IDカードを貰った最愛はクラスを確認する。クラスはE組。盗み聞きしたところ、どうやらさっき目があった男を含む一行もE組のようだ。はぁ、と一つ溜め息。ほのかと雫の下へ向かう。
「二人は超何組ですか?」
「あ、最愛ちゃん! 私たちはA組だよ。最愛ちゃんは?」
「E組です」
「そっか――あ、雫! あれ見て!」
「うん?」
会話の腰を折ってまで指差された場所。雫と絹旗が同時にその方向を向くと、なるほど、深雪と会長、並びに生徒会役員にその他有象無象。生徒会は今後の予定を決めるといったところだが、有象無象に関してはただ近寄りたいだけだろう。権力者に庶民が媚びを売るのと同じだ。
「ほらほのか。話しかけるチャンスだよ」
「えぇ!? あれはさすがに無理だよぉ……」
どうやらほのかは深雪と話してみたかったらしい。雫に背中を押されながらも、反発して腰を引くほのか。確かにあれは声をかけにくい。しかも、深雪の方はそちらの方で目的を持っている動き方をしている。というよりも、深雪はある一点しか見ていない。
迷わず向かう彼女の先には――例の男と女二人のグループ。
「お兄様!」
「お兄様……?」
「お兄様って超言いましたね」
「でも、一科生には他に司波さんはいなかったから、上級生なのかも」
思わぬ単語にほのか、最愛、雫の順番でそれぞれコメントを残しつつ一緒に視線を動かし、なんとかその姿を見ようとぴょんぴょんするほのかと雫。そして隙間から覗いた深雪に対面している男、達也の顔を見てまず二人は「妹に対しては普通な感じ」と評したが、右肩の部分に視線を動かして――止まった。
この一高には右肩に花の紋章が施された制服を身に纏う一科生と、何も施されていない二科生があり、その事が原因で花の意味がある
そして達也の肩には、何も施されていない。
新入生総代の兄は、
最愛としては評価基準に適して居らず無能力者、という前例を知っているためにその系統だと見たときから察してはいたが、ほのかと雫、特にほのかは違う捉え方をしたようだ。
「あの人だ……」
「え?」
「入試の時、すごく無駄のない綺麗な魔法を使う人がいて……さすが魔法科高校だって思ったのよ」
どうやら、最愛が予想していた二人の捉え方とはまた違ったらしい。
「それがなんで……
少なくないショックを抱えたほのか。騒ぎを気にした生徒会長がその場を後にし、その騒ぎの大本である兄妹も何処かに行ってしまったためにその場は解散となったが、そのままA組に連れていくのは良くない、との雫の判断で自由参加のオリエンテーションには行かず帰路についた三人。
そこでふと、最愛が呟いた。
「携帯とCADを超買わないと」
そう、携帯とCADがない。昨日はいろいろ調べていたために手が回らなかったが、ある程度情報は集まったし入学した今急ぐ必要もない。となれば、次は持ち運び式の情報端末とCADだ。
「携帯とCAD?」
「携帯とCADです。連絡手段がないのは超不便ですし、CADがないと超授業できませんから」
情報端末がないのは心細い。科学の下で生活していた最愛には尚更だ。昨日確認した通帳には暗部で稼いでいた学園都市の時よりも多額のお金が入っていたため、そこで困ることはないだろう。それはCADを含めても言える。だが、問題は機種にある。正直なところなんでもいいが、少しでも便利な機能があったことに越したことはない。そしてCADについてはほぼ無知だ。そんな訳で、雫とほのかを見つめる最愛。
「…………」
「どうしたの、最愛ちゃん?」
「あ、ちょっと待ってね」
「超了解です?」
携帯とCAD買うのについてきて、という意味での視線だったが、どういう訳か雫がいきなり何処かに電話をかけ始めた。何をしだすのか分からないが、待っててと言われた手前待たないわけにはいかない。
「もしもし? うん。最愛が携帯とCAD欲しいって。うん。分かった。ありがとう――お父さんが明日の朝までに両方とも家に届けるって」
「……え?」
これにはさすがの絹旗も動揺してしまった。見ず知らず――あくまでも最愛はそう思ってる――相手に対していきなり買ってと言われて携帯を買う人がいるだろうか。しかも、配送のサービス付きだ。
「いや、超ついてきて欲しかっただけなのですが……」
「そうだったの? まあ気にしないで。CADの調整はまた後日ね」
奢ってもらうつもりは毛頭なく、自腹で買うつもりでいた最愛だったが、よく考えれば通帳のお金は全て雫の父、潮の物。決まった話を断るのも失礼なため、ここは乗っておくことにした。
◆◆◆
次の日、昨日届いた携帯に入っていたほのかと雫の連絡先。そこに届いていたメールから家で待っててと言われたのでしっかりと待っていた最愛は、チャイムが鳴ったのを確認して必要最低限の荷物を持って扉を開ける。
「おはよう、最愛ちゃん」
「おはよう」
「二人とも超お早う御座います」
いたのは勿論ほのかと雫。視界の端に見るからに高級車であろうものが見えることから、それで来たのだろう。外に出て鍵を閉め、雫に案内されて車の中へ。高校まで高級車で移動とはとても良い身分だな、と思いながらも、歩くのは面倒なため感謝しながら乗車。そして数分走り止まった場所は一高最寄りの駅前。校門前に停めると目立つからということなのだろう。最愛としてはここまで車でこれただけでもありがたいため、運転者に感謝の言葉を述べつつ車を降りた。
駅から一高は一本道。前を歩く人々は全員一高の生徒だ。その中に紛れ込むように、三人も歩みを進める。
「そういえば、携帯とCAD超ありがとうございました。CADは超勝手がわかりませんでしたが」
「いいよ。でも今度家に来てね? あれは最愛いないと調整ができないから」
「今度超行きます。というか、今日超行ってもいいですか?」
「分かった。なら一緒に帰ろう」
そして話はCADについて。携帯はともかく、CADは他人が買って渡されても調整ができてないため使えない。先に渡されたのは最愛が気に入るのか、という点と雫の家にそのまま直に持っていけるという点があったからだ。最愛としては本当に使うことが出来ればそれで良かったのだが、それはいろんな意味で潮が許さなかった。これにより最愛が北山家に行くことが潮に伝わり、計算通りいって会えることが分かり大喜びしていたのは本人が知る話ではない。終わったタイミングで、あっと声を漏らしたほのか。顔を最愛の方へと向け、
「それで最愛ちゃん、今日は学校内を見学するらしいけど、一緒にいかない?」
ありがたいお誘い。是非肯定したいお誘い。だがそのお誘いは他の一科生が許さないだろう。
「超嬉しいですけど、無理ですね。一科生と二科生は超一緒に回らない方が良いと思います」
「あ、そっか……ごめんね……」
一科生と二科生であることを意識させないための発言だとは最愛にも分かっていた。しかしその提案は他の一科生的に受け入れられない。ほのかにも昨日の一件でそれは分かっていた。分かっていたが故に誘ったのだ。結果として断るしかなかった最愛だが、内心は一緒に回ってみたかった。――別にこの二人とではなく、
それからは若干気まずい雰囲気が流れたまま一高についてしまい、せめて昼食だけでも、と食い下がったほのかに首を縦に振ってから最愛はクラスへと向かった。クラスは既に雑然としており、昨日のオリエンテーションで仲良くなったであろう人と話している姿がポツポツとみられる。
だが最愛にそんな人はいない。自分の席に座るべく場所を確認すると、ガタイの良い男子生徒の前だということが判明した。見たところ、自分が知っている顔は例の男と一緒にいた活発そうなショートカットの明るい髪色をした女子生徒と、この世界では珍しいらしいメガネをかけた少女。二人とも恨めしいほど立派な
授業を受けるためには履修登録をする必要があるらしいのだが、生憎やり方はわからない。二科生に先生がつくはずもないので誰かに聞かなければいけないのだが……これまた生憎。そんな人はいない。
「おはよー」
「ッ!?」
いきなり声をかけられた。絹旗の身体はビクッ! と跳ね上がり、声の位置とは真反対のところまで一気に距離を取ってしまった。
「わぁお、すっごい身のこなし」
警戒心丸出しで見たその方向には、ゴメンゴメンというジェスチャーをして笑っている明るい髪色の女子生徒と、オロオロしているメガネの女子生徒。どちらも今しがた確認したばかりの二人だ。
「驚かせるつもりは全くなかったの。いきなり声かけてゴメンね? あ、私は千葉エリカよ。エリカでいいわ」
「……あ! 私は柴田美月です。美月と呼んでください」
「……絹旗最愛。最愛でいいですよ」
「それじゃあ最愛て呼ぶね。美月と席が近かったから喋りかけちゃったんだけど、迷惑だった?」
「……超構いませんが」
言動が伴ってないような体勢ではあるが、エリカはエリカで自分に非があることは認めているらしいのであえて口に出すことはしない。ついで言うと、最愛は最愛で何故こんなに身構えているのか理解ができなかった。ここは魔法を行使する生徒がいるとはいえ、飽くまで学校だ。それこそ学園都市の学校となんら変わらない。学園都市の学生は、ほとんどが表の人間だ。しかも裏の人間には独特な雰囲気がある。この世界で言えば総代の兄が当てはまり、その妹が若干と言ったところだろう。それが目の前の二人からは感じられない。
ちゃんと頭の中を整理すればするほど、今警戒しているのがバカらしくなってきた。肩の力を抜き席に戻る最愛。その様子を見てエリカはニコッと微笑む。
「警戒を解いてくれたようでよかった! 本当にゴメンね?」
「いえ。こちらが勝手に超反応しただけです。エリカに非はありません」
「あは、そう言ってくれると嬉しいな」
話してみるとただの活発な女子生徒ではないか。美月もホッと一息ついてから相槌を打つように会話に参加している。席は最愛の席から二つ後ろ、右に一つの場所らしいので、本当にただ近いから話しかけた――というわけでもないのは会話の雰囲気からして分かっている。
この二人はほのかや雫と同じ表の人間。力量はともかくとして、裏に触れていない純真な少女たちだ。そんな彼女らに裏を見分ける力などありはしないし、あるとしたら話しかけたりなどしなかっただろう。もっといえば、彼にも話しかけなかったはずだ。
「あ、司波君オハヨー」
「おはようございます」
「ああ、おはよう二人とも」
最愛が唯一裏の住人と確信している人物。
今しがた教室に入ってきたクラスメイト、司波 達也には。
席順について。
理論を再び書くつもりはないのでどうしてこうなるか気になる方は魔法科高校の暗殺者の『E組の時間』のあとがきをご覧下さい。
モブ→モブ→モブ→絹旗→モブ|廊下側
↓
モブ→モブ→モブ→レオ→モブ|廊下側
↓
モブ←モブ←美月←達也←モブ|廊下側
となります。
最愛ちゃんと達也は仲良くなるためにかなりの年月が必要そう。