大怪獣バトルレジェンド Gの伝説   作:キューマル式

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久方ぶりの更新になりましたキューマル式です。
しかし……今回も何やら話が進んでいない気が……。

そういえば、前回ちょっと顔見せした怪獣である『ウーちゃん』の正体が分かった人はいるのだろうか……?


第13話 怪獣×超獣×機械獣 その1

 とある場所にて、2人の少年が顔を突き合わせていた。

 その顔は全く同じ、わずかに髪型に差異がある程度でそれ以外に2人には差がない。彼らは双子なのである。

 そんな2人が何事かを話し合っている。

 

「兄さん、連中の基地を見つけたよ」

 

「こっちもだ」

 

 弟の言葉に、兄と呼ばれた方が頷く。

 

「どうする?

 教授(プロフェッサー)は仲間に引き入れたいから何もしなくていいって言っていたけど……」

 

「今は大事な時期。

 奴らは教授(プロフェッサー)の邪魔になる」

 

「なら、僕たちがその邪魔を取り除かないと」

 

「そうだな、教授(プロフェッサー)のために」

 

「そうだね、教授(プロフェッサー)のために」

 

 そして彼らの手にするバトルナイザーが光を放った。

 

 

『『バトルナイザー、モンスロード』』

 

 

 バリィィィィン!!

 

 

 モンスロードとともにガラスが割れるように、『空が割れた』。

 怪獣のいななきと閃光、それが済んだときにその場所には2人の姿はなかった。

 彼らの向かう先は『ヴィンセント島』、島に嵐が迫っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 目の前で3人の子供がケンカをしている。

 2人の男の子がケンカを始めたのを1人の女の子が止めようとし、いつの間にか3人そろっての大乱闘になってしまっている。

 それがただの子供のケンカならば可愛いものだ。翔も絵美もいい大人、ただそれだけなら何も言わない。

 しかしこの3人のお子様、よりにもよって子供のケンカにバトルナイザーで召喚した怪獣を使っているのである。

 互いに殴り合う3体の怪獣はそのお子様の延長のように、まるで力の入らないグダグダな戦いを繰り広げている。

 

「なんだ、あれ……?」

 

「さぁ……? バトルナイザーを持ってたし、怪獣使いなんだろうけど……」

 

 翔と絵美は半分あきれ顔で首を捻る。

その時だ。

 

「!? あぶねぇ!!」

 

 とっさに翔が絵美の手を引いて下がらせると、今までいた場所に人の頭くらいの岩がめり込んだ。どうやら3体の怪獣たちのケンカの余波らしい。怪獣からすれば砂利みたいなものだろうが、こんなもの人間が直撃すれば致命傷だ。

 

「あんのクソガキども……!」

 

 一気に頭に血が上った翔が、バトルナイザーを取り出して叫ぶ。

 

「ゴジラァァァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の声に答えて、バトルナイザーから召喚されたゴジラが咆哮を上げる。

 その身体は未だに教授(プロフェッサー)のデストロイアとの戦いの傷が生々しい。特に『ヴァルアブル・スライサー』や『オキシジェンデストロイヤー・レイ』の直撃を受けた胸板は、癒えきらない傷に血が滲んでいた。

 しかしそんな状態であってもゴジラはそれがどうしたとでも言わんばかりに、ゴジラは目の前の3体にまるで格の違いを見せつけるように咆哮した。

 その咆哮にケンカをしていた3体の怪獣はもとより、それを操っていたお子様3人も竦み上がる。

 

「な、なんで怪獣が島に!?」

 

「怜くんも蘭くんも驚いてないで逃げようよぉ」

 

 男の子の1人が驚いたように声を上げ、女の子は半泣きで男の子たちを揺さぶって逃げようと促す。

 しかし男の子の1人、いかにも悪ガキといった坊主頭の子供は精一杯の虚勢を張る。

 

「へ、へん! おいらはあんなの怖くないぞ!

 やっちゃえ、レッドキング!」

 

 

 ギュオォォォォォン!!

 

 

 その命令にクリーム色の怪獣、『レッドキング』はその剛腕を振り上げゴジラに殴りかかる。

 しかし……。

 

「う、嘘だぁ!?

 あんなに怪我してるのに、レッドキングのパンチを受け止めるなんて!!」

 

 唸りを上げるレッドキングのパンチは、ゴジラによってしっかりと受け止められていた。

 何とかゴジラに掴まれた腕を振りほどこうとするが、力自慢のレッドキングがもがこうと、傷だらけのゴジラの手は離れない。

 

「……悪ガキども、お仕置きの時間だ。

 ゴジラァァァ!!」

 

 

 ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉にゴジラが雄たけびを上げると、眩い閃光とともに衝撃が駆け巡る。ゴジラの体内放射だ。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 それなりに威力は抑えた体内放射だったが、その衝撃は怪獣3体をもろともに吹き飛ばし、お子様たちは悲鳴を上げるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まったく……子供のケンカなんかに怪獣使うんじゃねぇ! 危なっかしいにもほどがある!!

 百歩譲って使うにしても、もう少し周りに気を配ってから使え!

 危うくこっちは死にかけたぞ!!」

 

 怒り狂う翔の前には男の子2人が地面に座らされていた。

 その姿は借りてきた猫のようだ。坊主の子に至ってはもはや泣く一歩前といった感じである。

 

「わ、わかったよ……」

 

「『わかりました』、だろ!!

 あと『ごめんなさい』はどうした!!

 悪いことしたと思ったんなら、まずは『ごめんなさい』だろうがぁ!!」

 

「「わ、わかりました! ごめんなさい!!」」

 

 再びの翔の怒鳴り声に、まるで尻でも叩かれたかのように条件反射的に平謝りの2人。もう半泣きである。

 そんな様子を見ながら、絵美は少々呆れ気味に言った。

 

「そんなに頭ごなしに怒らなくてもいいじゃないの。

 ほら、こんなに怖がっちゃって」

 

 絵美の腕の中には女の子がいた。完全に泣いてしまっており、絵美は女の子をあやすように抱きしめてその背中を優しく擦っている。

 

「……バカやる子供を叱るのは大人の役目だ。

 叱ってやらんと、自分がどんだけバカやってるのか自覚できなくて、いつか痛い目見るぞ」

 

 そんな翔の言葉に絵美はクスクスと笑う。

 

「それって経験談?

 翔って案外、教育パパ気質なのね」

 

「茶化すなよ」

 

 どこか照れたように翔は視線を外してため息をつくと、男の子2人に向き直った。

 

「反省したなら、いい。

 こっちも怒鳴って悪かったな」

 

 そう言って2人の頭を撫でてやると、2人は泣きだしそうだった表情を崩す。

 

「……ナデポとか、そういう特殊技能?」

 

「アホか。 ただ単に許されたと思って安心したんだろ」

 

 絵美の言葉に、翔は再びため息をついた。

 

 

 

「僕は三浦 怜(みうら れい)です」

 

「おいらは御堂 蘭(みどう らん)!!」

 

「わ、私、鈴村すずです」

 

 改めて翔たちに向き直って子供たちが名前を名乗った。

 『ゴモラ』を操っていたのが『怜』、『レッドキング』を操っていたのが坊主頭の『蘭』、そしてあのロボットゴリラを操っていた女の子が『すず』というらしい。

 

「にいちゃん、にいちゃん!

 さっきのにいちゃんの怪獣、あのすっごい怪獣なんていうの?」

 

「ああ、『ゴジラ』っていうんだ」

 

「他にも怪獣いるの?」

 

「おう、あと『アンギラス』と『ラドン』って怪獣を使ってる」

 

「すっげー! しょうにいちゃん、すっげー!」

 

「そ、そうかそうか!」

 

 翔は子供のおだてにはめっぽう弱いらしい、何やらおだてられてまんざらでもない感じである。

 長年一緒にやってきた絵美も気付いていなかった翔の一面ではあるが、いつだかの農場の子といいあの生贄の村の子といい、翔は何のかんのと言いながら子供には甘かったことを思い出しながら、絵美はすずの相手をしていた。

 どうやら先ほどあやしていたことで絵美に懐いてくれたようだ。単純に怖かった上に異性である翔には近付きたくないだけかもしれないが、すずは先程までの泣き顔はどこへやら、花咲くような笑顔で絵美に話しかけていた。それを見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくるから、子供とは不思議なものだと絵美は思う。

 

「えみおねえちゃんもウーちゃんみたいなロボット怪獣使いなの?」

 

「ウーちゃん? さっきのロボットゴリラのこと?」

 

「うん! 『サイバー・ウー』っていうの!」

 

 そういって見せるすずのバトルナイザーでは、先ほど見たロボットゴリラこと『サイバー・ウー』が佇んでいる。

 そのとき、絵美はそのバトルナイザーに違和感を覚えた。

 バトルナイザーのウィンドウは3つ、怪獣使いは3体までバトルナイザーで契約して怪獣を使役することが出来る。未契約の場合、ウィンドウは空の状態になっているのだ。これはしっかりと翔という前例で知っている。

 ところがすずの見せてくれたバトルナイザーは、『サイバー・ウー』がいるウィンドウ以外が、まるでシャッターでも落ちたかのように閉じているのだ。

 

「……ねぇ、すずちゃんの怪獣は『サイバー・ウー』1体だけなの?」

 

「うん、怜くんも蘭くんもそうだよ。

 えいいちおにいちゃんやみやびおねえちゃんが、まだすずたちは小さいから1体しか怪獣は使えないんだって教えてくれたよ」

 

「ふぅん、そうなの」

 

 絵美はその話を聞いて相槌をうつ。

 

「それで、どうしてケンカなんかしてたの?」

 

「うん。

 怜くんが一緒に怪獣使いの訓練しようって誘ってくれたの。

 それで一緒に地上に来たら蘭くんがやってきて、怜くんと言い合いになってケンカになって……」

 

 子供特有の舌足らずな口調で起きたことを一生懸命に説明してくれるすず。

 絵美は何となくだが、ケンカの原因がわかった気がした。

 

「……蘭くん、怜くんとじゃなくて自分と一緒に訓練しようとか言ってなかった?」

 

「うん、ケンカするまえに言ってたよ!

 えみおねえちゃんすごーい、なんでわかるの!」

 

「『女の勘』よ」

 

「おんなのかん?」

 

「そうよ、すずちゃんもそのうち使えるようになるわ」

 

 言いながら絵美は、不思議そうな顔のすずの頭を撫でてあげる。

 何のことはない、ケンカの原因は犬も食わない色恋沙汰、女の子の取り合いだ。

 子供ながら、恐らく怜も蘭もすずのことが好きなのだろう。お互いに出し抜こうとしてケンカになったということだ。子供なら誰にでもある微笑ましいエピソードである。

 ……もっとも、そのケンカで怪獣を繰り出すのはまったくもって笑えないのだが。

 

 結局、翔も絵美もそのまま子供に付き合ってその日は過ごすことになった。

 

「「しょうにいちゃん、またなー!」」

 

「えみおねえちゃん、またねー!」

 

 日も暮れ始め、地下都市部に戻ると3人は連れだって居住区と思われる方に帰っていく。その姿を見ると何のかんの言いながら、3人の仲はやはりいいようだ。

 

「お子様相手で何だか気疲れしたぜ」

 

 何やら肩をわざとらしく廻しながら疲れた風のことを言う翔に、絵美は呆れたように言った。

 

「なに言ってるの、途中からそのお子様相手に本気で遊んでたくせに。

 それでどの口が疲れたとか言うのかしら、このでっかいお子様は」

 

「うるせぇ」

 

 どこか自覚があったのかそっぽを向く翔に、絵美は「やっぱり子供なんだから」と微笑みながら呟く。

 その時、そっぽを向いていた翔は視線の先に見知った2人組の姿を認めた。

 

「地上から戻ったか」

 

 やってきたのは栄一と雅の2人組である。

 

「お食事でもどうかと思って、誘いに来ましたわ」

 

「お、いいねぇ。 タダ飯は大好きだぜ」

 

「これからせいぜい働いてもらうからな、先払いだ」

 

「ああ、そりゃそんなオイシイ話はねぇわな」

 

 あははと笑いながらも翔と絵美は2人に連れられ、食事を共にする。

 鶏肉のソテーをメインディッシュにした、荒廃したこの世界の基準からすれば普通にはお目にかかれない高級品である。しかしこの街ではごくありふれた食事だと聞き、本当にここは外とは別世界なのだなぁと感心する。

 腹も膨れたところで、栄一の方が話を振ってきた。

 

「ところで……『ノア』の、俺たち以外の怪獣使いには会ったらしいな」

 

「……それはあのちびっ子どものことを言っているのか?」

 

「そうだ。

 ……対教授(プロフェッサー)を抜きにしても、俺たちがお前ら2人をスカウトした理由はわかるだろう?」

 

 栄一の問いに翔は苦笑で肯定した。絵美は少し眉をひそめながら言う。

 

「他には『こっち側』の怪獣使いは見つかっていないの?」

 

「『ウルトラマン』の介入できたレイブラッドの因子は、そんなには数は多くないようで……」

 

 そう言って目を伏せた雅に変わり、栄一が言葉を継ぐ。

 

「あの子たちは素質はあるがまだ幼く、怪獣を1体しか使役できない」

 

「使役する怪獣すべてを失った怪獣使いがどうなるかはご存じでしょう?

 命綱とも言える怪獣が1体しかいない状態での戦いはあまりに無謀、それ以前の問題として子供を戦いに駆り出すのは大人としてあまりにも無責任が過ぎますから……」

 

「そりゃ、どう考えても戦力には考えられんわなぁ」

 

 翔はそんな風に頷く。

 

「今は3人とも正しい怪獣使いとしての才能を伸ばしている段階だ。

 もっとも、まだ子供だから遊びがてら学んでいる最中だがな」

 

「……俺はその遊びで今日死にかけたんだが。

 教育が悪いんじゃないか?」

 

 ジト目で翔が睨むと栄一は苦笑しながら、その話を綺麗に流す。

 

「特に怜に関しては……少し懸念していることがあってな、慎重に育てている最中だ」

 

「怜って……あの『ゴモラ』使ってる子よね。

 3人の中では一番、落ち着いてていい子に見えたけど?」

 

「だな。 あの坊主頭の蘭ってガキの方が、向こう見ずで危なっかしそうだが……」

 

「……そういった表面上の話ではないのですよ」

 

 今日の印象からかけ離れた話に頭を捻る翔と絵美に、雅はそう言って首を振った。

 

「……実はあの子のバトルナイザーと『ゴモラ』は、元からあの子のものではなかったのです。

 その持ち主はあの子の父親で『こちら側』の怪獣使いだったのですが……教授(プロフェッサー)と戦い、命を落としました。

 あの子のバトルナイザーと『ゴモラ』はそのお父様の形見なんですよ。

 だからあの子が復讐心で染まってしまわないか心配で……」

 

「……」

 

 教授(プロフェッサー)が父の仇……思い切りどこかで聞いたことのある話に、絵美はゆっくりと翔の顔をうかがう。

 翔は何も言わずに、水のグラスを傾けた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌日、翔と絵美は再び地上部へとやってきていた。

 

「あっ、しょうにいちゃんだ!」

 

「えみおねえちゃーん!」

 

 昨日と同じく、目ざとくこちらを見つけたお子様3人は元気よく駆け寄ってくる。

 

「はいはい、今日も元気ね」

 

 絵美は微笑みながらその頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。まるで人懐こい子猫のようだと絵美は苦笑した。

 

「? しょうにいちゃんはどうしたの?」

 

 しかし翔は昨日と違いどこか硬い表情だ。それを指摘されると翔は「なんでもない」と首を振ると、昨日と同じように子供の相手をし始める。

 そうやってしばらく遊んだ後、絵美は蘭とすずだけを連れて少しだけ離れたところに移動した。翔の心中を察した絵美が気を利かせてくれたのである。翔は心の中で絵美に感謝すると、怜に話しかけた。

 

「なぁ、少しいいか」

 

 翔が促すように腰をかけると、怜は翔の隣に腰掛ける。

 

「ちょっと聞いてみたいことがあってな……」

 

「なに? しょうにいちゃん?」

 

「そのバトルナイザーと『ゴモラ』……教授(プロフェッサー)に殺された親父さんの形見なんだって?」

 

 その言葉で悲しそうな顔をした怜を見て、翔はもう少し気を使った言い方はなかったものかと後悔するがもはや後の祭りである。

 

「……悪かった」

 

「大丈夫だよ。

 ……しょうにいちゃんの言った通り、僕の父さんは教授(プロフェッサー)と戦って、このバトルナイザーと『ゴモラ』を残して死んじゃったんだ……」

 

 しばしの後、はっきりとした口調で答える怜に、翔は心の強い子だと感心する。

 自分がこの子と同じくらいのころはどうだったか……少なくともこの子よりよほど愚かで向こう見ずだったのは間違いない。

 

「なぁ……そのゴモラで、教授(プロフェッサー)に復讐して親父さんの仇をとろうとか、思ったことはないか?」

 

 翔と怜……2人は『父を教授(プロフェッサー)に殺された』ということで共通している。

 自分だったらもしあの時にゴジラが手元にいて復讐相手がいるとわかっていたのなら、即座に教授(プロフェッサー)を殺そうとしている。勝てるかどうかは別にして、だ。

 だから教授(プロフェッサー)を倒し父の仇をとることを目指す翔は、同じような境遇の怜がどう思っているのか気になったのだ。

 

 そこまで考えて翔はふと我に返る。自分は子供相手になにを小難しいことを聞いているんだと苦笑したその時だ。

 

「僕は……父さんの復讐をしたいなんて思ってないよ」

 

 あまりにも明確であまりにもはっきりとした答えに、翔はしばし目を瞬かせる。

 

「……教授(プロフェッサー)は親父さんを奪った相手だ、許せないとは思わないのか?」

 

「それは父さんがいないのは悲しいし、それをやった教授(プロフェッサー)は許せないよ。

 でも……それでも復讐しようとか思わない」

 

 頑なな言葉に、翔は怜の心の中に確固たる『何か』があると気付く。

 

「どうしてそこまで……」

 

「だって……父さんとの最後の約束だから」

 

 そう言って怜は手の中のバトルナイザーに視線を落とす。

 

「これを貰ったとき、もう息も絶え絶えだった父さんは

「この力は何かを護るためにしか使っちゃいけない、それ以外では使わないって約束しろ」

 って言ったんだ。

 そんな父さんに僕は約束して、それを聞いた父さんは安心したような顔で死んじゃったんだ。

 そんな父さんは絶対に怪獣使いの力で復讐なんて、許してくれない。

 だから僕は怪獣使いの力で復讐なんてしようとは思わないよ」

 

「……」

 

 その答えを聞いて翔は分かった。翔と怜は境遇が似ているようでその実はまったく違う。

 翔は目の前で最後の言葉を聞くこともできず父は死んだ。それこそ木っ端微塵で、翔はその骨すら弔えなかった。

 だから翔はそれを為した悪魔のような怪獣『デストロイア』を憎み、そしてそれを操っていた教授(プロフェッサー)にだけは必ず復讐を果たすと決めている。そしてそれを為して初めて、気持ちに整理をつけて先に進めるのだと思っていた。

 

 対する怜は父の最後の約束によって、自分の進むべき道を明確に示され、先に進んでいる。

 怜はもう父から『答え』を貰っているのだ。

 

 五里霧中の中、前に進むために復讐を心に決めている翔。

 父との約束で、示された進むべき道を進んでいる怜。

 その在り様はまさに真逆と言っていいだろう。

 

「そうか……いい親父さんだったんだな」

 

「うん!

 ……しょうにいちゃんのお父さんはどんな人なの?」

 

 問われて、翔はバックパックから一枚の写真を取り出す。それは翔とその父が映った写真だ。

 

「自衛隊で戦車に乗っていてな……。

 大きくて優しくて……よく「やれることを精一杯やれる人間になれ」って言っててな、子供心に『父さんのようになりたい』と思えるくらいに凄い人だった……。

 それに……最後まで父さんは立派だった。

 父さんは街を襲った教授(プロフェッサー)の怪獣に戦いを挑んだんだ。

 戦車たった1両じゃ怪獣には絶対に敵わない。それを分かっていながら、俺や街の人たちが逃げるための一分一秒を稼ぐために戦ったんだ。

 そして……俺の目の前で父さんの戦車は粉々になったよ……」

 

 目を閉じれば今でも鮮明に思い出せるあの光景……燃え盛る故郷と逃げまどう人々、『デストロイア』と吹き飛ぶ90(キューマル)式戦車……。

 

「……俺の父さんは、最後の言葉も残せず吹っ飛んだからな。

 父さんが俺にどう生きて欲しかったのかなんて永遠に分からないのさ」

 

「だから……復讐したいの?」

 

「ああ……それが出来て初めて、俺は前に進めると思うからな。

 ……今の俺を見たら、父さんは泣くかな? それとも怒るかな?

 まぁ、不出来な息子ってことで大目に見てもらうさ」

 

 そう言って翔は苦笑をもらす。

 翔は怜と会話しながらも、これは自分自身に確認をしているに等しく感じていた。だから、この答えなど小さな子供である怜には期待はしていない。

 しかし……。

 

「……きっとしょうにいちゃんのお父さんは怒らないと思うよ」

 

 答えるはずはないと思っていた怜が、答えた。

 

「……どうしてそう思う?」

 

「だってしょうにいちゃんのお父さんは「やれることを精一杯やれる人間になれ」って言ってたんでしょ?

 だったら、しょうにいちゃんがやると決めて精一杯にやろうとしていることを怒ったりはしないと思う」

 

 その言葉に一瞬きょとんとする翔だが、しばしの後笑いがこみ上げてきた。

 

「しょ、しょうにいちゃん?」

 

「いやぁ悪い悪い。

 誰も彼も『復讐なんて虚しい、やめろ』みたいなことしか言わないからな、そんな風に肯定されたのは、よく考えれば初めてかもな」

 

 そう言ってポンポンと怜の頭を撫でながら、翔は空を仰ぐ。

 

「『やれることを精一杯に』……か……」

 

 そんな風に呟いたその時だった。

 

「……ん?」

 

 見上げた空に、翔は奇妙な発光のようなものを見た気がした。

 何事かと目を凝らす翔は、その奇妙な発光現象がだんだんと強くなっていくのを見る。

 そして……。

 

 

 バリィィィィン!!

 

 

 空が……割れた。

 まるでガラスでも叩き割るように、空の一部が砕け散る。

 

「な、なんだ!?」

 

 翔は怜を庇いながらサッと立ち上がる。

 そしてその砕けた空の空間から、2体の怪獣が降ってきた。

 

 

 グルルルルル!

 

 グォォォォン!

 

 

1体は手や身体の一部が大きく広がっており、体色も相まってまるで羽を広げた毒蛾のようである。

 もう1体は全身にサンゴのような突起物を無数につけた怪獣だ。その口の奥にはミサイルが見え隠れしており、生物としてまっとうな怪獣でないことが一目瞭然である。

 

 

「怪獣だと!? この島には怪獣は寄りつかないんじゃなかったのか!?」

 

「翔!?」

 

 少し離れていた絵美もこの事態に蘭とすずを連れて翔のそばにやってくる。

 

「絵美、あの怪獣普通じゃないぞ!」

 

「ええ、どっちかというとメカゴジラたちに近いわ!」

 

 バトルナイザーを構える翔と絵美の元に、声が響いた。

 

「違うな、こいつらは怪獣じゃない」

 

「そう、怪獣を超える、『超獣』だよ」

 

 見れば、いつの間にか崖上の岩場に、2人の人影があった。そしてその手の中にはバトルナイザーがある。

 

「お前ら……教授(プロフェッサー)の所にいた双子か!?」

 

「俺は藤澤 スバル」

 

「僕は藤澤 ツバサ」

 

 ほとんど差異のない2人は淀みなく自らの名を名乗る。

 

教授(プロフェッサー)の邪魔になる者……」

 

「僕たちで排除する!」

 

 そして互いにバトルナイザーで怪獣へと指示を出した。

 

「行け、ドラゴリー!」

 

「ベロクロン、行け!」

 

 

 グルルルルル!

 

 グォォォォン!

 

 

 指示に従い動き出す超獣、『ドラゴリー』と『ベロクロン』。

 翔と絵美は3人の子供を庇うようにしながらバトルナイザーを構えるのだった。

 

 

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怪獣紹介

 

 

機械分類ロボット型モンスター『サイバー・ウー』

出典:ゲーム『キング・オブ・ザ・モンスターズ2』『ネオジオバトルコロシアム』

 

解説:少女怪獣使い『鈴村すず』の操る、黄色ともオレンジともとれる塗装のゴリラ型ロボット怪獣。

   高い次元でバランスがとれており、相手を投げ飛ばすパワー、ローラーダッシュによる高速機動を駆使して戦う。

   武装も充実しており、背中にはブースター兼ミサイルポッド、首を伸ばしての頭突き攻撃『スプリングヘッド』、ロケットパンチ、自走砲形態に変形してのガドリングレーザーなど多種多様な武器を備えている。

   必殺技は上半身と下半身を分離させ下半身を自走砲に変形、上半身でのホバリングからの格闘攻撃と下半身のレーザーキャノン自走砲攻撃を同時に繰り出す『スプリットアタック』。

 

   本来は非常に凶暴な怪獣なのだが、心からすずには従っており、彼女を守るために戦う。

   幼いために複数の怪獣を使役できないすずにとっては唯一の使役怪獣である。

 

 

   ゲーム『キング・オブ・ザ・モンスターズ2』でプレイヤーが操作できる3体の怪獣の1体。

   日本が世界を征服するために造った最強のスーパーロボットだが、頭脳部分をどうしても作成できなかった。そこで前作『キング・オブ・ザ・モンスターズ』のキャラの1体、モンスター同士の戦いで瀕死の重傷を負ったゴリラ型モンスター『ウー』の脳を回収、これを移植する。

   当初の計画では完全に制御できるはずだったが当然のように怪獣としての意識を取り戻し暴走、凶悪な怪獣をさらにパワーアップさせて復活させてしまうという最悪の事態に。

   地球に襲来したエイリアン怪獣たちと死闘を繰り広げこれを撃破、その後ほかの2体の怪獣とともに地球文明を破壊し尽くし、人類の文明が800年衰退するという事態を引き起こした。

 

   『ネオジオバトルコロシアム』では設定が大幅に変わり、下町の工場がその技術力を証明するために造られた2mほどの類人猿型ロボット。

   工場の娘『ゆず』の操縦で並いるネオジオ系トンデモ格闘家たちと戦った。

   いわゆるパワー系投げキャラ。

 

   

   本作品中、ぶっちぎりのマイナー怪獣であり作者の子供の頃の思い出のキャラ。

   学校帰りに近くのスーパーで稼働していた筐体で遊んだのはいい思い出である。

 

 




ヴィンセント島に攻めてくる超獣2体といえばやっぱりこいつらです。
本格的な戦闘は次回からになります。

そしてウーちゃんこと『サイバー・ウー』……自分で言うのも何ですが、こいつの出てくる小説なんてみたことないです。
どうして私はこんな超ドマイナー怪獣を出そうとしたんだろうか……?
まぁ一応理由はあるんですが……それも条件合致する怪獣はいくらでもいるし……うーん、謎だ(笑)

次回もよろしくお願いします。

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