今年もよろしくお願いいたします。
前回今話が最終回と言いましたが次回が最終回となります。
後世において人類史の転換と評される「灼熱のハロウィン」。
その発端とも呼ばれる「横浜事変」が、10月30日15時30分にて引き起こされた。
一高発表終了と同時に横浜港にある管制ビルに車両が突っ込んだことを開戦の合図に海に面している港や要所の大半がテロリストに占領され、各地でゲリラ戦が勃発していた。
その中でも一つ、横浜国際会議場にほど近い港にてミサイルの雨に遭遇したのは、十文字家であり共同警備隊の隊長を務める克人だ。
偶然というわけではなく、そこに強大な魔法の気配があったため急ぎ駆け付けた訳だが、不幸か幸か駆け付けたと同時に携行ミサイルの歓迎を受けることとなった。
克人の反応は条件反射の域に近く、気体も通さない対物障壁と二万度の高熱にも対応可能な耐熱障壁の多重防壁を瞬時に構築する。
しかしその障壁にぶつかったのは、爆発の余波だけだった。
克人はミサイルを爆発した衝撃波の飛来元へと振り向き、軍用車両に乗った国防陸軍の姿を認める。
「スーパー・ソニック・ランチャー……
克人の敬語は同じ一高に通う者なら些か不自然なものではあるが、彼とて一介の高校生。
大人の、しかも軍人を相手には敬語だって使う。
「国防陸軍第一〇一旅団独立魔装対大隊大尉、
克人の眉がピクリと動いた。
それだけで済ませたのは流石の精神力というべきか、伊達に十師族ではないということだが。
今回で言えば、二人とも場所が悪いというのが答えだ。
「へえ、克人って十文字家の当主だったのですか。それは超良いことを聞きました」
その声を聞いて、今度こそ克人の瞳は大きく見開かれる。
どうしてここに彼女がいるのか、一体いつからそこにいたのか。
少なくとも、今こちらへ向かってきた戦車の後ろから出てきて良いはずがない。
「いつからそこに居た、絹旗」
「ずっと居たと言えば、超信じますか?」
絹旗という名前に覚えがあるのか、真田も最愛へと目を向けて何処か納得したように頷いている。
最愛の名前は今や知る人ぞ知る地下アイドルに近い知名度を誇っており、それこそ七草が総力を挙げて尚捕えきれないという事実と共に各所へと散らばっていた。
七草から見れば汚名が服を着て歩いているようなものだが、最愛から言わせてみれば逃げられる方が悪い。
視線は克人から、ミサイルランチャーのようなものを担いでいる真田へと向けられる。
「貴方達が噂の一〇一ですか」
「奇遇ですね、我らも噂は聞き及んでいますよ、絹旗最愛さん」
「それは達也からですか? それとも上官からですか?」
今度は真田の眉がピクリと動く番だった。
そしてそれは克人にとっても見逃せない名前でもある。
「どういうことだ絹旗。何故そこで司波の名前が出てくる」
「私よりそこの真田とかいう軍人にでも超聞いてみたらどうですか? どうせ情報統制は超解除する予定でしょうから」
「なるほどなるほど、これは
行く先は同じ、とでも言いたげな様子の真田に克人も頷きを返す。
しかし問題児をそのままにしておくほど、克人も悠長ではない。
「絹旗、お前も一緒に来い」
「超断ります」
「拒否権はない」
「なら実力で超通してみてください。そんな余裕が克人にあるのならですが」
勿論そんな時間も余裕もないし、ここで実力行使をして逆上などされようものなら目も当てられない。
それを知ってか知らずか、挑発するかのように克人の真横まで歩み寄ってきた最愛は、
「——————」
ボソリと克人にしか聞こえない声で何かを呟き、ただただ真剣な眼差しで克人を見据えた。
予想していなかったのだろう。
その言葉に克人は目に見えて戸惑っていた。
「……そのまま伝えれば良いのか?」
「超お願いします。私は今から超行くところがあるので」
それ以上の返答など必要ないのか、内陸の方へと歩みを進める最愛の背を一瞥しながら克人も行動に移る。
切り替えたように真田へと顔を向け、本題へと戻った。
「行きましょう、大尉」
「良いのですか?」
「問題ありません。貴官も話したいことがあるのでしょう」
「確かに。参りましょうか」
目的の一致。
二人は最愛と反対の方向、ホールの入口へと歩みを向けた。
♦♦♦
横浜国際会議場から素早く脱出した一高の生徒は、現生徒会長であるあずさと元生徒会長である真由美の二手に分かれて避難をしていた。
あずさの方は多少のアクシデントがありながらも無事地下シェルターまで避難できたが、テロリストの攻撃により地盤沈下が発生、地下シェルターに閉じ込められてしまっている。
幸いなのは怪我人がいないことか、事態が収拾すれば問題はない。
一方一般市民の避難も同時に受け持っている真由美の方では現在、救助の飛行船を待っている状態となっていた。
桜木町駅前広場では現在避難民が一か所に集められており、依然としていつ襲撃に晒されてもおかしくない状況に置かれている。
鈴音指揮の元テロ部隊が来そうな二つの経路に迎撃部隊を配置して警戒に当たっているため現状被害はないが、やはり相手はテロリストということもあり気は抜けない。
事実、1チームの迎撃部隊の元には直立戦車が押し寄せていた。
その迎撃部隊は二部隊。
レオ、エリカ、深雪、幹比古、美月と、桐原、紗耶香、花音、五十里にエリカの兄である
鈴音の言葉を借りるなら、間違いなくテロリストは攻撃を仕掛けてくるということなのだが———。
「……なあ、流石におかしくないか?」
桐原の呟きは、その場の全員が同意するところだった。
もう片方の部隊には直立戦車が姿を現し迎撃にあたっているというのに、桐原たちの元へは人影すらも見えないのだ。
全兵力を向こうに割いているとは思えないし、この道を知らないという路線も低い。
寿和も警部という立場から逐一情報を仕入れているが、人命救助と護衛が優先のため戦線の情報は思うように手に入らなかった。
「もしかして本当にいないんじゃないの?」
「それはないよ花音。この道の先で間違いなく誰かが戦っている気配がある」
「戦っている?」
それは警察ではないというのはよくわかる。
もしそうなら寿和に連絡が入ってくるだろうし、何より民間人から離れたこの地に過剰な人数を割く余裕などない。
一体誰が、と続きそうな桐原の疑問に答えられる者はこの場には居なかった。
「でもわざわざ俺たちが待ち構えるような場所に来るかね」
「それは一理あるが、それを知ったところで俺たちは下手にここを動けない。一応部下には警戒するよう伝えてあるし、七草家のご令嬢もいるなら俺たちはここを死守するべきだ」
不安の種はある。
しかしそんなものはテロという現在の状況を鑑みればいつでも植えられるものであり、取り除くことなど不可能だ。
寿和の言う通り任された仕事は絶対順守だ。
さらに言ってしまえば、他所事にかまけている状況下でもない。
「……何体か抜けてきたみたいだ! 来るよ!」
それは臨戦の合図。
もしこれがレオやエリカなら喜んで応対しただろうが、生憎ここにいるのは普通の魔法師と現役の警察官一人だ。
変な慢心もなければ高揚もなく、適量の緊張感を持って相手を迎え撃つだけだった。
同時刻、異変に気が付いたのは幹比古だった。
「おかしい……」
その違和感は、攻めてくる敵があまりにも
レオやエリカは来た直立戦車を倒すだけという単純な仕事のみを任されているので特に気にした様子もないようだが、深雪は後方支援に徹しながらもその違和感に気が付いているようで周囲を警戒している。
地下で遭遇戦があったことから桜木町駅付近には一般人魔法師関係なく集まっているということは明らかだ。
今回の標的が何であれ日本の武力を減らせるならやらない理由はなく、そういう意味では桜木町駅は格好の餌食なはず。
「幹比古、これで終わりか?」
「何かパッとしないわね。もう少し暴れられると思ってたのに」
エリカとレオも気が付いていたことに対して、幹比古は内心謝罪を入れてから答えた。
「ちょっと待ってて。もう少し奥まで見てみる」
幹比古が扱う古式魔法は現代魔法に比べて発動速度が遅いという難点を抱えているが、改変に対する抵抗を受けないことや威力の高さ、隠密性は現代魔法よりも優れており、九校戦のバトル・ボードで設置型の古式魔法が使われていたことからも有用性は分かるだろう。
今幹比古は風にばらまいた呪符によって喚起された精霊から情報を読み取っている。
自分たちが構える道の先、その角、さらには他方の警戒チームへと視点を向けていき———さらなる不審な一報が送り込まれた。
「どういうことだろう。もう一つのチームには全く敵が来ていないみたい」
幹比古の言葉にエリカやレオ、美月は勿論のこと、深雪までもが首を傾げた。
こちらに兵が来ていないだけならまだ分かる。
それだけ向こうのチームの負担が大きいというだけであり、こちらから適宜応援を送れば済むだけの話だ。
しかしもう一方のチームに関して言えば今戦っている直立戦車二体が初戦闘と来た。
これを異常と言わず何と言おうか。
すぐさま視点を変え、先へ、さらに先へと視覚を伸ばしていき、直線距離にして2キロほど。
「これは一体……」
「吉田くん、どうかしたのですか?」
戸惑いを隠せずに呟いた幹比古に、深雪も異常事態を察知した。
しかし実際に聞いてみればなるほど、戸惑うのも無理はない。
「この先で
「大規模な戦闘……ですか?」
「もしかしたら国防軍の人ではありませんか?」
「あー、そうかもな」
美月の問いかけにレオは納得した様子を見せているが、これを深雪は否と断言できる。
根拠がある訳ではないが、横浜国際会議場のVIPルームにて確認できた勢力図からテロリストは横浜港から上陸して魔法協会横浜支部へと主力を傾けていた。
もう片方は桜木町駅や横浜国際会議場などがある北側に向けられているのだが、北側の主力は海岸沿いに侵攻している。
つまりある程度内陸に位置するこの場所ではゲリラ戦こそ起きても大規模な戦闘が起きるはずがないのだ。
そもそも大規模な戦闘があれば音なり
「ねえねえ、そっち行こうよ! ここらへん一帯に敵はもういないんでしょう?」
「駄目よエリカ。ここを動いたら後ろにいる皆が危険だわ———でも援軍は必要かもしれないわね。吉田くん、今どれくらいの規模で戦っているのかわかりますか?」
「ちょっと待ってて。今戦闘場所を探してるから」
距離的に戦況が不味いのであれば加勢も考えられる。
戦況を把握するという意味でも念入りに状況把握に努めていた幹比古は、ものの数秒でついにその前線を見つけ出し、
「……まさか」
そのあまりにも
誰もがすぐに異常事態だと気が付ける程の反応にピリっと空気が張り詰め、幹比古がどういう異常を口に出すのか、粛々と待った。
幹比古にとって
行方不明となっていた彼女が何故今この場にいるのか、何故たった一人でテロリストに相対しているのか。
そして何故、魔法が使えない彼女がたった一人でテロリストを圧倒しているのか。
その全てが幹比古には処理しきれない情報だ。
その全ての感情を簡易に、簡潔に、整理しきれる範囲で、幹比古は呟く。
「……最愛がどうして」
「えっ!?」
「最愛がいるのか!?」
「最愛ちゃん……」
「……そういうことなのね」
その反応は様々だ。
エリカ、レオ、美月は最愛がいることそのものに対しての驚きが占めており、深雪は何処か納得した表情を浮かべている。
そもそも幹比古が驚いているのは何故そこに最愛がいるのかより、何故最愛がここまで強いのかという点だ。
最愛が普段からレオをねじ伏せている点やクラウド・ボールのバカげた打球からも分かる通り、ある程度強いというのは周知の事実としてあった。
だがそれはあくまでもじゃれ合いやスポーツの中の話であり、実戦で考えるならレオやエリカみたいに得物が無い限り直立戦車と真向からやり合うのは自殺行為でしかない。
それが当たり前なはずなのに。
どうして対魔法師用のハイパワーライフルを真正面から無効化し、素手で一方的に蹂躙しているのか。
恐らく達也という前例がなければ完全に脳の処理が追いつかなかっただろう。
幹比古が思考停止に陥るのはこの場で最もやってはいけないことだ。
まずはそう、これを伝えるべきだろう。
「とりあえず援軍は必要なさそうだね」
「ちょっとミキ! 援軍が必要ないってどういうことよ!」
「そうだぜ! いくら最愛が強いからって———」
「もう、敵は全滅したよ」
全員撲殺するという一部始終を見た幹比古は冷や汗が止まらないが、その様子を知らなくても敵軍壊滅の報は十分驚愕に値する。
素直に思ってしまった。
今年の二科生は達也があまりにも目立ちすぎているため流されがちだが、九校戦といい今回の件といい本当にヤバいのは最愛なのかもしれないと。
そして一人の少女は最愛の報を聞き、安堵していた。
『これからも超よろしくお願いします』
VIPルームにて達也と共に克人から告げられた、最愛の伝言を反芻させながら。
今度こそ次回最終回。
これからも超よろしくお願いします
と伝言を伝える見た目35浪の男