姫に殴られ、扉の裏あたりから「やっちまったな!」ってヤジは飛び心は折れそうだが、午後からは隣国の王子が来るということで、護衛を任される事になった。
「シックザール国の王子…ルーヴ様ね」
「ま、あくまでも結婚相手候補ってだけだし。顔合わせするだけだから勇者は気を落とさなくても良いんだよう」
ラパンさんはそう言うと、気合いを入れる為と言ってワインを飲んだ。
…ご飯ちゃんと食べてるの?
それに俺、そんなに気を落としてた??
「姫様の準備は整いましたし、ルシアンの料理の準備もバッチリですね。お城は常に綺麗に清掃してありますし…ルーヴ王子が来ても恥じないようにはなっているはずです」
リュシオルさんの最終チェックも完了したようだ。
もう少ししたら護衛の為に迎えに行かねばならない。
でも確かシックザール国には「最強」と言われる魔法使いがいたような?
それに転移魔法でこちらへ飛べば護衛なんて必要無いはずなのに…
変な王子様だなぁ。
◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆
「デファンス、後どれくらいだ?」
「はい、ルーヴ王子。あと30分程で到着致します。…転移魔法を使わずどうして馬車で向かおうと考えたのですか?」
デファンスが白馬を優しく撫で、あと30分程でアムールエテルネル国へ到着すると教えてくれた。
そうか、意外と早かったな。
「転移魔法だと、道中何があるのか分からないだろう?それじゃあ姫様との土産話が成立しないじゃないか。危険を冒してでも馬車で行きたかったんだよ。我儘を言ってすまなかった。」
ぺこり、と頭を下げる。我儘に付き合わせてしまったのは申し訳ない。
「ルーヴ王子、頭を上げてください。私がお守り致しますから大丈夫です。馬車酔いなさっていませんか?少し休みましょう」
「いや、大丈夫だ。早くアムールエテルネル国へ行こう。花が枯れてしまうよ」
本当に俺には勿体無いいい奴だ。
デファンスが居なかったら俺の国はダメだったかも知れない。
…早くユウナ姫に会いに行こう。
この結婚を成立させなければ。
グッとユウナ姫へ渡す花束を抱き抱える。
「アムールエテルネル国の姫君は花と甘い物が好きだとおっしゃっていましたね。
シックザールに咲く珍しい花ですからきっと喜んで頂けますよ」
デファンスはそう言って、白馬に「早く走って」と速度を上げた。
速度を上げても、馬車は全く揺れる気配がない。
デファンスの魔法なのだろうか?それとも腕が良いのか?
「シックザール…運命という意味がある。この国に…この俺にどんな運命があるというのだろう」
「どんな運命だろうと、私は最後までお付き合い致しますけどね」
もうすぐユウナ姫へ会える
◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆
「ようこそお越し下さいました、ルーヴ王子」
リュシオルさんがシックザール国の王子と、その護衛の方を出迎える。
結局、護衛に行こうとしたがその前に到着してきたので俺は必要なかった。
にしても、護衛の方からは凄いオーラを感じる…最強と呼ばれる魔法使いなだけあるな。
「出迎え有難う。早く着き過ぎてしまって申し訳無かった。迷惑だっただろうか?」
綺麗な艶のある茶色い髪、優しい笑顔、聞いただけで心をときめかせる声。
相手への心遣いをも忘れない。
成る程、シックザール国の王子はイケメンって奴だ。
「いいえ、問題ありませんよ。さあどうぞ、お疲れでしょうからお茶を淹れましょう」
リュシオルさんがそう言って、ルーヴ王子と護衛の方…デファンスさんを来客用の部屋へ招き入れ、ルシアンさんへお茶の用意をお願いする。
…そろそろ姫も出迎えに来るのかな
「有難う、アムールエテルネル国は茶葉がとても有名なんだってね。ユウナ姫が紅茶好きと聞いていたんだけども、この紅茶もユウナ姫が選んだものなのかな?」
「はい。ルーヴ王子が来ると聞いて朝張り切って選んでおりました。とても美味しい紅茶ですよ」
甘くて優しい香りが部屋へ広がる。
ふむ、とてもいい茶葉なんだろうな。俺にはわからないけど。
いつもユウナ姫の部屋に漂っている匂いはこれか。
くんくん、とつい嗅いでしまう。
「ルーヴ王子、こんにちは。長旅お疲れ様でした、お疲れではないですか?」
ラパンさんに連れられて、ユウナ姫がやって来た。
愛想笑いだなありゃ。目が笑ってない。
そういえばずっと嫌がってたもんなあ
俺とは目も合わせようとしない
「ユウナ姫に会う為ならこれくらい問題ありませんよ。相変わらず可愛らしい」
「ルーヴ王子やめて下さい恥ずかしい…」
ルーヴ王子に髪を撫でられ、顔を赤らめる姫
何故かムッとしたが俺はいま護衛のためにここにいるのだ、耐えねばならん。
「後はお若いのに任せて、退散しましょ〜」
「え、ちょ!まって!」
ラパンさんはそう言うと護衛である俺の腕をひいて部屋から退散した。
ルーヴ王子が姫に何かするかも知れないだろ!!
俺は護衛でいなきゃいけないんだ!
「大丈夫だよ、ルーヴ王子は紳士だから何もしないよう」
「でも姫に可愛いって…」
クルッと引いてた手を離して、こちらを向く。
「勇者は嫉妬してるの?」
「嫉妬?」
「そう、嫉妬。ルーヴ王子に」
嫉妬?俺が?
「なんで?」
「怒ってる、さっきからずっと。殺気みたいなのが凄い。ルーヴ王子の護衛の人がオーラを出しまくってるのもそのせい。勇者は嫉妬してるんだ」
ふんふん、と1人納得しているラパンさん
まって、俺がわからない。
「俺が?誰に何をしてるって?」
「勇者が、ルーヴ王子に嫉妬。ヤキモチ焼いてる。姫を取られそうだから。ちがう?」
「……」
…違う、ってすぐに言えなかった。
じゃあこれは嫉妬?ヤキモチ?
「勇者は姫が好きなんだね」
ワシャワシャ、と頭を撫でられる。
きっとそうなのかも知れない。
嫉妬、ヤキモチなのかもしれない
そう思うと、すこしきもちがらくになった