魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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追跡者

 ――見られている。

 

 通学路を歩きながら絹旗は自分に向けられる、観察されているような視線を感じていた。何時からかと言えば、昨日の夜からだろう。見られているのは分かるが、何処から見られているのかが分からない。そんな視線をねっとりと浴び続けていた。

 間違いなく昨日のことが原因だろう。

 

 あの騒ぎの後、最愛、ほのか、雫の三人は達也たちと一緒に帰ることになった。どうやらほのかは達也と深雪――深雪とは仲良くしたいという意味で――に気があるらしく、ちょうど良い機会だと雫に後押しされて達也に一緒に帰って良いか尋ねたところ、誰も反対しなかったため了承。さりげなくほのかが達也の横に陣取り、主にCADのことについて話し合っていた。最愛は後方で雫と共にただ話を聞いていただけなのだが、そこで話題になったのはやはりというべきか、先ほどの騒動について。エリカの警棒が実はCADということから派生したもので、やはりというべきか始まりはエリカの一言だった。

 

 

「そういえば最愛はあの時何したの?」

 

「あの時とは超どの時ですか?」

 

「光井さんが魔法を打とうとしたとき。あの時かなり甲高い音が鳴ったじゃん?」

 

「ああ、その時ですか」

 

 

 ついに来た、この話題。この場で最愛のその時の行動を見ていなかった者はいない。位置的に見えてしまっていたのだ。だからこそ、意味がわからなかった。全員の視線が後方の最愛へと集まる。

 

 

「もしかして最愛もこのバカと同じ硬化魔法が得意だったりとか?」

 

「この女堂々と指差しやがって……」

 

 

 流れるようにバカにされたレオはこめかみに血管を浮かばせながらワナワナと震えているが、エリカはそんなの何処吹く風か。興味を最愛にだけ寄せている。しかし最愛は本当に必要な時、必要な場所で、信用できると判断し、尚且つ教えても良いと思う人にだけ自分の能力を開示すると決めた。そして信用できると判断し、教えても良いと思えた人は妥協して二人だけ。その二人にも少なくとも今は教えるつもりはない。それに最愛は自分の能力がこの世界でどれだけ特殊な分類なのか、しっかりと把握している。

 それをこの大勢の中で、しかも絶対に教えてはいけないと踏んでいる達也がいる中で教えるなど、愚行以外の何物でもない。

 

 

「エリカには超悪いのですが、他人の魔法についての詮索は超マナー違反です。時期が来たらということで、今回は超引いてもらえませんか?」

 

「やっぱりダメだったか。時期が来たらってことはいつか教えてもらえるってことだよね。ならいいや」

 

 

 何度も言うが、最愛は暗部の中でも特に深い闇の住人だ。それでしか生きることが許されず、そこには生きるためだけにいた。そのためか最愛は特に()への執着が強い。よって今回、この世界で上手く生きていくために、一般常識的な情報はほどほどに、高校がどのようなところであるか、魔法とはどんなものなのか、()()()()()()()()()()()()()()()()を見つけることに時間を費やした。そして、見つけた。BS魔法師という、別名で超能力者と呼ばれる存在を。

 

 最愛もサイオンは見える。どのような魔法にもサイオンは付き物だ。では自分の能力はどうだろう。間違いなく能力は展開されている。だがサイオンは感知できない。普通の魔法師でそれだと緊急事態なのだが、BS魔法師となれば話は別だ。BS魔法師とは、魔法としての技術化が困難な異能に特化した超能力者のこと。そしてその異能が関係しているのか他の魔法は苦手であり、魔法科高校の水準で言えば二科生として扱われるレベルであることも特徴に挙げられる。

 

 その時はちょうどそこで駅に着いたために解散となり、最愛はCADの調整を行ってもらうために雫の家へ。潮から手厚い歓迎を受けながら夕食まで一緒になった最愛が家に着いたのは日付が変わる前。

 その時からだ。視線を感じるようになったのは。

 

 そして朝起きても案の定感じた。何か害があるといけないためほのかと雫には一緒に登校するのを断ったが、正直なところかなりマズイ。視線に敏感になっている絹旗をして位置を特定させないその技量。明らかに自分よりの人間で、間違いなく()()()()()()()。だが周囲に人がいないのに姿を現さないということは、それだけ慎重な人物なのか、それともただ観察しているだけなのか。どちらにしろこの状況は周りに人が居た方が良い。戦闘にならないことを祈りながら、最愛は全力疾走で駅へと向かった。

 

 それを物陰から覗くものが一人。

 

 

「うーん、やっぱり僕に気付いているね。となると昨日から既に気がついていたってことか……情報も一切手に入らないし、警戒の仕方が常に命を狙われているかのような感じだね。一体何者だい?」

 

 

 物陰をでてキラリと太陽光を反射させる頭をペタペタと触り、彼はその場を後にした。

 

 

◆◆◆

 

 

 コンパクトなサイズになりプライベートスペースと化した電車に乗りながら、最愛は息を整える。

 全力疾走で駆け抜けてからすぐに視線は感じなくなった。結果的には観察が目的だったというわけだが、こうなると一体誰が、ということになる。今までいなかったのに昨日になっていきなり現れた観察者。関係性として一番有力なのは、昨日一緒に下校した面子。本命は達也だが、たとえそうだったとしても観察者が達也本人ではないことは分かる。

 

 

「何にしても、超気を付けるに越したことはないですね」

 

 

 自分に言い付けるように呟いた最愛はもうすぐ駅に着くことを確認して立ち上がり、少しだけ崩れた身だしなみを整える。今日からは授業が始まるのだが、最愛にとってこれが楽しみの一つであり、心労の一つでもある。

 楽しみなのは学校の授業が受けられること。心労は実技が壊滅的にできないことにある。CADを調整して貰った後に、当然というべきだが試しに魔法を使った。初めて使ったのだがそこはCADの性能故か、それとも調整が良かったのか魔法を使うことはできた。しかしそれは本当に使うことができたとしか言えないレベル。しかも魔法を使う際、能力を解除しないと能力に干渉して使えないという制約まであった。今のところ魔法を使うというメリットがない。

 

 多数の生徒と共に駅から外へ。先ほどの視線が無いかの確認――無い。はぁ、と溜め息をついて通学路へ。しかし、その歩みは再び視線によって止められてしまった。

 

 

「あ、最愛オハヨー」

 

「最愛ちゃん、おはようございます」

 

「おう、おはよう」

 

「絹旗さん、おはようございます」

 

「おはよう」

 

 

 上からエリカ、美月、レオ、深雪、達也だった。視線からただ見つけたというだけの感じではあったが、達也と深雪の視線から若干違和感。特に深雪は明らかに何か意図があるような視線だ。

 

 

「超おはようございます」

 

 

 しかし先程に比べれば可愛いもの。一人でいるよりかは幾分か安全とそれを気にせずに輪に加わった。エリカによると、そろそろ行こうかというところで偶然見かけたらしい。それじゃあ、と言って歩き始める一行。

 まだ入学したばかりの彼らにはやはり昨日の事件は強く印象に残っていたらしく、すぐさまその話になった。

 

 

「しっかし昨日は大変だったなー。光井さんと北山さんだっけ? 一科生にも話が分かる子がいたのはよかったけどよ」

 

「ああ、そうだな」

 

「あの方たちとならお友達になれそうですね。あ、そういえば最愛ちゃんは二人とは幼馴染みなんですか?」

 

「……ッ」

 

 

 ――完全に見落としていた。

 レオが呟くように言ったその言葉に反応したのは達也と美月。なんとも穏和な会話だったのだが、ふと思い出したように美月が問い掛けたことにより一部の空気が急変。

 最愛はあの二人とどういう仲なのか、さっぱり分かっていない。いろいろと都合が良かったために何も触れずに流されるがままだったのが、ここでツケがきた。

 どう答えればいいか瞬間的に出てこず無言の最愛に達也の視線が刺さる。

 

 だが、救いの手は全く関係ないところから突如として出された。

 

 

「達也くーん」

 

 

 後方から聞いたことのある声音。それにより達也はすぐ視線を移した。その先には軽やかに駆けてくる小柄な人影。真由美だった。

 

 

「達也さん……会長さんとお知り合いだったんですか?」

 

「一昨日の入学式が初対面……の、はず」

 

「そうは見えねぇけどなぁ」

 

「わざわざ走ってくるくらいだもんね」

 

 

 美月の疑問に、達也も一緒になって首を捻る。

 なんにせよ最愛は彼女のおかげでなんとか逃げることができ、内心ほっとしつつも次からは答えを考えておかねば、と己の失策を認めて走ってくる真由美を見つめる。

 

 

「……深雪を勧誘に来ているんじゃないか?」

 

「……お兄様の名前を呼んでいらっしゃいますけど」

 

 

 それにしても目立っている。真由美が名前で、しかも大声で呼ぶものだから通行人の目という目が集まっている。

 

 

「達也くん、オハヨ~。深雪さんもおはようございます」

 

「おはようございます、会長」

 

 

 達也にだけなんともフランクな挨拶なのだろうか。達也に続いて深雪が丁寧に一礼。それに続くように他の四人も続くが、なんとも変な空気だ。対象が達也だと分かった最愛は一行から一応会話が聞き取れるレベルの距離まで下がり、後ろに続く。それに倣うかのようにエリカ、レオ、美月が下がってきた。考えることは同じのようだ。

 聞こえる会話からだと、達也と深雪は生徒会室に招待を受けているらしい。深雪にとってはお昼を達也と一緒に食べられるということでかなり乗り気だが、達也は否定的だ。そして何かに気がついたかのように、真由美が振り向く。

 

 

「あ、皆さんも来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから」

 

 

 真由美の社交的な申し出。しかしそれとは正反対の口調で謝絶した者がいた。

 

 

「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します」

 

 

 しかも遠慮したという割にはかなりキッパリとした拒絶。元からこちら側の空気はなんとも言えないものだったが、それが気まずい方向へと流れていく。

 

 

「そうですか」

 

 

 ただ真由美は笑顔を崩さなかった。

 人の事情はしっかりと弁えているようだ。正直なところ、その気遣いができるならあんな大声で近付くところをもっとなんとかできないものかと思ってしまうが。

 そして顔を前に戻し、視線を達也と深雪に向ける。

 

 エリカがキッパリと断ったため更に気まずくなってしまい、数歩後退。結果会話が聞こえなくなってしまったが、真由美がスキップしながら校舎へ向かい、達也が溜め息をついたところを見ると生徒会室へ行くことは決定したようだ。

 

 それにしても、と最愛も溜め息をつく。

 この世界。厄介事が長い尻尾を引いてやってくる。

 もう校舎は目の前。

 しかし、彼らの足取りはとても重いものだった。




魔法で技術化できないものを科学で移植することに成功している……はてさて、これを知ったらどうなることやら……

後方から――って見ると後方彼氏面って単語が毎回頭を過ります。助けてください。
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