魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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最終回(最終回ではない・通算二回目)
明日もう1話本当の最終回投稿するので許してください。

詰め込みました感を出したくはなかったんです。


呂剛虎

 今回のゲリラ戦は横浜にある魔法協会のメインデータバンクを目的としたものだ。

 戦争に限らず、情報とは武器である。

 たとえば現在の位置情報。

 敵味方関係なく位置情報を正しく把握できているのであれば、敵が何をしたいのか、こちらは何をすればいいのかが明瞭になる。

 たとえば偽の情報。

 敵に正しい情報だと誤認させて偽の情報を送ることができれば、こちらは敵の動向を把握しながら敵にこちらの情報を掴ませることなく立ち回ることができる。

 たとえば魔法。

 国にとっての魔法とは軍事力だ。

 戦略級魔法の軍事的価値、抑止力を考えれば特記するまでもないだろう。

 

 魔法一つで戦況、情勢の優劣が一変することもある。

 そのメインデータバンクとなれば当然最優先防御対象であり、敵としては最優先攻略対象でもある。

 つまりそこには敵の最大戦力が投入される訳であり、例に違わず魔法協会関東支部にも少数精鋭が送られていた。

 一小隊にも満たないその部隊は、幾重にも重ねられているバリケードを突破して魔法協会へと侵攻している。

 その小隊の長を務めるのが、世界屈指の近接戦闘魔法師・呂剛虎(リュウカンフウ)

 そしてその前に立ちはだかったのは、一人の少女だった。

 

「そこまでだ、呂剛虎。お前はここで倒す」

 

 凛とした声で告げた彼女の名前は、渡辺摩利。

 一高三巨頭の一人であり、呂剛虎にとっては一度敗北と二度の屈辱を与えられた相手でもある。

 猛獣は本能に忠実だ。

 呂は本能のまま欲求に従い、獰猛な笑みを浮かべながら摩利へと襲い掛かった。

 世界屈指の近接戦闘魔法師と相対するだけあって摩利の武装は完璧だが、呂の「剛気功(ガンシゴン)」は装甲車の機関砲すらも跳ね返す鉄壁の要塞。歩く装甲車とも呼べる呂に一人で勝てると淡い幻想を持つほど摩利も未熟ではなく、何も対策無しに相対している訳でもない。

 魔法協会支部に援軍に来た一高生は合計五人。

 障害という障害もなく、一切の滞りもなく市民全員の避難は済んだのだが、魔法協会支部を守らなければならないという使命の下集まった精鋭だ。

 そのうちの一人、真由美は小隊の残党を相手しており、もう一人の深雪は魔法協会最後の砦として中を任されている。

 故に呂に向けられた戦力は摩利含めて三人だけだ。

 真由美を後ろに付けられたら盤石だったのだが———というのは摩利の談である。

 

 摩利に突撃していく呂の真横から、一筋の影が伸びる。

 普段ならその影にも即座に反応を見せていただろう。

 ただ雪辱に燃える呂は視界狭窄(しかいきょうさく)に陥っており、横合いから来た長大な刃によって身体を切り裂かれた———と、思われた。

 横から袈裟斬りで放たれたエリカの一撃は重量10tにも及ぶ破壊力を誇り、普通の近接魔法師であれば両断される程の一撃を誇る。

 しかしここにいるのは、世界屈指の近接戦闘魔法師だ。

 呂はその長大な刃に向かって両腕を掲げ、10tの圧壊を真正面から受け止める。

 足元の舗装された路面が捲り上がり小さなクレーターを作る程度には威力に押されながらも、完全に受け止めてしまうのは流石世界屈指の近接戦闘魔法師と言われるのか、それともその世界屈指の近接戦闘魔法師に防御態勢を取らせたエリカを褒めるべきか。

 ただこの場合は明確な隙を作ったという意味でもエリカを褒めるべきだろう。

 

「せやぁ!!」

 

 エリカを敵だと認識した呂は、咆哮を上げながら近づくレオに対しても反応が遅れた。

 レオが握っている得物は薄羽蜻蛉(うすばかげろう)

 名匠が作り上げた名刀———という訳ではなく、刃渡り約2メートル、厚さ5ナノメートルという黒く透き通った極薄の刃を硬化魔法で固定させる武装一体型CADだ。

 その薄さから切れ味は他の追随を許さない程鋭利ではあるが、刃を動かす術式は組み込まれていないため術者の技量によって左右されるCADでもある。

 もし仮に縦に振り下ろされていたのであれば認識することすらできずに切り裂かれていたことだろう。

 しかしレオの狙いは両足を刈り取るため下段に水平方向。

 対格上に対しての戦術としては妥当な狙いどころだが、薄羽蜻蛉の使い方としては未熟としか言いようがないだろう。

 水平に振られたその透き通るような黒い刃を、呂は視認することができた。

 

 呂の身体が宙を舞う。

 見た目からは想像もできないような機敏さに、しかしレオは即座に斬り上げることで対応を見せた。

 しかし、その反応速度を持ってしても砲弾のような飛び蹴りを回避することは敵わない。

 人体から鳴ったとは思えない異音を鳴り響かせ、レオは蹴り飛ばされた。

 咄嗟に防御態勢を取っていたが硬化魔法による強化はされていない。

 つまりレオは生身で大砲のような一撃を喰らってしまったのだ。

 

 間違いなく重傷。

 即死はしていないだろうが、いくらレオが頑丈だとは言っても安心できる材料など何処にも無いほどに、その威力は鮮烈だった。 

 その行方を目で追ってしまったのが、致命的な隙を生んでしまう。

 

 レオを蹴り飛ばした呂はそのまま反転し、エリカに掌打を放った。

 一瞬呂を意識外に飛ばしてしまったエリカは反応が遅れてしまい、左腕にその掌打を受けてしまう。

 訝し気な表情を浮かべたのは、呂だった。

 明らかに直撃したのにも関わらず手ごたえが全く感じられなかったのだ。

 しかしバリケードに衝突したエリカの身体が起き上がらないことを確認したため、呂はすぐさま最後の一人へと視線を向ける———と同時に、バックステップで退避を選んだ。

 

「ちッ!」

 

 その舌打ちは摩利の思惑が失敗したことを意味している。

 すぐに離れたため呂が感じることはないが、先程までいた場所には酩酊感を与える香りが漂っている。

 これはかつて自身がやられた戦術であり、意趣返しにもなっていた。

 摩利も同じ戦術を取ったわけではないが、それでも距離を取られてしまえば意味を成さない。

 しかし距離を取ってくれるのは摩利としても有難い状況だ。

 超近距離戦が主戦場の相手に同じ土俵で戦うのは自殺行為にも等しい。同時に一度苦渋を舐めさせられている呂にとっても同じことだ。

 故に呂はただ自身の強靭さを武器に突撃を繰り出す。

 それに対して摩利は三節刀を取り出し、「圧斬(へしき)り」でそれを迎え撃った。

 先ほどメスシリンダー三本分のガスを消費した摩利ではあるが、まだストックは残っている。

 問題は呂にガスを完全に警戒されてしまっているため、一対一の状況下においてそれを使うタイミングが訪れないことだ。

 

 対して圧斬りは刀に沿って極細の斥力場を形成して接触したものを切り裂く加重系統魔法の近接術式だ。

 その切れ味は薄羽蜻蛉に並ばずとも迫る程であり、強度は光に干渉する程。

 しかし圧斬りのみでは役者が足りない。

 最早その巨体からでも何の違和感もない程俊敏に躱す呂を見て、内心苦笑する。

 

 もし真由美がいたなら———そんな考えは、一瞬で捨て去った。

 レオとエリカが倒れた今、摩利は自分で隙を作るしかない。

 圧斬りを避けながらも加速してくる呂に対して取り出したのは、四本のメスシリンダー。

 蓋を開けて漏れ出たガスは摩利の気流操作によって呂の鼻孔に向けられるも、最大限警戒をしていた呂はそのガスを飛び越えて摩利へと迫った。

 それを待っていたとばかりに、摩利は圧斬りを放つ。

 メスシリンダーのガスはあくまでもフェイク。

 勢いを殺さずに突撃してくる姿から横に飛ぶことは無いと判断したもので、そのまま突っ切ってくるなら重畳というだけのものだ。

 タイミングも完璧。

 空中に投げ出されている状態であれば避けることもできない。

 相手の警戒心を逆手に取り回避不可能な一撃を生み出したのだ摩利の手腕は見事という他ないだろう。

 ただ唯一誤算があったとすれば、それは()()()の近接魔法師にまでなら通用していたという点か。

 

「ハァッ!」

「なっ!?」

 

 完全に虚を突いたと思われた一撃を、呂は無理矢理身体を捻じることで回避した。

 あまりにも人間離れした動きに硬直した摩利は、回避と同時に放たれた力だけの蹴りを脇腹に受けてしまう。

 力だけ、とは言ってもその力はバリケードすらも破壊する怪力だ。

 咄嗟に身を引いたことである程度威力は軽減されているとは言え、摩利の身体を吹き飛ばすには十分な威力となっている。

 

 そして呂は以前のように油断しない。

 両手を地面についてバク転の要領で体勢を立て直した呂は、トドメを刺すべく摩利へと肉薄した。

 摩利は吹き飛ばされたまま体勢を立て直しておらず、しまったと顔を上げれば目の前には獰猛な虎が自らを食い殺さんとばかりに猛追を仕掛けているところだった。

 最早回避も間に合わない。

 援護射撃無しで挑むのは流石に無謀だったのかと思わず諦観すら浮かべる。

 だがそうやって諦めたことで視界が開けたからだろうか。

 摩利はその異変に気が付くことができた。

 

 油断も慢心もなくそのままトドメを刺そうとした呂の目が突如として見開かれ、身体を直角に反転させて防御態勢を取る姿を。

 そしてそのコンマ数秒後に爆音が鳴り響き、その巨体はいとも容易く吹き飛ばされる。

 一瞬真由美が助けに来てくれたという思考が過るが、視線を向ければ真由美も新たな援軍に驚愕の表情を携えているようだった。

 それでは一体誰が———その答えは、摩利自身の目が教えてくれた。

 茶髪のボブカットに同じ高校生とは思えないほどの小柄でありながら、その実一高でも屈指の近接戦闘魔法師。

 

「超久しぶりですね、摩利。苦戦しているみたいなので超助けてあげます。何故私がここにいるのか、なんて超野暮なことは後にしてください」

 

 そしてその特徴的な喋り方をする少女。

 最近は一高で見かけることもなかったが、その少しの時間で忘れられるほど彼女のインパクトは小さくない。

 本来ならこの場にいないはずの少女、絹旗最愛が笑みを浮かべながら摩利を見ていた。

 

 

 

 

 

♦ ♦ ♦

 

 

 

 

 最愛は今、とても清々しい気分だった。

 それこそどれだけ銃撃されようと、どれだけ魔法を撃ち込まれようと一切気にならない程度には気持ちが高揚している。

 全てを破壊したくなるような衝動に襲われる度し難い激昂とは違う、最愛だけの感情。

 それだけ四葉真夜との会談は最愛にとって大きい意味合いを持っていたのだ。

 

 北山家は四葉家の後ろ盾を貰い、最愛も条件付きではあるが四葉家の後ろ盾を貰うことができた。

 つまり最愛と達也、深雪はお互いを警戒する必要がなくなり、何の憂いも無く堂々と交友関係を深めることができるようになったのだ。

 それだけでも今回の件は大成功としか言いようがない。

 

 次いでこちらが本当の目的、四葉真夜が権限を持つ『フリズスキャルヴ』を使った魔術師や学園都市の存在の有無。

 最愛はこれがどういうものなのか、どういう原理で情報を集めているのかなど全く知らないのだが、八雲がこの数か月で集めてくれた情報の中で一番信頼が出来るだろう情報筋であり、最早これでヒットしなければ何をしても無駄だという八雲からの確証まで得られる一品だ。

 それを使わせてもらうための、直談判。

 支払った対価は決して少なくないが、それでも持ちうる手札全てを開示して得られた情報は———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通ならがっかりすることだろう。

 しかし最愛にとってこれが意味することは、もうこれ以上魔術師のことを気にしてもどうしようもないということだ。

 手がかりもなければこの数か月間接触もなし。

 ここまでしてダメならもう何をしても無駄だと踏ん切りがつく程度には動き回ったのだ。

 それならもう良い。

 壁の外は壁の内側の延長線でしかなかった。

 何もないというのなら、それが答えだ。

 

 完全にやり切ったと言える程にまで自分を追い詰めて一つの答えを見つけられた最愛は、本当の意味で()()()()から解放された。

 あとはもう気楽な———仮にも四葉家当主の面前ではあったが———ものだった。

 最愛の能力やその知識に前々から興味を持っていたこともあり真夜との交渉は終始最愛の主導で———真夜が譲ってくれた———進んでいき、七草家の面子を潰してくれていることを大層嬉しそうに嗤ったり、あとは達也や深雪との学園生活を微笑ましそうに眺めていたり———。

 

 いざ終わってみれば、徒労にもほどがある道のりだ。

 しかし後悔はしていない。

 あの瞬間から少女はレベル4「窒素装甲(オフェンス・アーマー)」の大能力者ではなく、北山家の養子絹旗最愛になったのだ。

 もし人生で特別な日を作るのであれば、間違いなく今日この日を選ぶ。

 どれだけ戦車を叩き潰しても、どれだけ銃口を向けられても、それらを全て黙らせた後でも、一切心に陰りが落ちることはない。

 そして今後も陰りが生まれるかはどうかは最愛次第だ。

 

 だからまずはそう、瓦礫の中からこちらを射殺さんとばかりに睨みつけてくる知らない敵(呂剛虎)を倒すことから始めてみるのも良いだろう。

 周りを見てみれば、バリケードに蹲っているレオとエリカ、そして蹲りながらも一番余力が残っているだろう摩利の姿がある。

 見たところエリカも意識は戻ったようだが脳震盪を起こしているのか起き上がれないでいるだけのようだ。

 問題はレオ。

 衝突したバリケード、そしてその付近に散らばる鮮血から分かるように、明らかに重傷だ。

 それでも苦悶と驚愕を携えた表情を見せているあたり、命に別状は無いといったところか。

 

「……もしかして絹旗か?」

 

 摩利の声音には、驚愕7割と苦悶3割が混じっていた。

 余力があるとは言ってもかなりのダメージは受けているらしい。

 

「超久しぶりですね、摩利。苦戦しているみたいなので超助けてあげます。何故私がここにいるのか、なんて超野暮なことは後にしてください」

「私もそこまで野暮ではないさ」

 

 立ち上がりCADを構えた摩利はまだ戦えるという意思表示でもあった。

 最愛の強さは摩利も聞いている。

 猫の手でも借りたい現状にライオンが来てくれたのならそれほど心強いものもないだろう。

 

「とりあえず摩利は超休んでください。あいつは私が超倒します」

「無茶を言うな。私もサポートぐらいならできる」

 

 摩利の言葉を聞いた最愛の表情が、微笑から嘲笑いへと変わる。

 

「あの程度一人でやれるって超言ってるんです。摩利が超出るまでもありません」

 

 あえて聞こえるように言っているその言葉は、既に最愛の駆け引きが始まっていることを意味している。

 その嘲笑も当然、呂剛虎に向けられたものだ。

 呂も言葉は分からなくても煽られたという事実は正確に受け取ったのだろう。

 

「ウオオオオオオオッ!!!」

 

 その雄たけびが最後のゲリラ戦開戦の合図となった。




ヒーローは遅れてやってくるというやつです。
明日21時本当に最終回です。
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