろうがそれこそ十師族であろうが関係なしに突っかかる。
良くも悪くも最愛はハッキリとした性格であり、それをほのかと雫も良く分かっている。
だから最愛が何かをずっと抱え込んでいると分かっていても、最愛から話さない限り二人から聞くことはない。
当然時と場合、内容によっては問い詰めるときもあるし、今回も問い詰めようとは思っていた。
しかし最愛が近いうちに必ず話すというのであれば、それを信じて待つだけだ。
「今回二人を呼び出したのは二人に超聞きたいことがあったから、というのは二人も分かっていると思いますが———あ、超安心してください。詳しいことはともかく、絶対に答えられる質問ですから」
呼び出した理由を改めて話し始めた瞬間に二人から若干の身構えを感じた最愛は、その警戒を解くかのように宥める。
恐らく二人も無意識だったのだろう。
最愛に言われて驚いたような顔をしながらも、申し訳なさそうに最愛を見た。
しかし二人が無意識に身構えてしまったのも仕方ないだろう。
それほど今の最愛は優しく、そして不安にさせられるような雰囲気を携えていたのだ。
「なんか今の最愛を見ていると心配する」
「うん。何と言うか、危なっかしい……みたいな感じがする」
「二人の感覚は超間違っていないと思います。状況によりますが、これから超危険なこともする可能性がありますから」
「……それはやらないといけないことなの?」
「やるかやらないかで答えるのなら超やらないといけないことです。そしてそれをするかしないかを判断するための超材料となるのが、今からほのかと雫に聞くことですね」
「もし答えない場合は、どうするつもりなの?」
「勿論その超危険なことを行います」
最愛にとって今から行う質問をする意味は本来ない。
二人に質問をしても納得の行く回答が得られる可能性は低く、何よりこの質問をするべき人物は本来別にいる。
二人に質問をしているのは最愛なりの気遣いという面も大きく、場合によってはこれが二人と会える
もしここでその道を辿るような回答が出るのであれば、最愛はここで未来永劫に渡る絶縁を言い渡すつもりでいる。
それだけ最愛の決意は固く、別れをしっかりと口にすることが二人に対する最大限の誠意だと感じているのだ。
「それでは超本題に入りましょう。先程も言ったように質問は超単純で間違いなく答えられるものなので安心してください」
危険なことをやると言われて身構えるな、とは最愛も言わない。
ただ求める答えが来るように、予想している答えが来ないように願いながら―――。
「二人共、入学式の時を超覚えていますか?」
「私と雫で最愛の家に行ったけど誰もいなくて、一高に向かったら校門を過ぎたところに一人でいたよね。もちろん覚えているよ」
「会ったことは無かったけど―――写真では知っていたよ」
そしてその瞬間はついにやってきた。
「そこです」
最愛はこの世界に存在していない。
どれだけこの世界に最愛が存在していたという証拠が揃えられていようと、心の奥底まで刻まれた傷は過去の記憶は消すことができない。
しかしそれは最愛だけが認知できるものであり、最愛以外が認知できるところでの大きな矛盾点は存在していなかった。
今、このときまでは。
何度も言うが、最愛はこの世界に存在していなかった。
それなのに、ほのかと雫は入学式の際写真を頼りに最愛だと判別したのだ。
つまりその写真に写っているのは最愛本人に間違いないのだろう。
だが問題は学園都市とこの魔法の世界の両方がパラレルワールドのように存在していると仮定した時、つまり最愛がこの世界にいることになるのは入学式直前からということになる点だ。
それこそがこの世界に残る明確な矛盾。
一体いつ、何処で撮られたものなのか、そして何処から手に入れたのか。
たとえそれらがわからなかったとしても、最愛を認識できた以上その写真に写っていたのは間違いなく最愛なのだろう。
しかも幼少期ではなく、最愛だと分かる直近の姿が写し出されている可能性が高い写真。
二人とも質問に答えられることの確認も取れたことで、最愛は意を決して質問を祈り紡いだ。
「二人が見ていた写真。その写真がどういうものだったのかを超教えてください。それが聞きたかったことです」
「どういうものかって、最愛が写っていた普通の写真だったよ?」
「その写真は超いつくらいですか? 背景は超どうでした? 他に誰か超写っていましたか!? それにその写真を見たのは———」
「ストップストップ! そんなに一気に聞かれても答えられないよ!」
ほのかに言われて、ハッとする。
動揺が悟られないように努めてゆったりと話していたはずなのに、いざ蓋を開けてみれば無様にも余裕がないことを露見させてしまっている。
と、ここまで考えて、再び最愛は首を振った。
「すみません。二人の前では超冷静でいようと思っていましたが、やっぱり私は超焦っているみたいです」
ただ親戚というだけ、北山潮に仲良くしてほしいと言われただけ。
写真でしか姿を知らず、明らかに問題しかないような人物にここまで無償の友誼を結んでくれたのだ。
最後ぐらいは、弱い自分を見せるぐらいはしても良いだろう。
「もしかしたら気が付いているかもしれませんが、私は自分が生きるためなら人を殺すことすらも超簡単にできてしまうほどには超自己中心的で、都合が悪いことからは目を逸らす超薄情者で、自分のことを誰かに話すのが怖いほど超臆病者なんです」
「違うよ———と言ってあげたいんだけどね」
「それを否定できるほど私たちは最愛を知らない。映画が好きだったことも、BS魔法師であったことも、そして強いと思っていたのに臆病な性格だったことも、本当に何も知らなかった」
「おかしいよね。三か月間ずっと一緒にいたはずなのに」
あれはいつ以来だろうか、人の嘘偽りのない本音というものを久しぶりに聞いた気がした。
———今考えてみればアイツも、ずっとこんな気持ちで接してきていたのかもしれない。
———だから、アイツが好ましかったのだろうと。
「私が言おうとしていなければ分からないのは超当然です———話が超逸れました」
思えば、最愛は今までずっと逃げ続けていた。
この能力を手にした時からずっと死と隣り合わせの世界で、ただ死にたくないと、生にしがみついた。
それは人として当然だとは、今も思っている。
しかし、こんな自分を好いてくれている人がいる。
心配してくれている人がいる
それがどれだけ心地の良いもので、どれだけ渇望していたもので。
どれだけ、心苦しいものだったのか。
「一つずつ質問をするので、分かる範囲で超答えてください」
だからもう、最愛は逃げない。
それが絹旗最愛という一人の少女がつけた覚悟だ。
そろそろ察してくるとおもいますが、分岐エンディングの予定です。
正史ルート
次話
???ルート
未定