魔法科高校の絹旗最愛   作:型破 優位

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少し空きました。
理由は風紀委員にあります。
続きはあとがきにて。

文字数は前回より少なめです。

達也関係について若干のネタバレを含みます。
アニメ視聴者なら知っていることですが、念のため。序盤の方のネタバレです。


風紀委員

 一高においての一科生と二科生の違いは、教師がいるかいないかであり、当然一科生の方に教師は付く。その結果二科生は課題の提出が履修の目安になり、自ずと授業の内容は出された課題をやるということになる。

 

 登校時から時は過ぎ、お昼休みが終わったE組は現在、実習授業を行っていた。

 課題は、据置型の教育用CADを操作して三十センチほどの小さな台車をレールの端から端まで連続で三往復させる、というものだった。

 言うまでもなく、台車には手を触れずに、である。

 とはいっても、目的は授業に使うこの機械の操作を習得することにあり、壁面モニターには使い方が表示されている。

 

 

「達也、生徒会室の居心地はどうだった?」

 

 

 CADの順番待ちの列で、達也の後ろにいたレオが聞いた。最愛は食堂でお昼を済ませたが、達也は妹の深雪とともに約束通り生徒会室でお昼を取ったのだ。

 

 

「奇妙な話になった……」

 

「奇妙、って?」

 

 

 レオの問い掛けに答えた達也だが、反応したのはその前に並んでいたエリカ。クルリと振り返って首を傾げている。

 

 

「風紀委員になれ、だと。いきなり何なんだろうな、あれは」

 

「確かにそりゃ、いきなりだな」

 

 

 レオも唐突に感じたようだ。達也の後ろに並んでいる絹旗は絹旗で、風紀委員(ジャッジメント)のようなものだろうか、と思考を巡らせている。

 

 

「でも、すごいじゃないですか、生徒会からスカウトされるなんて」

 

 

 ちょうど、そこでレオの前に実習をしていた美月が課題を終えて、再チャレンジ――失敗したわけではない――するために最後尾へ戻る足を止めて、感じ入った目を達也に向けていた。

 左右の列で小さなざわめきが起こっているのは、他のクラスメイトも美月と同じことを思ったからだろう。

 

 

「すごいかなぁ? 妹のオマケだよ」

 

 

 しかし、達也は美月の称賛を素直に受け取らない。

 頑固なまでに懐疑的な達也の態度に、エリカが軽く苦笑する。

 

 

「まぁまぁ、そう自虐的にならなくても。それで、風紀委員って何をするの?」

 

「魔法使用に関する校則違反者の取り締まり、魔法を使用した争乱行為の取り締まりだそうだ。風紀委員長は懲罰委員会にも出席するらしいし、警察と検察を兼ねた組織だそうだ」

 

「そりゃまた、面倒な仕事だな……」

 

 

 今の会話からすると、学園都市の風紀委員(ジャッジメント)とは似て非なる存在なのだろうと絹旗は推察した。あちらは警察の役割のみ。代わりに一つの管轄や人材に対して範囲は広いが、能力者のレベルが高いこともあり上手く回ってはいる。

 しかし学園都市には深く広い闇がある。この世界はともかく、この学校は見たところそんなものは存在していない。こういう観点から言えば、こちらの風紀委員は知らず知らずの内に闇と関わってしまうということがないため、総合的に言えばこちらの風紀委員は比較的安全な位置にあるのかも知れない。

 

 などとまるで他人事のように思考を深めていた最愛。確かに今までは他人事だった。しかしこの話、実は全くの他人事ではない。

 

 

「――聞いているか、最愛?」

 

「あ、超聞いてなかったです。なんて言いました?」

 

 

 達也は最愛のことを「最愛」と呼ぶ。これは最愛自身がそう呼ぶように言ったからだ。別に名前を呼ばれたくない訳ではないし、何よりそんなことで面倒事に巻き込まれるのが嫌だからだ。だから最愛も同じように、達也のことは名前で呼ぶ。達也が名前呼びということは、E組全員が勿論名前呼びだ。

 そんな最愛だが、達也の様子から次に達也の口から出てくる言葉に嫌な予感しかしなかった。

 

 

「放課後に最愛も生徒会室に来いと風紀委員長から伝言だ」

 

 

 ビンゴ。完全な面倒事だ。可能性として考えていない訳ではなかった。しかし確率としては低いと踏んでいた可能性だ。どちらにしろ答えは一つ。

 

 

「嫌ですよ。私は意地でも超行きませんから」

 

 

 暗部の中でも深い暗闇に棲んでいた自分が風紀委員とか、冗談にしてもキツい。これはつまるところ、風紀委員への勧誘だ。これは面倒事以前に、()()()()()()()()()()()()()だ。頭では確かにやってみたい気持ちはある。だが、自分は既に裏の人間。この頭ですら、裏の人間によって()()()()に同義の物。裏の人間の仕事として風紀委員に参加するならともかく、完全な風紀委員として参加するのは最愛の身体が拒否してしまう。

 

 

「それよりも、達也の番ですよ」

 

 

 少しトーンが下がった声での指摘。

 上手く順番が回ってきたため、それを口実に遠回しにこの話は終わりと告げる最愛に、達也は不満そうな、そして何処か懐疑的な顔をしながらも、

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 なんとか、逃げ切れそうだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 少し覚悟していたのだが、絹旗はすんなりと帰ることができたという事実に困惑している。達也のあの様子から放課後にまた声をかけてくると思っていたのだが、一瞥してからエリカ達に別れを言ってすぐにE組を出ていったのだ。

 ありがたいのだが、何処か良い心地がしない。

 

 

「最愛、どうしたの?」

 

「あ、いえ。今日の授業の課題超上手くできなかったので、改善点を考えていたところです」

 

「E組も台車の授業してるの?」

 

「してますよ」

 

 

 思案に更けていた絹旗を見て声をかけたのは一緒に下校中の雫とほのか。最愛の言ったことは半分本当だ。今日の授業の課題。やはりというべきか、上手く出来なかった。

 動くスピードはE組でも最下位と言って差し支えないレベル。もしかしたら学校生活を送るなかで一番の障害になるかもしれないと思うレベルには、最愛の魔法水準は低かった。

 

 

「じゃあまた家来てよ。魔法の練習しよ」

 

「……超良いんですか?」

 

「勿論。お父さんも喜ぶよ」

 

「あ、それなら私も一緒に手伝うよ」

 

 

 願ってもいない申し出だ。

 最愛としても魔法は有意義に使っていきたい。ある状況下に陥ったとき、今の手持ちでは魔法が彼女を守る唯一の手段だ。願わくば()()を作ることが出来れば――というのは追々。まずは返事を返さないといけない。

 

 

「では、お言葉に超甘えますね」

 

 

 それから駅前で待っている車に乗り込む三人。

 ほのかと雫に出会えて良かった。

 最愛は心底、その出会いに感謝した。

 

 

◆◆◆

 

 

 その夜。

 達也はとある人物に電話をかけていた。

 

 

「こんばんは、師匠」

 

『こんばんは。こんな夜更けにどうしたんだい、達也くん?』

 

 

 相手は達也の師匠にして忍術使い、九重(ここのえ)八雲(やくも)だ。

 

 

「師匠も人が悪い。内容はもう分かっているでしょう?」

 

『まあね。絹旗最愛のことだろ?』

 

「そうです」

 

 

 昨夜、そして今日の登校時に最愛が感じた視線。それは()()()()()()()()()動いていた八雲のものだ。彼にかかればほとんどの情報が手に入る。それこそ、彼を撃退できる施設はこの国でも片手で足りるほどに。

 

 

『それが、全く情報は得られなかったよ』

 

「あの師匠が、()()ですか?」

 

 

 電話越しとはいえ、二人の目付きが変わる。

 あの八雲が手に入れられない情報。第一級レベルの超高度な、それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の情報だ。敵国のスパイか、それとも何処かの組織の者か。どちらにしろ現時点では危険な存在。

 

 

『それに昨夜から今日の登校するところまでを監視してみたけど、どうやら気づかれていたみたいなんだよね。恐らく、昨夜の監視を始めた時点から』

 

「……そうですか」

 

 

 そして八雲の監視を一瞬で看破したということは、そういう目に異常なまでの耐性が付いているということ。

 狙いが分からない以上、迂闊には手を出せない。だがもし自分達の日常を脅かすようなら、たとえ同級生でも容赦はしない。それは何年も前から決めたことだ。

 

 

『達也くんから手を出さなければ今のところは問題なさそうだけど、何しろ情報がないからね。達也くんに言うのもなんだけど、気を付けたまえ』

 

「勿論です。ありがとうございました。おやすみなさい」

 

『うん、おやすみ』

 

 

 別れの挨拶を済ませて電話を切った達也が思い浮かべるのは、昨日の一科生との騒動。あの時最愛は確かに何かしらの魔法を使っていた。だが達也をもってしても、その兆候、それどころか魔法そのものを()()ことが出来なかった。

 魔法で魔法を隠蔽したところで達也には何の意味もない。つまり最愛の能力が元々見えないもの、という可能性が高い。そして、魔法を消したときに生じていた妙な空間。

 

 魔法を封じる見えない能力(ナニカ)。それを知るためにも、最愛には風紀委員に入って貰いたかった。風紀委員に入るということは、その能力を発動しなければならない場面がやってくるということ。だから達也は、()()()()()()()()()()()のだから。

 だが彼女は風紀委員という言葉を良く思っておらず、まだ何者かが特定できない彼女に強引な手引きは出来ないため、断られたときは一旦は手を引いた。

 

 高校入学早々、大きな爆弾と出会ってしまった。

 達也の高校生活は、早くも雲行きが怪しかった。




正直なところ、だいぶ迷いました。
表に憧れる絹旗。
でも裏の自覚はある。
そんな彼女がその立場になったとき、どうするか。
迷った結果、風紀委員には入らないことにしました。
期待していた方いたらすみません。
ifとして脳内補完していただけると幸いです。
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