その日……世界は死んだ。
『ソレ』はどこから来たのか……その問いに誰も答えることができない。
ビルをも超える巨体に、戦車の砲弾すら弾く強靭な皮膚。そして生物としてあり得ないような超能力を秘めた巨大なる獣たち……『怪獣』の出現である。
マンガや映画の中のフィクションに過ぎなかったそれらは、突如として絶望的な現実となって人々に襲いかかった。
無論、人類も持てる力の限りを尽くし『怪獣』に立ち向かったが、そのどれもが『怪獣』たちの暴虐を止めることは出来ず、残ったものは蹂躙された世界という結果のみ。
怪獣出現から13年……人類は地上の街を捨て、地下に街を作り以前とは比べ物にならない、細々とした生活を送っていた。
地上を追われ、地下で怪獣たちに脅えながら暮らし続ける人類……この物語はそんな世界で、『怪獣』と戦う力を手に入れた少年少女たちの物語である……。
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赤、紅、朱……少年の視界いっぱいにその色は広がっていた。
それで少年は理解する、またあの時の夢を見ているのだと。
炎の赤に飲み込まれていくのは自分の生まれ育った街。そして、その街を闊歩するのは赤い巨大な怪獣だった。
炎の赤よりなお赤く、闇夜の空より黒いその体、そして禍々しいその羽根。まさに『悪魔』である。
その『悪魔』は我が物顔で故郷の街を蹂躙する。
逃げ惑う人々、それはまさに地獄絵図とも言える光景だった。
だが、少年はその視線の先に鈍い鋼鉄を見ていた。
(ダメだ!!)
少年は思わず叫ぶがここは夢の中、声など届くはずが無い。
『悪魔』は
『悪魔』の吐き出した光線はビルを次々と粉砕しながら
(父さん!!)
少年は思わず届かぬ声を上げ、燃え盛る
だが、その伸ばす手が掴むものは何もない。
(あ……ああ……!!?)
そして少年の先には……あの赤い『悪魔』が……。
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「起きなさいよ!!」
「ッッッ!?」
聞きなれた声に、跳ね起きる様にバッと少年は身を起こした。はぁはぁと呼吸を整えるために何度も息をする。汗で身体に張り付くシャツがなんとも不快だ。
そんな少年を少女が呆れ顔で見下ろしていた。
「いいご身分ね、今何時だと思ってんの?
時間になっても来ないから見に来たらこれだもん」
少女は呆れたようにため息をつく。
「ちっ……悪かったよ」
少年はバツ悪そうに言うと、ベッドから降りる。
「着替えたらすぐ行く。 ちょっと表で待ってろ」
「分かったわよ」
部屋から出て行こうとする少女は、出て行く前に振り返った。
「また……あの時の夢を見たの?」
「ああ……あの『悪魔』の夢だ」
「そう……早く来なさいよ、『ゴミ拾い』は早い者勝ちなんだから!」
少女は一瞬だけ悲しそうな顔をすると、それだけ言って少年の部屋から出て行った。
少年は汗でべったりとしたシャツを脱ぎ捨てると服を着始める。ジャケットのポケットにある工具類を確認しそれを羽織ると、最後に少年はベッドサイドの帽子を被った。その傍には一枚の写真が飾られている。
戦車の前で戦闘服を着込んだ精悍な男に、小さな子供が抱かれていた。男の被っている帽子は、今少年が被っているものと同じものだ。
「行ってくるよ、父さん……」
少年は写真に向かってそれだけ呟くと、部屋から出て行った……。
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人類がその生活圏を地上から追われそのほとんどが地下へと身を潜めてから十数年、地下都市は地下へ地下へと資源を採掘しながら細々とした生活を余儀なくされていた。
そんな地下都市には何もかもが足りない。
そんな地下都市から怪獣たちのいる地上にでて、そこでかつての街の廃墟から様々なものを拾い、それを売り払うことで日々の糧を得ている者たち―――『トレイダー』と呼ばれる者たちが存在した。
そして、この少年と少女―――
「今日は海の方に行ってみましょ」
「おう」
絵美の運転するハンヴィーに先行するように翔の乗るオフロードオートバイが瓦礫の街を駆ける。こうして街を練り歩き金になりそうなものを拾う『トレイダー』の仕事、通称『ゴミ拾い』は2人の日課である。
今日2人がやって来たのは沿岸部であった。そこで2人は二手に分かれてそれぞれに『ゴミ拾い』に向かう。
「見渡す限りの瓦礫の山……か」
この辺り一帯にかつて国際展示場と呼ばれる建物があったらしいが、今は見る影もない。それでも瓦礫の中にある希少金属などは貴重だ。鉄も重要な資源である。
翔が早速作業に取り掛かろうとしたその時だった。
「ん?」
瓦礫の隙間に、何かが落ちている。
拾ってみると、それは何かの電子機器のようだ。掌に乗るサイズだが、何の用途のものか分からない。
「まぁいい、金になる」
集積回路などに使われている金などの希少金属はいい値で売れる。翔はその機械を右のポケットにねじ込むと、次の瓦礫へと手を伸ばす。
ポケットの中でその機械が淡い光を放ったことを、翔は気付かなかった。
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「とりあえずこんなもんか」
バイクに積めるだけの荷物を積んだ翔はそろそろ引き揚げ時だと通信機で絵美へと話しかける。
「おい絵美、そろそろ……」
その時、翔は通信機の向こうから怪獣の咆哮を聞いた。
「絵美、どうした!!」
『ドジった!
怪獣の寝床の近くだったみたい! 今、追われて……きゃ!?』
ドウンという巨大な質量の音と共に、通信が乱れる。
「ちぃ!!」
それを知った翔は荷物を切り離すと、彼方に見える怪獣へと向けてバイクをスタートさせた。
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「ヤバイヤバイヤバイ!」
ハンヴィーを必死に運転しながら、絵美はバックミラーに映るその怪獣を見ていた。
茶色の身体にはさみになった両腕……『岩石怪獣サドラ』である。
サドラはその愛嬌ある顔とは裏腹に人を捕食する怪獣だ。そのはさみに捕えられたら最後、丸呑みにされてしまうだろう。
限界までアクセルを踏む絵美だが、その巨体と距離が離れない。むしろ近付いてきている。
そして、ついにその巨大な足が絵美の乗るハンヴィーへと迫った。
「きゃぁぁぁ!!」
至近に踏み下ろされた足の衝撃で、ハンヴィーがクルクルとスピンしながら瓦礫にぶつかり停車する。
「う、うぅぅ……」
絵美はふら付きながらもハンヴィーを捨てて逃げようとするが、そのまま地面へと倒れ込んでしまう。
そんな自分を覆うような影に絵美は振り向くと、そこにはその手のはさみを自分へと向けゆっくりと伸ばすサドラの姿があった。
(もう、ダメ……!!)
迫る恐怖に思わず目を瞑る絵美。だが突然の爆発音に、絵美は目を開いた。
「こっちだ、怪物!!」
そこにはパンツァーファウストを構えた翔の姿があった。見ればサドラの口から黒煙がたなびき、サドラが悶えている。
どうやらサドラの口にパンツァーファウストを叩きこんだようだ。怒りに燃えるサドラが翔の方へと視線を向ける。
それを確認すると、翔はバイクのアクセルを全開にしサドラから離れて行く。それを追ってサドラも移動を始めた。
「俺が引き付けるからお前は逃げろ!」
「翔!!」
それだけ言い放ち、翔は絵美からサドラを引き離そうとバイクを疾駆させる。
翔も怪獣を自分がどうこう出来るとは思っていない。小さいことの利点を生かし、適当に逃げ回るつもりだ。
何度も踏みつけようとするが、小刻みにジグザグと逃げ続ける翔を捉えきれない。そして業を煮やしたのか、サドラは近くの巨大な瓦礫を翔に向かって蹴飛ばしてきた。
「!?」
瓦礫の直撃こそ避けた翔だが、その衝撃にバランスを崩してバイクから投げ出され大地に転がる。
「ぐ、くぅ……」
激痛に大の字の状態から身体が上手く動かない。
そんな翔へとどめを刺そうというのか、サドラはその足を振り上げる。
「ちく……しょう……」
もはやどうしようもない状況に、翔は毒づくとともに目を閉じる。だがその時、電子音声のような声が響いた。
『バトルナイザー、モンスロード』
「?」
いつまでたっても、振り下ろされるはずの衝撃が無い。もしかして自分は気付かないうちにもう死んでいるのか、そんな考えが浮かぶ中、翔は目をゆっくりと開いた。
そしてそこに……『あいつ』がいた。
それは黒い龍だ。ごつごつした泡立つような皮膚、その背にあるとがった背びれ、長い尻尾の黒の龍。
その龍が振り下ろされようとしていたサドラの足を掴んでいる。
ブン!
黒い龍がサドラの足を掴んだその手を振り上げると、サドラの身体が宙を舞う。片腕だけでサドラを投げ飛ばす、桁違いのパワーだ。
だが黒い龍は投げ飛ばされたサドラなど気にも留めていないかのように、大の字で倒れた翔のことをジッと見つめる。まるで何かを待っているかのように。
その時、翔は自分のポケットが光っていることに気付いた。慌ててポケットをまさぐると、先ほど拾った機械が淡い輝きを放っている。
翔がそれを手に取ると、頭の中に何かが流れ込んでくる。
「ぐっ!?」
突然の鈍い頭痛に顔をしかめるが、その痛みはすぐに引いた。そして翔は目の前の黒い龍を見やる。
「……わかる。 お前の名前が……!
今、何かが頭の中に流れ込んできて教えてくれた。
お前も名前も、これが怪獣と戦うための道具だってことも……」
そして、翔は手の中の機械、『バトルナイザー』を握りしめた。その時、倒れていたサドラが起き上がり黒い龍へと背後から襲いかかろうとする。
それを見て、翔は『バトルナイザー』を掲げながら叫んだ。
「行け、『ゴジラ』!!」
ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
翔の声に答えるように黒い龍、『ゴジラ』は天高く咆哮する。そしてその太い尻尾を背後から迫るサドラへと叩きつけた。
その凄まじい衝撃に再び宙を舞うサドラ。立ち上がろうともがくサドラに、ゴジラの蹴りが叩きこまれ、その巨体が三度宙を舞う。
もはや満身創痍のサドラは白い泡を吹きながら必死で立ち上がりろうとしていた。
「トドメだ、ゴジラ!!」
ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
咆哮と共にゴジラの背びれが発光していく。そしてその口から青い熱線がほとばしった。
熱線は動けないサドラに直撃、その強靭な皮膚を喰い破る。
そしてサドラは大爆発とともに消えて行った。
ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
天に向かって勝ち鬨の咆哮を響かせるゴジラ。そのゴジラは光の粒子のように翔の手元の『バトルナイザー』へと戻っていった。
「すげぇ……」
ただそれしか声が出ない。
「翔!!」
そんな翔の元に、絵美の運転するハンヴィーがやって来た。
「無事なの、翔!?
それに……今のは一体……?」
「俺もよくは分かんねぇ。
ただ分かるのは……こいつは怪獣を倒せる力だってことだ」
瓦礫の街で、少年は黒い龍と出会った。
この出会いこそ、この世界を変える運命の出会いだということをまだ誰も知らなかった……。
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怪獣解説コーナー
怪獣王『ゴジラ』
出典:『ゴジラシリーズ』
解説:言わずと知れた怪獣王、キングオブモンスター、世界的にも有名な最強怪獣であり、本作主人公、芹沢翔のエース怪獣。
黒い強靭な皮膚に背中の背びれ、長い尻尾を持つ水陸両生の怪獣。
核エネルギーを吸収しそれを力に変え、無限に進化する『常識を超越した生物』。
核の影響で生まれたため、その瞳には永遠に消えない人類への深い怒りが渦巻いている……はずなのだが、本作の個体は非常に人類に対して友好的。
拾われた場所からも、分かる人には分かる『人類に友好的かつ最強』の個体である。
放射熱線をはじめとする多彩で強力な技の数々は怪獣王と呼ぶにふさわしい。
翔とともに、怪獣たちとの果てしない戦いへ身を投じることになる。
岩石怪獣『サドラ』
出典:帰ってきたウルトラマン他
解説:茶色の体色にハサミになった両腕をもつ怪獣。そのハサミの威力は強力で鋼鉄をも簡単に切り裂く。
霧を発生させ、迷い込んできた人間を襲っていた。
と、ここまでは結構まともに見えるが、後のシリーズに出れば出るほど扱いが悪くなっていった。
『ウルトラマンメビウス』では複数体が次々に倒され、さらにはボガールに捕食される。
怪獣同士の戦いが売りの『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』では第一話からレッドキングに絞め殺され、その後も『大量に出てきては瞬殺される』という完全なかませ犬状態。
よくよく見ると結構愛嬌のある顔で作者的には好きなんだが……。
『悪魔』
出典:???
解説:その昔翔の暮らしていた街を破壊し、翔の父を殺した怪獣。
赤い体躯に羽根を持つ、悪魔のような形をしている。
その正体は現在不明……。
というわけで趣味丸出しの怪獣ものです。
『ゴジラVSサドラ』……集客効果なさそうな題名ですね(笑)
不定期更新で今後も気が向いたときに更新しようと思っています。
では次回第2話『暴竜と旅立ちと』でお会いしましょう。