大怪獣バトルレジェンド Gの伝説   作:キューマル式

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お久しぶりです。
今回は少し、怪奇色の強めの内容に挑戦したら……何か凄い量になったので前後編に分けることにしました。

今回はその前編になります。


第7話 湖に潜む(前編)

 水は様々な生命にとって、無くてはならないものだ。人であれ獣であれ、そして怪獣でさえそれは変わらない。この湖には様々な怪獣がやってきては、その水を飲んでいく。

 頭頂部に1本角、2本の牙を持ち、翼のような腕をもつこの怪獣……有翼怪獣『チャンドラー』もこの湖へと水を飲みにやってきていた。

 その巨大な顔を突っ込み、がぶがぶと水分を補給していくチャンドラー。

 だがそのとき、チャンドラーはその異変に気付いた。先程まで晴れていたはずだというのに、いつのまにか周囲には濃い霧が立ち込め辺りが見えないような状態だ。

 

 

キシュゥゥゥゥ……

 

 

 低く唸りながら、チャンドラーは辺りを警戒する。その時、何かがチャンドラーの背中にぶつかった。そして、鋭い爪のようなものをチャンドラーに突き立てる。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 慌てて身体をやたらに振るうとその背中についた『何か』はたまらず飛び出し、霧の中へと消えていく。

 その先を警戒するチャンドラーだが、その時再び背後からの衝撃が走った。

 今度は翼のようになったその両腕に『何か』……随分小ぶりな怪獣が、それも左右に2匹がへばり付き、同じように鋭い何かを突き立てている。

 同時にチャンドラーの正面から電撃がほとばしり、チャンドラーの皮膚を焼いた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 たまらず先ほどと同じように振り払い、再びその2匹の小ぶりな怪獣は霧の中に消えた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!

 

 

 腕を出血させ、怒りの声を上げたチャンドラーはその翼のような腕をやたらに動かしだす。

 チャンドラーは陸に適応し翼が退化したことで飛行こそできない陸上怪獣だが、その翼を激しくはばたかせることで実に風速60メートルを超える猛烈な突風を巻き起こすことができるのだ。

 チャンドラーはその突風で霧を吹き飛ばし、先程の忌々しい小型怪獣と電撃を放った主をいぶり出そうと言うのである。

 だが、ここでチャンドラーは異変に気付く。

 猛烈な突風だというのに、霧が晴れないのだ。まるで『後から後から湧き出るかのように』、霧は依然として色濃くその視界を奪っている。

 そんなチャンドラーに三度、死角から小さな怪獣の影が襲い掛かった。しかもその数は1匹や2匹ではない。それが一斉に襲い掛かったのだ。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!!?

 

 

 やたら暴れまわるチャンドラーによって、その小さな怪獣も叩き落とされ、潰される個体も出てくる。だが、それでも減らないほどに数が多すぎた。

 

 

 キシュゥゥゥゥ!!!?

 

 

 チャンドラーの怒りの咆哮が痛みの嘆きに変わり、そして断末魔の悲鳴へと変化していく。

 残ったものは視界のすべてを埋める白い霧と、何かを吸い込むような不気味な音だけだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「まるで前が見えないわ」

 

「ホントに酷い霧だな……」

 

 ハンヴィーを走らせながら愚痴る絵美に、翔が同意する。

 ライトをつけても10メートル先すらまともに見えない。それほどに凄い霧だ。

 

「頼むから気をつけてくれよ」

 

「分かってる……ってぇ!?」

 

 

 キキィィィィ!!

 

 

 その瞬間、先が崖になっていることに気付いた絵美が急ブレーキをかけた。

 

「痛っ!? あぶねぇなぁ……」

 

「ご、ごめん」

 

 したたかに打った身体を擦りながらの翔の抗議に、絵美は素直に謝る。

 

「しっかし……この霧でのこれ以上の移動は危険だな」

 

「確かに霧が晴れるまでどこかでジッとしていた方がよさそうよ」

 

「でも車内で待つってのもな……」

 

 どうしたものかと翔が呟いたその時だ。

 

「ん?」

 

「どうしたの、翔?」

 

「あれ、見てみろよ」

 

 そう言って翔の指さす方向には、霧の中にボウッとぼんやり浮かび上がるようにして集落が見えた。

 

「村、か?」

 

「そうみたいね。

 あそこでしばらく霧が晴れるのを待つってのはどう?」

 

「それで行くか……。

 あそこまで行けるか?」

 

「気をつけてゆっくり行くわよ。

 村を目の前に崖から落ちて死にました、じゃ幾らなんでも格好悪すぎだしね」

 

「まったくだ」

 

 軽口を叩きながらも、絵美は慎重にゆっくりと濃い霧の中、その村へと向かっていった……。

 

 

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「ようこそおいで下さいました、旅の方。

 ワシらはあなた方を歓迎いたします」

 

「あ、ああ……」

 

 差し出された手に、戸惑い気味に握手を返す翔。隣では絵美も困惑気味だ。

 こんな荒廃した時代、町や村といったコミュニティは基本的に閉鎖性が強い。よそ者への警戒心は強く、あまり歓迎されないものだ。

 それでも貴重な物資を売り歩くような行商人ならともかく、翔たちなど根なし草の流れのトレイダーである。トレイダーには性格にも問題あるものは多く、客観的に見ても胡散臭さ満点だ。どう考えても歓迎されることはない。

 翔も絵美もそれを理解していたのでいきなり車両で村に乗り入れるようなことなどせず、近くの森にハンヴィーを隠して出来る限り軽装で、警戒心を抱かれないように配慮して村に入った。

 しかし、そんな2人が村に入るとすぐに村長を名乗る者がやって来て2人を歓迎する、ぜひ自分の家に泊っていってほしいと言いだしてきたのである。

 身構えていただけに、調子が狂うというものだ。

 

「歓迎してくれるのはいいんだけど……」

 

「何だか調子が狂うな」

 

 村長に村を案内すると言われ、そのあとに着いていきながら小声で絵美と翔は言い合う。

 

「歓迎されるのは予想外ですかな?」

 

「えっ……ええ、まぁ……どうもすみません」

 

 2人の声が聞こえていたらしい。かなり失礼な話をしていた自覚があっただけにさすがに翔も恐縮するが、村長は特に気にした様子もなく朗らかに返す。

 

「いえいえ、こんな世の中ですからな。 警戒は分からなくもありませんよ。

 しかし、ここでは違います。

 時に、あなた方の警戒されるようなことは、何が原因で起こると思いますかの?」

 

「? 不勉強なもので、特に思いつきませんが……」

 

「世の中の悲劇のほとんどは、『余裕のなさ』が原因なのです。

 明日を生きる糧がない、だから奪う……そういった感じで物理的に、精神的に余裕がないからこそ悲劇は生まれるのです。

 しかし、その『余裕』さえあればその限りではありませんよ。

 あれをご覧ください」

 

 そして村長が指差したもの、それは山の斜面に建設された、何かの施設の入り口だ。

 

「これは?」

 

「これは……食糧プラントの入り口なのですよ」

 

「「なっ!?」」

 

 その言葉に、翔と絵美は揃って驚きの声を上げる。

 怪獣出現と同時に、人類は各地に地下都市の建設を始めたが、それと並行して不足するだろう食糧問題の解決を目的とした食糧プラントの建設を行っていた。人工的に管理された環境と肥料によって、効率的かつ大量の食糧をつくるための施設である。

 しかし、そんな食糧プラントも多くが怪獣に破壊されたりなどの理由で今も稼働しているものは少ない。その数少ない稼働しているプラントも基本的に地下都市のもので、それでもその生産量だけでは足りず、危険を承知で地上で農作業を行う者だっている。

 それがこんな小さな村に存在しているというのは驚きである。

 

「この食糧プラントはごく小規模のものですが、この村を支える程度なら十分です」

 

「よく生きてますね、このプラント」

 

 絵美は感心したように言う。

 こういった食糧プラント、稼働しているものが少ない理由は怪獣に破壊されたからというだけではない。食糧プラントは人工的に環境を整えるため、施設を稼働するのにかなりの電力を必要するのだ。

 そのため、施設そのものではなく発電所を破壊されたことで電力を確保できず、稼働できない状態になって放棄された食糧プラントは多いのである。翔も絵美も、トレイダーとしてならそんなプラントには何度か入っているのでよく知っていた。

 そんな絵美の言葉に、村長は頷く。

 

「この食糧プラントは小規模のものですからね、家畜の排泄物を利用したメタンガス発電、または生産された穀物からのバイオ燃料による発電でも動きます。

 それに……実はこの一帯に電力を供給していた無人発電所はまだ生きているのですよ。

 おかげで食糧の心配はなく、身体的にも精神的にもワシらは『余裕』を持てるというわけですよ」

 

「なるほど……」

 

 話を聞きながら、絵美は頷く。

 確かに誰からも奪うことなく生きていけるのなら、人は優しくなれるというのは分からなくもない。

 事実、翔と絵美もつい最近、絵美が体調を崩したときに助けを求めた農場主の家族には本当によくしてもらった。いくらこんな荒れ果てた世界でも、人の親切心というものを否定することはできない。

 しかし……翔はトレイダーとしての危機察知の嗅覚で、この村全体から違和感を感じている。どうしても、この村が自分たちに親切心から友好的なのだとは思えないのだ。

 そして、その違和感の理由の一つに、翔はすでに気が付いていた。

 

「……」

 

 翔は幾分か鋭い、冷めたような視線で絵美と話す村長を眺める。

 そして、そんな翔と絵美を遠くから、小さな瞳が見つめていた……。

 

 

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「美味しかったね、翔」

 

「ああ……」

 

 結局、村長の家に泊まることになった2人。村長宅は長くこの村の地主であったのか、かなり広めの屋敷だった。

 宿代がわりにトレイダーの仕事で手に入れた物品を渡し、出されたこの村でとれたものでの料理は美味かった。

 それに舌鼓を打ち、翔たちは外の話をするといった感じで食事は無事終了、翔と絵美は宛がわれた村長宅の2階の部屋へと引き上げている。

 ベッドにグデンと大の字になって寝転がり、その感触を堪能する絵美。

 だが、しばらくして絵美はムクリと身体を起こした。

 

「もういいのか?」

 

「うん、柔らかいベッドも今、久々に堪能したわ。

 もう十分」

 

「そうか。 それじゃ……」

 

「そろそろ……」

 

「「ズラかろうか」」

 

 翔と絵美は顔を合わせ、異口同音に言った。2人は今までの観察で、この村がおかしいことに気付いていたのだ。

 

「……私を見る視線。

 あんな気持ち悪い視線を全員揃ってやってて、疑われないとでも思ってんのかしら?」

 

 絵美は纏わりつくような不愉快な視線を思い出し、顔をしかめる。

 トレイダーという荒事の世界でしたたかに生き抜く絵美は、そういった視線にはある意味慣れっこであり、村長以下村人からの視線で異常を感じ取っていた。

 

「おまけにこの村……俺たちくらいの歳の若い女が全然いないぞ。

 この村の規模でそれはおかしい」

 

 翔は村を観察し、どこにも妙齢の女性がいないことで異常を感じ取った。いる女は年寄りや子供ばかり……これは村の規模を考えればおかしすぎる。

 

「……やっぱ村ぐるみでの人身売買かしら?」

 

 絵美はため息交じりに呟いた。

 そうでなければ村中の若い女だけがいないことの説明が付かない、と絵美は言うのだが、翔はそこに首を捻った。

 

「それにしちゃ『理由』がないがな。

 人を売る理由の多くは『口減らし』が目的だよ。単純に食糧がないからその食い扶持を減らして物を手に入れるために人を売るんだ。

 でも、この村は稼働する食糧プラントのおかげで食糧の心配はない、ときた。

 これじゃ『口減らし』は必要ないだろうし、女を村ぐるみで売る理由がわからん」

 

「……そもそもそれなんだけど、稼働する食糧プラントを持ってる村なんて普通もっと知られていてもいいと思うんだけど、聞いたことないわ。

 盗賊対策で秘密にするっていうなら分かるけど……」

 

「俺たちに教えてくれる必要がまったくないからな」

 

 この村への疑問は尽きないが、この村が『真っ黒』なのは疑いようもないだろう。だとすれば長居は無用、今までは村長などの監視の目があったため行動に移せなかったが、今なら動くことも出来る。

 2人は持ち前のフットワークで手早く荷物をまとめると、この村を出ようと決意した。

 その時。

 

 

ゴトッ

 

 

 何かを動かす音が、ベッドの下あたりからした。

 

「翔……」

 

「ああ……」

 

 2人は警戒しながら、そこを覗き込む。

 すると、そこの床板の一部がずれて穴が開いていた。そしてそこからこちらを見つめる、少年と目が合う。

 

「君は……?」

 

 翔の質問には答えず、少年は泣きそうな瞳で言う。

 

「お兄ちゃんたち、早くこの村から逃げて!」

 

 

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 夜半も過ぎた頃……村長宅を松明を持った男たちが取り囲んだ。

 

「連中は?」

 

「二階の部屋だ」

 

「逃げたりはしてないだろうな?」

 

「二階への道は階段だけ、誰も通っておりゃせんよ。

 窓の方もずっと監視してたんだろう」

 

 その村長の言葉に、村人は頷く。

 そして村の若者たちは荒々しく階段を上るとドアを開け放った。

 しかし……。

 

「居ないぞ!? もぬけの殻だ!!」

 

「な、なんだと!?」

 

 2人がいないことに、にわかに騒がしくなる。

 

「くそっ!

 やっぱり最初から捕まえればよかったんだよ!」

 

「抵抗される危険もあるんだ。

 信用させて、油断させてから捕まえると決めたじゃないか!!」

 

 喧々諤々、騒ぎ出す村人たちに村長の一喝がとぶ。

 

「そんなことを言ってる場合か!

 探せ、草の根分けても探し出して捕まえろ!

 『神への贄』を絶対逃がすな!!」

 

 怒号が村中へと響く。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 森の中を、翔と絵美は少年……淳という村長の孫の先導で歩いていた。淳が村長宅にあった隠し通路を使って翔と絵美を誰にも気づかれず脱出させ、村人の目がつかない場所から2人を脱出させるために森を歩いている。

 

「『神への贄』……ねぇ」

 

 歩きながら、翔は聞かされた話を思い出し、ポツリと呟く。

 淳のつたない話を繋げ、どうにかこの村の状況は掴めた。

 この村の食糧プラント、これはずっと前から全力運転ができていたわけではないらしい。それはやはり電力の問題だった。

 食糧プラントに電力を供給する無人発電所、ここは怪獣によって破壊されてはいなかったが、電気を常食する怪獣が根城にしておりその電力が食糧プラントに廻ってこなかったのである。

 そのため、村では家畜の排泄物を利用したメタンガス発電、または生産された穀物からのバイオ燃料による発電で食糧プラントを稼働させていたが、それでは電力が足りずに食糧プラントの稼働率は低い状態、少ない食糧のなか苦しい生活をしていたようだ。

 そんな中、1人の若い男がやって来て『無人発電所の怪獣を何とかしてやる』といいだしたのである。

 最初、村人は男をただの詐欺師の類だと相手にしていなかった。そのため、軽い気持ちで『できたら何でも報酬を出す』と約束したのだが……。

 

「その男……怪獣をなんとかしたのね?」

 

「うん」

 

 絵美の言葉に、淳はコクンと頷く。

 どういう手段を使ったのか……その男の言葉通り、いつの間にか無人発電所を根城にしていた怪獣はいなくなり、電力が復旧したことで食糧プラントは全力運転が可能になって村は食糧危機から救われ、男は『神』のように感謝されることになった。

 だが、それも男が報酬を要求するまでだ。

 男が要求したもの……それは『若い女』であった。

 

「ずいぶん俗っぽくて好き者の神さまだな、おい」

 

「薄っぺらいんでしょ、『かみ』だけに」

 

「うまいな、それ」

 

 翔と絵美は冗談の掛け合いで笑い飛ばすが、とうの村人たちはたまったものではない。最初は村を救った英雄であったので自発的に手を上げる女もたくさんいたが……これが不思議なことに誰一人帰ってこない。それでも定期的に男は女を要求してくる。

 そんな状況ではさすがに村人も黙っていられない。

 

「父ちゃん……前の村長が村の若い人を何人も連れて討伐に行ったんだけど……」

 

「誰一人帰ってこなかった、と……」

 

「うん……」

 

 それだけではなく、その報復からか再び発電所からの電力の供給がストップした。

 この状況に村を捨てて出ていこうとした者もいたが……何故か全員、霧で迷い他の村や町に行けず、村に戻ってきてしまうのだ。

 村から逃げることができず、さらに食糧を握られ、遂に今の村長……淳の祖父と村人たちは『神』への服従を決めたのである。

 以来、村人たちは定期的に村の若い女やたまに迷い込んでくる旅人を『生贄』として『神』に捧げているというわけだ。

 

「そして栄えある次の生贄は絵美、ってことか」

 

「冗談でもよしてよ」

 

 翔の言葉に、うんざりしたように絵美は言う。そんな絵美にもっともだと肩をすくめ、翔は思ったことを口にした。

 

「この村の事情は分かったよ。

 でも、それなら何で君は俺たちを逃がそうとしてくれるんだ?

 そっちだって村の一員、せっかくの生贄に逃げられちゃ困るだろ?」

 

「……あんなやつに好き勝手にされるの、もういやなんだ」

 

 翔の言葉に、淳は吐き捨てるように呟いた。

 

「僕には姉ちゃんがいたんだ。

 でもその姉ちゃんも……この間生贄に……」

 

「「……」」

 

「みんなは必要な犠牲だっていうけど……絶対違う!

 村にはすごい力を持ってるあいつを本当に『神様』だっていう人もいるけど、僕は絶対認めない。

 あんなの神様じゃない。

 神様が……神様が父ちゃんや姉ちゃんを奪っていくわけがない。

 だから……あいつへの生贄なんて、1人でも少なくしてやるんだ」

 

 その目にその幼さとは不釣り合いの黒い炎が宿っていることに気付き、絵美はゾクリと身を震わせる。

 

「……なるほど。

 つまり、俺らは君の神様への個人的な嫌がらせで助けてもらったってわけか」

 

 一方の翔は、淳の様子からあるものを思い出す。

 

(この子……昔の俺みたいだ)

 

 歳の割に賢い淳は、『神』を名乗る男が自分ではどうしようもない相手だと知っている。復讐したいのに復讐するだけの力がない……それを理解しているから、せめてもの復讐としてこんな嫌がらせじみたことをしているのである。その姿はどこか父を失ったばかりの頃の自分を見ているようだと翔は思う。

 

「……まぁ、事情はどうあれ、逃がしてもらえるのに文句はないよ。

 でも……」

 

 3人は森を抜ける。そこには……。

 

「何で……何で湖に!?

 逆の方にきたはずなのに!?」

 

「本当に逃げれるかは、別の話だな」

 

 驚愕している淳の様子に、翔と絵美は冷静だ。というのも、淳の話には『霧のせいで村から出られない』というものがあった。それが事実なら、少し走ったくらいで安全なところには出られないだろうとは思っていたのだ。

 しかも……。

 

「よりによってあいつのいる湖に!?」

 

 淳のうろたえ様から、どうやら噂の『神』の住処らしい。翔と絵美はソッ、とポケットの中に手を伸ばした。

 その時だ。

 

「クククッ……その子が新しい『生贄』かな?」

 

 声にバッと顔を向けると、一段高い崖のようなところの上に1人の若い男が立っていた。かけたメガネが神経質そうな印象を受ける細身の男だ。だが、そのメガネでは隠しきれないような狂気がその目には見え隠れする。

『狡猾な虫』……それが翔の第一印象だった。

 

「なかなか好みの子だよ」

 

 好色そうな舐めるような視線に晒され、絵美は思わずブルリと身を震わせる。そんな絵美を守るように、翔は一歩前に出た。

 

「今回は男もいるんだね。 気が利くなぁ」

 

「おいおい、噂の神サマとやらは両刀使いかい?

 あいにく俺はそういう趣味はないぜ」

 

 おどけたように翔が言うと、男は不機嫌そうに返す。

 

「何を言ってるんだい?

 男は……ただのエサに決まってるじゃないか」

 

 

 ザバッ!!

 

 

 すると水しぶきを上げながら、湖から飛び出してくる影が。

 それは巨大なトンボのような生き物だ。体長はゆうに2メートル、羽を含めた全長は5メートル近い。

 それは明らかに普通の生物ではなく、怪獣の類だ。そのトンボ怪獣は羽音を響かせ、男の背後を滞空し続ける。

 

「ひっ!?」

 

 怪獣の姿に、淳が怯えた悲鳴を上げる。

 

「怪獣を操ってるのか……」

 

「そうさ。 僕は怪獣を操る力を持つ者。

 すなわち……『神』だ!」

 

 バッ、と大仰に手を広げ、何の憂いもなく『神』を自称する男……その力に酔った様子に、翔も絵美も嫌悪感を露わにする。

 

「『神』を自称するのは勝手だが……神さまだったら、もう少し村人たちに優しくしてもいいんじゃないか?」

 

「そうよ。 

 『女』を要求するとか、神さま気取ってるくせに俗っぽすぎ。

 しかもとっかえひっかえ要求とか普通じゃないわ。

 第一……今まで要求してきた女の子たちは一体どうしたのよ?

 1人も帰ってこないとかおかしいでしょ」

 

「そうだ! 姉ちゃんはどうしたんだよ!!」

 

 翔は呆れ、絵美は女として嫌悪感を露わにし、淳は姉の安否を問う。

 そんな3人に男はさも当然と言い放った。

 

「『女』は十分楽しませてもらった後に、僕の力の一部になってもらったよ」

 

 そう言って背後のトンボ怪獣を指す。

 それの意味することは……。

 

「怪獣に……喰わせたのか?」

 

「彼女たちは僕の『神』の力の一部になったんだ。 きっと本望さ」

 

「姉ちゃん……姉ちゃん!!」

 

 その言葉に、淳は姉の末路を知って泣き崩れる。

 

「なに、泣くことはないよ。

 すぐにお姉さんとは再会できる。

 僕は『神』だから慈悲深いんだ」

 

 するとトンボ怪獣はゆっくりと男の前に出てきた。明らかに攻撃態勢だ。

 

「おい、待てよ。 この子は村の子だろ?

 『生贄』ってことになってる俺たちならまだしも、この子まで怪獣のエサにしようってのか?」

 

「その『生贄』を逃がそうとする悪い子には、『神』の裁きが必要だよ」

 

「……どうやってか、こっちの会話は筒抜けかよ。

 ストーカー神とでも名乗りやがれ、クソ野郎」

 

 翔の言葉を無視して、男は怪獣へと指示を出す。

 

「いけ、メガニューラ!

 女は生け捕り、男と子供は……喰え!」

 

 その指示に、待っていたとばかりに古代昆虫『メガニューラ』が飛びかかってくる。

 迫り来る怪獣に叫びすら上げられず、淳は茫然とメガニューラを見つめていた。

 しかし、その凶悪な顎が喰らい付くことはなかった。

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「えっ?」

 

 機械音声とともに、何かが迫り来るメガニューラを殴り飛ばした。それは10メートルほどの巨大な人型だ。その一撃を横合いから受け、メガニューラは大地に転がる。

 そこに、間髪いれずに絵美の鋭い声が響いた。

 

「ジェットジャガー、そのまま踏み潰しなさい!!」

 

 その言葉に従って巨人……ジェットジャガーは倒れたメガニューラを踏み潰す。グチャリと嫌な音を響かせ、毒々しい色の体液を吐きながらメガニューラは絶命した。

 

「おねえちゃん……?」

 

 淳の前にはバトルナイザーを構える絵美の姿がある。

 

「バトルナイザー!? お前も怪獣使いなのか!?」

 

 その姿に男は驚きの声を上げるがそれも一瞬のこと、すぐに調子を取り戻す。

 

「丁度いい、それなら『レイオニクスバトル』を始めよう。

 僕は勝って、宇宙の支配者になるんだ!」

 

「絵美……その子と護衛を頼む」

 

 明らかに危険な様子の男に、翔は絵美を手で制すと一歩前に出てバトルナイザーを取り出した。

 

「お前も怪獣使いなのか!?

 まぁいい、やることは同じ、『レイオニクスバトル』だ。

 どんな相手だろうと、『宇宙の支配者』になる僕が負けるはずがない」

 

 そして男は、尊大な態度で言い放つ。

 

「『早坂(はやさか) (まさる)』……君を『レイオニクスバトル』で倒し、宇宙の支配者になる男の名さ」

 

「……ご丁寧にどうも。 俺は芹澤翔、あっちは三枝絵美だ。

 ……俺たちは自分たち以外の怪獣使いにまともに会うのは初めてでな、お前の言ってることはまったくわかんねぇ。

 『レイオニクスバトル』やら『宇宙の支配者』やら……お前の妄言なのか何なのか知らないが、怪獣使いについて知ってることを教えてもらおうか」

 

 

『バトルナイザー、モンスロード』

 

 

「来い、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 咆哮とともに、召喚されたゴジラが降り立つ。そんなゴジラを見て男……早坂勝は鼻で笑う。

 

「そんな怪獣ごときで、僕の怪獣に敵うものか。

 いけ、メガニューラ!!」

 

 その言葉とともに、再び先ほどと同じメガニューラが湖から飛び出す。その数は3匹。

 1匹がゴジラの顔面を、ほかの2匹はそれぞれ背後から後頭部と背中を狙って飛んでくる。集団である強みを生かした見事な連携だと言えるだろう。

 だが、それはあくまで『普通の範疇』ならの話である。普通でないゴジラには……。

 

「ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 翔の言葉に答えるようにゴジラが咆哮すると、ゴジラはその体格からは考えられないほどの機敏な動きで、まず左手で顔面に迫った1匹を掴む。そして尻尾を振り背中に迫っていた1匹を叩き潰すと、そのままクルリと振り返り後頭部に迫った1匹を噛み潰した。

 

「これで終わりか?」

 

 グチャリとゴジラの左手で、メガニューラが握り潰される。

 一瞬にして3匹がゴジラによって潰されてしまったが、勝は余裕を崩さない。

 

「思ったよりも素早いみたいだけど……これならどうかな!」

 

 

 ザバッッッ!!!

 

 

 その言葉とともに現れたのは、視界を覆い尽くさんばかりのメガニューラの群れだ。その数は少なく見積もっても100や200は下るまい。

 

「どんなに素早く動けても、これだけの数には敵わないだろう!

 さぁ、行け!!」

 

 勝の号令の元、メガニューラの群れが一斉にゴジラに襲い掛かる。瞬く間に纏わりついたメガニューラによって、ゴジラの姿が見えなくなった。

 

「翔!?」

 

「あはは、無駄さ無駄!

 そのままエネルギーと体液をすべて吸い取ってしまえ!」

 

 絵美の切羽詰まった声と、勝の勝ち誇った声。そんな中、翔は不敵に笑った。

 

「ゴジラ!!」

 

 翔の声とともに、メガニューラに覆われたゴジラから光が漏れだす。

 その光は次第に強くなり、やがてその光によってゴジラに纏わりついていたメガニューラがすべて焼けながら吹き飛ぶ。

 ゴジラの至近距離での切り札『体内放射』である。その熱量と衝撃によってメガニューラの群れは一匹残らず吹き飛ばされていた。

 

「そんな虫の群れで、このゴジラがやられるかよ。

 それで、俺の勝ちか?

 勝ちならそれで、色々知ってることを吐いてもらうぞ」

 

 しかし、メガニューラの群れを焼き尽くされたというのに勝の強気な態度は崩れなかった。

 

「なるほど、なかなか強い怪獣じゃないか。

 でもね……そういうタイプの怪獣が今までいなかったとでも思ってるのかい?

 見せてあげよう、僕のエースを!!」

 

 

 ゴゴゴゴゴ……!

 

 

 勝の言葉に、再び湖面が揺れた。しかしその揺れは、先程のメガニューラの群れの比ではない。そして……それは現れた。

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 それは巨大なトンボ型の怪獣だった。その羽根をはばたかせ、湖上にその巨体が滞空する。その姿は先程のメガニューラと似通っており、その関係性を臭わせる。それもそのはず、これはメガニューラの最終進化系とも言える個体なのだ。

 その名も……。

 

「『超翔竜メガギラス』、これが僕の切り札だ!!」

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 勝の声に、メガギラスが答えるように嘶く。

 

「またデカイ虫かよ。 やれ、ゴジラ!!」

 

 

ガァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 咆哮一発、ゴジラが必殺の放射熱線を放つ。青白い閃光が、メガギラスを焼き尽くそうと迫るが……。

 

「メガギラス!!」

 

 

 キシュァァァァァァァ!!

 

 

 メガギラスは瞬間的な高速飛行で、ゴジラの熱線を避ける。その姿はまさにトンボのそれだ。そのままメガギラスは、濃い霧の中へと消えていく。

 

「くっ……どこだ!?」

 

 濃い霧の中をゴジラはメガギラスの姿を探るが、そのとき背後からの衝撃にゴジラは前のめりに倒れ込んだ。霧の中を背後から接近したメガギラスの強烈な体当たりを受けたのだ。すぐさま立ち上がったゴジラは熱線を放つが、その時にはメガギラスは霧の中へと消えていくところだ。ゴジラの熱線が何もない場所を通り過ぎる。

 そして、今度は横合いから飛び出したメガギラスは、そのハサミ状の前足でゴジラを切りつける。強烈な斬撃にゴジラの強靭な皮膚が火花を散らし再びゴジラが倒れる中、メガギラスはまた霧の中に消えた。

 

「くそっ!?」

 

「はははっ!

 そんなことでメガギラスが捉えられるものか!!」

 

 翻弄される翔とゴジラ、そんな中を勝の勝ち誇った笑いが響く……。

 

 

 




戦いは後編に続きます。
後編は3月28日には投稿する予定。

次回もよろしくお願いします。
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