魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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 四葉家と北山家の橋渡し。

 要は北山家が四葉家の庇護下に入るように最愛が取り計らうというのだ。

 最愛の過去によって雫とほのかに危険が及ぶというのなら、それから守ればこちらが何をしようと知らなくても問題ない。

 そんな無茶苦茶な理論を通すだけの商材を、最愛は持っていた。

 

「…………ふむ」

 

 その提案には流石の潮といえども真偽を見極めかねている。

 そこらへんの学生が今の言葉を言ったとしたら潮は笑い飛ばしていたことだろう。

 時と場合によっては叱ることだってあったかもしれない。

 しかしこれが最愛から発せられたものとなると話は別だ。

 現実として十師族に目を付けられている彼女ならば、或いは四葉家との関わりを持っていたとしても不思議ではない。

 

「潮はこちらの動向を超見ていたようですが、それでも一つだけ見破られていない事実があったんです」

「それが四葉家との繋がりとでも言いたいのかい? 俄かには信じられないな」

 

 実際のところ嘘だ。

 最愛の隠密の程度も素晴らしいものがあったとはいえ、七草との衝突が起きている以上は情報が落ちるわけで、潮は不足はあれど大まかに状況は把握できていた。

 事実として姿を消していた期間に四葉との繋がりは一切なく、家に帰る直前にようやく手に入れることができたものだ。

 しかしそんなことなど潮が知るはずもなく、四葉という嘘としてはあまりにも大きすぎる対象にその言葉が全て真実を前提として刷り込まれる。

 信じられないというのはあくまでも方便でしかない。

 

「信じるか信じないか、それは潮に超お任せします」

 

 本来この状況下において決断を急ぐのは悪手でしかない。

 先ほどまでの立場がある以上、最愛が潮の胸を借りている現状に変わりはないのだ。

 しかし———。

 

(あえてここで選択させるか……急かしている訳でもない。面倒だな)

 

 謂わばこれは信用問題だ。

 証拠を提示させる程度に最愛を信じているのか、それとも証拠がなくても最愛を信じるのか、もしくは単なるブラフか。

 安定思考の経営者であれば、ゲーム理論に基づいて証拠を提示させるだろう。

 しかしこれはそんなに簡単な話でもない。

 最愛に焦りの一つでも見れるようだったら、提示された相手が四葉家じゃなかったら。

 どちらか一つでも当てはまれば潮もふっかけてみる場面だ。

 嘘にしろ本当にしろ現状を一変しかねない切り札を出してきた最愛には、素直に称賛を送るしかない。

 

 

 ……実際のところ最愛の意趣返しでしかないのだが。

 

 

『近いうちにそちらへ超行きます。その時は超丁重に迎えてください』

 

 突如として聞こえてきた音声は、最愛の携帯から発せられたものだ。

 音質としては良くない部類のものだが、内容は鮮明に聞こえてくる。

 

『良いわ。もし入口にまで来られたら人を寄越します。貴女に四葉の本邸を見つけられる技量があるなら、正式な客人として丁重に迎え入れましょう』

『追って連絡します。それまで超楽しみにしててください、四葉真夜』

『ええ、楽しみに待っているわね、絹旗最愛さん。それで———』

 

 プツッと止められた音声は、先ほど達也の家で録音してきたものだ。

 この先は達也と深雪の名前が出てくるので切らざるを得なかったのだが、これでも内容としては十分。

 

「…………」

 

 潮に言葉はない。

 ただただ驚愕に目を見開き、情報を整理するのに全てのリソースを割いていた。

 せいぜい四葉家の末端とコネクションがある程度だと思っていたのに、その通話相手は世界にも名を轟かせる『極東の魔女』、四葉家の現当主四葉真夜だ。

 通話の音声が偽物という可能性もあり得るだろうが、その可能性は限りなく低いと潮は考えている。

 ブラフにしては出てくる相手があまりにも強大だ。

 

「証拠を提示しないなんて超無粋なことはしません。これが証拠にならないと言いたいのなら、この話は超無かったことにしますが」

「……いや、十分だ。十分すぎるが故に、即決ができない」

 

 それは敗北宣言にも等しいものだった。

 今潮の天秤には、二つのものが載っている。

 一つは現状維持。

 現状経営は良好であり、不安材料と言えば最愛により愛娘である雫と娘と言っても差し支えないほのかに危害が加わる可能性があるかどうかだ。

 元々最愛を預かるにあたって最初から厄介ごとが生まれることは()()()()()()

 潮に足りていなかったのはその厄介ごとの規模だ。

 そこらへんの企業相手ならともかく、十師族レベルとなれば想定外としか言いようがない。

 現状維持というのは即ち、今後訪れるかもしれない厄災全てを自力で対処しなければならないという意味でもある。

 

 もう一つは最愛の話に乗って四葉家の後ろ盾を貰うこと。

 どうやって手に入れたのかまで詮索をするつもりはないが、四葉真夜と連絡が取れるという事実は最愛の提案の現実味を大きく向上させた。

 あとは北山家と四葉家の橋渡しを最愛が上手くやるかどうか。

 もし交渉決裂の場合、北山家は最悪存在そのものを消されるだろう。

 その見返りは、最強の後ろ盾。

 最愛を引き取る際に潮が()()()()部分だ

 潮が直接交渉できないという点も含めてハイリスクではあるが、それに見合ったリターンもある。

 IFはIFだと切り捨てて現状維持を取るか、破滅か繁栄の狭間へ向かうのか。

 これは最早娘たちだけの問題ではない。

 北山家そのものの問題だ。

 

 

 ———最愛によって、北山家存続の問題にさせられたのだ。

 

 

「……迷惑な()だ」

「孤児院から引き取った時点で、こうなることは超必然です」

「ああ、そうだ。その通りだとも」

 

 最愛は潮に合わせてそれっぽいことを言っているだけだ。

 しかし潮にとってその返答は、最愛の言葉を借りるのなら過去の清算である。

 最愛には可能な限り不自由なく生活を送るように尽力してきたが、その程度で最愛という存在を抑えようなど甘すぎる考えだったのだ。

 潮の目には、そう映っていた。

 だがこれが過去の清算というのであれば———

 

 

 

 

 潮は、自分の目を信じたい。

 

 

 

 

 この娘(こ)は北山家の命運を握るかもしれない。

 昔直感したその感性こそ、叩き上げの経営者が信じるに足る根拠だ。

 

「こちらの要求は二点だ。一つは北山家と四葉家はあくまでも対等であること。どちらが上でも下でもない」

 

 指を立てながら、潮は条件を述べていく。

 ただこれはむしろ最愛が提案している条件だ。

 橋渡しをするのだから、そこに上下関係を生んではいけない。

 

「そしてもう一つは有事の際私が四葉家当主に直談判できる権利だ」

 

 有事というのが何を指すのか最愛には分からない。

 今後四葉家との関係が上手く行かなかった時か、それとも北山家に危険が及んだ時か、あるいは最愛についてか。

 しかしそれを抜きに考えれば、今の返答は最愛の誘いに対する是の答えと言って差し支えないだろう。

 

「潮には超感謝しています。雫とほのかも同じくらいに。恩を仇で返すぐらいなら、自分の人生ぐらい超賭けてみせますよ」

 

 人生を賭けるという重みを、本質を知らない潮も正確に測っていた。

 生に執着し、死から逃げ続けている最愛が自らの命を天秤に賭けたという事実を最愛を知るものが見たら驚愕することだろう。

 最愛の決意には、それほどの重さがあった。

 それを理解した潮は、今までの堅い雰囲気を消して温和な笑みを浮かべる。

 

「それならもう、何も言うことは無い。頑張っておいで———」

 

 ポンッと乗せられた手の感触を、最愛は素直に受け入れた。

 最愛は生まれてから親というものを知らない。

 姉も妹も子分みたいな奴もいたにはいたのだが、気分一つで崩壊してしまうような関係性だった。

 だから最愛には、分からない。

 どうして潮の手の感触がこんなにも気持ちの良いものなのか、どうしてここまで安心してしまうのか。

 困惑交じりに受け入れたその感触は、今までに最愛が受けたことのないものだった。

 

 

 

 ———君も大事な(むすめ)なのだから。

 

 

 

 

 それを人は、愛と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

♦♦♦

 

 

 

 

 

 

 全国高校生魔法学論文コンペティション———通称論文コンペ。

 一学期が九校戦に向けて力を入れていたように、二学期は各校論文コンペに力を入れている。

 派手な魔法による選手たちの舞踊もなければ表立つ人数も少ないため九校戦よりも地味な印象を受けるが、それでも力の入りようは本物だ。

 特に九校戦で結果を出せない高校にとっての花形であり、意味合いとしては学習発表会よりも研究成果を世に出す学会の方が近い。

 九校戦が「武」の象徴であるなら、論文コンペは「文」の象徴。

 またあくまでも九校戦に比べて地味という評価を受けているだけであり、実演を伴うプレゼンテーションはやはり派手という他ない。

 一高も例に違わず論文コンペに向けて元生徒会会計市原鈴音を主体に準備を進めており、多少のアクシデントは有りながらも何とか研究の完成形を作ることに成功した。

 

 本日、10月30日は論文コンペ本番だ。

 9時から開始であり、一高の出番は15時。

 内容は、重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性。

 加重系魔法の技術的三大難問の一つである重力制御魔法式熱核融合炉を実現するための技術的可能性についての発表であり、たった今、達也はその発表を終えたところだった。

 

 発表成功の証とも呼べる拍手喝采の中達也は壇上の端からホールの中を目当ての少女を求めて見渡し、そして会場内にいないことを確認して僅かに嘆息した。

 もしかしたらいるかもしれない、という曖昧な根拠で探しているのではない。

 誰でもない最愛本人が今日この場に、論文コンペがやっている時間に姿を現すと言ったのだ。

 姿を見せると言った日には必ず姿を見せている以上その信頼は大きいものだが、相変わらず時間を提示しないのは最愛の悪いところか。

 気持ちで言えば遠距離恋愛している彼女が待ち合わせ場所に来るのを待っている彼氏だろう。

 

 勿論そんなことを言えば底冷えするような未来が待っているし、そもそもそのような感情を持ち合わせていない達也にとっては知識での気持ちの代弁になる、と一言付け加えられるが。

 

 とりあえず、今この場にいないのならどうしようもない。

 18時半までは論文コンペの時間だ。

 たとえ18時半直前に最愛が来たところで、「論文コンペがやっている時間内には超間に合っています」とかなんとか言ってはぐらかすのは容易に想像できるし、何よりも気長に待った方が自分のためでもある。

 ついでに確認したが、雫とほのかもかなり落ち着いた様子だった。

 同じく最愛に今日来ることは知らされているようだが、二人が静かに待っているのに達也がソワソワする理由もない。

 

 らしくない、とばかりに達也は壇上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、グレネードの爆発により達也たちはテロリスト襲撃の事実を知ることとなる。




次回、ついに最終回。
四葉真夜と最愛の邂逅についてはIFの世界、分岐エンディングにて描くのでその内容で正史にどう繋がるかが分かります。
今年は亀更新で後半は駆け足気味ではありましたが、何とか完結に辿り着けそうなのは皆さまのおかげです。

それでは皆様、良いお年をお過ごしくださいませ。

追記
最終回と言いましたがあと2話です。申し訳ありません。
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